親の介護をしない兄弟より遺産を多く相続する方法は?

親が高齢になると病気などで日常生活を送るのに支障が出てきます。その際に問題となるのが親の介護です。兄弟で協力し合って介護ができればよいのですが、兄弟の一人に負担をかけてしまうケースも多々あります。
この記事では、親が亡くなった場合、介護に貢献しなかった兄弟を相続から除外できるか、介護を一手に引き受けた人が他の兄弟よりも多く遺産を相続する方法について解説します。
目次
親の介護をしない兄弟を相続から除外できるか?
親の介護をしないからといって、特定の兄弟を相続から除外はできません。
介護をしなかったから相続分を減らせると規定する法律がないからです。民法で法定相続人は全員平等で同じ相続権を持っており、強制的に相続人の地位を奪うことや相続放棄させることはできません。
親の介護をしない兄弟より多く相続する方法は?
親の介護を日常的に続けてきた人とそうでない人が、同じように遺産を相続するのは不平等ではないかと感じる人もいるでしょう。親の介護をしない兄弟よりも多く相続する方法について解説します。
親が生きている間にできること
親が生きている間にできることは、以下に挙げる3点です。
親に遺言書を書いてもらう
親が元気なうちに遺言書を書いてもらいましょう。
遺言書に老後の面倒をみてくれた子に多くの遺産を渡す旨を記載してもらえれば、親の介護をしない兄弟よりも遺産を多く受け取れるかもしれません。
遺言書は所定の形式を満たしていなければ無効になりますし、遺留分に配慮しなければ相続トラブルに発展する可能性があります。できれば弁護士に相談しながら遺言書を作成したほうがよいでしょう。
もっとも、遺言書は他人から強制されて作るものではありませんし、遺言者本人の自由意思によって作られるべきものです。
本人が書くつもりがない遺言書を強制してはいけません。
親に生前贈与をしてもらう
親が元気なうちに生前贈与をしてもらいましょう。
親に対して、生前贈与をしてくれといいづらい人もいるかもしれませんが、介護日誌など、介護に貢献している客観的な証拠を見せ、生前贈与を検討してほしいと素直な気持ちを話してみましょう。子が親を思う気持ちを表明することで、親も子を思う気持ちを何らかの形で表してくれるかもしれません。
日々、自分だけが負担を強いられていると兄弟への不満が募り、イライラしながら介護を続けるのは、誰も得をしません。お金をせびるようで嫌だと抵抗があるかもしれませんが、自分自身が健やかに過ごすための選択肢の一つとして考えてみましょう。
親と負担付死因贈与契約を交わす
親と負担付死因贈与契約を交わす方法があります。
負担付死因贈与契約は、贈与する人が財産を死因贈与する代わりに、贈与される側に何らかの義務や負担を課す贈与契約です。双方の合意で成立し、贈与者の死亡で効力が発生します。
介護に関していえば、贈与するかわりに介護してほしいと条件付きで交わされる契約です。
負担付死因贈与契約のメリットは、介護する人は確実に財産を受け取れる点です。
実際に介護が始まれば、どちらかが一方的に契約の破棄はできないので、介護する側は他の相続人よりも確実に遺産を多く受け取れる安心感が得られます。
負担付死因贈与契約を交わす際に注意点が、2つあります。
1つ目は、負担付死因贈与契約は口約束でも成立しますが、契約書の作成をおすすめします。契約書があれば、他の相続人が不満をもらした場合に対抗できます。
2つ目は、他の相続人の遺留分に配慮して負担付死因贈与契約を交わしたほうがよい点です。遺留分とは、相続人に保障されている最低限の持ち分です。例えば、負担付死因贈与契約に、全財産を介護してくれた〇〇に譲るなど、他の相続人の遺留分を侵害するほどの贈与を設定した場合、他の相続人から遺留分が請求される可能性があります。
負担付死因贈与契約を交わす際は、弁護士に相談しながら進めましょう。
親が亡くなってからできること
親が亡くなってしまったあとに、介護をしなかった兄弟よりも多く遺産を得るには、寄与分を主張する方法があります。
寄与分とは、相続人が親の介護にあたって特別な貢献をしていたなど、貢献度に応じて相続分以外に遺産を受け取れることです。
寄与分の額は相続人全員が合意すれば自由に決められますが、寄与分を認めるのは他の相続人の相続分が減ることを意味するので、話が簡単に進まないのが実情です。
介護において寄与分を主張するにあたっては、次に挙げる要件が必要とされます。
- 相続人の寄与であること
- 寄与行為が特別の寄与であること
- 被相続人の遺産が維持または増加したこと
- 寄与行為と被相続人の遺産の維持または増加に因果関係があること
単に親と同居して家事を手伝った、仕事を続けて週末だけ介護をした、通院に付き添った程度では寄与分の主張はできないといわれています。
寄与分を主張するなら、介護日誌をつけるなど介護に貢献していた事実が分かるものを残しておきましょう。
自分の親の介護に貢献した配偶者も請求できる特別寄与料制度とは何か?
2019年に相続法の改正で、特別寄与料制度が導入されました。
特別寄与料制度とは、相続人以外の親族が亡くなった人(以下、被相続人といいます)に対して介護を無償で行うなど貢献した場合、貢献度に応じて金銭の請求ができる制度です。
改正前は、例えば義理の両親の介護をしてくれた配偶者に対して、相続の面で考慮ができませんでした。特別寄与料制度ができたことで、法定相続人ではない配偶者も特別寄与料の請求が可能になりました。
特別寄与料は誰に請求するか?
特別寄与者は、相続人の一人に請求するか、数人に対して請求するかを選択できます。
ただし、各相続人に請求できる金額は、特別寄与料に各相続人の法定相続分または指定相続分を乗じた金額が限度です。
例えば、特別寄与料が200万円だとしたら、法定相続人が被相続人の子2人の場合、それぞれに100万円ずつ請求できます。
特別寄与料を請求するための要件は?
特別寄与料を請求するには、いくつかの要件があります。
①親族であり、相続人でないこと
被相続人の親族であることが必要です。
親族とは6親等内の血族、配偶者(事実婚の場合は除く)、3親等内の姻族で、相続人や相続放棄をした人、相続欠格事由に当たる人は該当しません。
②親族が被相続人に対して、療養看護等を無償で提供したこと
親族が被相続人に対し、無償で療養看護といった労務を提供した事実がなければいけません。
寄与行為の態様は、労務の提供に限られ、被相続人に対する財産上の給付は対象とならないと考えられています。
③被相続人の財産の維持や増加に特別の寄与をしたこと
親族が被相続人の療養看護を務めたことで、被相続人の財産が維持または増加したと認められる必要があります。
ここでいう維持とは、寄与行為がなかったとすれば生じたはずの被相続人の積極財産の減少や消極財産(債務)の増加が阻止されたことを意味します。
増加とは、寄与行為がなかったとすれば、生じなかったはずの被相続人の積極財産の増加や消極財産(債務)の減少がもたらされたことを指します。
④上記②と③に因果関係があること
親族の療養看護等の寄与行為と、被相続人の財産上の効果とが結びついている必要があります。
よって、精神的な援助・協力が存在するだけでは、特別寄与料は認められません。
特別寄与料を定める方法は?
特別寄与料を定める方法は、次に挙げる2つのパターンがあります。
当事者間の話し合い
特別寄与料は、当事者間の話し合いで自由に定められます。
当事者同士で金額に合意ができれば、すべて解決します。特別寄与料は家庭裁判所による算出方法があり、いわゆる相場の金額がありますが、当事者同士で合意すれば相場以上の金額を受け取るのも可能です。
家庭裁判所への申し立て
相続人との間で特別寄与料について合意がされない場合は、家庭裁判所へ申し立てができます。家庭裁判所が特別寄与料の請求ができるかどうか、金額はいくらが適当かなど判断をします。
申立ては相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。相続開始及び被相続人を知った時から6か月以内、もしくは相続開始から1年以内に申し立てをしなければいけないので注意しましょう。
まとめ
親が要介護状態になると、まわりの人たちはさまざまな犠牲を強いられます。特に肉体的な疲労はもちろんのこと、元気だった親が弱った姿を見なければならない精神的に受けるダメージはつらいものです。親の介護は、誰か一人に負担がかからないように兄弟姉妹で協力し合うのが重要なポイントかもしれません。
親の介護を自分が一人で行っている、兄弟姉妹が協力してくれない場合は、今回の記事で取り上げた方法で介護の対価を求められます。なんとなくモヤモヤした気持ちで親の介護を続けていらっしゃるなら、一度弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
ネクスパート法律事務所では、多種多様な相続案件を手掛けてきた弁護士が在籍しています。親と負担付死因贈与契約を交わしたいがどのような契約書を作成すればいいか、寄与分について相続人同士で合意ができずに困っているなど、悩みがあればご相談ください。
初回相談は原則30分無料で対応しておりますのでお気軽にお問合せください。
この記事を監修した弁護士

寺垣 俊介(第二東京弁護士会)
はじめまして、ネクスパート法律事務所の代表弁護士の寺垣俊介と申します。お客様から信頼していただく大前提として、弁護士が、適切な見通しや、ベストな戦略・方法をお示しすることが大切であると考えています。間違いのない見通しを持ち、間違いのないように進めていけば、かならず良い解決ができると信じています。お困りのことがございましたら、当事務所の弁護士に、見通しを戦略・方法を聞いてみてください。お役に立つことができましたら幸甚です。