特定遺贈とは何か?メリット・デメリット・注意点を解説

遺言書で、特定の個人または法人に財産を無償で譲ることを遺贈といいます。
遺贈には、大きく分けて包括遺贈と特定遺贈があります。
この記事では特定遺贈とは何か、メリットやデメリット、注意点について解説します。
特定遺贈とは何か?
特定遺贈とは、遺言者の有する特定の財産を特定の人に譲ることです。
【特定遺贈の文例】 遺言者は、遺言者の所有する下記の不動産を、遺言者の孫〇〇に遺贈する。 (不動産の表示 省略) |
例えば、相続人の一人に渡したい特別な財産がある、お世話になった人に財産を渡したい場合に、特定遺贈を活用できます。
なお、遺贈を受ける人を受遺者と言いますが、受遺者となる人に制限はありません。相続人もそれ以外の人も受遺者となれます。自然人のみならず、法人も受遺者となれます。
特定遺贈と包括遺贈の違いは?
包括遺贈とは、遺言者が財産の全部または一部を一定の割合を示して遺贈することです。
全部の形でなされるものを全部包括遺贈、〇分の1の形でなされるものを一部包括遺贈(割合的包括遺贈)といいます。
【全部包括遺贈の文例】 遺言者は、遺言者が相続開始時に有する一切の財産を孫〇〇に包括して遺贈する。 |
【一部包括遺贈の文例①】 遺言者は、遺言者が相続開始時に有する財産の3分の1を長男〇〇に譲遺贈するというように。 |
【一部包括遺贈の文例②】 遺言者は、遺言者が相続開始時に有する財産の全部を、次の者に次の割合で遺贈する。 ① 遺言者の兄〇〇 2分の1 ② 遺言者の弟〇〇 4分の1 ③ 遺言者の妹〇〇 4分の1 |
特定遺贈と包括遺贈の違いは、下表のとおりです。
特定遺贈のメリットは?
特定遺贈のメリットは、主に以下の4つです。
いつでも遺贈の放棄ができる
特定遺贈は、遺言者の死亡後であれば、いつでも遺贈の放棄ができます。
ただし、特定遺贈を受けるのか放棄するのかをはっきりさせなければ、遺産分割協議が進みません。そのため、遺贈義務者(相続人等)や利害関係人には催告権が認められています。
他の相続人から検討する期間を定められ催告をされる可能性がありますので、その点は気を付けましょう。
相続人以外であれば債務を負担しなくてよい
相続人以外の第三者への特定遺贈の場合、受遺者は、負担が付されない限り、遺言者の債務を承継することはありません。
特定遺贈によって移転するのは積極財産に対する権利のみだからです。特定遺贈の受遺者は、包括受遺者と異なり、相続人と同一の権利義務を有するわけではありません。
遺言者の金銭債務その他の可分債務は、各相続人がその法定相続分に応じて承継します。
そのため、受遺者が相続人である場合、特定遺贈を受けたからといって、債務が免除されるわけではありません。
もっとも、相続に関する承認・放棄の規定と、特定遺贈に関する承認・放棄の規定が別で設けられているため、「相続放棄をして特定遺贈を受ければよいのでは…?」と考える方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、相続人としての資格に基づいて相続放棄をして自らの債務を逃れながら、受遺者としての資格に基づいて財産を取得するという資格の使い分けは、信義則に反し、権利の濫用とも評価しえます。
このような場合、相続放棄と遺贈承認のうち後にしたものが無効となる可能性があります。
相続人が受遺者の場合は不動産取得税がかからない
相続人が受遺者の場合、不動産取得税がかかりません。
不動産取得税とは、土地や家屋を購入するなど不動産を取得した人にかかる税金です。不動産取得税が非課税になるケースはいくつかありますが、その一つが相続で取得した場合です。
特定遺贈で受遺者が相続人であれば相続と同じ扱いになるため、不動産取得税がかかりません。
相続人以外であれば遺産分割協議へ参加しなくてもよい
相続人以外の第三者に特定遺贈をした場合、受遺者が遺産分割協議に参加する必要はありません。
そのため、相続人との間でトラブルが生じるリスクを避けやすくなります。
包括遺贈の場合は遺産分割協議に参加しなければならないため(全部包括遺贈の場合を除く)、特定遺贈ならではのメリットといえます。
なお、特定遺贈を受けたのが相続人であり、遺言書で行先が指定されていない財産がある場合は、相続人として遺産分割協議に参加しなければいけません。
特定遺贈のデメリットは?
特定遺贈のデメリットは、主に以下の3つです。
遺留分を侵害している場合は遺留分侵害額請求の対象となる
特定遺贈が相続人の遺留分を侵害している場合は、遺留分侵害額請求の対象となります。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人が最低限度の遺産を受け取れる権利です。遺留分を侵害された相続人が遺留分侵害額請求権を行使した場合、受遺者は遺留分に相当する金銭を支払わなければいけません。
遺言書に記載された財産がなくなっていると無効になる
遺言書に記載されている財産が相続開始時になくなっている場合、その特定遺贈は無効になります。
例えば、[○○に所在する土地と建物を長男に遺贈する]と遺言書に書かれてあったとしても、当該不動産が売却済みだった場合は、この特定遺贈は無効となります。
こうした事態を避けるために、財産を処分した際は作成済みの遺言書を見直したほうがよいです。
相続人以外が受遺者の場合は不動産取得税がかかる
譲り受ける財産が不動産で、相続人以外が受遺者の場合、不動産取得税がかかります。
特定遺贈をすべきケースは?
特定遺贈をすべきケースは、主に以下の2つと考えられます。
自分で財産を渡す相手を決めたい場合
自分で財産を渡す相手を決めたい場合、特定遺贈を検討するとよいでしょう。
長年住んでいた自宅は長男に渡したい等の想いがあるなら、確実に渡せる特定遺贈をすべきでしょう。
相続人以外の人を相続トラブルに巻き込みたくない場合
相続人以外の人に遺贈をする場合、受遺者を相続トラブルに巻き込みたくないと考えるなら、特定遺贈をしたほうがよいでしょう。
例えば、推定相続人として配偶者や子がいるものの、障害を持つ兄弟姉妹のために、生活の心配がないように自宅と現金を確実に渡したいと考えた場合などには、特定遺贈が有用です。
特定遺贈をすれば遺産分割協議に参加しなくてもすむので、相続人とのトラブルに巻き込まれるリスクを回避しやすいでしょう。
特定遺贈をする際の注意点は?
特定遺贈を考えている場合、主に注意すべき点は以下の3つとなります。
遺留分に気を付けて遺言書を作成する
相続人の遺留分に気を付けて、遺言書を作成しましょう。
相続人と受遺者間のトラブルを避けるために特定遺贈をしたものの、遺留分を侵害すればかえってトラブルを引き起こす可能性があります。
遺留分は、資産の総額、相続人の人数、生前贈与の有無等を参考に算出しますので、わからない場合は弁護士に相談をしましょう。
受遺者が亡くなった場合のことも考える
遺言書を作成する場合、受遺者が亡くなった場合のことも考えておきましょう。
自分よりも先に受遺者が亡くなった場合、代襲相続は発生しないため、受遺者の子どもは財産を受け取れません。
万が一自分より先に受遺者が亡くなった場合は、受遺者の子どもに譲るなど記載をしておいたほうがよいでしょう。
遺言執行者を指定する
遺言執行者を指定しましょう。
遺言執行者とは、遺言書の内容を実現する代理人です。
遺言執行者の指定は必須ではありませんが、遺言執行者は単独で手続きが行えるため、スムーズに遺贈の履行手続きが進められます。
まとめ
本記事では特定遺贈について解説をしました。
特定遺贈を考えている方は、メリットとデメリットの両面がありますので、慎重に検討をしてください。
特定遺贈に向いているケースかどうかなどわからない点があれば、弁護士への相談をおすすめします。
ネクスパート法律事務所には、相続全般に強い弁護士が在籍しています。初回相談は30分無料となりますので、お気軽にお問い合わせください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。