相続放棄・限定承認
相続放棄とは、被相続人の権利義務に対する相続権を放棄することです。
このページでは、負の遺産を相続することになりそうな方が知っておきたい相続放棄の知識についてお伝えします。
相続放棄とは
相続放棄について以下4点をお伝えします。
- 相続放棄の概要
- 相続放棄の期限
- 相続放棄の注意点
- 相続放棄の手続き
相続放棄の概要概要
相続放棄とは、被相続人の権利義務に対する相続権の一切を放棄することをいいます。
相続は、被相続人の地位をすべて承継するものですので、相続の対象には、被相続人が生前に有していた資産(プラスの財産)のみではなく負債(マイナスの財産)も含まれます。
相続放棄をすることにより、初めから相続人にならなかったことになります。
被相続人に多額の負債があるような場合には、相続放棄をすることで負債を承継することを免れることができます。
相続放棄の期限
相続放棄をする場合、相続人は、相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に相続放棄の申述(申立て)をしなければなりません。
この期間を過ぎると後述する「単純承認」したものとみなされ、相続放棄することができずに被相続人の資産と負債を相続することになります。
相続放棄を視野に入れて検討されている場合、この期間は常に気にしておく必要があります。
相続放棄するかどうかは、被相続人の財産調査を行わなければ判断できませんので、相続の開始があったことを知った時から3ヶ月間について猶予があります。この猶予期間のことを「熟慮期間」といいます。
この熟慮期間内に相続人が相続財産の状況を調査しても相続放棄するかどうか判断できない場合は、家庭裁判所への申立てにより、熟慮期間を伸長することができます。
相続放棄の注意点
- 一度相続放棄をすると相続できなくなる
- 直系卑属も代襲相続人としての地位を失う
- 保証債務は免除されない
- 相続開始前に相続放棄の申述をすることはできない
- 相続財産を処分などすると相続放棄が認められない
一度相続放棄をすると相続できなくなる
一度相続放棄をすると、後から負債よりも資産が多いことがわかった場合であっても、後から相続することはできません。相続放棄をするかどうかは、財産状況を調査して慎重に判断しましょう。
また、被相続人に多額の負債があった場合でも、熟慮期間の伸長の申立てを行った上で債務整理の手続きをしてみるのも一つの手段です。
取引履歴をもとに引き直し計算した結果過払い金が生じる可能性がありますし、最終返済日から5年以上経過している場合には消滅時効を援用して債務を減額できる可能性もあるからです。
直系卑属も代襲相続人としての地位を失う
直系卑属(相続放棄を相続人の子や孫)は、被相続人を代襲相続することはありません。相続放棄をした相続人は初めから相続人ではなかったことになりますので、その直系卑属も代襲相続人としての地位を失うからです。
保証債務は免除されない
相続放棄をしても、被相続人の負債について保証人になっている場合、その保証債務までは免除されません。
相続開始前に相続放棄の申述をすることはできない
相続開始前に相続放棄の申述をすることはできません。また、相続開始前に、相続人間で相続放棄を約束していたとしても、家庭裁判所に相続放棄を申述されない限り相続放棄は有効だと認められません。
相続財産を処分などすると相続放棄が認められない
相続放棄をする前に、相続財産を処分・隠匿・消費した場合には、相続放棄が認められません。これらの行為は、単純承認したとみなされる事由になっているからです。
相続放棄の手続き
以下の必要書類を、管轄の家庭裁判所に提出します。
・申述人の戸籍謄本
・被相続人の戸籍謄本、住民票又は戸籍の附票
↓
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相続を承認した他の相続人が、不動産の名義変更や預金の解約をするために、相続放棄したことを証明する必要があります。その場合、家庭裁判所から「相続放棄申述受理証明書」を発行してもらいましょう。
限定承認とは
限定承認について、以下3点をお伝えします。
- 限定承認の概要
- 限定承認の注意点
- 限定承認の手続き
限定承認の概要
限定承認とは、相続人が相続によって得た資産の限度で被相続人の負債を受け継ぐ方法をいいます。
限定承認は、被相続人に一定の資産があるものの、どの程度の債務があるか不明であり、資産が残るのか負債が残るのか判断できないような場合に用いられます。
たとえば、被相続人が個人事業(自営業)を営んでいた場合などで、資産と負債の総額が明確でなかったりする場合などです。
限定承認は、上述した熟慮期間内に、相続人全員で申述する必要があります。
限定承認の注意点
- 申述に期間制限がある
- 一人でも同意しない人がいると、限定承認が認められない
- 弁済責任を負う場合がある
申述に期間制限がある
相続放棄と同様に、限定承認には申述に期間制限があります。相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所に限定承認の申述をしなければなりません。
一人でも同意しない人がいると、限定承認が認められない
複数の相続人(共同相続人)がいる場合、限定承認の申述は、共同相続人全員でする必要があります。一人でも限定承認の申述に同意しない人がいると、限定承認が認められません。ただし、相続放棄をした相続人は初めから相続人ではなかったものとみなされますので、相続放棄した相続人以外の共同相続人全員で限定承認の申述をすれば足ります。
弁済義務を負う場合がある
限定承認をした後に、法廷単純承認に該当する行為をした相続人は、相続財産から弁済を受けられなかった債権者に対し、その相続人の相続分に応じて弁済する義務を負います。
限定承認の手続き
必要書類
相続を承認するか放棄するか決められない場合
以下のような場合、熟慮期間である3ヶ月以内に相続財産の全容を把握することは困難です。
- 財産が点在していて全容を把握するのが困難
- 相続人同士が不仲で財産調査が進まない/相続人の一部が財産管理しているが開示してくれない
- 借金があるようだが総額がわからない
相続の承認又は放棄の期間(熟慮期間)の伸長
上記のように、相続開始は知っているが、相続財産の全容を把握することが困難で、相続方法や相続の承認・放棄の判断ができない場合には、家庭裁判所へ相続の承認・放棄の期間を伸ばすように申し立てることが必要です。
相続開始から3ヶ月を経過した場合
相続開始を知った時から3ヶ月以上経過した場合、相続放棄の申述ができなくなるのが原則です。
しかし、3ヶ月以上を経過していても例外的に相続放棄が認められる場合もあります。
たとえば、相続人が、被相続人に相続財産が全くないと信じたため、熟慮期間内に相続放棄をしなかったような場合で、相続財産が全くないと信じたことについて相当な理由がある場合などです。
このような場合、判例の見解では、熟慮期間は、相続開始を知った時ではなく、相続人が相続財産の全部もしくは一部の存在を認識した時またはこれを認識しうべかりし時から起算する、とされています。
単純承認とは(※相続放棄・限定承認できなくなる場合)
- 単純承認の定義
- 単純承認の注意点(単純承認とみなされる場合)
単純承認の定義
単純承認とは、なんらの留保なく、相続人が被相続人の財産や負債を全て受け継ぐことをいいます。
相続開始を知った時から3ヶ月の熟慮期間内に、限定承認や相続放棄の申述をしなかった場合には、単純承認したことになります。
単純承認の注意点(単純承認とみなされる場合)
熟慮期間を経過しなくても、以下の事由を満たすと単純承認したとみなされます。
限定承認・相続放棄をお考えの場合は要注意です。
- 相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき。
- 限定承認・相続放棄後に、相続財産の全部もしくは一部を隠匿・消費したとき、または悪意で目録に記載しなかったとき
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