交通事故によるむちうちでは、治療を続けても症状が変わらず後遺症が残ってしまうことが多くあります。後遺症が残ると、日常生活にも支障をきたす場合があります。
しかし、単に後遺症が残ったからと言って必ず補償が受けられるわけではありません。
この記事では、むちうちの後遺症が残存した場合に行う後遺障害等級認定申請や後遺障害等級認定を受けた場合の賠償金についてご説明します。
目次
むちうち後遺症
後遺症とは、交通事故により受傷し、治療によって事故直後から一定期間あった強い症状が治癒した後も、症状や傷痕が残ることを言います。
むちうちの後遺症には、次の症状が挙げられます。
- 首の痛み
- 首が動かしにくい
- 肩こり
- 腰痛
- 頭痛
- 関節痛
- 手足のしびれ
- 慢性的な耳鳴りやめまい
- 強い倦怠感 など
後遺障害との違い
後遺症と似た言葉に「後遺障害」があります。
後遺障害とは、後遺症の症状のうち労働能力の喪失を伴うものをいいます。
具体的には、自動車損害賠償保障法施行令別表第一又は第二に該当するものが後遺障害と呼ばれます。
つまり、「後遺症」は、治療を続けても改善が見込めない症状全般を指すのに対し、「後遺障害」は、後遺症の中でも自動車損害賠償保障法施行令別表第一又は第二に該当する症状を指します。
後遺症が残っても後遺障害が認定されなければ賠償金はもらえない
医師から「後遺症が残ります」と言われたからといって必ずその賠償を受けられるわけではありません。
後遺障害の等級認定を受けなければ、後遺症に対する賠償金はもらえません。
一定期間治療を継続しても症状に改善がみられない場合は、後遺障害等級認定の申請手続をする必要があります。
後遺障害認定の要件
残った症状が後遺障害と認定されるには、次の要件を満たしていなければなりません。
- 症状が将来にわたって完治しないもしくは長期間回復が見込めない
- 症状と交通事故に因果関係がある
- その症状が労働能力の喪失を伴う
- 後遺症の存在が医学的に認められる
- 自賠責保険の後遺障害認定される
後遺障害等級認定には後遺障害診断書が重要
一定期間の治療を経て、医師によりこれ以上治療を継続しても症状が改善されない(症状固定)と判断されたら、「後遺障害診断書」を作成してもらいましょう。
後遺障害等級認定の申請手続には、後遺障害診断書が必須です。
後遺障害診断書作成時の注意点
医師であればだれに書いてもらってもよいというわけではありません。
原則として、通院していた医療機関の担当医に作成してもらう必要があります。
後遺障害等級認定の申請手続では、後遺障害診断書のほか、入通院時の診断書、レントゲンやMRIの検査結果なども審査の対象となり、受傷内容や治療経過、残存する症状に一貫性がなければ、認定が難しくなります。
また、後遺障害診断書には自覚症状を記載してもらう欄があります。
自覚症状は、被害者本人にしかわからず、その症状を具体的かつ正確に伝えることは、なかなか難しいものです。通院時から医師とのコミュニケーションを取り、適切な症状を記載してもらうことが重要です。
むちうち後遺症|認定
後遺障害の等級は、1級から14級まであり、等級に応じて慰謝料などが算出されます。等級数が小さいほど障害が重く、支払われる金額も高くなります。
ここでは、むちうちの後遺障害の等級認定について詳しくご説明します。
後遺障害等級の認定
後遺障害等級は、損害保険料率算出機構(自賠責調査事務所)が行います。
審査対象となる後遺障害診断書などの資料は、加害者の保険会社を通じて損害保険料率算出機構(自賠責調査事務所)に送られ、公正かつ中立の立場で審査されます。
認定結果が出るまで通常1ヶ月程度かかります。ただし、既存疾患や複数の症状が並存している場合など、より調査が必要となる事案の場合は1~3ヶ月程度かかります。
むちうちの後遺障害
むちうちの症状が後遺障害と認定される場合、該当する等級は次のいずれかが考えられます。
- 14級9号
- 12級13号
以下で具体的にご説明します。
14級9号
自動車損害賠償保障法施行令別表第二において、認定基準を「局部に神経症状を残すもの」とされています。
むちうちの症状で認定される可能性が最も高いのが14級9号です。
レントゲンやMRIなどの検査結果から損傷などの異常が見当たらない場合も、自覚症状を中心に、症状の経過や治療状況をみて判断されます。
次の条件が当てはまれば、14級に該当する可能性があります。
- 事故による衝突や衝撃が後遺障害の症状を発生する程度である
- 事故当初から医療機関への通院を継続している
- 受傷から症状固定まで自覚症状に連続性、一貫性がある
- 後遺障害診断書記載の自覚症状と検査結果に整合性がある
12級13号
自動車損害賠償保障法施行令別表第二において、認定基準は「局部に頑固な神経症状を残すもの」とされています。
むちうちの症状で、14級よりも重い場合に12級13号が該当します。
症状の内容は、14級の場合とあまり変わりませんが、12級が認められる場合は、MRIなどの画像から症状の原因となる異常が確認できなければならない点で大きく異なります。
次の要件に当てはまれば、12級に該当する可能性があります。
- 画像上で神経根や脊髄の圧迫が確認できる
- 圧迫されている神経の支配領域に神経学的異常所見がある
- ヘルニアなどの病変が事故による外傷で生じた
後遺障害等級認定の申請方法
後遺障害等級認定の申請手続には次の2つの方法があります。
- 事前認定
- 被害者請求
以下でご説明します。
事前認定
事前認定とは、加害者の任意保険会社に後遺障害等級認定の手続を一任する方法です。
事前認定の流れは次の図のとおりです。
次のようなメリットとデメリットがあります。
- メリット
申請書類の準備はすべて加害者の任意保険会社が行うため、被害者の負担が少ない。
- デメリット
1. 事務的に進められるため、期待した等級認定が得られない可能性がある。
2. 認定結果が出てもすぐに賠償金の支払いを受けることができず、示談交渉成立後一括での支払いとなる。
被害者請求
被害者請求とは、その名のとおり被害者において直接加害者の自賠責保険会社へ後遺障害等級認定の申請をする手続です。
被害者請求の流れは次の図のとおりです。
次のようなメリットとデメリットとがあります。
- メリット
1. 被害者自身が準備するので認定要件を満たすための主張立証の工夫ができ、結果として事前認定より良い等級を得られるケースがある。
2. 認定結果が出たら、自賠責保険の限度額分までであれば賠償金の先払いを受けることができる。
- デメリット
医療機関や役所に出向き被害者自身で申請書類を揃える必要があり、負担が大きい。
必要書類
事前認定の場合、被害者において準備しなければならないものは後遺障害診断書のみです。被害者請求の場合は、次の書類を準備しなければなりません。
- 後遺障害診断書
- 交通事故証明書(人身事故)
- 事故発生状況報告書
- 診断書
- 診療報酬明細書
- 施術証明書および施術費明細書
- 休業損害証明書
- 支払請求書(保険金・損害賠償額)
- 請求者本人の印鑑証明書
また、申請書類が損害保険料率算出機構に送られた後、同機構が直接医療機関へレントゲン画像やMRI画像を取り寄せたり、医療照会を行ったりすることがあります。
医療照会が行われる場合は、同機構から被害者に「同意書」の提出を求めます。
これは、照会先の医療機関に被害者から医療情報を開示することに同意を受けていることを示して医療照会に応じてもらうために必要となります。同意書の提出要請があった場合は速やかに対応しましょう。
認定結果に納得がいかない場合
認定結果が、後遺障害等級「非該当」であったり、予想していた等級より低い認定を受けたりなど、その認定結果に不服がある場合は、異議申立てができます。
異議申立ては何度でもできますが、認定結果から妥当な認定を受けるために不足していたと思われる情報を精査し、補充した上で臨む必要があります。
事前認定の場合
異議申立ての方法は、次の2つあります。
- 加害者の任意保険会社へ異議申立(事前認定での再審査)
- 加害者の自賠責保険会社へ異議申立(被害者請求での再申請)
被害者請求の場合
加害者の自賠責保険会社へ再申請を行います。
ただし、被害者請求の場合は、請求できる期間が症状固定日から3年以内と決められているため注意が必要です。
自賠責保険・共済紛争処理機構への申請
異議申立てを行っても認定結果に納得がいかない場合は、自賠責保険・共済紛争処理機構へ申請する方法があります。
同機構への申請は、保険会社への異議申立てと異なり1度だけとなっています。
参考:紛争処理制度|一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構
むちうち後遺症|慰謝料
むちうちで後遺障害の等級認定が得られれば、むちうちにより通院した費用や入通院慰謝料に加えてさらに賠償金が多く支払われます。その金額は等級に応じて決められています。
ここでは、後遺障害の認定を得た場合に請求できる賠償金についてご説明します。
後遺障害認定で請求できる賠償金
後遺障害の認定が得られると賠償金として次の2つが請求できます。
- 後遺症慰謝料
- 後遺障害逸失利益
後遺症慰謝料
後遺障害の等級認定が得られると、後遺症による精神的苦痛に対する慰謝料の請求が可能です。
後遺症慰謝料の算定には次の3つの基準があります。
- 自賠責基準
- 任意保険基準
- 弁護士(裁判)基準
後遺症慰謝料は、示談交渉などにより、「任意保険基準」または「弁護士基準」のいずれかの基準で金額が決まります。そのうち自賠責基準の金額を自賠責保険会社が負担し、残った部分を任意保険会社が負担します。
任意保険基準は、自賠責基準を上回るものの、弁護士基準と比べると少額となります。各保険会社により異なるため、ここでは自賠責基準と弁護士基準の具体的な金額をお伝えします。
14級の場合の後遺症慰謝料額
12級の場合の後遺症慰謝料額
後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益とは、後遺症が残ってしまったことにより労働能力が低下したために失われてしまった将来得られるはずだった利益のことです。
後遺障害の認定が得られると後遺障害逸失利益が請求できます。
後遺障害逸失利益の算出方法
逸失利益の算定は、労働能力の低下の程度、収入の変化、将来の昇進・転職・失業などの不利益の可能性、日常生活上の不便などを考慮して算出されます。
算出には、次の3つの数値を確定する必要があります。
- 基礎収入
- 労働能力喪失率
- 喪失期間に対するライプニッツ係数
それぞれの数値についてご説明します。
基礎収入
基礎収入は、被害者が交通事故に遭った時点で、どのような職業に就いていて、年収がどれだけあったかをもとに算出します。現実の収入額より賃金センサスの平均賃金の方が上回る場合、将来、平均賃金程度の収入を得られる蓋然性があれば平均賃金を基礎収入とすることができます。
主婦や主夫の家事従事者も補償の対象です。
家事従事者の場合は、賃金センサスのうち女性の学歴計、年齢計の年収額を用います。
令和2年のデータによると、平均年収額381万9200円です。
また、学生や児童、幼児なども賃金センサスを用いて算出します。
令和2年のデータによると、平均年収額487万2900円です。
なお、賃金センサスとは、毎年実施されている政府の「賃金構造基本統計調査」の結果に基づき、労働者の性別、年齢、学歴等の別に、その平均収入をまとめた資料のことです。
参考:令和2年賃金構造基本統計調査 結果の概況|厚生労働省、統計で見る日本|e-Stat
労働能力喪失率
労働能力喪失率とは、その後遺症がどの程度能力を失わせかをパーセントで表したものです。
むちうちによる具体的な数値は次のとおりです。
ただし、実際の収入の低下、仕事への影響や職業の特殊性などが考慮され、数値が前後する場合もあります。
労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
労働能力喪失期間は、後遺症が残ったことで労働能力が低下し、事故以前のように働けなくなった期間を指します。
むちうちによる後遺症の場合、何年後かには症状が消失する、症状になれるなどの事情が考慮され、12級で最長10年、14級で最長5年と考えられています。
ライプニッツ係数とは、中間利息を控除するために用いる数値です。
本来収入は月毎などで得ますが、逸失利益を受け取る場合、何年か分をまとめて得ることになります。まとまったお金を得ることで、預金の利息や資金運用による利益につながると考えられるため中間利息を控除します。
労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数(2020年4月1日以降発生の事故に適用されるもの)の具体的な数値は次のとおりです。
実際の後遺障害逸失利益の計算
具体的な算定式は次のとおりです。
例えば、年収600万円の被害者が、むちうちと診断され、後遺障害14級9号と認定された場合の後遺障害逸失利益は以下の計算となります。
よって、後遺障害14級9号と認定されると、認められなかった場合に比べて最大で247万3910円も多く賠償金が得られることになります。
まとめ
むちうちの後遺症は、レントゲンやMRIなどの検査結果から損傷などの異常が見当たらないことが多く、後遺障害等級の認定を得ることが難しくなっています。
しかし、認定を受ければ、受け取る賠償金がかなり大きくなります。
交通事故でむちうちになり、後遺症が残った場合、弁護士に依頼することで以下のようなメリットがあります。
- 弁護士基準での解決ができる
- 後遺障害等級認定申請(被害者請求)の手続の負担がなくなる(弁護士に一任できる)
- 認定された後遺障害等級が適切であるか判断できる
- 後遺障害等級の認定結果に納得がいかない場合に異議申立手続の負担がなくなる(弁護士に一任できる)
納得のいく解決を得るためにも、なるべく早い時点で弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。