交通事故の示談交渉で、加害者側の保険会社から提案された慰謝料の額に納得いかないときや、慰謝料が少なく感じられる場合には、弁護士にアドバイスを求めましょう。
慰謝料が納得いかない金額になる理由によっては、納得のいく金額に増額できる可能性があります。
この記事では、交通事故の慰謝料について、主に以下の点を解説します。
- 慰謝料が納得いかない金額になる理由
- 慰謝料に納得いかない場合の対応策
- 弁護士に示談交渉を依頼するメリット
交通事故の慰謝料にお悩みの方は、ぜひご参考になさってください。
目次
交通事故の慰謝料が納得いかない金額になる4つの理由
ここでは、交通事故の慰謝料が納得いかない金額になる4つの理由について解説します。
保険会社の提案額が低い
慰謝料に納得いかない理由の一つに、保険会社から提示される慰謝料の額が低額であることが挙げられます。
慰謝料を算定する3つの基準
慰謝料の算定に用いられる基準には、次の3つがあります。
- 自賠責基準
- 任意保険基準
- 弁護士(裁判)基準
自賠責基準
自賠責基準は、自賠責保険の算定に利用する基準です。被害者への最低保障を目的としていることから、弁護士(裁判)基準と比較して、相当程度低い基準となっています。
以下のとおり支払限度額は定められており、物的損害については補償されません。
- 傷害に関する部分:120万円
- 後遺障害に関する部分:75万円~4,000万円
- 死亡保険金:3,000万円
任意保険基準
任意保険は、自賠責保険の保険金を上積みする保険であり、その支払い基準は各保険会社が決定しています。各保険会社が独自に決定した基準であるため、具体的な金額や計算方法は公開されていません。
自賠責保険の上乗せというものの、入通院慰謝料や後遺障害慰謝料の賠償基準については、弁護士(裁判)基準と比べて低額です。
弁護士(裁判)基準
交通事故については、多くの裁判例が蓄積されています。過去の裁判例を財団法人日弁連交通事故相談センターが調査・分析し、公表したものが弁護士(裁判)基準です。
具体的には、同センター本部および東京支部が発行する以下の書籍で示されている基準です。
- 交通事故損害算定基準(いわゆる青本)
- 民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(いわゆる赤い本)
保険会社は慰謝料をなるべく低く抑えようとする
一般に保険会社が提示する慰謝料の額は、弁護士(裁判)基準に比べてかなり低額です。
保険会社は営利企業として、保険金の支払いをなるべく低く抑えようとします。
保険会社としては、被害者が低額で示談してくれるに越したことはないので、自賠責基準で計算した金額と同程度若しくはそれに近い金額を提示することがほとんどです。
治療期間が短い・実通院日数が少ない
治療期間が短い場合や実通院日数が少ないと、慰謝料の額が低額になる傾向にあるため、予想よりも低い慰謝料に納得いかないことがあるでしょう。
入通院慰謝料の計算方法
自賠責保険
自賠責基準の入通院慰謝料は、認定日数1日につき4,300円(2020年3月31日以前に発生した事故は4,200円)です。
認定日数は、以下のいずれか少ない方の日数です。
- 実治療日数の2倍
- 総治療期間
治療期間や実通院日数が少ないと、慰謝料の額にどのような影響があるか下表で確認してみましょう。1か月は30日として計算します。
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【治療期間が短い】 実通院日数が25日、総治療期間が1か月のケース |
【実通院日数が少ない】 実通院日数が10日、総治療期間が1か月のケース |
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認定日数 |
①25日×2=50日 ②30日 総治療期間の方が少ないので、認定日数は30日となる。 |
①10×2=20日 ②30日 実通院日数の2倍の方が少ないので、認定日数は20日となる。 |
入通院慰謝料の額 (※2020年4月1日以後発生の交通事故の場合) |
4,300円×30日=12万9,000円 |
4,300円×20日=8万6,000円 |
同じ治療期間でも、実通院日数が少なければ慰謝料は低額となります。
実通院日数が多い(頻繁に通院している)場合でも、治療期間が短ければその期間分しか慰謝料は受け取れません。
弁護士(裁判)基準
弁護士(裁判)基準では、実際に入院・通院していた期間に基づいて入通院慰謝料を計算するのが原則です。
実治療日数が少ない場合は、傷病内容にもよりますが、実日数を3倍程度にした期間に置き換えて算定する場合もあります。
弁護士(裁判)基準は、実通院日数が少ない場合も3倍程度にした期間で算定するため、自賠責基準より慰謝料が減額される率が少なくなります。
保険会社の提示額が自賠責基準に近い日額になっていないか確認しましょう
任意保険基準は非公開であるため一概に言えませんが、一般に、保険会社は被害者に支払う金額を低く抑えようとするため、自賠責基準に近い日額で算定した慰謝料の額を提案する傾向にあります。
保険会社から提案された入通院慰謝料の額が、日額4,300円(2020年3月31日以前に発生した事故は4,200円)に近い金額で算出されている場合は、安易にその提案を受け入れず、弁護士に相談することをおすすめします。
後遺障害等級が低い・非該当
後遺障害等級が想定よりも低く認定された場合や非該当と認定された場合は、後遺障害慰謝料の額が低くなることから、納得いかないと感じることがあるでしょう。
例えば、本来なら12級に認定される後遺障害があるのに、14級に認定されると、以下のとおり慰謝料の額は180万円も低くなります(弁護士(裁判)基準の場合)。
- 12級:290万円
- 14級:110万円
後遺障害等級が非該当と認定された場合は、後遺障害慰謝料は支払われません。
後遺障害等級認定の申請方法
後遺障害等級認定の申請方法には、次の2通りの方法があります。
- 事前認定:加害者側の保険会社に後遺障害等級認定の申請手続き任せる方法
- 被害者請求:被害者自身で後遺障害等級認定の申請手続きを行う方法
事前認定
事前認定の場合は、加害者側の保険会社が申請手続きをするので、被害者は自ら書類や資料を揃える手間がかかりません。
しかし、加害者側の保険会社が、被害者に適正な等級が認定されるよう助言してくれたり、書類の不備や検査の不足を指摘してくれたりすることはありません。等級認定に必要な検査結果が提出されていなかったり、後遺障害等級診断書の記載が不十分だったりすることで、実態に即した等級に認定されない可能性があります。
保険会社側が提出した意見書が、審査に不利な影響を及ぼすこともあります。
被害者請求
被害者請求の場合は、被害者が自ら書類や資料を揃えなければなりません。
手間はかかりますが、提出する書類の中身を確認したり、必要書類を漏れのない状態で提出したりできます。加害者側の保険会社を通さないため、手続きの透明性も高くなります。
後遺障害等級認定結果が適正かどうか確認しましょう
事前認定の結果に納得できない場合は、書面による説明を求められます。
被害者請求の場合は、認定結果とその理由が記された書面が被害者に送付されます。
いずれの書面にも、等級認定が納得できない結果になった理由が詳しく記載されているので、まずは認定結果の理由を把握・分析しましょう。
納得いかない等級や非該当と判断された原因が資料不足や説明不足である場合は、異議申し立てにより再審査してもらえる可能性があります。
異議申立ての具体的な方法は後述します。
被害者の過失割合が高い
発生した交通事故について、被害者にも過失(落ち度)があった場合には慰謝料の額が減額される可能性があるため、慰謝料に納得いかないと感じることがあるでしょう。
過失割合と過失相殺
過失割合とは、発生した交通事故に対する加害者と被害者の責任の割合です。
事故態様について被害者にも落ち度があり、それが事故の発生や損害の拡大に寄与している場合は、損害の公平な分担の観点から、損害賠償額が減額されることがあります。
これを過失相殺と言います。
被害者の過失割合を過大に主張されていないか
加害者側の保険会社が提示する過失割合は、必ずしも適正であるとは限りません。
保険会社は、基本的に加害者の主張や説明を前提として過失割合を検討・判断します。
特に、事故の状況を示す客観的証拠が乏しい場合は、当事者の記憶や証言をもとに決定・判断せざるを得ないため、被害者の主張を聞き入れてもらえないことがあります。
弁護士が示談交渉を行う場合や裁判実務では、民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(別冊判例タイムズ38号)を用いて、過失割合を算定します。
民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準とは、典型的な事故状況を類型化した図ごとに、基本的な過失相殺率と修正要素等を基準化して示した書籍です。まずはその書籍に掲載されている図に当てはまるかを検討し、当てはまる図がある場合には、図に示された基本的過失相殺率と修正の基準を踏まえて過失相殺率を評価します。
加害者側の保険会社も、民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準を用いて交渉するのが一般的ですが、被害者側の過失割合を過大に主張することもあります。
提示された過失割合を鵜呑みにするのではなく、算定に用いられた事故類型が適正か、修正要素が過不足なく反映されているかを確認することが重要です。
交通事故の慰謝料に納得いかない場合、示談に応じる前にすべきこと
ここでは、慰謝料の提示額に納得がいかない場合の対応策について解説します。
加害者側の保険会社が提示した慰謝料の額に納得がいかない場合は、安易に示談に応じず、弁護士に相談することをおすすめします。
保険会社が提示した慰謝料が適正な額か弁護士に相談する
提示された慰謝料の額に納得がいかない場合は、まずは弁護士に相談しましょう。
交通事故に詳しい弁護士であれば、保険会社を上回る法的知識・医学的知識と経験を有しているため、加害者側の保険会社の提案が適正かどうかを判断できます。
弁護士に依頼して最も高い基準で慰謝料を請求する
交通事故の示談交渉を弁護士に依頼すれば、弁護士(裁判)基準で算定した慰謝料を加害者側に請求してもらえます。
加害者側の保険会社から提示された慰謝料よりも高い額で示談を成立させられる可能性があります。
自己判断で治療を中断せず医師の指示に従い治療を継続する
治療期間の短さや実通院日数の少なさを理由に慰謝料が低くなる状況を避けるには、医師から治療の終了を告げられるまで通院を続けることが大切です。
保険会社から治療費の打ち切りを告げられたとしても、自己判断で中断せず医師の指示に従い治療を継続しましょう。
後遺障害等級の認定結果に不服があれば異議を申し立てる
事前認定の場合も被害者請求の場合も、認定結果に不服がある場合は、異議申立てが可能です。
事前認定の場合は相手方保険会社に、被害者請求の場合は自賠責保険会社に対して、以下の書類を提出します。
- 異議申立書
- 医師の診断書又は意見書
- 被害者本人または同居の親族作成の日常生活状況報告書
- レントゲン写真、MRI、CT等(必要に応じて新たに撮影したもの)
異議を申立てるには、当初の等級認定の結果やその理由を正確に把握して分析する必要があります。申請書類の作成や医学的資料の収集にも手間がかかるため、弁護士に相談することをおすすめします。
なお、異議申立てをしても、当初認定された等級が下がることはありません。
事故状況や車両等を調査して過失割合が適正か確認する
保険会社は、加害者に不都合な事実を述べず、被害者の過失割合を過大に主張することもあります。
保険会社が提示した被害者の過失割合に納得できない場合、それに反論するためには、事故態様を詳細に把握・分析しなければなりません。
事故車両の損傷状況などから、接触時の車両の動きを推測できる場合があります。損傷から推測される事故態様について、専門家の意見を得ておくと有用な場合があります。
事故の状況が記載された記録として、以下のような資料を入手することも重要です。
- 物件事故報告書
- 実況見分調書
- ドライブレコーダーの映像
弁護士であれば、事故態様を示す情報を適切に入手・精査し、当事者の過失割合を適正に評価できます。
交通事故の慰謝料に納得いかないときは弁護士に依頼すれば増額を望める?
ここでは、交通事故の示談交渉を弁護士に依頼すれば、慰謝料の増額を望めるかどうかについて解説します。
交通事故の示談交渉を弁護士に依頼するメリット
交通事故の示談交渉を弁護士に依頼すれば、慰謝料を弁護士(裁判)基準で請求できるため、保険会社の提示する慰謝料よりも高い金額を受け取れる可能性があります。
慰謝料の増額が期待できるだけでなく、弁護士に示談交渉を依頼すれば、以下のようなメリットがあります。
- 早期解決が見込める
- 入院雑費等の増額が望める
- 適正な休業損害を請求してもらえる
- 相手方保険会社との示談交渉を任せられる
- 適正な過失割合を主張できる
- 通院頻度や治療費の打ち切りへの対応をアドバイスしてもらえる
- 後遺障害等級認定のためのサポートを得られる
- 精神的な負担が軽減される
弁護士特約を使えば実質無料で弁護士に依頼できる?
被害者ご本人やご家族が契約中の自動車保険で弁護士費用特約に加入していれば、実質無料で弁護士に依頼できる可能性があります。
保険会社にもよりますが、保険金の支払いとして上限300万円程度まで弁護士費用を負担してもらえます。
交通事故示談交渉の弁護士費用相場
交通事故示談交渉の弁護士費用の相場は、以下のとおりです。
- 相談料:30分5,500円~11,000円程度
- 着手金:20万円~30万円程度
- 報酬金:経済的利益の10~30%
- 実費:数千円~数万円程度
- 日当:1日当たり3万円~5万円程度
上記はあくまで目安であり、法律事務所によって異なりますので、依頼する弁護士に確認しましょう。
まとめ
加害者側から提示された慰謝料に納得いかないと感じたら、安易に示談を受け入れず、提示額が適正かどうか弁護士に相談することをおすすめします。
納得いかない理由によっては、弁護士が示談交渉に介することで、慰謝料の増額を望めることもあります。
交通事故の慰謝料についてお悩みの方は、ぜひ一度ネクスパート法律事務所にご相談ください。