交通事故によるむちうちで請求できる損害賠償金の内訳と相場

むちうち損傷とは、追突事故による衝撃などで、頚部が振られたことにより生じる頚部・肩甲部・上肢等の痛みや痺れなどの症状で、頚部捻挫、頚部挫傷、外傷性頚部症候群など様々な傷病名で呼ばれます。

治療終了後も症状が残る場合には、申請により後遺障害等級が認定されることもあります。後遺障害等級に認定されれば、加害者に請求できる損害賠償の範囲が広がります。

この記事では、交通事故によるむちうちで請求できる損害賠償金の内訳と相場について解説します。

目次

交通事故によるむちうちで請求できる損害賠償金の内訳

交通事故により発生しうる損害項目は、大きく分けると、以下の4つに分類されます。

  • 積極損害
  • 消極損害
  • 慰謝料(精神的損害)
  • 物的損害

被害者が加害者に請求できる示談金の額は、被った損害の内容に応じて異なります。

ここでは、交通事故によるむちうち受傷で発生しうる損害項目について解説します。

積極損害

積極損害とは、交通事故が原因で支出を余儀なくされた損害です。

積極損害には、主に人身損害に関わる以下の費用挙げられます。

  • 治療費
  • 通院交通費
  • 装具・器具購入費

治療費

治癒または症状固定までの治療費や入院費は、むちうちの治療に必要かつ相当な範囲であれば、実費全額が損害として認められます。

鍼灸・あんま・マッサージ等の医師以外が施術する場合の治療費は、原則として医師による指示がある場合に限り損害として認められます。医師の指示がない場合でも、症状の回復に有効で、施術内容が合理的かつ費用・期間等も相当な場合には、損害として認められることもあります。

通院交通費

事故による怪我の治療のために支出した通院交通費は損害として認められます。

損害の算定において基準となるのは、原則として以下の費用です。

  • バス・電車等の公共交通機関の利用料金
  • 自家用車による通院の場合は、ガソリン代および駐車料金

地理的に公共交通機関を利用するのが困難な場合や医師からタクシー利用の指示が出ている場合には、タクシー料金が損害として認められることもあります。

装具・器具購入費

むちうちの治療のため、医師から頸椎カラーやコルセットなどの装具装着の指示があった場合には、それらの装具の購入費も損害として認められます。

消極損害

消極損害は、事故がなければ得られたはずなのに、事故により得られなくなった財産的損害です。

むちうち受傷により請求しうる消極損害には、以下の2つがあります。

  • 休業損害
  • 後遺障害による逸失利益

休業損害

休業損害とは、被害者が事故による受傷の治療のために、休業または不十分な就業を余儀なくされたことにより、本来なら得られた収入を得られなくなったことによる損害です。

以下のような減収も休業損害に含まれます。

  • 遅刻・早退などにより生じた減収
  • 休業による賞与の減額・不支給による減収
  • 休業による降格・昇格遅延による減収

後遺障害による逸失利益

後遺障害による逸失利益とは、被害者に後遺障害が残り、労働能力が減少したことにより失った、将来得られるはずの利益の減少です。

休業損害が症状固定時までの現実の減収を補償するのに対し、逸失利益は症状固定後の労働能力喪失による減収を補償するものです。

むちうちの場合も残存症状が後遺障害等級に認定された場合には、逸失利益を請求できます。

慰謝料(精神的損害)

慰謝料は、被害者に生じた精神的損害(苦痛)をてん補するものです。

むちうち損傷の場合、加害者に対し入通院慰謝料後遺障害慰謝料を請求できる可能性があります。

入通院慰謝料

入通院慰謝料は、病院に入院・通院したことに対して支払われる慰謝料です。

入通院慰謝料は、治療のために要した入院・通院期間に基づいて算定されます。

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料は、後遺障害が生じたことに対して支払われる慰謝料です。

これ以上治療を続けても改善ができない場合に症状固定となり、後に残る障害が後遺障害です。

後遺障害慰謝料は、基本的に自賠責保険(損害保険料率算出機構)で認定された後遺障害等級ごとに算定されるのが基本です。

物的損害

物的損害は、車両の損傷や車両に積載していた物品の破損などの損害です。

最も多いのは車両の損害で、主な損害項目として以下のものが挙げられます。

  • 車両修理費等
  • 代車使用料
  • 休車損
  • 評価損

交通事故によるむちうちの精神的損害(慰謝料)の賠償額を決める3つの基準

ここでは、交通事故の慰謝料を算定する3つの基準について解説します。

慰謝料を算定する基準には、次の3つがあります。

  • 自賠責基準
  • 任意保険基準
  • 裁判基準(弁護士基準)

どの基準が用いられるかは、自賠責保険か否か、保険会社が示談案を提示する場合か否か、弁護士が介入しているか否か、裁判か否かによって異なります。

自賠責基準

自賠責基準は、自動車を運転する人に加入が義務付けられている自賠責保険が定める基準です。

交通事故の被害者に対し最低限の補償を行うものであるため、3つの基準の中で慰謝料の額が最も低く、支払限度額も定められています。

任意保険基準

任意保険基準は、各保険会社が独自に設定している慰謝料の基準です。

任意保険は自賠責保険の不足部分を補う保険であるため、自賠責基準よりは若干高くなると考えられています。

平成10年までは各保険会社が使用していた一律の基準(旧任意保険基準)がありましたが、平成11年7月1日に撤廃されました。現在は、保険会社ごとに自由に定めた基準を用いており、具体的な金額や基準も非公開となっています。

裁判基準(弁護士基準)

裁判基準とは、公平中立な裁判所が適正な慰謝料を算定した過去の判例を基に定められた基準です。弁護士による示談交渉の際にも用いられるため、弁護士基準とも呼ばれています。

3つの基準のうち最も高い基準です。

各基準の慰謝料の金額は、下記関連記事をご参照ください。

【交通事故】入通院・後遺障害・死亡慰謝料相場|増額されるケースとは

交通事故のむちうち損傷で6か月通院した場合の損害賠償金(示談金)の相場

ここでは、むちうち損傷で6か月間通院治療を余儀なくされた場合の損害賠償金の相場を解説します。

後遺症が残らなかった場合

むちうちの場合は入院を要しないことが多いため、6か月(1か月あたり10日間)通院したと仮定すると、入通院慰謝料の額は以下のとおりとなります。

  • 自賠責基準:51万6,000円(2020年3月31日以前の事故の場合は50万4,000円)
  • 裁判基準(弁護士基準):89万円

したがって、上記慰謝料の額に加えて治療費や交通費として支出した実費相当額や休業損害を加害者に請求できる可能性があります。

後遺症が残った場合

むちうちで後遺障害等級が認定された場合は、後遺障害慰謝料後遺障害逸失利益も請求できます。

後遺障害等級ごとの後遺障害慰謝料の相場は、以下のとおりです。

後遺障害等級

自賠責基準

弁護士基準

2020年4月1日 以後に発生した事故

2020年3月31日以前に発生した事故

12級

94万円

93万円

290万円

14級

32万円

32万円

110万円

後遺障害による逸失利益は、被害者の職業や年齢、後遺障害の部位および程度により異なります。むちうちによる労働能力喪失期間は、特別の事情がない限り以下のとおり制限される傾向があります。

  • 12級の場合:10年程度
  • 14級の場合:5年程度

例えば、事故前の年収が300万円の会社員が、2020 年 4月 1 日以降に発生した事故によるむちうちで後遺障害等級14級に認定された場合の逸失利益の額は、以下のとおりです。

基礎収入額(300万円)×労働能力喪失率(5%)×労働能力喪失期間(5年)に対応するライプニッツ係数(4.580)=68万7,000円

このケースで被害者が加害者に請求しうる金額は、以下のとおりとなります。

  • 入通院慰謝料:51万6,000円~89万円程度
  • 後遺障害慰謝料:32万円~110万円程度
  • 後遺障害逸失利益:68万7,000円程度

したがって、治療費や交通費として支出した実費相当額や現実の休業損害のほか、約150万円~約270万円程度を請求できる可能性があります。

なお、ここで紹介した相場は、個別の事情を考慮せず、あくまで過去の裁判例等に基づいた目安です。実際に受け取れる示談金の額は、事故の態様等により異なりますのでご留意ください。

【交通事故】むちうちの慰謝料相場|入通院期間・重症度別早見表

交通事故のむちうち損傷で休業損害はいつまで賠償してもらえる?

ここでは、交通事故によるむちうち損傷で休業損害はいつまで賠償してもらえるかについて解説します。

治癒または症状固定まで

交通事故によるむちうち損傷の治療のために休業(一部休業も含む)を余儀なくされた場合は、治癒または症状固定までの間に現実に生じた減収部分が休業損害として認められます。

むちうちの標準的な治療期間

交通事故によるむちうち受傷(外傷性頚部症候群)の多くは、受傷後3か月程度で軽快・治癒すると言われています。

治療に必要な期間は個人差があることを考慮しても、6か月程度で症状固定に至ると考えられています。

むちうちの治療期間―慰謝料相場と納得の補償を得るための知識

交通事故によるむちうちで損害賠償額を増額させるためのポイント

ここでは、交通事故によるむちうちで損害賠償額を増額させるためのポイントを解説します。

弁護士に示談交渉を依頼する

弁護士に示談交渉を依頼すれば、3つの算定基準の中で最も高い裁判基準(弁護士基準)で算定した損害額を請求してもらえます。

被害者が自ら交渉すると、保険会社から不利な条件を突きつけられても、専門的な知識や交渉力の差から説得力のある反論をできず、望まない結果に至ることも少なくありません。

弁護士であれば、保険会社の担当者を上回る専門的知識や過去の判例を駆使して被害の正当な回復を主張できるので、交渉により示談金の額を増額できる可能性があります。

交通事故で弁護士に依頼する10個のメリットと弁護士選びのコツを紹介

適正な後遺障害等級を獲得する

むちうちの治療後に後遺障害と認定された方は、加害者に対し、後遺障害慰謝料や後遺障害による逸失利益を請求できます。

むちうちで認定されうる後遺障害等級は、主に次の2つの等級です。

  • 12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
  • 14級9号:局部に神経症状を残すもの

損害保険料率算出機構(自賠責損害調査事務所)は、後遺障害の有無について医学的見地から被害者の状態や症状が後遺障害と評価できるかを判断します。

むちうち損傷により痛みや痺れなどの自覚症状が残っていても、その症状の存在や程度を医学的に証明できなければ後遺障害等級が認定されません。

レントゲンやCT・MRI画像などで症状との整合性が証明できなければ、必要に応じてジャクソンテストやスパークリングテストなどの神経学的検査を受ける必要があります。

後遺障害等級の認定は原則として提出書類で判断されるため、後遺障害診断書の記載内容を充実させることも重要です。

自覚症状を主治医にしっかりと伝えて、その症状を裏付けられる検査結果等を後遺障害診断書に記載してもらいましょう。

むちうちで後遺障害等級の認定を受けるためには、専門的知識を有する弁護士のサポートを受けることをおすすめします。

過失割合を適正に評価する

過失割合とは、発生した交通事故に対する加害者と被害者の責任の割合です。

事故態様について被害者にも落ち度があり、それが事故の発生や損害の拡大に寄与している場合は、損害の公平な分担の観点から損害賠償額が減額されることがあります。

加害者側の保険会社が主張する過失割合は、基本的に加害者の主張や説明を前提としているため、必ずしも適正であるとは限りません。

提示された過失割合を鵜呑みにするのではなく、算定の根拠を問い合わせるなどして、保険会社の主張が適正かどうか判断しなければなりません。

過失割合の変更を根拠立てて主張するためには、裁判実務で用いられる基準や過去の裁判例を理解しておかなければなりません。

保険会社の主張に疑問がある場合には、弁護士への相談をおすすめします。

交通事故の過失割合とは|決め方・納得できない場合の反論方法を紹介

交通事故のむちうちで損害賠償請求を弁護士に相談・依頼するメリット

交通事故によりむちうち損傷の症状がある場合には、なるべく早い段階で弁護士への相談をおすすめします。

ここでは、交通事故の損害賠償請求を弁護士に相談・依頼するメリットを紹介します。

適切な治療方法・検査方法などのアドバイスを受けられる

交通事故によるむちうち受傷で加害者側に請求し得る損害賠償の範囲は、後遺障害等級に認定されるかどうかで変わります。

治療中なるべく早い段階で弁護士に相談すれば、後遺障害等級の認定に有利な検査方法や通院頻度等に関するアドバイスが受けられるため、適正な等級を獲得できる可能性が高まります。

裁判基準(弁護士基準)で損害額を算定・請求できる

弁護士に示談交渉を依頼すれば、裁判基準(弁護士基準)で算定した損害額を請求してもらえます。

保険会社が当初提示する示談金の額は、裁判基準(弁護士基準)に満たないことが多いです。

弁護士であれば、十分な証拠をもとに裁判例に近い賠償金額を提示できるため、示談金の増額が期待できます。

加害者側の保険会社も時間や費用をかけて裁判するよりは交渉で解決した方が良いと考える傾向があるため、早期解決も見込めます。

煩雑な事務手続きや保険会社とのやり取りを任せられる

加害者が示談代行サービス付きの任意保険に加入している場合は、通常、保険会社の担当者と示談交渉をします。保険会社が被害者の体調や感情に無配慮な対応をすることもあるため、やり取りにストレスを感じる被害者の方も多くいらっしゃいます。

弁護士に依頼すれば保険会社とのやりとりを任せられるため、そのようなストレスから解放されて治療に専念できます。

むちうちの治療終了後も痛みや痺れなどの症状が残る場合、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益を請求するためには、後遺障害等級の認定を受けなければなりません。

後遺障害等級の認定申請は、手続きが煩雑で資料の収集にも負担がかかります。

弁護士に依頼すれば、煩雑な事務手続きを任せられ、認定に有利な資料を選定してもらえるため、適正な等級を獲得できる可能性が高まります。

弁護士費用特約を使えば費用倒れの心配がない

被害者ご自身やご家族が加入している任意保険に弁護士費用特約が付いていれば、保険会社に弁護士費用を支払ってもらえる可能性があります。

保険会社にもよりますが、一般に以下の限度額までの法律相談料や弁護士費用を保険金で補償してもらえます。 

  • 法律相談料:10万円まで
  • 弁護士費用:300万円まで 

むちうち慰謝料は弁護士請求でいくら増額される?弁護士費用相場も解説

交通事故によるむちうちの損害賠償に関するQ&A

ここでは、交通事故によるむちうちの損害賠償に関するよくある質問と回答を紹介します。

事故から数日後にむちうちの症状が出たらどうしたらいい?

事故直後は怪我がないと思っていても、後からむちうち症状が現れることもあります。

事故から数日後に症状が出た場合は速やかに医療機関を受診して診断書を発行してもらいましょう。

診断書には、受傷状況や事故との因果関係を明らかにするために、簡単な事故発生状況を記載してもらうことをおすすめします。

警察に物損事故として届けている場合は、診断書を提出して人身事故に切り替えてもらいましょう。

【交通事故】むちうちの診断書の書き方|後遺障害等級の獲得を目指して

整骨院や接骨院での施術の治療費も請求できる?

整骨院や接骨院での施術費は、症状の内容・程度に照らして有効なものであれば損害として請求できます。

施術の必要性や有効性、施術期間・内容に関する具体的な主張・立証を行うためには、医師の指示ないし同意を得た方が良いでしょう。

整骨院や接骨院で施術を受ける場合も、医療機関の受診を止めず、定期的に医師の診察や必要な検査を受けることが重要です。

医師がこまめに経過を観察し、整骨院や接骨院での施術の必要性や有効性を判断していれば、治療費や慰謝料の支払いを受けやすくなります。

むちうちは後遺障害等級認定を受けるのが難しい?

むちうちは軽症で済むことが多く、治療経過などから症状の存在を医学的に証明できなければ、後遺障害非該当となることもあります。

むちうちで適正な後遺障害等級を獲得するためには、後遺障害等級の認定や異議申し立てについて十分な経験や実績を有する弁護士のサポートを受けることをおすすめします。

むちうちが嘘と言われたらどうすればいい?

車両の損傷が少ない軽微な追突事故でむちうちを発症した場合、加害者側の保険会社から「必要もないのに治療を受けているのではないか」と疑われることがあります。

本当に痛みがあるのに、治療の必要性に疑問を持たれてしまうケースも珍しくありません。

むちうち症状が嘘と疑われた場合には、主治医に相談して神経学的検査を受けると良いでしょう。自覚症状を客観的に裏付ける検査結果が得られれば、その結果が記載された診断書を保険会社に提出することで、治療費の支払いに応じてもらえる可能性があります。

むちうちが嘘だと疑われないためにやるべきこと

治療費の打ち切りを打診されたときの対処法は?

むちうちの場合、治療開始から3か月程度が経過した時点で、加害者側の保険会社から治療費の打ち切りを打診されることがよくあります。

治療を継続する必要があるかどうかは、主治医が判断すべきことです。そのため、保険会社から治療費の打ち切りを打診された時点で、ご自身の身体に症状が残っているなら主治医に今後の治療の必要性を確認しましょう。

医師が治療継続の必要があると診断した場合は、保険会社に診断書等を提示して治療費の内払いの延長を求めます。

保険会社に治療費を打ち切られても、治療を終了する必要はありません。治療費が打ち切られても、医師に治療の継続が必要と判断された場合は、以下の方法で治療を継続できます。

  • 自賠責保険に治療費を請求する
  • 健康保険を利用して治療終了後に保険会社に請求する
  • 労災保険を利用する(業務災害、通勤災害の場合)

交通事故の治療費打ち切りを保険会社が打診する理由とスマートな対処法

まとめ

交通事故によるむちうち損傷で加害者側に請求できる損害賠償の範囲は、後遺障害等級が認定されるかどうかよって異なります。

損害賠償金を少しでも多く受け取りたい方は、弁護士に示談交渉の依頼をおすすめします。

弁護士であれば裁判基準(弁護士基準)で算定した損害額を請求できるので、加害者から受け取れる示談金を増額できる可能性があります。

交通事故でむちうちになった方は、ぜひ一度ネクスパート法律事務所にご相談ください。

 

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