遺言執行者報酬のは誰が払う?相場と報酬の決め方も解説!

遺言執行者とは、遺言者の死後、遺言の内容を実現するために必要な手続きをする人です。
遺言執行者は相続人の同意なく必要な手続きを行えるため、遺言書作成時に遺言執行者を指定すれば、相続開始後スムーズに遺言の内容を実現できます。

遺言執行者に特別な資格は必要ないので、遺言者の家族や友人を指定しても構いません。
一般の方を遺言執行者に指定することに不安が残れば、弁護士や司法書士などの専門家への遺言執行の依頼や金融機関の遺言信託サービスの利用を検討すると良いでしょう。
遺言執行者を指定する場合は、遺言執行者に対して支払う報酬の目安も把握しておかなければなりません。
この記事では、遺言執行者の報酬の相場や報酬の支払方法等について解説します。
目次
遺言執行者の報酬の相場はだいたいどのくらい?
ここでは、遺言執行者の報酬の相場を紹介します。
一般の人が遺言執行者となる場合
一般の方が遺言執行者となる場合は、専門家の最低報酬に準じて20~30万円程度と定められるのが多いです。
ただし、相続財産の多寡や執行行為の範囲・難易度等によっては、それ以上の金額になることもあります。
弁護士が遺言執行者となる場合
弁護士費用は弁護士や法律事務所によって自由に設定できるため、弁護士に遺言執行を依頼した場合の報酬はさまざまです。
ただし、多くの弁護士が現在では廃止された(旧)日本弁護士連合会報酬等基準に近い報酬を採用しているので、同基準が報酬の目安となります。
(旧)日本弁護士連合会報酬等基準では、経済的利益の額(遺言執行の対象となる積極財産の総額)に応じて以下のとおり規定されていました。
- 300万円以下の場合:30万円
- 300万円を超え3,000万円以下の場合:経済的利益の額×2%+24万円
- 3,000万円を超え3億円以下の場合:経済的利益の額×1%+54万円
- 3億円を超える場合:経済的利益の額×0.5%+204万円
なお、特に複雑又は特殊な事情がある場合は、弁護士と受遺者との協議により定める額を遺言執行の報酬とすることもあります。
遺言執行に裁判手続きを要する場合は、遺言執行の報酬とは別に裁判手続きに要する弁護士報酬がかかることもあります。
司法書士が遺言執行者となる場合
司法書士連合会には遺言執行報酬の規定がないため、遺言執行を依頼する司法書士ごとに報酬設定が異なります。
相場としては、遺言執行の対象となる積極財産の総額の1%程度(最低報酬金30万円)と設定している司法書士事務所が多いようです。
金融機関が遺言執行者となる場合
一部の金融機関では、遺言書の作成・保管や遺言執行を代行するサービスが提供されています。
遺言信託サービスの利用にかかる費用は金融機関や財産の額によって異なりますが、以下のとおり、数百万円程度かかるのが一般的です。
- 基本手数料:数十万円~100万円程度
- 遺言書の年間保管料:年間数千円程度
- 遺言執行報酬:数十万円~数百万円程度
遺言書に記載している内容を変更する場合には、その都度手数料が発生します。
遺言執行者の報酬はどのように決まる?
ここでは、遺言執行者の報酬の決め方について解説します。
遺言で定める
遺言執行者の報酬は、遺言で定められます。
報酬の定め方は、遺言の内容にもよりますが以下の方法があります。
①確定額を定める
②遺産総額に一定の割合を乗じた数字を定める
③(旧)日本弁護士連合会報酬等基準による報酬額を定める
上記③については、弁護士ではない不動産業者に対しても、(旧)日本弁護士連合会報酬等基準を利用して報酬額を定められるとした判例があります。
遺言に定めがない場合
家庭裁判所に報酬額を決めてもらう
遺言に定めがない場合、遺言執行者は、報酬の付与を家庭裁判所に請求できます。
家庭裁判所が報酬額を決定する際の考慮事情は以下のとおりです。
- 相続財産の多寡や価格
- 相続財産管理の継続期間
- 執行行為の範囲や難易度・義務の程度
- 実現された成果
- 遺言執行者の職業、資産・収入、遺言者との関係
相続人と協議して決める
遺言執行者と相続人ないし受遺者との間で協議して、相当な報酬額を合意により定めることもあります。そのため、遺言に定めがない場合でも、すべての事例で家庭裁判所への報酬付与申立てが必要となるわけではありません。
遺言執行者の報酬を遺言で定める場合の記載例
ここでは、遺言執行者の報酬を遺言で定める場合の記載例を紹介します。
確定額を定める場合
第〇条 遺言執行者に対する報酬は、金○○円とする。 |
遺産総額に一定の割合を乗じた数字を定める場合
第〇条 遺言執行者に対する報酬は、相続開始時における遺言執行対象財産の評価額の〇〇パーセントとする。 |
(旧)日本弁護士連合会報酬等基準による報酬額を定める
第〇条 遺言執行者に対する報酬は、(旧)日本弁護士連合会報酬等基準によるものとする。 |
遺言執行者の報酬付与審判の申立て方法
ここでは、遺言執行者に対する報酬付与審判の申立て方法を解説します。
申立先
遺言執行者に対する報酬付与申立ては、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。
申立てに必要な費用
申立てに必要な費用は、以下のとおりです。
- 収入印紙:800円分
- 連絡用郵便切手:数百円分程度(裁判所によって異なる)
申立てに必要な書類
申立てに必要な書類は、以下のとおりです。
- 家事審判申立書
- 申立人(遺言執行者)・被相続人の戸籍謄本
- 遺言書の写し
- 財産目録
- 遺言執行報告書
注意点
報酬付与審判についての不服申立て(即時抗告)は認められていません。
遺言執行者の報酬は誰が、いつ支払う?
ここでは、遺言執行者の報酬は誰が、いつ支払うのかについて解説します。
相続財産から支払う
遺言執行者の報酬は、遺言執行費用として相続財産から控除する方法により支払います。
遺言執行者が相続財産を管理している場合には、執行費用を超える金銭の資産があれば、その中から支払いを受けるのが一般的です。
遺言執行終了後に支払う
遺言執行者の報酬は、遺言執行終了後に相続財産から控除して支払うのが原則です。
遺言執行者は、執行業務を終了した後でなければ報酬を請求できません。
たとえ遺言書で定められた範囲内の報酬額でも、遺言執行者が執行業務の途中に、相続人等の承諾なく報酬を受領する行為は違法で、解任事由にあたります。
相続財産が少なくて報酬を全額控除できなければどうなる?
遺言執行者の報酬を含めた遺言執行費用を相続財産から全額控除できない場合には、遺言執行者は、執行終了後、相続人に対して費用の償還を請求できます。
ただし、その場合各相続人に対して請求し得る額は、全相続財産のうち当該相続人が取得する相続財産の割合に比例按分した額であり、かつ、当該相続人が取得した相続財産の額を超えない部分に限られます。
遺言執行者報酬は相続税の計算上債務として控除できる?
ここでは、遺言執行者の報酬を相続税の計算上債務として控除できるかどうかについて解説します。
遺言執行者の報酬を含め遺言執行費用は、債務控除の対象になりません。
債務控除の対象となる債務は、相続税法上、被相続人の債務で相続開始時に現存するものと定められています。
遺言執行費用は相続開始後に発生する費用のため、この要件に該当しません。
遺言執行者報酬を払っても遺言執行者に弁護士を指定するメリット
ここでは、遺言執行者を弁護士に指定するメリットを解説します。
相続人間の対立や紛争を回避できる
推定相続人同士が不仲であるなど、将来相続人間で紛争が発生する可能性があれば、弁護士を遺言執行者に指定することをおすすめします。
遺言執行者を指定しなければ、相続開始後の手続きに相続人全員が関与します。遺言の内容に納得できない相続人がいると協力を得られず、相続手続きが停滞するおそれがあります。
相続人の一人を遺言執行者に指定した場合も、遺言執行時に他の相続人から不正を疑われたり、手続きに時間がかかることに不満を漏らされたりすることがあります。
中立的な第三者である弁護士を遺言執行者に指定すれば、相続人間の対立や紛争を回避できます。
相続人に手続きの負担をかけずに済む
遺言執行者は、遺言の内容を実現するために様々な手続きを行います。
相続財産が多岐にわたる場合や相続人以外の方への遺贈が含まれる場合などは、手続きに相当な労力がかかります。
弁護士なら、知識や経験に基づき相続手続きを迅速かつスムーズに進められます。
弁護士を遺言執行者に指定しておけば、相続人に負担をかけずに済みます。
弁護士法人に依頼すれば遺言執行者の死亡にも備えられる
遺言執行者に指定した人が死亡しても、その指定をした遺言書そのものが無効になることはありません。
しかし、遺言執行者が死亡すると、遺言書を作り直して新たな遺言執行者を指定したり、相続開始後、家庭裁判所に遺言執行者の選任を請求したりしなければならないこともあります。
法人を遺言執行者に指定すれば、その法人が消滅しない限り代表者や担当者が変わっても遺言の内容を実現できます。
弁護士個人ではなく弁護士法人を遺言執行者に指定すれば、遺言執行者が遺言者より先に死亡するリスク等を避けられます。
事務所内で弁護士の入れ替わりがあっても、法人内の別の弁護士が遺言を執行できるので、確実かつ迅速な遺言内容の実現が期待できます。

まとめ
遺言執行者の報酬は、遺言執行を依頼する人や機関によって異なります。
しかし、報酬額だけを重視して遺言執行者を選ぶと、スムーズに手続きを進めてもらえないおそれがあります。
遺言執行の実績・経験が豊富な弁護士に依頼すれば、円滑な遺言執行が期待できます。
遺言書の作成もセットで依頼すれば、方式不備により遺言が無効となるリスクや相続トラブルを回避できるので、よりスムーズな遺言内容の実現ができます。
遺言書の作成や遺言執行者の指定にご不安がある方は、ぜひ一度ネクスパート法律事務所にご相談ください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。