成年後見人を変更したい!変更できる?変更されるのはどんなとき?

家庭裁判所が選任した成年後見人に不満がある場合や、後見人に選任された親族が後見人を辞めたい場合、成年後見人を変更できるのでしょうか?
成年後見人は、一度選任されると自由に辞任したり、正当な理由なく解任したりできません。
成年後見人の変更は、どのようなときに認められるのでしょうか?
この記事では、成年後見人の変更が認められるケースやその理由について解説します。
変更が認められない場合の対処法も紹介しますので、ご参考になさってください。
目次
成年後見人が変更されるのはどんなとき?
ここでは、成年後見人はどんなときに変更されるのかについて解説します。
成年後見人が変更されるのは、次の4つのケースです。
- 成年後見人が死亡した場合
- 成年後見人が辞任した場合
- 成年後見人が解任された場合
- 複数後見人等の一部が欠けた場合
成年後見人が死亡した場合
成年後見人が死亡した場合、家庭裁判所は、被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で、後任の後見人を選任します。
成年後見人が辞任した場合
成年後見人は、被後見人の権利や財産を守るため、家庭裁判所に適任と認められて選任されているので、後見人の都合で自由に辞任できません。
ただし、正当な事由があり、家庭裁判所の許可を得たときは辞任が認められます。
成年後見人の辞任により、新たに後見人を選任する必要が生じるときは、辞任する後見人が、遅滞なく新たな後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません。
成年後見人が解任された場合
成年後見人に不正な行為や著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるとき、家庭裁判所は、後見監督人・被後見人若しくはその親族・検察官の請求(解任の申立て)又は職権で、成年後見人を解任できます。
成年後見人が解任された場合、他に後見人がいなければ、家庭裁判所に後任の後見人の選任を申立てなければなりません。
複数後見人等の一部が欠けた場合
複数の成年後見人が選任され、権限の共同行使や事務分掌(後見事務の分担)の定めがされている場合、一部の後見人に死亡・解任・辞任等の事由が発生すると、他の後見人も権限が行使できなくなったり、事務の一部を分掌する者がいなくなったりします。
この場合には、家庭裁判所に対し、後任の後見人の選任を申立てるか、権限の共同行使又は事務分掌の定めの取消しを求めなければなりません。
成年後見人の変更が認められる具体的な事由は?
ここでは、成年後見人の辞任や解任が認められる事由について解説します。
辞任の事由
成年後見人は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て辞任できます。
正当な事由とは、以下のような場合です。
- 後見人が病気や高齢のために職務を行えなくなった場合
- 遠隔地への転居によって後見人の職務を円滑に行えなくなった場合
- 被後見人やその親族との間に不和が生じた場合
解任の事由
成年後見人に、以下の事由があるときは、家庭裁判所は、後見監督人・被後見人若しくはその親族・検察官の請求(解任の申立て)又は職権で、成年後見人を解任できます。
- 不正な行為
- 著しい不行跡
- その他後見の任務に適しない事由
不正な行為
不正な行為とは、財産管理に関する違法行為や社会的にみて非難されるべき行為です。
例えば、成年後見人が被後見人の財産を私的に借用・流用したり、財産を横領したりすることが挙げられます。
不正な行為は解任事由に該当するだけではありません。不正な行為によって被後見人に損害を与えた場合は、その損害を賠償しなければなりません。悪質な場合には、背任罪や業務上横領罪等の刑事責任を問われることもあります。
著しい不行跡
著しい不行跡とは、成年後見人として品位・品行に欠ける行為や信用・信頼を失墜させるような行為を指します。
後見人の素行が悪かったり、生活が乱れたりしていると、被後見人の財産管理や身上監護にも危険を生じさせるおそれがあるとして、後見人としての適性に欠けると判断されることがあります。
その他後見の任務に適しない事由
その他後見人の任務に適しない事由とは、以下のような場合です。
- 後見人の権限を濫用した場合
- 不適法な方法で財産を管理した場合
- 後見人の任務を怠った場合
- 家庭裁判所の指示に従わなかった場合
- 被後見人との関係が破綻した場合(被後見人への虐待など)
成年後見人を変更したい!解任申立の方法は?
ここでは、被後見人の親族による解任申立ての方法について解説します。
解任事由に該当することを証する資料を集める
成年後見人の解任を申立てる場合は、客観的な証拠を添えて解任事由に該当することを主張・立証しなければなりません。解任に値する事由の具体的な証拠を集めましょう。
財産の横領等があった場合には、証拠を集めることが困難な場合もあります。
事案によっては法的な対処が必要な場合もありますので、弁護士等への相談も検討すると良いでしょう。
解任の申立書を作成する
証拠資料が揃ったら、解任の申立書を作成します。
解任の申立書は決まった書式が用意されていないため、自分で作成しなければなりません。
申立書には、以下の事項を記載しましょう。
- 表題(成年後見人解任申立書)
- 日付(提出日)
- 基本事件番号(後見開始の審判事件番号)
- 申立人の住所・氏名
- 成年被後見人の住所・氏名
- 成年後見人の住所・氏名
- 申立ての趣旨(成年後見人を解任する審判を求める旨)
- 申立ての実情(解任を求める理由や申立てに至った経緯)
あらかじめ家庭裁判所に連絡して、申立書の記載事項や必要書類を確認することをおすすめします。
なお、以下のような場合には、成年後見人の解任の申立てと合わせて審判前の保全処分の申立てを検討します。
- 後見人に不正行為があり、被後見人の財産を保全する必要がある場合
- 後見人の被後見人に対する虐待等によって被後見人に危険が及び保護の必要がある場合
家庭裁判所に解任申立を行う
申立書が完成したら、証拠資料とともに家庭裁判所に提出します。
申立書の提出時には、以下の申立費用を納めます。
- 収入印紙800円
- 郵便切手(金額・内訳は家庭裁判所によって異なる)
解任の審判後は新たな後見人が選任される
解任の申立てが受理されると、家庭裁判所は審理を開始し、成年後見人に申立書類の閲覧謄写や反論の機会を与えます。
家庭裁判所は、後見人に解任事由があると判断したときは解任の審判をし、解任の事由がないときは申立を却下します。
後見人の解任後は、他に後見人がいる場合を除き、速やかに家庭裁判所に後任の後見人選任を請求しなければなりません。
成年後見人の変更が認められないときはどうすればいい?
ここでは、成年後見人の解任申立てが認められない場合の対処法について解説します。
即時抗告を申立てる
成年後見人の解任の申立てを却下する審判に不服がある場合は、審判の告知を受けた日から2週間以内に即時抗告の申立てをすることにより、高等裁判所に審理をしてもらえます。
即時抗告を申立てられるのは、以下の人です。
- 申立人
- 成年後見監督人
- 成年被後見人及びその親族
再審理を行うのは高等裁判所ですが、即時抗告の抗告状は審判をした家庭裁判所に提出します。
即時抗告の申立てに必要な書類や申立費用は、以下のとおりです。
- 抗告状1通
- 即時抗告の理由を証する証拠書類各1通
- 収入印紙1,200円
- 郵便切手(金額・内訳は家庭裁判所によって異なる)
高等裁判所(抗告裁判所)は、申立ての適否・理由の有無により、以下のいずれかの裁判をします。
- 却下
- 棄却
- 原審判の取消し
即時抗告を理由あるものと認めて審判を取り消す場合には、原則として原審判を原審家庭裁判所に差し戻します。更なる事実の調査が不要な場合などには、自ら審判に代わる裁判をすることもあります。
後見監督人選任を申立てる
家庭裁判所は、必要があると認めるときは、成年被後見人、その親族若しくは成年後見人の請求により又は職権で、成年後見監督人を選任できます。
必要があると認めるときとは、主に以下の場合です。
- 事後的に被後見人の財産が増加して管理が複雑になった場合
- 後見人と被後見人の利益相反行為が予定されている場合
- 親族後見人に対して親族間に不信や対立がある場合
- 親族後見人による財産の管理状況が不十分な場合
- 不動産の売却、遺産分割、保険金の請求など特別な財産上の行為を要する場合
成年後見人に解任事由が認められない場合でも、上記のような事情がある場合には、後見監督人選任の申立てを検討すると良いでしょう。
成年後見監督人が選任されると、成年後見人に不正な行為や権利の乱用等がないか、成年後見人が適正に事務を遂行しているかどうかを監督・支援してもらえます。
成年後見監督人の選任の申立てに必要な書類や申立費用は、以下のとおりです。
- 成年後見監督人選任の審判申立書
- 収入印紙800円
- 郵便切手(金額・内訳は家庭裁判所よって異なる)
その他の必要書類は、あらかじめ家庭裁判所に確認しましょう。
なお、成年後見監督人が選任される多くのケースは、家庭裁判所の職権によるもので、申立てによるものは実際にはほとんどないと思われます。
参考:成年後見監督人(保佐監督人,補助監督人)選任の申立書 | 裁判所 (courts.go.jp)
後見人の追加選任を申立てる
家庭裁判所は、既に成年後見人が選任されている場合でも、必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、複数の後見人を選任できます。
必要があると認めるときとは、主に以下の場合です。
- 親族が後見人に選任されたが十分な後見事務を行えない場合
- 遠隔地にある被後見人の財産を管理する後見人の選任が必要な場合
- 財産管理と身上監護を専門家と親族で分担する方が効果的な場合
- 財産管理について専門的知識が必要な場合
成年後見人に解任事由が認められない場合でも、上記のような事情がある場合には、後見人の追加選任の申立てを検討すると良いでしょう。
成年後見人が申立てる場合は、以下の書類や申立費用が必要です。
- 成年被後見人の登記事項証明書
- 成年後見人候補者の身分証明書
- 申立人・成年被後見人・成年後見人候補者の戸籍謄本・住民票
- 収入印紙800円
- 郵便切手(金額・内訳は家庭裁判所よって異なる)
なお、既に提出されていて記録上明らかな書類は、提出しなくても申立てが受理される場合もあります。
成年後見人等が行う変更の登記とは?どんなときに登記が必要?
後見登記制度とは、成年後見人などの権限や任意後見契約の内容等を登録し、その内容を、権限を有する者からの請求により証明書によって公示する制度です。
後見等開始の審判が確定すると、家庭裁判所書記官が、東京法務局に登記を嘱託します。
登記事項に変更が生じたときは、変更登記を行わなければなりません。
ここでは、変更の登記について解説します。
変更登記が必要なケース
以下のいずれかに該当する場合は、変更の登記申請が必要です。
- 成年被後見人の住所・氏名・本籍に変更があったとき
- 成年後見人の住所・氏名に変更があったとき
- 成年後見人が死亡したとき・破産したとき
変更登記を申請できる人
変更登記を申請できるのは、以下の人です。
- 成年後見人
- 成年被後見人の四親等内の親族
- 利害関係人
- 上記の人から委任を受けた人
変更登記の申請先
変更登記の申請書は、東京法務局後見登録課の窓口に持参するか郵送(書留郵便・信書便)にて提出します。
東京法務局後見登録課以外の法務局・支局・出張所では対応していませんので、注意しましょう。
変更登記の申請方法や提出書類等は、下記東京法務局のウェブサイトをご参照ください。
まとめ
成年後見人が変更されるのは、以下のような場合です。
- 成年後見人が死亡した場合
- 成年後見人が辞任した場合
- 成年後見人が解任された場合
- 複数後見人等の一部が欠けた場合
辞任や解任には家庭裁判所の許可が必要であり、単に「後見人の仕事が面倒だから辞めたい」とか「後見人との相性が悪い」というだけでは認められません。
ただし、後見人による被後見人の財産の横領が発覚したようなケースでは、解任の申立てを待たず、裁判所が職権で後見人を解任することもあります。
後見人の不正・不適切な行為が発覚した場合は、まず家庭裁判所に報告しましょう。解任の申立てを行わなくても、家庭裁判所が後見人に改善を指導したり、必要な処分を命じたりするケースもあります。
被後見人に危険が及ぶ場合や緊急的に保護・保全が必要な場合は、迅速に対応するため、専門家のサポートを受けることをおすすめします。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。