交通事故の損害賠償金が減らされるかもしれない素因減額とは何か?

交通事故の被害者は、事故によって生じた損害を損害賠償金として、加害者に請求できます。ただし、被害者にもともと身体的・精神的疾患があり、それが原因で事故の損害が拡大された場合、損害賠償金が減額されることがあります。これを素因減額といいます。

今回は、どのような場合に素因減額が主張されるのかについて解説します。

素因減額とは?

素因減額とは、交通事故の被害者にもともと身体的・精神的な疾患があり、その疾患が原因で損害が大きくなった場合、素因分を考慮した割合を賠償金額から減額することです。

素因とは、損害の発生および拡大に影響を及ぼす被害者側の事情です。

減額の対象となる素因は、主に下記の2つに分けられます。

  • 心理的素因
  • 身体的素因

心因的素因

心理的素因とは、被害者の性格、心理的・精神的な問題点のことです。事故のみによって通常発生する程度、範囲を超えていて、かつ、その損害の拡大について被害者の心理的要因が寄与している場合には、損害額の算定にあたって考慮されることがあります。

具体的には、社会に対する適用力、ストレスに対する耐性などの精神的な傾向や精神疾患の既往歴の有無などが考慮されます。

裁判では、以下のような場合に心理的素因を理由とする減額が考慮されています。

  • 原因となった事故が軽微で通常人に対して心理的影響を与えるものではない場合
  • 被害者の愁訴に見合う他覚的な医学的所見がない場合
  • 一般的な加療相当期間を超えて治療を必要とした場合

身体的素因

身体的素因とは、既往症や体質的疾患などです。

例えば、事故前から既往症があり、それが事故と相まって症状を発生させた場合や症状が重くなった場合などには、減額を検討されることがあります。

肥満などの体質的なものが問われることもありますが、判例では極端に肥満である以外は身体的な特徴は素因減額の対象にならないとしています。被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情がない限り、被害者の身体的特徴を考慮できないという考え方です。

素因減額がされる場合は、以下の事情を勘案して、斟酌の程度を判断し、1~5割程度の減額がされています。

  • 事故の衝撃の程度
  • 事故前からあった疾患の内容・程度
  • 事故を契機に生じた症状の程度など

素因減額はどのように立証されるか?

ここでは、素因減額がどのように立証されるのか、解説します。

誰が立証するのか?

素因減額は、損害賠償金を支払う加害者加害者が加入している保険会社が立証します。なぜなら素因減額が認められることで、加害者と加害者側の保険会社に利益が生じるからです。

加害者側は、素因減額の立証責任までは求められませんが、素因にあたる具体的事実については主張・立証をしなければいけません。ちなみに素因減額は抗弁(被告が原告の主張に対して行う反論の一つ)に位置付けられ、加害者から主張がなくても裁判所は職権で素因減額を考慮できます。

素因減額の立証に必要なことは?

加害者側は、素因減額を認めてもらうために下記の内容について主張をしなければいけません。

  • 被害者が持つ身体的・精神的特性が疾患であること
  • 被害者が持つ疾患と交通事故の両方が原因で損害が発生したこと
  • 素因減額をしなければ損害賠償金額が不公平であること

 

素因減額が認められやすい例

ここでは、素因減額が認められた事例や認められやすいケースを紹介します。

椎間板ヘルニア

椎間板ヘルニアには、頸椎椎間板ヘルニアと腰椎椎間板ヘルニアがありますが、裁判では、素因減額を肯定し損害賠償金額を2割から3割減額しているものがあります。

ただし、事故前にヘルニアの症状がなかったのに、事故後に症状が出てきた場合は、素因減額を否定している裁判例もあります。

つまり、焦点となるのは、事故前にヘルニアがあったかどうかになります。

後縦靭帯骨化症(こうじゅうじんたいこつかしょう)

後縦靭帯骨化症は、背骨の中を縦に走る後縦靭帯が骨になって脊髄の入っている脊柱管が狭くなり、脊髄や脊髄から分枝する神経根が圧迫されることで感覚障害や運動障害等の神経症状を引き起こす病気で指定難病です。症状が出る人と出ない人があり、50歳以上の男性に多くみられます。

後縦靭帯骨化症は、素因減額が認められる傾向があり2割から3割、中には5割の減額を認める例もあります。

うつ病

交通事故に合う5年前にうつ病と診断された被害者は、不眠、頭痛、首筋の痛み、肩のこり、めまい等を訴えて頻繁に治療を続けていました。そのため10%の素因減額が認められましたが、これはうつ病だけが原因ではなく、交通事故による負傷が割と軽いものであったことなどがトータルに判断されたと思われます(神戸地判 平成26年8月20日)。

素因減額が認めらにくい例

ここでは、素因減額が認められなかった例について解説します。

首が長いという身体的な特徴

首が長く多少の頸椎不安定症がある被害者でしたが、これはあくまでも身体的な特徴で疾患とはいえないため素因減額がされませんでした(最判平成8年10月29日)。

加齢・老化によって現れる症状

前述した椎間板ヘルニア、骨粗しょう症などは、加齢や老化でどんな人にも現れる可能性がある症状です。一般的な老化現象で見られる症状については、素因減額の対象にならないとされています。

骨粗しょう症

骨粗しょう症は、骨の強度が低下することで骨折のリスクが高くなるものです。女性に見られる傾向が多く、50歳以上の女性の4人に1人は骨粗しょう症だといわれています。

高齢になるほどなりやすい疾患なので、交通事故の被害者が高齢の場合は素因減額の対象になることはあまりありません。

ただし、過去の裁判で35歳の女性で骨密度が70歳から75歳に匹敵する人が最終的に20%の素因減額がなされた例があります(さいたま地裁平成23年11月18日判決)。

素因減額を主張された場合、弁護士に依頼するメリットは?

ここでは、交通事故の加害者から素因減額を主張された場合、弁護士に依頼するメリットについて解説します。

素因減額の主張が正当か的確に判断できる

被害者には過失がないのに、加害者から損害賠償金額の減額を示唆されるととまどうことでしょう。加害者側から素因減額を主張されたら、迷わずに弁護士に相談をしてください。相手方の主張が正しいかどうか、弁護士であれば的確に判断ができます。

相手方とのやりとりを任せられる

交通事故の被害者が加害者とやりとりをするのは、精神的に厳しいものがあります。しかし、示談交渉を進めなければ早期に損害賠償金を受け取れません。

素因減額を主張された場合など特別なことが起きたら、やりとりを弁護士に任せた方が納得できる交渉が期待できます。

まとめ

損害賠償金は、公平に支払わなければならず、交通事故の加害者に多大な負担を強いることはあってはなりません。しかし、被害者にとっても思いもよらないところで素因減額を主張されると戸惑いがあります。

加害者の主張に正当性があるのかどうか、冷静に判断しなければ後悔することになるでしょう。

ネクスパート法律事務所では、加害者側に素因減額を主張され困っている方を適切にサポートできる弁護士が在籍しています。交通事故の案件を多数手がけてきた弁護士に任せれば、安心して示談交渉に臨むことができますので、ぜひ一度ご相談ください。

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