相続財産管理人とは|管理人の権限・選任までの流れを解説

亡くなった方に相続人がいなかったり、相続人全員が相続放棄したりして、財産を管理する相続人がいないケースが存在します。
このような場合、利害関係者や検察官の申立てにより、家庭裁判所に相続財産管理人を選任してもらわなければならない可能性があります。
この記事では、相続財産管理人について解説します。
亡くなった方に相続人がおらず困っている方は、ぜひご参考になさってください。
目次
相続財産管理人とは
相続財産管理人とは、亡くなった人に相続人がいない場合に、相続財産を調査・管理・処分する人です。
相続財産管理人は、利害関係人または検察官の申立により、家庭裁判所が選任します。
相続財産管理人の選任が必要なケースとは?
相続財産管理人の選任が必要なケースには、主に次の2つがあります。
- 相続人がいない
- 相続人全員が相続放棄した
ひとつずつ説明します。
相続人がいない
相続人がいない場合は、相続財産を管理する人がいません。このような場合は、相続財産を保全し、利害関係人の弁済等の利益を確保するため、相続財産管理人を選任する必要があります。
具体的には、次のようなケースで相続財産管理人選任の申立てが検討されます。
- 債権者が被相続人に貸したお金や未払金を回収したいとき
- 遺言で特定の遺産を与えられた人(特定受遺者)が遺産をもらうとき
- 特別縁故者が財産分与を受けたいとき
- 財産を共有していた人が被相続人の持分を取得したいとき
なお、相続人がいなくても包括受遺者(遺言により被相続人の財産の全部をもらう人)がいる場合は、相続財産管理人を選任する必要がありません。
相続人全員が相続放棄した
相続人全員が相続放棄した場合、被相続人の財産を相続する人がいなくなります。すみやかに相続財産管理人選任を申立てて、相続財産を相続財産管理人に引き継ぐ必要があります。
相続放棄した人は、相続財産が適切に管理されるようになるまで、自己の財産と同一の注意を払って遺産を管理する義務を負うからです(民法940条)。
相続財産を放置すると、空き家管理問題をめぐり損害賠償請求されたり、財産を毀損して債権者などから損害賠償請求されたりするおそれがあります。
相続財産管理人選任の申立ができる人
ここでは、相続財産管理人選任の申立ができる人を解説します。
相続財産管理人の選任の申立人は、以下のとおりです。
- 利害関係人
- 検察官
ひとつずつ説明します。
利害関係人
利害関係人には、主に次の人が挙げられます。
- 相続債権者:被相続人の債権者(被相続人にお金を貸していた人、家主等)
- 特定遺贈の受遺者:遺言で特定の遺産を与えられた人
- 特別縁故者:被相続人と特別な縁故がある人(内縁の妻(夫)や身の回りの世話をした人等)
検察官
検察官も相続財産管理人選任の申立人となります。
利害関係人がいない場合、検察官が地方自治体(市区町村等)からの通知を受けて、相続財産管理人選任の申立てを行うことがあります。
近年では、所有者の分からない空き家対策の解決手段として、被相続人に対する債権を有しない地方自治体が、検察官に通知せず自ら相続財産管理人選任申立をして、裁判所に受理されるケースが増えたため、実務上、検察官による申立はほとんどありません。
相続財産管理人には誰がなる?
ここでは、相続財産管理人にはどのような人が選任されるかについて解説します。
相続財産管理人には、特別な資格は必要ありません。裁判所は、被相続人との関係や利害関係の有無などを考慮して、相続財産を管理するのに最も適任と認められる人を選びます。
具体的には、次のような人が選ばれます。
- 家庭裁判所の管轄区域内の弁護士や司法書士
- 申立書に記載した候補者
家庭裁判所の管轄区域内の弁護士や司法書士
実務上、多くのケースで家庭裁判所があらかじめ選定した専門家(弁護士・司法書士など)の候補者から事件ごとに適任者を選任する運用となっています。
相続財産が多額の場合や清算関係が複雑な場合には、弁護士が選任されることが多いです。
申立書に記載した候補者
申立人が相続財産管理人の候補者(弁護士等)を推薦した場合は、裁判所が適任と認められた場合に限り、その候補者が相続財産管理人に選任されることがあります。
利害関係人である申立人の推薦する者が相続財産管理人に選任されると、公平な財産管理・清算が行われないおそれがあるため、申立人が推薦する者が相続財産管理人に選任されるとは限りません。
相続財産管理人の権限
ここでは、相続財産管理人の権限について解説します。
相続財産管理人は、相続財産の保存行為や管理行為については自らの判断で行えますが、処分行為には、家庭裁判所の許可が必要です。
保存・管理行為
相続財産の保存行為や管理行為については、相続財産管理人が自己の判断で行えます。
保存行為や管理行為には、主に以下のものがあります。
- 預貯金口座の解約・払い戻し
- 不動産登記申請
- 賃貸借契約の解除
- 短期賃貸借契約・使用貸借契約の締結
- 期限が到来した債務の履行
処分行為
処分行為については、家庭裁判所の許可が必要です。
家庭裁判所の許可を必要とする処分行為には、主に以下のものがあります。
- 不動産の売買・交換
- 抵当権設定契約
- 賃借権の設定・更新
- 家具・家電の処分
- 相続財産の贈与や譲渡
- 位牌の永代供養
- 定期預金の満期前解約
- 期限の到来していない債務の履行
- 訴えの提起
相続財産管理人選任申立の費用
ここでは、相続財産管理人選任の申立てに必要な費用を解説します。
手数料(収入印紙)
申立手数料として、収入印紙800円分が必要です。
郵便切手
裁判所からの連絡用に郵便切手が必要です。郵便切手の金額や内訳は裁判所によって異なりますが、千円~数千円前後が多いです。
官報公告費用
官報公告費用は、4,230円です。家庭裁判所の指示を受けてから納めます。
相続財産管理人の報酬や手続費用としての予納金
ここでは、相続財産管理人の報酬や手続費用としての予納金について解説します。
相続財産管理人の報酬は、基本的に相続財産から差し引かれます。財産の額が報酬や経費など管理にかかる費用を上回っていれば現金で支払う必要はありません。
予納金の必要性
財産が少ない場合やマイナス財産しかない場合など、相続財産から相続財産管理人の報酬を支払えない場合は、裁判所の指示により予納金を納めなければなりません。
予納金の相場
相続財産の金額による
予納金の額は、管理の手間や難易度等に応じて裁判所が決めます。
財産が少なく簡易な事件では、20~60万円程度が相場です。財産が多く複雑な事案では100~150万円程度かかることもあります。
予納金が支払えない場合は、50万円を限度に、法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助を受けられる可能性があります。
※なお、当事務所では法テラスの民事法律扶助制度の利用を希望される方からのご相談は現在受け付けておりません。
東京家裁は原則100万円
東京家庭裁判所では、原則として100万円の予納金を納める運用がとられています。
相続財産管理手続きの流れ
ここでは、相続財産管理手続きの流れについて解説します。
相続財産管理人選任申立
相続財産管理人選任の申立は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。
申立には、申立書の他に次の資料が必要となることが一般的です。
- 戸籍謄本、金銭消費貸借契約書等(利害関係人からの申立ての場合)
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍・除籍・原戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本等・相続放棄申述受理証明書(相続人全員が相続放棄した場合)
- 財産管理人候補者の戸籍謄本又は住民票(候補者を推薦する場合)
- 相続関係図
- 財産目録
- 財産を証する資料(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金及び有価証券の残高がわかる書類)
予納金の納付
家庭裁判所は、申立書や添付書類を確認し、申立てが適法であるか、利害関係があるか等を判断します。相続財産が相続財産管理人の管理費・報酬に不足することが見込まれる場合は、申立人に予納金の納付を指示します。
予納金の納付は、申立から概ね1ヶ月以内に指示されます。
相続財産管理人の選任
家庭裁判所は、申立後2ヶ月程度で相続財産管理人選任の審判を下します。併せて、相続財産管理人が選任されたことを官報で公告します。
選任公告後、2ヶ月以内に相続人が現れなかった場合、家庭裁判所は相続債権者と受遺者に対して請求を申し出るよう公告します。
知れたる相続債権者・受遺者に対しては、個別に請求を申し出るよう催告します。
相続財産管理人による管理・清算・財産目録の作成
相続財産管理人は、相続財産を調査し、どのような相続財産があるのかを記載した財産目録を作成します。
相続財産の調査が完了すると、以下のように管理・清算します。
- 不動産の名義を亡○○○○相続財産に変更する
- 預貯金を解約して相続財産管理人名義の口座に一本化する
- 債権を回収する

相続債権者・受遺者への弁済
相続債権者・受遺者への請求申出の催告の期間が終了すると、相続財産管理人は、相続財産から相続債権者に弁済し、相続債権者への弁済が済んだら受遺者に弁済します。
相続人捜索の公告
相続債権者・受遺者に弁済しても残余財産がある場合は、家庭裁判所は、請求申出の催告に申し出なかった相続債権者・受遺者に対し、捜索の公告を行います。
この公告から6ヶ月経過しても相続債権者・受遺者から申出がなければ、相続人不在が確定します。
特別縁故者への財産分与
相続人捜索の公告期間が終了しても相続人が現れなかった場合は、家庭裁判所によって相続財産の全部または一部が特別縁故者に分与されます。
特別縁故者が財産を受け取りたい場合は、相続人捜索の公告期間終了後3ヶ月以内に、家庭裁判所に相続財産分与を申し立てなければなりません。
相続財産管理人への報酬の支払
相続債権者・受遺者への弁済、特別縁故者への財産分与が終了すると、相続財産管理人は、家庭裁判所に報酬付与の申立をします。これを受けて、家庭裁判所は相続財産管理人の報酬を決定します。
予納金の還付
相続財産管理人に対して報酬が付与された後、残余財産があれば、予納金の全部または一部が申立人に還付されます。
残余財産が十分にあれば全額還付されることもありますが、不足する場合は残額の範囲で還付されます。
残余財産の国庫帰属
以上の手続きを経てもなお残余財産があれば、相続財産管理人は国庫に帰属させる手続きを行います。
まとめ
相続財産管理人が必要になるのは、主に次のようなケースです。
- 相続人がいない
- 相続人全員が相続放棄した
相続財産管理人選任の申立てには、さまざまな書類を集めなければならず、高額な予納金が必要になるケースもあります。ご自身で適切な対応方法が分からない場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
亡くなった方に相続人がおらず、ご自身が利害関係者に当てはまる可能性があるときは、お気軽に当事務所にご相談ください。

この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。