全財産を一人に相続させたい!遺言書の正しい書き方とポイント
遺言書は、財産の分配を明確に示すための重要な書類です。特に全財産を特定の相続人に相続させたい場合、手続きやポイントを正しく理解しておくことが大切です。
本記事では、全財産を一人に相続させる際に知っておきたい遺留分の問題や遺言書の書き方、注意点などを解説します。円満な相続を実現するためにも、ぜひ最後までご覧ください。
目次
全財産を一人に相続させることは可能か?
日本の民法では、遺言書によって財産を自由に処分することが基本的に認められています。そのため特定の相続人に全財産を相続させることも理論上は可能です。
ただし、他の法定相続人には遺留分という最低限の取り分が保護されるため、相続の内容が遺留分を侵害しないかどうかを慎重に検討する必要があります。
遺言書がないまま相続が始まった場合、法定相続分に則って財産は分配されるため、結果として全財産を一人に集約することは困難です。仮に法定相続人が複数いるなら、遺言書なしで同意を得ることが難しく、相続トラブルへ発展するおそれがあります。
特定の相続人へ財産を集中させたいと考える場合は、遺言書を作成し、他の相続人とのコミュニケーションを適切に図ることがトラブル回避のカギです。
遺言書の有無の違い
遺言書がある場合は、遺言書の内容に従って相続が進みます。たとえ全財産を一人に相続させる内容であっても、有効な形式で遺言書が作成されていれば、基本的にその内容が尊重されます。
遺言書がない場合は、法定相続分に沿って遺産分割するのが原則です。これによって、意図しない相続人にも一定の割合で遺産が分配される可能性があります。
自分の意思で自由に相続を決めたい人は、遺言書を用いて明確に財産承継の意図を示すことが重要です。
相続人が一人だけの場合
相続人が子どもだけ、あるいは配偶者のみといったケースでは、全財産をその一人が相続する結果になります。それでも遺言書を作成するメリットは大きいです。
特に債務や預貯金の引き継ぎ方法、名義変更に必要な書類の手続きなど、遺言書があることで手続きがスピーディーに進められる可能性があります。遺言書があることで財産目録やメッセージを残せるため、相続後の不安を軽減できる可能性があります。相続人が一人だけの場合でも遺言書で自分の意思をはっきり示しておくのが望ましいでしょう。
遺留分とは?
遺留分とは、法定相続人に最低限保護される取り分です。たとえ遺言書があっても、他の相続人が遺留分を主張することで、全財産を渡す計画がスムーズに実行されないケースがあります。
遺留分を侵害すると、後に請求が行われたり、遺言の内容に不服を訴えられたりするリスクがあります。特定の相続人に全財産を渡そうとする際、遺留分に配慮することが不可欠です。
法定相続分との違い
法定相続分とは、民法で決められた相続人ごとの相続割合の目安のことです。遺留分は、法定相続分よりは少ない割合で設定されています。直系尊属のみが相続人の場合を除き、遺留分は原則として法定相続分の2分の1と定められています。ただし、関係性や家族構成によって異なるため、正確に知るためには弁護士への相談も検討しましょう。
遺留分を正しく理解せずに全財産を一人に集中させようとすると、結局は相続争いが長期化する可能性があります。
遺留分に注意すべき理由
遺留分を侵害された他の相続人は、遺留分侵害額請求を行えます。認められれば、財産の再分配が強制されることもあります。せっかく遺言書で意図を示しても、後から裁判や話し合いが必要になると、結果的に深刻なトラブルを招きます。余計な争いを避けるためにも、遺留分を意識した内容で遺言書を作成しましょう。
遺言書の主な種類と特徴
遺言書には複数の種類があります。代表的な形式は、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類です。費用や手間、紛失リスクなどの観点からどの形式がベストかを判断するには、本人の状況や相続人との関係性も踏まえる必要があります。
形式を間違えると遺言として無効になるケースもあるため、作成前にそれぞれの特徴を理解しておきましょう。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者本人が遺言書の本文をすべて自書して作成する形式です。コストがかからず、手軽に作成できる点がメリットです。
ただし、署名や日付の記載、押印など、法律で定められた要件を一つでも欠くと無効となるリスクがあります。また、書式が曖昧だったり財産の特定が不十分だったりすると、結果的にトラブルを招く可能性が高まります。
近年では法務局による自筆証書遺言の保管制度も開始され、紛失リスクが軽減できるようにもなりました。手軽さとリスクを十分考慮しながら利用を検討しましょう。
公正証書遺言
公正証書遺言は、公証人が関与して作成されるため、法的に高い確実性を得られます。証人が2名必要になる一方で、誤字脱字や様式不備が起こりにくく、無効となるリスクが大幅に下がるのがメリットです。
公正証書遺言は原本が公証役場に保管されるため、紛失や改ざんの危険も極めて低いです。相続トラブルを最小限に抑えたい場合や財産額が大きい場合は、公正証書遺言が選択肢として有力になります。
ただし、作成時に手数料が発生し、証人の確保や公証役場への手続きなどの手間が必要です。費用と安心感のバランスを踏まえて検討しましょう。
秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言書の内容を非公開のまま公証人に証明してもらう形式で、内容を他人に知られる心配が少ない点が特徴です。
ただし、実際に開封するまで記載内容が正しく法律要件を満たしているかどうかが確認しにくく、無効のリスクもゼロではありません。
手続きやルールの理解が難しく、利用者は少ないのが現状です。必要性がある特別な事情がない限りは、自筆証書遺言や公正証書遺言が選ばれるケースが多いでしょう。
遺言書作成前にすべき準備は?
遺言書を作成する前に、必要な情報や手続きを整理しておくとスムーズに準備できます。特に全財産を特定の人に相続させる場合は、周囲の理解を得やすい内容に仕上げることが重要です。事前準備は丁寧に進めましょう。
法定相続人・相続順位の確認をする
法定相続人・相続順位の確認をしましょう。誰が相続人になるのかを調べるには、戸籍などを取り寄せて相続人を確定するのが基本です。配偶者や子どもが優先される一方、子どもがいない場合は親、兄弟姉妹といった具合に順位が決められています。
相続人を明確にしておくと遺留分の存在や範囲がわかり、全財産を特定の相続人へ渡す場合の配慮も立てやすくなります。
認知された子どもや腹違いの兄弟など、意外な相続人がいるケースもあるため、誤りのないよう徹底的に確認するのがポイントです。
相続財産調査と財産目録の作成
預貯金や不動産、株式などの金融資産だけでなく、死亡保険金や借金等の負債も含めて総合的に調査しましょう。
財産をリスト化して財産目録を作ると、各財産をどのように遺言で扱いたいのかイメージしやすくなります。全財産を一人に集約する場合も、目録があれば具体的な記載が可能です。
不動産が複数ある場合は、登記事項証明書を確認するなどして具体的に特定すれば、相続人の負担が軽減されます。
遺言執行者の指定と役割
遺言執行者は、遺言書に書かれた内容を実際に遂行する責任を負う人です。不動産の名義変更や銀行の手続きなどを取り仕切るため、信頼できる人物か専門家を選任することが望ましいでしょう。
遺言執行者を指定しておくことで、相続人同士の正確な連携が取りやすくなり、スムーズな相続手続きが期待できます。
遺言執行者の指定は法律上の義務ではありませんが、特に複数の相続人がいる場合や財産が多岐にわたるケースでは大きな役割を果たします。
付言事項の活用方法
付言事項とは、法的拘束力はないものの、遺言者が相続人に向けて伝えたい想いを記しておく部分です。相続の背景や感謝の気持ち、葬儀の希望など、遺産分割以外のことも自由に書くことができます。
全財産を特定の相続人に相続させる場合、その理由を付言事項で丁寧に伝えると、相続人同士の不和を和らげる効果があります。
相手の納得を得るカギになることもあるため、書式や書き方を工夫しつつ相続人へのメッセージとして記するのがおすすめです。
全財産を相続させる遺言書を書くときのポイント
全財産を特定の相続人に渡す場合は、慎重な配慮と正しい形式が必要です。
全財産を渡すという行為は、他の相続人の遺留分に大きな影響を及ぼす可能性があるため、書式の厳守と事前の説明が欠かせません。さらに、遺言者の意思能力を疑われることのないよう、健康状態などを明記しておくと安心です。
形式的にもトラブルが発生しやすい部分なので、みだりに省略せず理解を深めながら対応することが望まれます。
遺留分への配慮と説明責任
全財産を譲り受けることになる相続人と、遺留分を持つ他の相続人の調整は非常に重要です。遺留分を無視することで、その後の手続きでトラブルを抱えかねません。
トラブル回避には、なぜ全財産をその相続人に渡したいのかを他の相続人へ説明し、可能な範囲で同意を得たり、遺留分放棄させたりする手続きを行うことも考慮しましょう。
相続には感情面も含まれるため、法的根拠だけでなくコミュニケーションを大切にすることが円満相続に繋がります。
書式・署名・押印に関する注意点
自筆証書遺言の場合、遺言者の自書・押印・日付の記載は必須要件です。書式を誤ると無効となる可能性が高まりますので、ガイドラインを確認しながら作成しましょう。
公正証書遺言の場合、公証人が形式や内容を代筆するため、書式不備による無効リスクは減ります。ただし、証人2名を確保する必要があることを忘れないでください。
財産の記載方法も具体的かつ明確である必要があります。曖昧な表現を避け、預金口座や不動産の情報を正確に記入することが重要です。
遺言能力を疑われないための対策
遺言書は作成時に遺言者が十分な判断能力を持っていたことが求められます。特に高齢であったり、病気療養中だったりした場合は、遺言能力を否定されないための証拠があると安心です。
医師の診断書や専門家の立会い、作成時の状況を記録に残すことなどが有効な手立てになります。後に家族が、本人に意思能力がなかったと争う可能性を軽減できるでしょう。
遺言能力を認めてもらうためには、日付を記載し、作成時点で意思を明確に表明していたことを示すことが大切です。
全財産を相続させる遺言書の文例
特定の相続人に全財産を相続させる遺言書を作成する際、参考になる文例を紹介します。具体的な文面を用意しておくことで、作成するときのハードルが下がります。ただし、文例をそのまま使用するのではなく、自分の事情や家族構成、財産の内容に合わせてアレンジすることが重要です。
また、文例には遺留分に関する配慮を含めるなど、相続人同士の争いを防ぐ書き方を意識しましょう。
全財産を特定の一人に相続させたい場合
全財産を特定の一人に相続させたい場合の最もシンプルな文例は、以下のとおりです。次
第1条
遺言者が持つすべての財産を、妻である△△(〇〇〇〇年〇月〇日生)に相続させる。
〇〇〇〇年〇月〇日
(遺言者の住所)
(遺言者の氏名)印
のような場合は、このような簡潔な記載方法が有用と考えられることがあります。
- 遺産を受け取る相続人が遺産の内容を熟知していて、遺産の内容がさほど複雑ではない場合
- 遺言者の死期が迫っていて遺産の内容を調査・確認する時間的余裕がない場合
一部の財産を明記する文例
財産の一部を遺言書に明記する文例は、以下のとおりです。
第1条
遺言者は、以下の不動産および預貯金を含む、遺言者が有するすべての財産を、妻である△△(〇〇〇〇年〇月〇日生)に相続させる。
1 土地
所在 東京都〇〇区〇〇1丁目
地番 2番
地目 宅地
地積 100.00平方メートル
2 建物
所在 東京都〇〇区〇〇1丁目2番地
家屋番号 3番
種類 居宅
構造 木造亜鉛メッキ鋼板葺2階建
床面積 1階 50.00平方メートル
2階 30.00平方メートル
3 預貯金
■■銀行 △支店 普通預金 口座番号2223333
〇〇〇〇年〇月〇日
(遺言者の住所)
(遺言者の氏名)印
不動産や預貯金等の金融資産など、主要な財産を個別具体的に記載すれば、当該財産が遺言の内容に含まれていることが明確になるため、相続登記や預貯金等の払い戻し・名義変更の手続きがスムーズです。
相続人が遺産の内容を熟知していない場合には、財産を個別具体的に記載することで、相続手続きにおける記載漏れがないようにできます。
付言事項を記載する文例
遺言者の思いや気持ちを伝えるために追加する条項(付言事項)を記載した文例は、以下のとおりです。
第1条
遺言者が持つすべての財産を、妻である△△(〇〇〇〇年〇月〇日生)に相続させる。
1 土地
所在 東京都〇〇区〇〇1丁目
地番 2番
地目 宅地
地積 100.00平方メートル
2 建物
所在 東京都〇〇区〇〇1丁目2番地
家屋番号 3番
種類 居宅
構造 木造亜鉛メッキ鋼板葺2階建
床面積 1階 50.00平方メートル
2階 30.00平方メートル
3 預貯金
■■銀行 △支店 普通預金 口座番号2223333
(付言事項)
生涯にわたって支えてくれた妻△△には、本当に感謝しています。出会えて良かったと心から思っています。苦労をかけた時期もありましたが、どんなときも文句を言わず常に明るくふるまってくれた△△は大きな心のよりどころとなりました。これまでの感謝の気持ちを込めて、私に何かあった場合、△△が安心して暮らせるように全財産を△△に相続させたいと思います。長男の□□は、私の気持ちをどうか理解し、異議を述べることなくこれからもお母さんを支えてください。
〇〇〇〇年〇月〇日
(遺言者の住所)
(遺言者の氏名)印
全財産を特定の一人に相続させる場合、遺言書に付言事項を明記するのをおすすめします。
付言事項に法的効力はありませんが、なぜその人に全財産を譲りたいのか、自身の想いを相続人に向けて明確に伝えることで理解が得られる可能性があります。
遺留分をめぐるトラブル回避の方法は?
遺贈の内容が遺留分を侵害する可能性がある場合、紛争を防ぐためにできる具体的な方法を紹介します。
遺留分放棄や代償分割の検討
遺言書の作成前に相続人に遺留分を放棄してもらう方法があります。家庭裁判所の許可が必要でハードルは高いですが、合意が得られれば紛争リスクがかなり低くなります。
代償分割とは、全財産を一人が相続する代わりに、他の相続人へ金銭などの代わりの財産を渡して納得を得る手続きです。お互いの権利を尊重しつつ、実質的に全財産を集中させたいときには有効策となります。
放棄や代償分割を検討する際は、事前に弁護士に相談してから進めるのが安心です。
事前のコミュニケーションで紛争を防ぐ
遺言の内容を相続人に全く知らせていないと、なぜ自分が除外されたのかと不信感が高まりやすくなります。生前にある程度のコミュニケーションをとり、どうして全財産を一人に相続させたいのかの背景を説明するだけでも、心理的対立が和らぎやすいです。
どうしても伝えづらい場合は、付言事項にて自分の思いを表すという方法もありますが、日頃の話し合いのほうがより効果的でしょう。
全財産を一人に相続させたい場合、弁護士に相談するメリット
遺言書の作成について弁護士に相談すれば、遺言書が無効なリスクを避けられるだけでなく、遺言者の事情に沿ったアドバイスを得られます。
遺言書が無効になるリスクが避けられる
弁護士に相談しながら遺言書を作成すれば、遺言書が無効になるリスクが避けられます。次のような場合、遺言書が無効となります。
- 遺言書の作成日と遺言者の署名捺印がない
- 遺言書の内容を訂正しているが、訂正方法を間違えている
- 内容が不明確で、無理やり書かされた可能性がある
- 夫婦共同で遺言書を作成している
遺言書作成日の日付や訂正方法などを間違えるはずがないと思っていても、うっかりしてしまうことはあります。せっかく書いた遺言書が無効になってしまうのは大変残念なことです。こうした事態を避けるために、遺言書の作成にあたり弁護士への依頼を検討しましょう。
遺言者の事情に沿った遺言書の作成をアドバイスできる
弁護士であれば、遺言者の事情に沿った遺言書の作成についてアドバイスできます。
相続人同士もめることなく特定の人に全財産を渡したい人や、特定の人に全財産を渡したいけれど複雑な事情を抱えているため気軽に相談できる人がいない人は、ぜひ弁護士に相談をしてみてください。
まとめ
全財産を一人に相続させる場合でも、法的な手続きや遺留分への配慮をしっかりと行えば、円満な相続を実現できます。自筆証書や公正証書など形式を選ぶ際には、リスクや費用を比較検討し、無効にならないよう厳格に要件を守ることが求められます。
また、遺言書は一度作成して終わりではなく、家族構成や財産内容が変わったときには常に見直しを行うのがおすすめです。必要に応じて弁護士など専門家と連携しながら最適な手段を検討し、争いのない相続を目指しましょう。
ネクスパート法律事務所には、相続案件を多数手掛けた実績のある弁護士が在籍しています。初回相談は30分無料ですので、遺言書作成を検討している方は一度ご相談ください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。
