借金の相続(相続放棄)
相続の際に、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産を相続してしまうことがあります(借金等)。
マイナスの財産の方が多い場合、相続すると金銭的に損になってしまうため、相続放棄を検討することになります。
ここでは、主に借金等マイナスの財産を相続した場合の対処方法や注意点について解説します。
借金も相続の対象|借金を相続する場合
例えば、両親のどちらかが亡くなった時、ひそかに借金をしていたことが判明するケースがあります。亡くなるまで滞納もなく順調に支払がされていれば、督促状等も来ないので、家族の目に触れることはありません。
相続とは、ある人が死亡した時に、その人(被相続人)の財産すべてを特定の人(相続人)が引き継ぐことを言います。預貯金だけでなく、すべての権利や義務も引き継がれるので、借金があれば、当然それも相続対象となります。
プラスの財産を調査する
プラスの財産には、主に以下のものがあります。
- 現金・預貯金
- 株式等の有価証券
- 土地・建物の不動産
- 車・貴金属等の動産
- 賃借権・著作権等の権利
預貯金は通帳やカードから、株式、不動産、賃借権等は契約書等から調査できます。現金、車、貴金属等は遺品整理の際に家の中を探してみると良いでしょう。ただし、その際は後のトラブルを回避するためにも、一人で探すのではなく、相続人全員か第三者の立ち会いのもとで調査しましょう。
不動産は、役所で「固定資産課税台帳(名寄帳(なよせちょう))」を取得しましょう。この課税台帳には課税対象のものであれば、未登記不動産も載っています。ただし、その市区町村にある情報しか載っていないので、各地に不動産を所有していた場合は、それぞれの市区町村に請求する必要があります。
マイナスの財産を調査する
マイナスの財産には、主に以下のものがあります。
- 借金(銀行、カード会社、消費者金融等)
- 土地・建物の不動産に関するローン
- 車・貴金属等の動産に関するローン
- 保証債務
支払が滞ると、電話や請求書、督促状等の連絡があるので、そこから調査しましょう。金融機関からの借入があるかどうかは、信用情報機関に問い合わせることで調べられます。金融機関の種類によって、以下の3つの信用情報機関があります。
銀行系 | 全国銀行個人情報センター(KSC) |
クレジット会社系 | 株式会社シーアイシー(CIC) |
消費者金融系 | 株式会社日本信用情報機構(JICC) |
保証債務の多くは、主債務者が順調に支払をしている場合は連絡が来ないのですぐには判明しません。被相続人が会社を経営していた場合は、被相続人が会社の債務の連帯保証人になっていることが多いので、経理担当者から話を聞くなどして調査する必要があります。
被相続人に借金があった場合の3つの方法
一番大切なのは、借金がどこにどのくらいあったのかを、正確に調査することです。そのうえで、以下の3つの相続の方法のうち、どの方法を選択すれば良いのか検討しましょう。
単純承認
「単純承認」とは、被相続人の財産すべてを相続人が引き継ぐ方法です。借金があった場合はそれも相続することになるので、相続人に支払い義務が生じます。
単純承認が成立するのは、主に以下のような場合です。
- 相続開始を知った日から相続放棄や限定承認をせずに3か月以上が経過した
- 限定承認手続の際に虚偽の遺産目録を提出した
- 財産の一部を処分した
- 被相続人の負債を被相続人の財産から返済した
- 被相続人の財産を使った(相続放棄後も含む)
被相続人の負債を相続人の財産から返済した場合は、単純承認にあたらないケースがあります。債務の種類や金額によって変わるので、返済する前に、弁護士等の専門家に相談しましょう。
限定承認
「限定承認」とは、相続人が相続によって得たプラスの財産の限度で、マイナスの負担を相続する方法です。被相続人の財産のうち債務がどの程度あるか不明で、財産が残る可能性がある場合等に採用するといいでしょう。
相続財産のプラス分とマイナス分を正確に調査する必要があり、相続財産が債務超過になるかどうかは、精算してみないとわからないことがあります。
限定承認は、相続があったことを知ってから3か月以内に、相続人全員で家庭裁判所への申立が必要です。準確定申告や譲渡所得税の申告が必要になることがあるので、税理士や弁護士等の専門家とよく相談すると良いでしょう。
相続放棄
「相続放棄」とは、被相続人の財産すべてについて、相続の権利を放棄することです。相続があったことを知ってから3か月以内に、家庭裁判所へ申立をする必要があります。
相続人全員で話し合いをした結果、何も相続しなかったことで「相続放棄をした」と思う方もいますが、家庭裁判所で正式な手続をしなければ相続放棄をしたとはいえず、相続人のままであることに注意しましょう。
相続放棄の手続は、前述したように家庭裁判所に申立をする必要があります。この申立が受理されると、申立をした相続に関して、初めから相続人ではなかったとみなされます。
被相続人の債務を相続しなくても良いというメリットがありますが、すべての財産を放棄することになります。あとでプラスの財産が見つかったからといって、相続することは出来ないので、よく検討する必要があります。
相続放棄の手続き
相続放棄の手続きは下記のように行われます。
単独でも相続人全員でも相続放棄できる
相続放棄の手続は、個人でも相続人全員でも申立ができます。ただし、債務等は自然になくなることはないので、次の相続順位の方に引き継がれます。
次の相続順位の方にことわりなく相続放棄をしてしまうと、借金を相続していることにその方が気づけない恐れがあります。
親族間のトラブルを避けるためにも、次の相続人になる方とよく話し合った上で相続放棄をしましょう。
相続放棄の手続方法「相続放棄の申述」
「相続放棄申述受理申立」は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申立を行います。住所によって申立をする家庭裁判所が変わりますので、裁判所のホームページで確認しましょう。
相続放棄の必要書類
申立てに必要な書類は、家庭裁判所のホームページに記載があります。
参照:相続の放棄の申述
提出する戸籍類は原本の提出が必要ですが、申立の際にコピーを同封し、原本を返却して欲しい旨を申請すると、原本還付してもらえる場合があります。裁判所によって運用が変わるので、原本還付を希望する場合は、事前に確認しましょう。
相続放棄ができないケース
被相続人の財産調査の結果、相続放棄の手続を選択したくても、前述の単純承認が成立してしまっているようなケースでは原則として相続放棄ができません。
例外:3か月が経過しても相続放棄できるケース
前述のように、相続開始を知った日から相続放棄や限定承認の手続をせずに3か月以上が経過すると、単純承認が成立します。しかし、以下の場合のように例外的に3か月が経過しても相続放棄ができる場合があります。
- 自身が相続人であることを知らなかった
- 相続する財産が全く存在しないと信じることに相当な理由がある
その他、家庭裁判所に「相続の放棄の期間の伸長」の申立を行い認められた場合も、相続開始を知った日から3か月以上経過していても、相続放棄できます。
相続放棄の注意点|3つのデメリット
相続放棄には注意しなければならない点があります。
プラスの資産も相続できない
相続放棄は、初めから相続人ではなかったことになるので、全ての財産について相続できません。被相続人が所有していた家に住んでいた場合は、出て行かなければならないことがあります。
相続放棄を撤回できない
相続放棄の申述が受理されると、あとでプラスの財産が見つかったからといって、撤回することはできません。
自分が相続放棄をすると別の親戚が相続人になる
例えば、両親と子供2人の家族で父が亡くなったとします。
相続人は母と、子供2人です。財産調査の結果、高額な債務があったことが分かったので、母と子供全員が相続放棄の手続をしました。
これで一見相続は終了したと思われるかもしれません。
しかし、相続には相続権の移動があります。配偶者と子供全員が相続放棄をすると、第2順位である被相続人の父母(または祖父母)に相続権が移動します。もし父母(または祖父母)も相続放棄をすると、第3順位である兄弟姉妹(または甥姪)に相続権が移動します。
相続放棄をする時は、親族にどのような影響がでるのかを調べ、トラブルを未然に防ぐためにも、事前に親族と話し合いをしてから手続をしましょう。
相続放棄を弁護士に依頼するメリットとデメリット
相続放棄は、期間の制限があり、親族全体へ影響を及ぼすことがあります。手続は期限内に迅速に進める必要があるため、さまざまな対応を慎重に行なわなければなりません。ここでは、弁護士に依頼するメリットとデメリットについて解説します。
相続放棄を弁護士に依頼するメリット
相続放棄はご自身でされる方も多い手続です。弁護士に依頼するメリットには以下のようなものがあります。
面倒な手続きを任せられる
相続放棄の申述では、申述書を作成し、被相続人の戸籍などの書類を添付し裁判所に提出します。生まれてから亡くなるまでの連続した戸籍の収集は、複雑な場合もあり、慣れない人には面倒な作業です。添付書類は、被相続人と相続人の関係によっても異なります。
相続権の移動により複数人の相続放棄が必要な場合もあり、手続きが煩雑になることも少なくありません。
弁護士が代理人になれば、これらの面倒な手続きも弁護士に任せられます。
迅速に手続きできる
手続に慣れている弁護士ならば3か月以内に対応できます。特に限定承認の場合は、相続人全員での申立と遺産目録の作成等、相続人全員とのやりとりも多くなるため時間がかかり、個人で申立しようとしても期限までに調整できない場合があります。
相続放棄をせずに済むケース等に気付ける
相続放棄は撤回が出来ないため、相続放棄の手続が適切かどうかを速やかに判断する必要があります。被相続人の借金が発覚したため相続放棄の決意をした場合でも、実は借金には過払金があり相続放棄をせずに済んだという例もあります。複雑な事情がある場合も弁護士であれば相談者にとって一番良い方法を提案できます。
相続放棄を弁護士に依頼するデメリット
弁護士に依頼するデメリットはほとんどありません。挙げるとすれば下記の1点です。
弁護士費用がかかる
弁護士に依頼をすると、弁護士費用がかかります。事案にもよりますが、1件11万円(税込)程度です。(弁護士費用の詳細は、無料相談時に弁護士にお尋ねください。)
弁護士費用以外にかかる費用は以下のとおりです。これは、ご自身で相続放棄の申述を申立てる場合にもかかります。
- 収入印紙(申立人1人ついて800円程度)
- 連絡用の郵便切手
- 戸籍収集にかかる実費
- 申立の郵送費
まとめ
相続放棄の手続は、正確な財産調査が短期間で必要なこと、親族間のトラブルが発生する可能性があることから、慎重に検討することが大切です。
財産以外にも保険金や相続税等、確認しなければならないことが多く、相談者によって事情は異なるため、早めに弁護士に相談する事をお勧めします。
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