遺留分侵害額請求|その方法と詳細について解説

相続が開始された時、遺言書で不公平な相続分が指定されていた場合や、特定の人物だけに生前贈与で多額の金銭等が贈与されていた場合、不利益を被っている相続人はどうしたら良いでしょうか。
遺言者の遺志を尊重して不利益な状況を受け入れることも1つの方法ですが、法律で定められた分の相続を受けたいならば、遺留分侵害額請求という方法があります。
この記事では、遺留分侵害額請求とはどのような請求をすることなのか、いつまでに・どのように行えば良いのかを解説します。
目次
遺留分侵害額請求とは
遺留分侵害額請求とは、被相続人が、財産を遺留分権利者以外に贈与または遺贈したために、遺留分に相当する財産を受け取ることができなかったとき、贈与または遺贈を受けた者に対して、その侵害額に相当する金額の支払いを請求することです。
以下、遺留分侵害額請求についての概要を解説します。
遺留分減殺請求との違い
平成30年の民法改正により、遺留分の規定が変更になりました。
- 令和元年6月30 日までに開始した相続は遺留分減殺請求
- 令和元年7月1日以降に開始した相続は遺留分侵害額請求
改正前と改正後の大きな違いは以下のとおりです。
一番大きな変更は、現物返還から金銭請求になったことです。
改正前は、遺贈や贈与で不動産を受けた場合、不動産の権利を分割することになるため、共有財産となり、売却などの際にトラブルになるケースがありました。
改正後に金銭請求になった事で、不動産を最初から単独所有とし、遺留分は金銭で受け取ることができ、共有名義での売却トラブルは少なくなりました。
遺留分侵害額請求の際に注意する点
ただし、以下の点に気をつける必要があります。
【請求する側】
- 遺留分侵害額請求により請求者の取り分が確定したときは、申告書を提出して相続税を納める必要がある
- 金銭の支払いに変えて不動産を譲り受けた場合は、不動産取得税等がかかる
【請求された側】
- 相続税を支払済の場合、遺留分請求者の取り分が確定した後に更生の請求をして相続税還付の手続ができる
- すぐに支払ができない合は、支払期限の猶予を求めることができる
- 金銭の支払いに変えて不動産を移転させた場合は、譲渡所得税がかかる
遺留分侵害額請求は誰ができるのか
法定相続人のうち、遺留分侵害額請求ができるのは
- 配偶者
- 子が先に亡くなっている場合は「代襲相続人」である孫(直系卑属)
- 父母、父母が亡くなっている場合は祖父母(直系尊属)
です。
兄弟姉妹や甥・姪は法定相続人であっても、遺留分は無いため、遺留分侵害額請求はできません。
遺留分侵害額の割合と算定方法
遺留分の金額は、最初に総体的遺留分(遺産全体の中に占める遺留分)と個別的遺留分(個別の相続人に割り当てられた遺留分)を計算し、その後で実際に侵害額を求めます。以下の例で、それぞれの計算方法を見て行きましょう。
総体的遺留分
全体的に認められる遺留分の割合は以下のとおりです。
個別的遺留分
総体的遺留分がわかったら、相続人のケースにより個別的遺留分の割合を計算します。
遺留分侵害額の算定方法
遺産総額から個別的遺留分を計算し、遺留分侵害額を計算します。
遺留分侵害額請求の順番
遺留分侵害額請求には、請求の順番が決められています。
1.遺贈を受けた受遺者へ請求
↓(遺留分侵害額に満たない場合)
2.贈与を受けた受贈者へ請求
さまざまなケースがあるので、詳細は弁護士に確認が必要です。
一般的な具体例については、下記の記事をご参照ください。
遺留分侵害額請求の方法
遺留分侵害額請求の権利があるとわかったら、次はどうしたら良いでしょうか。ここでは、請求までの流れと注意点を解説します。
遺留分侵害額請求の流れ
遺留分侵害額請求はいきなり訴訟を起こすのではなく、まずは協議から始めましょう。相続人同士の関係が比較的良好であれば、話し合いにより解決することも可能です。話し合いで解決できれば、相続人同士の関係も悪化しづらく、何より時間もそれほどかかりません。
相続人同士での協議では話し合いがまとまらない場合には、まずは調停を申し立てることになります(調停前置主義)。調停で解決できない場合には、訴訟を起こして裁判所に判断してもらいます。
遺留分侵害額請求の流れは次のとおりです。
1.内容証明郵便の送付
2.相続人による話し合い
3.遺留分侵害額請求調停
4.遺留分侵害額請求訴訟
それぞれの段階で話がまとまらない場合は、次の段階に進んでいきます。
内容証明郵便の送付
遺留分侵害額請求には
- 相続や遺留分を侵害する贈与があると知った日から1年
- 相続開始から10年
という時効があります。
遺留分が侵害されていることがわかり、かつ、時効が迫っている場合は、時効中断のために、遺留分侵害額の請求をしたい旨を内容証明郵便で通知しましょう。請求を行った年月日が特定できるように、配達証明をつけておきましょう。
相続人による話し合い
相続は、ほとんどが親族間など近しい間柄の問題ですから、今後のことも考慮し円満に解決するのが大切です。遺留分が侵害されていることがわかったら、まずは侵害者に連絡をし、侵害額を支払って欲しい旨を伝え、話し合いをします。
当事者同士の話し合いで解決したら、のちのトラブルを防ぐためにも、合意した内容は相続人全員の署名捺印がある書面にして残しておきましょう。
遺留分侵害額請求調停
相続人同士での話し合いがまとまらなかった場合は、管轄の家庭裁判所に調停を申立てます。
申立てについての詳細は、下記の裁判所のHPをご参照ください。
裁判所のHPにも記載がありますが、遺留分侵害額の請求調停を申立てただけでは、先ほど説明した遺留分侵害額請求権の消滅時効は中断しませんので、時効が迫っているときは必ず配達証明付きの内容証明郵便で遺留分侵害額請求権を行使する旨の意思表示をしてください。
申立てを裁判所が受理すると、裁判所の書記官から1回目の調停をいつにするかの連絡があり、期日が決定してから、相手方へ申立書のコピーと呼出状が送付されます。
調停は、裁判官と調停委員が担当となり、申立人と相手方に対して手続や概要の説明をします。その後申立人と相手方が交互に調停委員に話をきいてもらいます。その際、必要に応じて書類の追加を求められることがあります。
調停で合意にいたると、調停調書が作成されて終了となります。
遺留分侵害額請求訴訟
調停が不成立で終了した場合は、請求の額が140万円以下であれば簡易裁判所へ、140万円を超える場合は地方裁判所へ遺留分侵害額請求訴訟の申立てを行います。
申立てを裁判所が受理すると、申立書の写しと呼出状が被告に送付され、被告は訴状に記載された内容を確認し、答弁書を裁判所へ提出します。その後も、原告と被告が双方順番に主張や反論を裁判所へ繰り返し提出します。
途中で裁判官から話し合いの場を持つことを提案されることが多く、そこで合意すると調停と同様に「和解調書」が作成され終了しますが、この話し合いでも合意できなければ、判決で決まります。
訴訟では、遺留分を侵害されている事実をあきらかにする必要があるため、証拠が必要です。
訴訟は、ご自身で申立てできますが、これらの証拠の準備や反論の方法などはご自身での対応は難しいでしょう。
どのような証拠があれば良いのか、どのような準備をすれば良いのかについては、弁護士が熟知しているため、スムーズに進めるためにも、弁護士に依頼するのが良いでしょう。
遺留分侵害額請求の注意点
遺留分侵害額請求をする際の注意点は以下の3つです。
- 消滅時効
- 遺留分侵害額請求は任意である
- 遺留分侵害額の調査
消滅時効
遺留分の請求は、相続や遺留分を侵害する贈与があると知った日から1年間以内に請求しなければなりません。この期間を過ぎてしまうと、請求権が消滅します。
また、相続開始から10年経過すると権利が消滅するため、長らく音信不通で、相続があることを知ったのが1年以内だとしても、請求することはできません。
遺留分侵害額請求は任意である
遺言書の内容が不公平で、遺留分を侵害されていた場合でも、必ず請求しなければならないわけではありません。遺留分侵害額請求をするかどうかは、それぞれの意思で判断します。
遺留分侵害額の調査
遺留分侵害額を計算するには下記のような点に注意する必要があります。
- 相続人の人数
- 遺言書の有無
- 第三者への贈与の有無
- 生前贈与の有無
相続に関する状況はそれぞれに異なるため、さまざまな調査を時効の時期に注意しながらスムーズに行わなければなりません。
遺留分侵害額請求を弁護士に依頼するメリット
遺留分侵害額請求は、短い期間の間に調査すべきことが多くあります。ご自身で準備することもできますが、それらを弁護士に依頼することでどのようなメリットがあるのか解説します。
時効にならないようにできる
時効は、相続や遺留分を侵害する贈与があると知った日から1年間以内と比較的短いので、速やかに進める必要があります。
弁護士であれば、必要な書類や手順などを熟知しているため、迅速な対応をとることで、時効にかからないように手続を進められます。
相手方との交渉をすべてまかせられる
相続財産の調査や遺留分の計算、必要書類の収集など、普段の生活をしながらご自身で対応するのは大変です。
他の相続人との交渉なども、当事者同士では感情的になりやすく話しがまとまらないことがありますが、第三者であり法律のプロである弁護士が間に入ることで、調停や訴訟などの手続までいかずに話し合いで解決することができます。
相手方に遺留分侵害額請求をする旨を伝えると、相手方が弁護士に依頼する場合があります。そうなると弁護士とのやりとりをご自身でしなければならず、法律的な知識がないことで不利になる可能性もあります。法律のプロである弁護士に依頼をすることで、ご自身の権利を守ることができます。
調停や訴訟になっても対応してもらえる
話し合いでまとまらず、調停や訴訟に移行することになった場合、ご自身で準備や期日にすべて対応するのは大変です。最初の話し合いから弁護士に依頼してあれば、事情がわかっているので、的確な判断のもと、対応してもらえます。
請求額が140万円以下であれば、認定司法書士に代理人になってもらい調停の申立てができますが、140万円を超える場合や訴訟は弁護士でないと対応できません。
認定司法書士に依頼後、正確な請求額を計算したところ140万円以上だった場合は、司法書士との委任契約を解除し、弁護士への依頼をすることになり、弁護士費用があらためて必要になります。
まとめ
遺留分侵害額請求をするには、さまざまな事情を考慮しながら進めていかなくてはなりません。ご自身で対応を始めたものの、途中で対応できなくなり、時効になって、結局は請求まで至らなかったという事態になる可能性もあります。
相続人間の話し合いでは、予期しないトラブルが発生することがあります。その際に、第三者の立場で法律的なアドバイスをしてくれる弁護士がいると安心です。
この記事では、遺留分侵害額請求をする側に焦点をあてて解説してきましたが、遺留分侵害額請求をされる側になる場合もあります。その場合でも、請求の内容が適正なのか、時効が完成しているのではないか等確認することが多くあります。
ネクスパート法律事務所は、ネクスパートアドバイザリーグループとして、税理士、公認会計士などの他士業と連携しており、相続に関するご相談も数多くご依頼いただいておりますので、安心してご相談いただけます。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。