遺産分割後に新たな遺産が見つかった場合の対応方法について解説

やっとの思いで遺産分割協議を終えた後に、新たな遺産が見つかることがあります。
そのような場合、遺産分割協議をやり直さなければならないのでしょうか?相続税の申告や納付額には、何らかの影響があるのでしょうか?
この記事では、遺産分割後に新たな遺産が見つかった場合の対応方法について解説します。
目次
遺産分割後に新たな遺産が見つかった場合の対応方法は?
ここでは、遺産分割後に新たな遺産が見つかった場合の対応方法について解説します。
原則として、新たな遺産に対してのみ遺産分割協議をする
遺産分割後に新たな遺産が見つかった場合、原則として、すでに行った遺産分割協議をやり直す必要はありません。見つかった遺産のみ遺産分割協議をすれば足ります。
ただし、相続人全員が遺産分割協議を最初からやり直すことに同意している場合は、やり直しが可能です。
遺産分割協議をやり直す
相続人の中に、新たに見つかった遺産の存在について以前から知っていた人がいる場合や、一部の相続人がその遺産を隠していた場合などには、すでに行った遺産分割協議が無効になることがあります。
見つかった遺産の価値が高く、成立した遺産分割協議への影響が大きくなる場合も、改めて遺産分割協議をする必要が生じることがあります。実際に過去の裁判例で、すでに遺産分割協議をした財産と新たに見つかった遺産を分けて処理することについて、相続人全員が合意していない場合は協議が無効になると判断しているものがあります。

新たな遺産が分かったときのために遺産分割協議書で工夫できることは?
遺産分割協議に先立ち、相続財産の調査は十分に行われるはずですが、調査に漏れがある場合もあります。
遺産分割協議を行うときは、新たな遺産が見つかった場合に備えて、一文を添えるなど、協議書の記載に工夫をしておくとよいでしょう。新たに発見された遺産の取り扱いの例には、以下のような方法があります。
- 新たな遺産が見つかった場合は改めて分割協議をする
- 新たに発見された遺産を取得する相続人を決めておく
- 新たに発見された遺産について各相続人の取得割合を決めておく

新たな遺産が見つかったことで、相続税の扱いはどうなるか?
相続税の申告書をすでに提出した後に新たな遺産が見つかった場合でも、申告期限内であれば訂正をして不足分を追加で納税をすれば問題ありません。
申告期限を過ぎている場合は、相続税の修正申告または期限後申告が必要です。この場合、納付しなければならない税額があるときは、納付しなければならない税額があるときは、法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じた延滞税を納付しなければなりません。税務署の指摘を受ける前に自主的に修正申告をした場合などには過少申告加算税はかかりませんが、税務調査を受けた後に修正申告をしたり、税務署から申告税額の更生を受けたりした場合は、延滞税のほか、過少申告加算税または無申告加算税が課税されます。
参考:過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて|国税庁 (nta.go.jp)
遺産分割後に見つかった新たな遺産が借金だった場合はどうなるのか?
ここでは、遺産分割後に見つかった新たな遺産が借金だった場合の扱いについて解説します。
遺産分割協議が成立したあとは、相続放棄や限定承認はできない
遺産分割協議の成立後は、原則として、相続放棄や限定承認はできません。相続放棄や限定承認をするには、法定単純承認事由に該当する行為をしていないことが条件だからです。
法定単純承認事由に該当する行為は、以下のとおりです。
- 相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき
- 相続人が熟慮期間中に限定承認または相続放棄をしなかったとき
- 相続人が限定承認または相続放棄をした後、相続財産の全部もしくは一部を隠匿して消費し、またはわざと相続財産の目録に記載しなかったとき
遺産分割協議が成立したことは、相続人が自己の相続分を認識して、それを処分したものといえることから、相続財産の処分に該当するため、成立後の相続放棄や限定承認はできないと考えられています。ただし、遺産分割協議の成立後、予想もしなかった多額の相続債務が発覚した場合に、法定単純承認の効果が発生していなかったと見る余地があると判断した裁判例もあります(大阪高等裁判所平成10年2月9日決定)。
この裁判例では、以下の事情が考慮され、法定単純承認の効果が発生しないと見る余地があると判断されています。
- 多額の相続債務の存在を認識していれば、当初から相続放棄の手続きをとっていたと考えられること
- 当該相続人が相続放棄の手続きを採らなかったのは、相続債務の不存在を誤信していたためであること
- 被相続人と相続人の生活状況、他の共同相続人との協議内容の如何によっては、本件遺産分割協議が要素の錯誤により無効となること
遺産分割後、予想もしなかった債務が見つかり、お困りの方は、なるべく早く弁護士に相談することをおすすめします。
借金が消滅時効にかかっていないか調査をする
新たに見つかった遺産が借金だった場合、その借金が消滅時効にかかっていないか確認しましょう。
民法第166条で、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、もしくは権利を行使することができる時から10年間行使しないときは時効によって消滅すると定められています。
遺産分割後に新たな遺産が見つかった場合、弁護士に相談するメリットは?
ここでは、遺産分割後に新たな遺産が見つかった場合、弁護士に相談するメリットについて解説します。
相続人全員が知らない遺産だったのかを含め、適切な対応方法をアドバイスできる
遺産分割後に新たな遺産が見つかった場合、当初の遺産分割協議を無効として全財産を再分割すべきか、新たに判明した遺産のみを分割すればよいかを判断するためには、以下の点を確認する必要があります。
- 新たに見つかった遺産の存在を、相続人全員が本当に知らなかったのか
- 新たに発見された遺産の存在を知っていたら、当初の遺産分割協議は成立しなかったといえるか
これらの判断や、その後の対応については、一定の知識が必要になることもあるため、弁護士に相談をして適切なアドバイスを受けることをおすすめします。
新たな遺産が借金だった場合、消滅時効にかかっていないか判断ができる
新たな遺産が借金だった場合、まずは消滅時効にかかっていないか判断することが重要です。消滅時効は債務者が借金を承認した場合に時効が中断します。借金の相手方(債権者)に連絡をする前に、弁護士に相談して消滅時効にかかっていないか判断してもらいましょう。
今後、新たな遺産が見つかる可能性のため遺産分割協議書を工夫して作成できる
新たな遺産が見つかり、再度遺産分割協議をした場合、今後のためにも遺産分割協議書を工夫して作成しておくことが重要です。弁護士であれば、遺産分割後に新たな遺産が見つかったときに備えた遺産分割協議書の作成が可能です。
まとめ
相続開始後、相続財産を念入りに調査したつもりでも、見落とすこともあるでしょう。
遺産分割後に新たな遺産が見つかった場合、原則としてその財産についてのみ遺産分割協議をすれば足りますが、不安であれば弁護士に相談しましょう。
相続に関して後悔をしないためにも、弁護士に相談して的確なアドバイスが得ることをおすすめします。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。