
交通事故の被害に遭ったら、けがや後遺症といった身体的苦痛だけでなく、大きな精神的苦痛も伴います。治療費や入院費などの損害賠償(財産的損害)だけでなく、精神的苦痛についても適正に補償を受けたいと考えるのは自然なことです。
しかし、交通事故の被害に遭ったら、以下のようなお金(損害賠償金)の問題で頭を悩ませる人は少なくありません。
- 保険会社から提示された金額が妥当かどうか判断できない
- インターネットで調べた相場より低いように感じるが、どのように反論すべきか分からない
- 弁護士に頼むと費用倒れになるのではないか
これらの不安を抱えたまま、保険会社の提示額で示談をしてしまうケースが多いのが実情です。
この記事では、交通事故における慰謝料の基礎知識や算定方法、その増減要因などを詳しく解説します。
保険会社の初回提示額は、弁護士基準(裁判基準)と比べて低い水準となるケースが少なくありません。
加害者の悪質性や被害者の過失、認定される後遺障害等級などによっても損害賠償額は変動するため、適正な損害賠償金を受け取るためには正しい知識を得ることが不可欠です。
増額・減額されるケースや慰謝料自動計算ツールを利用するメリットと注意点、弁護士に依頼をすすめる理由にも触れます。
ぜひ最後までお読みいただき、交通事故対応にお役立てください。
目次
交通事故慰謝料の基礎を押さえよう
交通事故慰謝料を正しく理解するためには、慰謝料請求の根拠や請求できる慰謝料の種類をきちんと把握することが重要です。
さまざまな損害が発生する交通事故ですが、そのなかでも慰謝料は精神的苦痛を補償するものです。すでに発生した損害に対して支払われる治療費や休業損害とは異なり、被害者が感じた痛みや不安の大きさに対して支払われる点に特徴があります。とはいえ、慰謝料は客観的に数値化しづらいため、ある程度の基準が設けられています。
この章では、慰謝料の基礎知識と、金額を決定づける3つの算定基準について解説します。
交通事故慰謝料を構造的背景から整理します。
交通事故慰謝料とは?精神的苦痛に対する3つの種類
交通事故の損害賠償における慰謝料とは、被害者が受けた精神的苦痛を金銭的に評価し、その苦痛を償うために支払われる賠償金を指します。治療費や休業損害などの財産的損害とは明確に区別されます。
慰謝料は、事故の影響がどの段階にあるかによって、以下の3種類に分類されます。

入通院慰謝料(傷害慰謝料)
事故でけがを負ったことで入通院を余儀なくされたことによる精神的苦痛に対する賠償です。
入通院慰謝料の対象期間は、原則として事故発生日から完治または症状固定日までです。
骨折などの重傷だけでなく、軽度のむちうちや打撲などの軽傷であっても、病院に通院した事実があれば慰謝料請求権は発生します。
もっとも、精神本苦痛の度合いは目に見えないため、実務上は入通院した期間の長さ(総治療期間)や実通院日数に基づいて算定されます。
後遺障害慰謝料
治療を尽くしても完治せず、身体に障害(後遺症)が残ってしまった場合に支払われる賠償です。
もっとも、単に痛みが残っていると主張するだけでは支払われません。損害保険料率算出機構による審査を経て、後遺障害等級(1~14級)の認定を受ける必要があります。
後遺障害等級に認定されれば等級に応じた金額が支払われますが、非該当の場合は原則として支払われません。
死亡慰謝料
被害者が死亡した場合に、被害者ご本人の無念、および遺されたご遺族(父母、配偶者、子など)の精神的苦痛に対する賠償です。
死亡慰謝料には、被害者本人の慰謝料と遺族固有の慰謝料の2種類があります。
なお、慰謝料請求権は相続されるため、被害者が即死した場合も相続人が請求できます。
交通事故慰謝料の3つの算定基準
交通事故の慰謝料を理解する上で最も重要なのが、3つの算定基準の存在です。
同じ事故、同じけがでも、どの基準を使って算定するかによって、算出される金額に大きな差が出ます。

自賠責保険基準
自賠責保険基準とは、自動車損害賠償保障法に基づいて国が定めている最低限の補償基準です。
すべての被害者に最低限の救済を与えることを目的としているため、支払額は最も低く設定されています。また、傷害部分の支払限度額は120万円(治療費・休業損害・慰謝料等の合計)と定められており、これを超えた分は支払われません。
任意保険基準
任意保険基準とは、各損害保険会社が独自に定めている内部基準です。
非公開のためその詳細はわかりませんが、自賠責基準よりは多少高い金額設定になっていることが多いです。しかし、後述する弁護士基準に比べれば大幅に低い金額となるケースがほとんどです。
保険会社が「当社の規定ではこれが限界です」などと言って提示してくる金額は、通常この基準に基づいて算定されています。
弁護士基準(裁判基準)
弁護士基準とは、過去の裁判例に基づいて導き出された法的正当性の高い基準です。
実務では日弁連交通事故相談センターが発行する民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(通称:赤い本)などの算定表を参照して算出することが多いです。
3つの基準の中で最も高額となるケースが多く、裁判所もこの基準を用いて判決を下します。弁護士が代理人として交渉する場合は、この基準をベースに請求を行います。
補足|なぜ保険会社は最初から弁護士基準で提示しないのか?
保険会社は任意保険基準に基づいて支払額を算定するため、被害者側が弁護士基準を前提に見積もる場合と比べて、初回提示が低くなることがあります。
そのため、被害者の多くが知識を持っていないことを利用し、あえて低い基準(任意保険基準)で早期示談を図ろうとするのが通常です。
【早見表】入通院慰謝料の計算方法と相場
入通院慰謝料とは、交通事故により負ったけがの治療のために入院や通院を余儀なくされたことによる精神的苦痛に対する賠償です。
入通院慰謝料の金額は、算定基準ごとに計算方法が異なりますし、実際に入院・通院した日数や治療期間によって大きく異なります。
この章では、最も発生件数が多く、かつ計算が複雑な入通院慰謝料について、基準ごとの詳細な計算方法と相場を詳しく解説します。
自賠責基準
自賠責基準における入通院慰謝料は、以下の式で計算します(2020年4月1日以降発生の事故)。
| 日額4,300円×認定日数 |
一見シンプルに見えますが、この認定日数の決め方に大きな落とし穴があります。
認定日数は、以下のAとBを比較し、少ない方が採用されます。
- A:治療期間(事故日から治療終了日までの全日数)
- B:実治療日数(実際に入院・通院した日数)の2倍
そのため、たとえ治療期間が長くても実治療日数が少ない場合や、頻繁に通院していても治療期間が短い場合などは認定日数が少なくなるため、結果として受け取れる入通院慰謝料が低額となることがあります。
具体的に、以下の2つのケースで入通院慰謝料を計算してみましょう。


認定日数の決め方を正確に把握しておかないと、「思ったほど慰謝料がもらえない」と慰謝料額に不満を抱く原因となるおそれがありますので注意しましょう。
弁護士基準
弁護士基準における入通院慰謝料は、原則として、実通院日数ではなく通院期間(月数)をベースに算定します(※通院頻度が極端に低い場合を除く)。
けがの程度によって、以下の2種類の算定表(別表)を使い分けます。
別表Ⅰ(重傷用)
骨折、脱臼、靭帯損傷など、レントゲンやMRIで他覚所見が明らかな場合に使います。

別表Ⅱ(軽傷用)
むちうちや軽い打撲、軽い挫創などで、画像所見などの他覚所見が乏しい場合に使います。

以下は、通院期間ごとの基準額比較表です。
- 骨折、脱臼などの重傷の場合
| 通院期間 | 自賠責基準 | 弁護士基準(別表Ⅰ) | 金額差 |
|---|---|---|---|
| 1か月 | 12万9,000円 | 28万円 | 15万1,000円 |
| 2か月 | 25万8,000円 | 52万円 | 26万2,000円 |
| 3か月 | 38万7,000円 | 73万円 | 34万3,000円 |
| 6か月 | 77万4,000円 | 116万円 | 38万6,000円 |
- むちうち、軽い打撲などの軽傷の場合
| 通院期間 | 自賠責基準 | 弁護士基準(別表Ⅱ) | 金額差 |
|---|---|---|---|
| 1か月 | 12万9,000円 | 19万円 | 6万1,000円 |
| 2か月 | 25万8,000円 | 36万円 | 10万2,000円 |
| 3か月 | 38万7,000円 | 53万円 | 14万3,000円 |
| 6か月 | 77万4,000円 | 89万円 | 11万6,000円 |
※自賠責基準は日額4,300円で計算
※自賠責基準は1月あたり15日以上通院した場合の金額
事故状況や症状によって異なるものの、弁護士基準で算定すれば数十万円単位の増額が見込めます。
特に、骨折・脱臼などの重傷を負った場合は金額差が大きくなります。弁護士が交渉を行うことで、通院頻度や後遺症リスクなど個別の事情もより深く主張できるため、自賠責基準や任意保険基準より高額な入通院慰謝料が認められる可能性が高まります。
後遺障害慰謝料の基礎知識と等級別相場
交通事故の被害に遭うと、治療後も身体に障害が残り、日常生活や労働に支障をきたすことも少なくありません。
治療を継続したものの、「雨の日に首が痛む」「指が完全に曲がらない」「顔に傷が残った」といった症状が残存した場合、それは後遺障害として認められる可能性があります。
後遺障害とは、治療を継続したにもかかわらず完治せず、将来的に回復が見込めない身体的・精神的な症状が残ることをいいます。
その後遺障害について所定の審査を経て後遺障害等級に認定されれば、後遺障害慰謝料が支払われます。
この章では、後遺障害等級認定の基礎知識と等級別相場を詳しく解説します。
後遺障害等級認定とは?
後遺障害等級認定とは、残存した症状が交通事故によるものかを審査し、その重篤度に応じて1~14級に分類し、さらに各級を号で細分化する手続きです。
この認定を受けることで初めて後遺障害慰謝料と将来の収入減を補償する逸失利益の2つの請求が可能になります。
後遺障害等級認定の申請方法は以下の2つです。
- 事前認定:加害者が加入する任意保険会社に申請してもらう方法
- 被害者請求:被害者が自ら資料を集めて直接申請する方法
事前認定は資料収集の手間はかからないものの、提出書類の内容を被害者が把握できないため、添付してほしい書類が添付されないなどのリスクがあります。
被害者請求では、診断書・検査結果・日常生活状況など、認定判断に資する資料を主体的に追加提出できるため、適切な後遺障害等級の認定につながる可能性があります。
被害者請求における後遺障害等級の認定までの一般的な流れを紹介しますので、参考にしてください。

後遺障害等級は、申請すれば必ず認定されるものではありません。後遺障害診断書の内容が曖昧だったり不備があったりすると、適切な等級が認定されないおそれもあります。
等級認定において後遺障害診断書の記載内容は非常に重要ですので、不安があれば弁護士のサポートを受けることを積極的に検討しましょう。
後遺障害等級認定の申請については、以下関連記事で詳しく解説しています。
後遺障害慰謝料の等級別相場
後遺障害慰謝料は、認定された後遺障害等級に応じて以下のとおり慰謝料額が設定されており、1級が最も高額、14級が最も低額となります。
| 後遺障害等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
|---|---|---|
| 1級 | 1,150万円 | 2,800万円 |
| 2級 | 998万円 | 2,370万円 |
| 3級 | 861万円 | 1,990万円 |
| 4級 | 737万円 | 1,730万円 |
| 5級 | 618万円 | 1,400万円 |
| 6級 | 512万円 | 1,180万円 |
| 7級 | 419万円 | 1,000万円 |
| 8級 | 331万円 | 830万円 |
| 9級 | 249万円 | 690万円 |
| 10級 | 190万円 | 550万円 |
| 11級 | 136万円 | 420万円 |
| 12級 | 94万円 | 290万円 |
| 13級 | 57万円 | 180万円 |
| 14級 | 32万円 | 110万円 |
※2020年4月1日以降に発生した交通事故の場合
例えば、むちうちで認められる可能性がある14級9号の場合、自賠責基準では32万円ですが弁護士基準では110万円となり、その金額差は78万円に及びます。
等級ごとの後遺障害の内容や症状については、以下をご参照ください。
参考:後遺障害等級表/国土交通省
部位別ポイント|むちうち・骨折・高次脳機能障害
むちうちや骨折、高次脳機能障害を負った場合のポイントを紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
むちうち
MRI画像に異常がない場合でも、神経学的検査(ジャクソンテスト等)で陽性反応があり、かつ治療経過や症状に一貫性があれば14級9号が認定される可能性があります。
画像検査で神経圧迫が明確であれば12級13号が認定される可能性もあります。
骨折
骨がきれいに癒合せず変形が残れば(変形治癒)12級以上、関節の動きが悪くなれば(可動域制限)その程度に応じて12級、10級、8級などが認定される可能性があります。
高次脳機能障害
高次機能障害とは、交通事故の衝撃で脳の一部を損傷したことにより、思考、記憶、行為、言語、注意など脳の機能の一部に障害が残った状態をいいます。
高次脳機能障害の主な症状は、以下の7つです。
- 記憶障害
- 注意障害
- 遂行機能障害
- 社会的行動障害
- 言語障害
- 失行
- 失認
高次脳機能障害が残ると、日常生活や就労が困難になることもあるものの、見過ごされやすい障害です。交通事故に遭ってから急に怒りっぽくなった、これまで熱中していたことに興味を持たなくなったなど、行動や性格に変化がみられる場合は専門医の診察を受けることをおすすめします。
死亡慰謝料の計算方法と相場
交通事故により死亡した場合は、亡くなった被害者本人に対する慰謝料のほか、遺族の精神的負担や経済的な損失も含めて総合的に賠償が行われるのが一般的です。
自賠責基準においては一定額が定められていますが、弁護士基準では被害者の家庭内での役割や年齢、扶養状況などをより詳細に考慮するため、算定結果に大きな差が生じるケースも少なくありません。
この章では、死亡慰謝料の計算方法と基準ごとの相場について、詳しく解説します。
自賠責基準と弁護士基準の圧倒的な差
自賠責基準における死亡慰謝料は、以下の方法で計算されます。

自賠責基準では、被害者本人の慰謝料と遺族の慰謝料をそれぞれ計算し、合算した金額が死亡慰謝料となります。なお、被害者に被扶養者がいる場合は、被扶養者加算がなされます。
弁護士基準における死亡慰謝料は、以下のとおりです。

弁護士基準では、被害者の家庭内における役割によって相場があります。なお、遺族の慰謝料や被扶養者加算を含めた金額です。
自賠責基準には一定の定額設定があるため比較的低額に抑えられますが、弁護士基準では被害者本人と遺族の精神的苦痛を大きく評価するため、慰謝料額がより高額となることがあります。
死亡慰謝料の属性別相場
死亡慰謝料は、被害者の年齢や家族構成などの事情によって金額が変動しやすい賠償項目の一つです。
例えば、被扶養者が多い一家の支柱だった場合や、将来の収入が見込める若年者の場合などは金額が高く算定される傾向があります。一方で、高齢者の死亡事故でも家族の精神的苦痛が大きいと認められれば、高い慰謝料が適用される場合もあります。
具体的な事情を丁寧に主張することが大切です。
示談交渉の流れと注意点
交通事故の示談交渉は、事故直後の対応から保険会社とのやり取り、支払いまで多くのステップがあるため、その流れを把握しておくことが重要です。
示談交渉は、怪我の治療が終了(完治または症状固定)し損害額が確定した段階で開始されるのが一般的です。
被害者は治療費や休業損害などの立証資料をそろえ、保険会社と必要な金額について調整します。このとき過失割合が大きく影響するため、事前に事故状況を正確に把握し、相手方保険会社の過失認定に納得がいかない場合は法的な視点で再検討する必要があります。
この章では、示談交渉の流れと注意点について、詳しく解説します。
事故発生から示談成立・振込までの全プロセス
適正な慰謝料を獲得するためには、正しいタイミングで正しいアクションを起こすことが大切です。
事故発生から示談成立・振込までの一般的な流れは以下のとおりです。今後の対応の参考にしてください。
- 治療期間:医師の指示に従い通院します。整骨院や接骨院だけでなく、整形外科を定期的に受診して医師の判断を仰ぐことが不可欠です。
- 症状固定:治療を継続してもこれ以上症状の改善は見込めないと医師が判断することです。この時点で治療費の支払いが終了するのが通常です。
- 後遺障害等級認定申請:後遺障害が残った場合は後遺障害等級認定の申請を行います。申請方法は事案によりことなるため、被害者請求も選択肢として検討します。
- 示談交渉開始:損害額が確定したら、保険会社と示談交渉を開始します。
- 示談成立・示談書署名:双方が合意すれば示談書を作成します。
- 振込:示談書を返送してから入金までの期間は保険会社や事案により異なりますが、一定期間を要するのが通常です。
事故発生後はまず警察への届出や相手の保険情報の確認をし、可能なら事故現場の写真やドライブレコーダー映像を確保しておくことをおすすめします。事故発生後、なるべく早期に医療機関で診断を受けることも大切です。
症状固定となり後遺障害の認定が済んだ時点で示談交渉がスタートし、示談金の合意後に保険会社から支払いが行われるのが通常です。
示談書に一度サインすると、原則として撤回や変更はできない扱いとなります。内容に不満がある場合は、サインする前に弁護士に相談することをおすすめします。
過失割合と慰謝料の関係
被害者にも一定の過失があると認められた場合、過失割合に応じて慰謝料を含む損害賠償金が減額されます(過失相殺)。
例えば、被害者が信号無視をしていたり、注意義務を怠ったりしていた場合などが該当します。
過失の程度は事故形態や目撃証言などさまざまな要素を総合的に考慮して判断されるため、整理して主張することが重要です。
過失割合については、以下関連記事で詳しく解説しています。
見落としがちな休業損害と逸失利益の請求
示談交渉では慰謝料の金額が注目されがちですが、実際には休業損害や逸失利益といった経済的損害の補償も重要です。
この2つは見落とされがちなため、注意しましょう。
休業損害
休業損害とは、交通事故で負った怪我の治療のために働けなくなったり、不十分な就労を余儀なくされたりした場合に減った収入のことです。
給与所得者であれば給与、自営業者であれば交通事故が原因で減った売上から必要経費を差し引いた所得の減少分です。
現実に得られなかった収入が補償の対象となるため、以下のような理由による減収や費用も補償の対象となります。
- 通院のための遅刻や欠席
- 休業が理由の賞与の減額や不支給
- 休業が理由の降格や昇進の遅れ
- 休業中も支払いが避けられない経費
- 休業中も事業を維持するために人を雇った場合はその費用
なお、専業主婦(主夫)も賃金センサス(統計)に基づいて休業損害が認められることがあります。
休業損害の計算方法については、以下関連記事で詳しく解説しています。
逸失利益
逸失利益とは、交通事故に遭わなければ得られたはずの将来の利益です。
逸失利益には以下の2種類があります。
- 後遺障害逸失利益
- 死亡逸失利益
なお、被害者が死亡または後遺障害等級の認定を受けていない場合は、原則として、逸失利益を請求できない扱いとなります。
逸失利益の計算方法については、以下関連記事で詳しく解説しています。
交通事故慰謝料が増額される可能性があるケース
加害者側の責任が重いと判断される場合や、被害者が置かれている状況によっては、慰謝料が増額されることがあります。
加害者の行為があまりに悪質であったり、被害者の苦痛が通常を遥かに超えると判断できたりする以下のようなケースでは、慰謝料の増額が認められる可能性があります。
- 加害者の運転が悪質・危険極まりない場合
- 事故後の対応が著しく不誠実な場合
- 被害者に特別な事情がある場合
以下で、詳しく解説します。
加害者の運転が悪質・危険極まりない場合
加害者の運転態様が極めて悪質で危険極まりない場合、被害者の処罰感情や恐怖感は増大するため、慰謝料が増額される可能性があります。
加害者の運転態様が極めて悪質だと判断される行為として、以下のようなものが挙げられます。
- 飲酒運転・酒気帯び運転
- ひき逃げ(救護義務違反)
- 無免許運転
- 著しい速度超過
- 信号無視
飲酒運転や著しいスピード違反といった重大な交通違反の場合、通常の事故より加害者の過失が大きいと判断されるため、慰謝料を含む損害賠償金が増額されやすいです。
特に、危険運転致死傷罪などの重大犯罪にも該当するケースでは、刑事訴追も絡むため、示談交渉において被害者の不満が強く考慮される傾向があります。
事故後の対応が著しく不誠実な場合
加害者の事故後の対応が著しく不誠実な場合も、被害者の精神的苦痛が増幅すると考えられるため、慰謝料が増額される可能性があります。
単に謝罪がない、見舞いに来ないといった程度では増額は難しいですが、限度を超えた以下のような行為は考慮される傾向にあります。
- 証拠隠滅:ドライブレコーダーを隠すなど
- 虚偽証言:嘘の証言をして被害者に責任をなすりつけるなど
- 暴言・暴力:事故直後に被害者を恫喝したり、救護活動を妨害したりするなど
事故直後に救護措置を取らない、連絡先を偽る、示談を引き延ばすなどの不誠実な対応も、増額の要因として考慮される可能性があります。
被害者に特別な事情がある場合
被害者に特別な事情がある場合も、通常より大きな不安・リスクが生じるおそれがあるため、慰謝料が増額される可能性があります。
特別な事情として、具体的に以下のようなことが挙げられます。
流産や中絶
妊婦が交通事故に遭い、胎児が流産、または治療のために中絶を余儀なくされた場合、本人および配偶者の深い悲しみが考慮されて慰謝料が増額されることがあります。
精神疾患の発症
交通事故の恐怖体験により、被害者やその近親者がPTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病などを発症し生活に支障をきたした場合も、慰謝料が増額されることがあります。
このような個別事情は、医師の診断書や生活への影響度合いを具体的に示すことで考慮される可能性が高まります。
慰謝料が増額されるケースについては、以下関連記事でも詳しく解説しています。
交通事故慰謝料が減額される可能性があるケース
一方で、被害者側にも落ち度があると判断される場合や他の補償制度を利用している場合、慰謝料が減額される可能性があります。
この章では、慰謝料が減額される可能性がある以下の3つのケースについて解説します。
- 被害者にも不注意があった場合
- 持病(既往症)が損害を拡大させた場合
- 別の制度からすでに補償を受けている場合
以下で、詳しく解説します。
被害者にも不注意があった場合
被害者にも不注意があった場合は、慰謝料が減額される可能性があります。
被害者にも以下のような不注意があった場合、被害者の過失割合分が減額されます(過失相殺)。
- 信号を見落として横断した
- スマートフォンを操作しながら運転していた
例えば、損害総額1,000万円、過失割合20(被害者):80(加害者)のケースで計算してみましょう。
被害者が受け取る金額は、以下のとおりです。
| 1,000万円×(1−0.2)=800万円 |
損害総額1,000万円から被害者の過失割合分の200万円が差し引かれます。
被害者側にも明らかな過失があると見なされた場合は、減額は避け難いです。
保険会社は事故現場の状況や目撃証人の話などを詳細に調べて、加害者が少しでも有利となるよう過失割合を立証しようとするのが通常です。
持病(既往症)が損害を拡大させた場合
持病(既往症)が損害を拡大させた場合も、減額される可能性があります。
被害者がもともと持っていた病気(既往症)や身体的特徴が、事故のけがを悪化させたり、治療を長引かせたりした原因となった場合、公平の観点から減額される(素因減額)ことがあります。
例えば、事故前から重度の脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアがあり、事故によって症状が発現・悪化した場合は、素因減額の対象となります。
被害者が事故前から抱えていた持病や既往症がけがを重症化させたり回復を遅らせたりした可能性がある場合は、すべてを加害者の責任とするかどうかが問題になります。医療証拠をしっかり整えることで、実際の影響度合いを適切に判断してもらう必要があります。
素因減額については、以下関連記事で詳しく解説しています。
別の制度からすでに補償を受けている場合
別の制度からすでに補償を受けている場合も、減額される可能性があります。
交通事故の損害に対し、すでに別の制度から給付を受けている場合、二重取りを防ぐためにすでに受け取った分が控除されます(損益相殺)。
例えば、労災保険からの給付金、国民年金・厚生年金の障害年金などは控除されます。
損益相殺については、以下関連記事で詳しく解説しています。
交通事故の慰謝料にまつわる裁判例を紹介
相場を上回る死亡慰謝料が認められた裁判例を紹介します。
加害者が相当程度酩酊した状態で高速道路を蛇行運転し、被害者を死亡させた事案です(東京地裁平成15年7月24日判決)。
加害者は事業用大型貨物自動車の運転手で、被害者は事故当時3歳と1歳の姉妹です。被害車両は加害車両に衝突されて半回転、加害車両が被害車両の後部に乗り上げた状態で炎上しました。姉妹は被害車両の後部座席に乗車しており、焼死しました。
裁判所は、以下のような事情を考慮し、相場を上回る1人あたり合計3,400万円の死亡慰謝料を認めました。
- 事故当時まだ3歳と1歳の幼児で、事故に遭わなければ限りない可能性を有していたはずなのに、突然命を奪われた同人らの無念さは計り知れない。
- 後部座席に幼い2人のみで身動きもできないまま取り残され、意識を失うこともなく炎に取り巻かれ、暑さ・痛さに悲鳴を上げながら我が身を焼かれたという死に至る態様が極めて悲惨かつ残酷である。
- 前方が渋滞していたために徐々に減速していた被害車両が後方から進行してきた加害車両に一方的に追突されたもので、被害車両の運転者に過失はまったくない。
慰謝料自動計算ツールを使うメリットと注意点
近年、ウェブ上で簡単に慰謝料の目安を試算できる慰謝料自動計算ツールをよく目にします。
「自分の場合、結局いくらもらえるの?」と気になった時に、項目を入力するだけでおおよその慰謝料額を把握できて便利な一方、その使い方には慎重さも求められます。
メリット|適正額がすぐにわかる
法律事務所が提供している計算ツールは弁護士基準の計算式をプログラム化したものが多いです。そのため、通院期間や年収を入力するだけで、弁護士が交渉した場合の最大額を瞬時に知ることができます。
会員登録不要・匿名で使えるものも多いため、保険会社の提示額と比較する際に役立つことが考えられ、保険会社が提示する金額で安易に合意するリスクも下げやすくなります。
注意点|結果はあくまで裁判をした場合の金額
慰謝料自動計算ツールで算出された金額は、あくまで弁護士を立てて交渉、または裁判をした場合に認められる金額です。
被害者個人が保険会社に対し、慰謝料自動計算ツールの結果画面を見せて「この金額を支払ってください」と交渉しても、保険会社は「当社の基準とは異なります」などと一蹴される可能性が高いです。
算出された適正額を獲得するためには、その金額を法的根拠に基づいて主張できる弁護士の介入が不可欠である点を理解しておきましょう。
交通事故対応を弁護士に依頼する5つのメリット
交通事故の被害に遭ったら、その対応を弁護士に依頼することをおすすめします。
- 慰謝料を含む損害賠償金の大幅な増額が見込める
- 保険会社との交渉ストレスから解放される
- 後遺障害等級認定のための適切なサポートを受けられる
- 過失割合や治療費打ち切りの交渉も任せられる
- 弁護士費用特約を活用すれば実質負担なく依頼できる可能性がある
以下で、詳しく紹介します。
慰謝料を含む損害賠償金の大幅な増額が見込める
慰謝料を含む損害賠償金の大幅な増額が見込めます。
弁護士が代理人として加害者側の保険会社と交渉を行うことで、弁護士基準での請求が可能となります。特に、後遺障害等級や過失割合が争点となるケースでは、専門知識が交渉の行方を左右します。
保険会社との交渉ストレスから解放される
保険会社との交渉ストレスから解放されます。
弁護士に依頼すれば、保険会社との対応窓口はすべて弁護士になります。被害者への直接連絡がなくなりますし、保険会社との煩雑なやり取りも任せられるため、心身の回復に専念しやすくなります。
後遺障害等級認定のための適切なサポートを受けられる
後遺障害等級認定のための適切なサポートを受けられます。
弁護士のサポートを受けることで、後遺障害等級認定に必要な情報や証拠を的確に揃えられるため、不備や漏れを避けやすくなり、適正な等級が認められやすくなります。
過失割合や治療費打ち切りの交渉も任せられる
過失割合や治療費打ち切りの交渉も任せられます。
保険会社が提示してくる過失割合は、必ずしも客観的な根拠に基づいているとは限りません。弁護士が交渉することで被害者に有利な修正が可能になるケースは少なくありません。
弁護士費用特約を活用すれば実質負担なく依頼できる可能性がある
弁護士費用特約を活用すれば実質負担ゼロで依頼できる可能性があります。
ご自身またはご家族が特約に加入している場合は、相談料や弁護士費用を保険会社に負担してもらえるため、実質的な自己負担ゼロでサポートを受けられるかもしれません。弁護士費用特約を使っても保険の等級には影響しませんので、特約が利用できる場合は、迷わず弁護士に相談しましょう。
弁護士特約の使い方については、以下関連記事で詳しく解説しています。
交通事故慰謝料に関するよくある質問(Q&A)
軽傷で通院が1日だけの場合も慰謝料は請求できる?
軽傷で通院が1日だけの場合も慰謝料は請求できます。怪我をして治療を受けた事実があれば、通院期間や日数に応じて慰謝料は発生します。
示談金と慰謝料は違うの?
示談金は損害賠償全体を包括して合意する金額の総称であり、その中に治療費や逸失利益、そして慰謝料が含まれています。一方、慰謝料は精神的苦痛に対する補償を指す項目に限定されます。
慰謝料に税金はかかる?
原則として、慰謝料に税金はかかりません(非課税)。
時効が迫っている場合はどうすればいい?
時効の更新措置が必要です。人身事故の損害賠償請求権は、原則として事故発生日の翌日から5年で時効消滅します。時効が迫っている場合は早急に弁護士に相談することをおすすめします。
損害賠償請求権の時効については、以下関連記事で詳しく解説しています。
まとめ
交通事故慰謝料を正しく算定し適正な金額を受け取るためには、入念な準備と交渉が欠かせません。交通事故で受ける被害は、身体的にも精神的にも大きいものです。慰謝料をはじめとする損害賠償金を適正に受け取り、生活再建に役立てましょう。
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