口頭での遺言は認められるのか?|危急時遺言についても解説

録音や動画などを含め、口頭で遺言が残された場合、その遺言は有効なのでしょうか?
「自分が亡くなったら軽井沢の別荘をあげる」と口頭で言われた場合、この約束は有効になるのでしょうか?
この記事では、口頭での遺言が有効なのかどうかについて解説します。
目次
口頭での遺言は認められるのか?
遺言は書面で作成する必要があり、口頭での約束は遺言とは認められません。
ただし、法定相続人合意のもと、被相続人が口頭で伝えた内容どおりに遺産分割をしたり、口約束が被相続人から死因贈与を受けたと認められたりする場合もあります。
口頭での遺言は無効
口頭での遺言は無効です。
遺言は全て要式行為なので、民法で定める方式で作成しなければならず、その方式に反してなされた遺言は、原則として無効になるからです。
民法で定める遺言の方式には、以下のとおり、普通方式と特別方式の2つがあります。
普通方式 | 特別方式 |
・自筆証書遺言
・公正証書遺言 ・秘密証書遺言 |
・一般危急時遺言
・難船危急時遺言 ・伝染病隔離者遺言 ・在船者遺言 |
それぞれの特徴や民法で定められた方式については、以下の記事をご参照ください。

法定相続人全員の合意があれば口頭での約束どおりに遺産分割が可能
法定相続人全員が合意していれば、被相続人が口頭で伝えた内容どおりの遺産分割が可能です。
例えば、被相続人が生前、「自宅は長男に、軽井沢の別荘は長女に譲りたい。」と言っていた場合、法定相続人が被相続人の意思を尊重し納得しているなら、遺産分割協議でその内容どおりに遺産の分け方を決められます。
「死んだらあげる」の口約束は死因贈与として有効
「死んだらあげる」などの口約束でも、一定要件を満たすと、死因贈与契約として有効となる余地があります。
死因贈与とは「自分が死んだら軽井沢の別荘をあげる」と指定した人に特定の財産を渡す約束をする契約行為です。財産を渡す人ともらう人が合意していれば、書面がなくても死因贈与契約は成立します。死因贈与契約は、財産を渡す人が亡くなった時点で効力が発生します。
ただし、死因贈与は口頭でも成立しますが、口頭での契約は高い確率でトラブルを引き起こします。
他の相続人に贈与契約があったことを証明できないため、財産を巡って争いになる可能性が高いでしょう。
確実に財産を受け取りたいなら、死因贈与契約書を作成しましょう。
書面の作成が困難な場合等には、第三者に立ち会ってもらい、証人になってもらうことなどが考えられます。
口頭で伝えた内容を遺言にする危急時遺言とは?
遺言のうち、公正証書遺言と危急時遺言は、遺言者が遺言の趣旨を口述する方法で遺言書を作成することが認められています。
危急時遺言とは、どのような遺言なのか、以下で解説します。
遺言者に生命の危機が迫っている場合に認められる遺言
危急時遺言とは、遺言者に生命の危機が迫り、普通方式での遺言を遺せないときに許される遺言の方式です。
緊急性が高いため、口頭で遺言の趣旨を口授または申述することが認められ、立ち会った証人が遺言者の言葉を書面に書き起こして作成する方法をとります。
危急時遺言には、次の2つがあります。
一般危急時遺言 | 難船危急時遺言 |
病気などで生命の危機が迫っている者に認められる遺言 | 乗っている船が遭難した場合に、その船舶中にあって死亡の危急が迫った者に認められる遺言 |
なお、これらの遺言は、生命の危機に迫っている者のために特に認められた簡易な方式によるものなので、遺言者が危機的状況を脱して、普通方式による遺言ができるようになった時から6か月間生存するときは、その効力を生じないとされています。
一般危急時遺言の手順は?
一般危急時遺言の方式は、以下のとおりです。
- 証人3人以上が立ち会う
- 遺言者が、証人の1人に遺言の趣旨を口述し、その口述を受けた者がこれを筆記する
- 筆記した内容を遺言者と他の証人に読み聞かせまたは閲覧させる
- 証人全員が署名押印する
この方式によってした遺言は、遺言の日から20日以内に証人の1人または利害関係人から、家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、効力を生じません。
具体的には、次に述べる手順で作成します。
3人以上の証人を探す
一般危急時遺言を有効に行うには、3人以上の証人が必要です。
証人は次にあげる人以外から選ばなければいけません。
- 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
- 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記および使用人
- 未成年
利害関係人は証人になれないため、弁護士、司法書士、行政書士といった専門家から証人を選ぶケースが多いです。
遺言者が口頭で述べたことを証人が書き留める
遺言者が口頭で述べたことを証人の1人が書面に書き留めます。自筆でする必要はなくパソコンで作成もできます。
遺言者と証人全員で内容の確認をする
書面化した遺言の内容が正しいかどうか、遺言者と証人全員で確認をします。
証人が署名・押印する
遺言書の内容が正しければ、証人全員が書面に署名・押印します。この際に使用する印鑑は実印の必要はなく、認印で可能です。
20日以内に家庭裁判所へ申立てをする
一般危急時遺言を作成した日から20日以内に、家庭裁判所に遺言確認の申し立てをします。期限までに申立てをしなければ、一般危急時遺言の効力が発生しません。
難船危急時遺言ができる要件は?
難船危急時遺言は、船舶が遭難し、その船舶に乗っていて生命の危機が迫っている者に認められる遺言です。
難船危急時遺言は、上記のほか以下の要件を満たさなければなりません。
- 証人2人以上が立ち会う
- 遺言者が、証人2人以上の前で遺言の趣旨を口述し、その口述を受けた者がこれを筆記する
- 証人全員が署名押印する
この方式による遺言も、証人の1人または利害関係人から家庭裁判所に請求して、遺言の確認を求めなければなりませんが、20日以内という期間制限はなく、遭難が解消した後遅滞なく請求すればよいとされています。具体的には、次に述べる手順で作成します。
2人以上の証人が必要
証人になれる人の条件は一般危急時遺言と同じですが、2人以上で足ります。
遺言者が口頭で述べたことを証人が書き留める
口頭で遺言を行う方法は一般危急時遺言と同じですが、船舶が遭難の危機に瀕している状況ですぐに書面化するのは困難なので、証人が後日書面化すればよいとしています。
遺言者と証人全員で内容の確認は不要
一般危急時遺言と違い、遺言者と証人全員で内容の確認を行う作業は不要としています。
証人全員が署名・押印をする
一般危急時遺言と同様に、証人全員の署名・押印が必要ですが、後日書面化したあとでよいとしています。
遅滞なく家庭裁判所へ申立てをする
一般危急時遺言は20日以内に家庭裁判所へ遺言確認の申し立てをしなければなりませんが、難船危急時遺言には、期間制限はありません。
遭難が解消した後遅滞なく申立てをすればよいとされています。
申立てを行わなければ、難船危急時遺言の効力は発生しないという点は、一般危急時遺言と同じです。
まとめ
「死んだらあげる」というように、口頭で遺言する人は意外に多いのではないでしょうか。口頭での遺言は基本的に無効ですし、相続人同士のトラブルに発展するおそれがあります。
本当に財産を渡したいと考えている人に対しては、遺言を書面で残すようにしましょう。
万が一自分の命に危機が迫った場合、危急時遺言という方法がありますが、条件に合った証人を見つけるのはかなり難しいものがあります。いざというときに慌てないように、遺言書は落ち着いた気持ちで作成するのがよいかもしれません。
ネクスパート法律事務所では、遺言書の作成や公正証書遺言の作成支援等を行っています。初回30分相談無料となりますので、遺言書の作成を考えているなら一度ご相談ください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。