交通事故の慰謝料を算定する基準には、次の3つの種類があります。
- 自賠責基準:自動車損害賠償保障法に規定された最低限の補償を目的とする基準
- 任意保険基準:各保険会社が独自に定めた社内基準(非公開)
- 弁護士基準:過去の判例をもとに定められた基準
3つの算定基準のうち、どの基準を使うかによって算定結果に大きな差が生じます。
この記事では、慰謝料の計算方法について、以下の点を解説します。
- 自賠責基準と弁護士基準の慰謝料算定方法
- 過失割合に応じた慰謝料計算方法
適正な慰謝料の算定に役立てれば幸いです。
目次
【自賠責基準】交通事故の入通院慰謝料の計算方法
ここでは、自賠責基準を用いた入通院慰謝料の計算方法について解説します。
認定日数×4,300円(2020年3月31日以前の事故は4,200円)
自賠責基準の入通院慰謝料の計算方法は、以下のとおりです。
認定日数×4,300円(2020年3月31日以前の事故は4,200円) |
慰謝料認定日数の出し方
認定日数は、次のいずれか少ない方の日数です。
- 実治療日数×2
- 総治療期間
上記のほか、認定日数の出し方には、以下のルールが定められています。
- あんま・マッサージ・指圧師、鍼師、灸師の施術日数は2倍せず実施術日数とする
- 柔道整復師(整骨院)の施術日数は、医師の治療日数と同様に2倍する
- 長管骨等のギプス固定の装着期間の日数は、医師の実治療日数と同様に2倍する
- 総治療期間は、通常、事故の日から治療最終日までとする
治療最終日とは、以下のいずれかの日です。
- 治癒・症状固定の場合は、その日(症状固定とは、それ以上治療を継続しても良化が見込めなくなった状態をいいます。)
- 治癒見込み・中止・継続・転医の場合はその日から7日を加算した日
計算例
以下の条件を前提に慰謝料を計算してみましょう。
- 事故発生日:2022年4月1日
- 事故日から3日間入院治療を受けた
- 退院後35日間通院治療を受けた
- 事故日から120日経過した時点で治療を終了した
この場合の自賠責基準の入通院慰謝料は、以下のとおりとなります。
実治療日数38日(3日+35日)×2=76日 総治療期間120日 このケースでは、①の方が少ないので、①が認定日数となります。 入通院慰謝料は、以下の計算式で導き出します。 76日×4,300円=32万6,800円 |
入通院慰謝料の増額事由
自賠責基準では、妊婦が被害者となって、事故によりその胎児を死産もしくは流産した場合に、別途以下の慰謝料が加算されます。
- 妊娠週数12週以内:30万円
- 妊娠週数13週~24週:50万円
- 妊娠週数25週以上:80万円
過失割合に応じた減額率
自賠責基準では、被害者に重大な過失がある場合に限り、2割から5割の過失相殺がされます。他の基準や裁判所の判断よりも被害者に有利な取り扱いがされます。
自賠責基準で定められた過失割合に応じた減額率は以下のとおりです。
被害者の過失割合 |
傷害事案 |
後遺障害又は死亡事案 |
---|---|---|
7割未満 |
減額なし |
減額なし |
7割以上8割未満 |
2割減額 |
2割減額 |
8割以上9割未満 |
3割減額 |
|
9割以上10割未満 |
5割減額 |
【弁護士基準】交通事故の入通院慰謝料の計算方法
ここでは、弁護士基準を用いた入通院慰謝料の算定方法を解説します。
民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準を用いて算出する
弁護士基準の慰謝料は、民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(通称:赤い本・日弁連交通事故相談センター東京支部編)という書籍を用いて算定します。
この書籍には、次の2種類の慰謝料算定表が掲載されています。
- 別表Ⅰ:原則として使用する表
- 別表Ⅱ:むちうちや軽い打撲・軽い挫創等で他覚所見がない場合に使用する表
それぞれの表は、以下のとおりです。
別表Ⅰ・別表Ⅱの使用法
被害者の入院月数を上欄から求め、左欄から通院月数を求めて両者が交わる欄の金額(万円単位)が慰謝料基準額となります。
入院のみの場合は、入院のみの欄(青色マーカー部分)の金額を、通院のみの場合は、通院のみの欄(黄色マーカー部分)の金額が慰謝料の基準額となります。
1か月は30日として考えます。
この表に記載された範囲を超えて治療を要した場合には、入院・通院期間1か月につき、それぞれ15か月の基準額から14か月の基準額を引いた金額を加算した金額を基準額とします。
通院期間に比して通院回数が少ない場合
通院期間が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度を踏まえ、以下の計算式で算出した月数を通院期間の目安とすることがあります。
実通院日数×3.5÷30日 |
このほか、別表Ⅰ・Ⅱを用いて慰謝料を算定するルールは以下のとおりです。
- 入院待機中の期間は、入院期間とみなすことがある
- ギプス固定中等安定を要する自宅療養期間は、入院期間とみなすことがある
- 症状の部位、程度によっては、別表Ⅰの金額を20~30%程度増額する
入通院慰謝料の増額事由
弁護士基準は、あくまでも標準的な事故の判例をもとにした基準です。
そのため、被害者に以下のような特別の事情がある場合には、別途慰謝料の増額を検討します。
- 生死をさまよう状態が継続したとき
- 麻酔無しでの手術など極度の苦痛を被ったとき
- 複数回の手術を行ったとき
- 将来も手術をする予定があるとき
- 被害者が妊婦で事故により胎児を死産・流産したとき
計算例
以下の条件を前提に慰謝料を計算してみましょう。
- 交通事故により左大腿骨を骨折した
- 入院期間1か月
- 通院期間8か月
骨折等の場合は、別表Ⅰを用いて慰謝料を算定します。
入院1か月と通院8か月が交わる欄は、164万円となります。この金額が、弁護士基準を用いて算定した慰謝料の基準額となります。
【自賠責基準】後遺障害慰謝料の計算方法
ここでは、自賠責基準を用いた後遺障害慰謝料の算定方法について解説します。
障害等級に応じて金額が決まっている
後遺障害慰謝料は、障害等級に応じた慰謝料の額が設定されています。後遺障害等級は第1級から第14級までに区分されています。
自賠責基準の後遺障害慰謝料の額は、下表のとおりです。
後遺障害等級 |
後遺障害慰謝料 |
|
---|---|---|
2020年4月1日以降 に発生した事故 |
2020年3月31日以前 に発生した事故 |
|
第1級 |
1,150万円 |
1,100万円 |
第2級 |
998万円 |
958万円 |
第3級 |
861万円 |
829万円 |
第4級 |
737万円 |
712万円 |
第5級 |
618万円 |
599万円 |
第6級 |
512万円 |
498万円 |
第7級 |
419万円 |
409万円 |
第8級 |
331万円 |
324万円 |
第9級 |
249万円 |
245万円 |
第10級 |
190万円 |
187万円 |
第11級 |
136万円 |
135万円 |
第12級 |
94万円 |
93万円 |
第13級 |
57万円 |
57万円 |
第14級 |
32万円 |
32万円 |
【弁護士基準】後遺障害慰謝料の計算方法
ここでは、弁護士基準を用いた後遺障害慰謝料の算定方法について解説します。
障害等級に応じて金額が決まっている
後遺障害慰謝料は、障害等級に応じた慰謝料の額が設定されています。後遺障害等級は第1級から第14級までに区分されています。
弁護士基準の後遺障害慰謝料の額は、下表のとおりです。
後遺障害等級 |
後遺障害慰謝料 |
---|---|
第1級 |
2800万円 |
第2級 |
2370万円 |
第3級 |
1990万円 |
第4級 |
1670万円 |
第5級 |
1400万円 |
第6級 |
1180万円 |
第7級 |
1000万円 |
第8級 |
830万円 |
第9級 |
690万円 |
第10級 |
550万円 |
第11級 |
420万円 |
第12級 |
290万円 |
第13級 |
180万円 |
第14級 |
110万円 |
後遺障害慰謝料が増額されるケース
弁護士基準は、あくまでも標準的な事故の判例をもとにした基準です。
そのため、慰謝料を増額すべき事情がある場合には、別途慰謝料の増額を検討します。
後遺障害が残ったことにより、以下のような損害を被った場合は、慰謝料が増額されることがあります。
- 職業の選択に制約を受けたり、転職・転業・廃業を余儀なくされたりした
- 高次脳機能障害により新しいことが記憶できなくなった
- 妊娠や出産ができない体になった
- 常時、他人の介護なしに生活できなくなった
- 死亡に匹敵するほどの精神的苦痛を被った
【自賠責基準】死亡慰謝料の計算方法
ここでは、自賠責基準を用いた死亡慰謝料の算定方法を解説します。
死亡した被害者本人と遺族に対する慰謝料が決まっている
自賠責基準では、以下のとおり、死亡した被害者本人と遺族に対する慰謝料が定められています。
被害者本人の慰謝料 |
400万円 |
---|---|
遺族の慰謝料 |
・慰謝料請求者が1人のとき 550万円 ・慰謝料請求者が2人のとき 650万円 ・慰謝料請求者が3人のとき 750万円 ※被害者に被扶養者(被害者に扶養されている配偶者・子・65歳以上の父母)がいる場合は、200万円が加算される。 ただし、被扶養者の人数の多寡で加算額は増減しない。 |
【弁護士基準】死亡障害慰謝料の計算方法
ここでは、弁護士基準を用いた死亡慰謝料の算定方法を解説します。
死亡した被害者本人の立場によって慰謝料が異なる
弁護士基準の死亡慰謝料の額は、以下のとおり、被害者本人の立場によって金額が異なります。
- 被害者が一家の支柱であった場合:2800万円
- 被害者が母親、配偶者であった場合:2500万円
- その他(独身の男女、子供、幼児等):2000万円~2500万円
弁護士基準の死亡慰謝料には、死亡被害者の近親者の慰謝料も含まれていますが、事案によっては、近親者固有の慰謝料が別途認められることもあります。
死亡慰謝料が増額されるケース
弁護士基準は、あくまでも標準的な事故の判例をもとにした基準です。
そのため、以下のような特別の事情がある場合には、別途慰謝料の増額を検討します。
- 加害者の起こした事故態様が悪質であった
- 事故後の加害者の態度が極めて不誠実であった
- 被害者の死亡によって精神的打撃を受けた近親者が精神疾患を発症した
過失割合に応じた慰謝料の計算方法
被害者にも過失が認められた場合、慰謝料は過失割合に応じて減額されます。
ここでは、以下のようなケースを想定して、過失割合に応じた慰謝料の額を計算します。
- 相手方が自分に請求する入通院慰謝料の額:73万円
- 自分が相手方に請求する入通院・後遺障害慰謝料の額:454万円
相手方:自分=10:0のケース
被害者に過失がない場合は、以下のとおり、相手方に請求した慰謝料を受け取れます。
相手方から支払ってもらえる金額 454万円×1=454万円 相手方に支払う金額 73万円×0=0円 <過失相殺の結果> 相手方側から、454万円-0円=454万円全額が受け取れる。 |
相手方:自分=9:1のケース
被害者に1割の過失が認められた場合の慰謝料の計算方法は、以下のとおりです。
相手方から支払ってもらえる金額 454万円×0.9=408万6,000円 相手方に支払う金額 73万円×0.1=7万3,000円 <過失相殺の結果> 相手方側から、408万6,000円-7万3,000円=401万3,000円が受け取れる。 |
相手方:自分=8:2のケース
被害者に2割の過失が認められた場合の慰謝料の計算方法は、以下のとおりです。
相手方から支払ってもらえる金額 454万円×0.8=363万2,000円 相手方に支払う金額 73万円×0.2=14万6,000円 <過失相殺の結果> 相手方側から、363万2,000円-14万6,000円=348万6,000円が受け取れる。 |
相手方:自分=7:3のケース
被害者に3割の過失が認められた場合の慰謝料の計算方法は、以下のとおりです。
相手方から支払ってもらえる金額 454万円×0.7=317万8,000円 相手方に支払う金額 73万円×0.3=21万9,000円 <過失相殺の結果> 相手方側から、317万8,000円-21万9,000円=295万9,000円が受け取れる。 |
相手方:自分=6:4のケース
被害者に4割の過失が認められた場合の慰謝料の計算方法は、以下のとおりです。
相手方から支払ってもらえる金額 454万円×0.6=272万4,000円 相手方に支払う金額 73万円×0.4=29万2,000円 <過失相殺の結果> 相手方側から、272万4,000円-29万2,000円=243万2,000円が受け取れる。 |
相手方:自分=5:5のケース
被害者に5割の過失が認められた場合の慰謝料の計算方法は、以下のとおりです。
相手方から支払ってもらえる金額 454万円×0.5=227万円 相手方に支払う金額 73万円×0.5=36万5,000円 <過失相殺の結果> 相手方側から、227万円-36万5,000円=190万5,000円が受け取れる。 |
まとめ
交通事故の慰謝料の額は、算定に用いる基準の種類だけでなく、事故態様や当事者の事情によっても異なります。
慰謝料の適正な金額が分からないまま、保険会社の提案を鵜呑みにすると、本来受け取れる慰謝料より低い金額で示談を成立させられる可能性もあります。
適正な慰謝料を獲得するために、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。