アルバイトでも労災の休業補償はもらえる|業務中・通勤中の交通事故

業務中や通勤中に交通事故にあった労働者は、労働者災害補償保険(以下、労災保険といいます。)の休業(補償)給付を受け取れます。

労災保険の適用労働者は正社員だけでなく、アルバイトやパート労働者も含まれます。

この記事では、アルバイト・パート労働者も受給できる労災保険の休業(補償)給付について、主に以下の点を解説します。

  • 休業(補償)給付の概要
  • アルバイト・パート労働者が受け取れる休業(補償)給付の額
  • 休業(補償)給付の請求方法

業務中・通勤中に交通事故に遭われたアルバイト・パート労働者の方は、ぜひご参考になさってください。

労災の休業(補償)給付はアルバイトでも受け取れる

ここでは、労災保険の休業(補償)給付について解説します。

休業(補償)給付とは

休業(補償)給付とは、業務災害または通勤災害による傷病の療養のために労働者が休業する期間について、休業中の所得を補填するために労災保険から支給される保険給付です。

業務上の事由により発生した災害(業務災害)と通勤中に発生した災害(通勤災害)により、保険給付の名称が以下のとおり異なります。

  • 業務災害の場合:休業補償給付
  • 通勤災害の場合:休業給付

通勤災害に関する保険給付の名称に補償という文字が使用されていないのは、通勤災害に関する保険給付が、労働基準法の使用者の災害補償責任に基づくものではないからです。

休業(補償)給付の支給要件

休業(補償)給付は、次の3つの要件を満たしている日に、労働者の請求に基づいて支給されます。

  • 労働者が業務上または通勤中の負傷や傷病により療養していること
  • 療養のため労働できない日であること
  • 労働できないために賃金を受けない日であること

休業(補償)給付の支給期間

休業(補償)給付は、労働できなくなり賃金を受けていない日の休業4日目から支給されます。休業(補償)給付の支給期間に上限はありません。支給要件を満たす休業日がある限り、負傷や傷病が治癒するまで支給されます。

ただし、療養開始後1年6か月経過した日または同日後において、以下のいずれにも該当する場合は、休業(補償)給付に代えて、傷病(補償)年金が支給されます。

  • 業務上または通勤中の負傷や疾病が治っていない
  • 傷病等級表の傷病等級に該当する程度の障害がある

休業3日までの休業補償はどうなるの?

業務災害の場合、休業の初日から3日目までの休業期間(これを待期期間といいます。)については、事業主に補償義務が課さられています。そのため、待機期間中は事業主から休業補償(1日につき平均賃金の60%)を受けられます。

通勤災害の場合は、事業主の補償義務がないため、待期期間中は休業補償を受けられません。

もっとも、事業主が恩恵的に休業補償を行うことを妨げるものではありません。

アルバイトの休業(補償)給付はいくらくらい?

ここでは、労災保険の休業(補償)給付の支給額について解説します。

給付基礎日額とは

労災保険の休業(補償)給付の額の算定の基礎には、給付基礎日額が用いられます。

【原則】労働基準法の平均賃金に相当する額

給付基礎日額とは、原則として、労働基準法第12条の平均賃金に相当する額です。

平均賃金は、以下のとおり算定します。

原則

平均賃金の原則的な算定方法は、以下のとおりです。

給付基礎日額を算定する場合の算定事由の発生した日とは、以下のいずれかの日です。

  • 業務上の事由または通勤による負傷の原因である事故が発生した日
  • 診断により業務上の事由または通勤による疾病の発生が確定した日
日給、時間給、出来高払制等の場合

時給制のアルバイト・パート労働者については、原則の計算式で平均賃金を算定すると低額になることが多いため、以下①または②の計算式で算出した額いずれか高い方を平均賃金とします。

【特例】政府が算定する額

労働基準法の平均賃金相当額を給付基礎日額とすることが適当でないと認められる場合は、例外的に政府が算定する額を給付基礎日額とします。

例えば、平均賃金の算定期間中に業務外の事由による傷病(私傷病)のために休業した期間がある場合は、以下のいずれか高い方の額を給付基礎日額とします。

  • 労働基準法の原則の平均賃金相当額
  • 平均賃金の算定期間の総日数と賃金の総額から、私傷病の療養のために休業した期間の日数とその期間中の賃金をそれぞれ控除して算定した平均賃金相当額

休業(補償)給付の額

賃金の全部を受けない日

賃金の全部を受けない日(全部労働不能の日)については、休業1日につき給付基礎日額の100分の60に相当する額が支払われます。

例えば、給付基礎日額が1万円の場合は、以下のとおり、休業1日につき6,000円の休業(補償給付)が支給されます。

1万円×100分の60=6,000円

平均賃金相当額が給付基礎日額の最低保障額(これを自動変更対象額といいます)に満たない場合は、自動変更対象額が給付基礎日額となります。

自動変更対象額は、平均給与額の変動に応じて厚生労働大臣が定めます。2022年8月1日から2023年7月31日までの自動変更対象額は、3,970円です。

なお、全部労働不能日について、事業主から平均賃金の6割以上の金額が支給された日は、賃金を受けない日にあたらないため、休業(補償)給付は支給されません。

賃金の一部を受ける日

所定労働時間の一部分のみについて労働する日または賃金が支払われる休暇(これを部分算定日といいます)については、以下の計算式で算出した金額が支払われます。

(給付基礎日額-部分算定日に対して支払われる賃金の額)×100分の60

例えば、給付基礎日額が1万円で、一部労働に対して支払われる賃金が4,000円の場合の休業(補償)給付の額は、以下のとおり3,600円となります。

(1万円-4,000円)×100分の60=3,600円

ただし、事業主が平均賃金と一部労働に対して支払われる賃金との差額の6割以上の金額を支払った場合は、賃金を受けない日にあたらないため、休業(補償)給付は支給されません。

例えば、給付基礎日額が1万円で、一部労働に対して支払われる賃金が4,000円の場合、その差額(6,000円)の6割以上(3,600円以上)の金額を事業主から受けた場合は、休業(補償)給付は支給されません。

休業特別給付金とは

休業特別給付金とは、休業(補償)給付の受給権者である労働者に対し、その申請に基づいて、保険給付に付加して支給される給付金です。

休業特別給付金の額

休業特別給付金は、休業1日につき休業給付基礎日額の100分の20に相当する額が支給されます。

休業(補償)給付を受ける労働者には、1日につき休業給付基礎日額の100分の60に相当する額が支給されるため、休業特別給付金と合わせると、事実上、給付基礎日額の100分の80に相当する給付が行われます。

アルバイトを掛け持ちしている場合の休業(補償)の額はどうなる?

ここでは、アルバイトを掛け持ちしている場合の休業(補償)給付について解説します。

複数事業労働者とは

アルバイトを掛け持ちしている場合など、事業主が同一でない2以上の事業に使用される労働者を複数事業労働者といいます。

複数事業労働者の基礎日額

従来、労働者が複数の事業主に使用されている場合は、業務災害や通勤災害が発生した事業場の賃金のみに基づいて給付基礎日額が算定されていました。

例えば、A社で月10万円の賃金、B社で5万円の賃金を受けている場合、B社で業務災害や通勤災害が発生すると、B社の賃金5万円のみに基づき給付基礎日額が算定されていたため、十分な生活保障を受けられませんでした。

しかし、労働者災害補償保険法が改正され、2020年9月1日以後は、複数事業労働者の給付基礎日額の算定の基礎となる賃金に、業務災害や通勤災害が発生した事業場等以外の事業場の賃金も含まれることとなりました。

つまり、アルバイトを掛け持ちしている場合は、勤務するすべての事業場の賃金を合算した額を基礎として給付基礎日額が計算されます。上記の例でいえば、A社・B社の賃金を合算した15万円をベースとした休業補償給付が支給されます。

アルバイトの休業(補償)給付の申請方法

ここでは、アルバイトの休業(補償)給付の申請方法について解説します。

請求書に必要事項を記入する

休業(補償)給付の請求書は、労働基準監督署で入手するか厚生労働省のホームページからダウンロードします。

請求書の様式は、業務災害の場合と通勤災害の場合とで、以下のとおり異なります。

  • 業務災害の場合:様式8号
  • 通勤災害の場合:様式16号の6

参考:休業(補償)等給付の請求手続|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

請求書は、原則として本人が記載します。怪我の程度がひどくて本人が書類を書けない場合は、家族が代筆しても問題ありません。

請求書には事業主が記載する箇所もあるので、ご自身での記入が難しい場合は、まずは勤務先に確認すると良いでしょう。

休業特別支給金の申請も忘れずに!

休業特別支給金の申請は、休業(補償)給付の請求と同時に行わなければなりません。

なお、業務中や通勤中の交通事故による負傷で休業している場合は、自賠責保険や加害者が加入する任意保険から保険金が支払われていることもあるでしょう。支払われた保険金の休業損害部分と労災保険の休業(補償)給付を二重に受け取ることはできませんが、休業特別給付金は他の給付と支給調整されないため受給できる可能性があります。

労災申請に先立ち自賠責保険を請求している場合や加害者加入の保険会社から保険金の支払いを受けている場合は、休業特別支給金の申請を忘れないようにしましょう。

交通事故による災害の場合は第三者行為災害届の提出も必要

第三者による行為が原因で引き起こされた災害を第三者行為災害といいます。業務中や通勤中に交通事故にあった場合、被災労働者は加害者である第三者に対しても、民法上の損害賠償を請求できます。

第三者からの損害賠償と労災保険給付の内訳が重複する場合は、二重補填となるため、どちらか一方からしか補償を受けられません。

第三者行為災害について休業(補償)給付を受けようとする場合は、必ず第三者行為災害届を所轄労働基準監督署に提出しなければなりません。

事業主の証明を受ける

休業(補償)給付請求書の記載事項のうち、以下の事項については事業主の証明が必要です。

  • 負傷または発症年月日
  • 療養のために労働できなかった期間
  • 賃金を受けなかった日の日数
  • 労働者の職種
  • 負傷または発病の時刻
  • 平均賃金
  • 所定労働時間
  • 休業(補償)給付額、休業特別支給金額の改定比率
  • 災害の原因、発生状況及び発生当日の就労・療養状況
  • 厚生年金保険等の受給関係

支店長等が事業主の代理人として選任されている場合は、当該支店長等の証明を受けます。

事業主が証明を拒否した場合は?

事業主は、労働者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、速やかに証明しなければなりません。

事業主が労災申請に非協力的で、事業主の記載欄に必要事項を記載しなかったり、事業主が証明すべき事項を証明しなかったりする場合は、どうすればよいのでしょうか?

事業主が証明してくれない場合でも、労働基準監督署は請求書を受理する対応をとっています。この場合、労働基準監督署は、事業主に対して証明拒否理由書を提出させて、客観的に判断します。

所轄労働基準監督署に申請書を提出する

休業(補償)給付請求書は、原則として労働者本人が勤務先を管轄する労働基準監督署に提出します。怪我の程度等により本人が提出できない場合は、家族が代行しても問題ありません。

まとめ

業務中または通勤中に交通事故に遭った場合、アルバイト・パート労働者も労災保険から休業(補償)給付を受けられます。

第三者による行為が原因で引き起こされた労災事故について、労災保険で補填されなかった部分は、当該第三者に対して損害賠償請求できます。

労災申請や損害賠償請求をご検討中の方は、ネクスパート法律事務所の無料相談をご利用ください。交通事故によって生じた損害について、適正な補償を受けられるよう全力でサポートします。

 

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