交通事故に関する紛争の解決手段には、以下のとおり複数の選択肢があります。
- 示談交渉
- 民事調停
- ADR(裁判外紛争解決手続)
- 裁判(民事訴訟)
交通事故に関する紛争は、まず示談交渉による解決が試みられます。
示談交渉が決裂した場合でも、すぐに裁判を起こすのではなく、民事調停やADR(裁判外紛争解決手続)を利用するケースが多いです。
交通事故で民事裁判を起こすのは、具体的にどのようなケースなのでしょうか。
裁判はどのように進められるのでしょうか?
この記事では、交通事故裁判の流れ・期間や裁判を視野に入れるケースについて解説します。
目次
交通事故の民事裁判の流れと期間
ここでは、交通事故の民事裁判の流れと期間について解説します。
交通事故の裁判の流れ
交通事故の裁判の流れは、概ね以下のとおりです。
訴状の提出
管轄の裁判所に訴状および証拠書類を提出します。
交通事故損害賠償請求の訴えは、以下のいずれかの裁判所に提起します。
- 被告の住所地(法人の場合は主たる営業所等)を管轄する裁判所
- 損害賠償債務等の義務履行地である債権者(被害者等)の住所地を管轄する裁判所
- 不法行為地(交通事故が発生した地)を管轄する裁判所
交通事故の当事者双方に代理人がついて示談交渉が先行している場合には、代理人間で管轄合意がなされることもあります。この場合は、双方の代理人事務所が所在する地の裁判所を管轄とすることも認められます。
訴額が140万円を超えない請求は簡易裁判所に、それを超える請求は地方裁判所の管轄となります。
訴状には、請求の趣旨及び原因のほか、請求を理由づける事実も具体的に記載します。
答弁書の提出
提出した訴状に不備がなければ、裁判所が第一回口頭弁論期日を指定し、被告宛てに訴状および証拠書類を送達します。
被告は、第一回口頭弁論期日までに訴状に記載された事実関係の認否や事実・法律問題に関する主張を述べた答弁書を裁判所に提出します。
口頭弁論
口頭弁論とは、原告と被告が裁判官の面前で互いに証拠を出し合って事実上・法律上の問題を争い、双方の主張を述べる手続きです。
被告は、第一回口頭弁論期日に限り、答弁書の提出により口頭で陳述したものとみなされるため、欠席するケースが多いです。この場合、第一回口頭弁論期日は、原告のみの出席で進行します。
第1回口頭弁論期日以降は、概ね1か月〜1か月半ごとに口頭弁論期日ないし弁論準備期日が指定されます。
各期日において、原告および被告が交互にその主張を記載した準備書面を提出・陳述し、証拠を補充します。
双方の主張が尽くされ、争点が整理された段階で、和議協議(和解の話し合い)や当事者尋問・証人尋問の実施の要否が検討されます。
裁判所からの和解案の提示
交通事故裁判では、双方の主張が尽くされた段階あるいは証人尋問・当事者尋問が終わった段階で、裁判官から和解案を提示されることが多くあります。
当事者が和解を希望する場合にも和議協議が行われることがあります。
和議協議は、多くの場合、裁判官が原告および被告と交互に意見交換をする方式がとられます。原告側から和解の意向や条件について話を聞き、次いで被告側からも同じように話を聞きくことを繰り返す方式です。
当事者双方が和解の条件に合意できれば和解成立となり、裁判所がその内容を記載した和解調書を作成します。
証人尋問・当事者尋問
和解の見込みがない場合には、審理手続きが続行されます。
当事者双方あるいは一方が尋問の実施を申し出て、裁判所がその必要性を認めた場合には、証拠調期日が指定され尋問が実施されます。
判決
尋問が実施された後は、その期日か次の期日において弁論が終結され、判決言渡期日が指定されます。
判決は法廷で言い渡されますが、民事事件の場合は当事者が判決期日に出席しないことがほとんどです。判決の内容は、その後に受け取る判決書で確認できます。
交通事故の裁判にかかる一般的な期間
交通事故の民事裁判の平均審理期間は13.3か月ですが、半数以上が1年以内に審理を終結しています。
裁判所が公表している裁判の迅速化に係る検証に関する報告書によると、令和2年に終局した交通事故の民事裁判にかかる審理期間ごとの割合は下表のとおりです。
審理期間 |
割合 |
6か月以内 |
16.7% |
6か月以上1年以内 |
39.1% |
1年以上2年以内 |
36.7% |
2年以上3年以内 |
6.0% |
3年以上5年以内 |
1.4% |
5年以上 |
0.1% |
交通事故の裁判にかかる費用はいくらくらい?
ここでは、交通事故の裁判にかかる費用の相場を紹介します。
裁判所の費用
裁判所に納める訴訟費用の内訳は、以下のとおりです。
- 手数料
- 予納郵券
- その他
手数料
訴えの提起には、手数料の納付が必要です。手数料は、収入印紙を訴状に貼付して納付します。
手数料は、訴額(請求額)に応じて以下のように定められています。
訴額(請求額) |
手数料 |
100万円までの部分 |
10万円ごとに1,000円 |
100万円を超え500万円までの部分 |
20万円ごとに1,000円 |
500万円を超え1,000万円までの部分 |
50万円ごとに2,000円 |
1,000万円を超え10億円までの部分 |
100万円ごとに3,000円 |
10億円を超え50億円までの部分 |
500万円ごとに1万円 |
50億円を超える部分 |
1,000万円ごとに1万円 |
例えば、訴額(請求額)が1,500万円の場合、上記の割合で計算すると、手数料は以下のとおり65,000円です。
100万円までの部分:1,000円×10=1万円 100万円を超え500万円までの部分:1,000円×20=2万円 500万円を超え1,000万円までの部分:2,000円×10=2万円 1,000万円を超え1,500万円までの部分:3,000円×5=1万5,000円 合計65,000円 |
裁判所のホームページに掲載されている手数料額早見表を確認すれば、上記計算を省略して手数料の額を導き出せます。
予納郵券
予納郵券とは、裁判所が書類の送達に使うための郵送料です。
郵便切手か現金(窓口納付・銀行振り込み・電子納付)で納めます。
予納郵券の額は裁判所によって異なりますが、目安は以下のとおりです。
- 被告が1名の場合は5,000円〜6,000円程度
- 被告が1名増えるごとに2,000円程度ずつ加算
その他
その他、訴訟の進行に必要な費用として、以下の費用がかかることがあります。
- 当事者または代理人の期日出頭旅費・日当等
- 証人の期日出頭旅費・日当等
- 書類の作成及び提出の費用
- 鑑定料(鑑定が行われる場合)
- 裁判所書記官が保管する記録の閲覧・謄写等の手数料
弁護士費用
交通事故裁判の弁護士費用の相場は、以下のとおりです。
費目 |
金額の目安 |
相談料 |
30分5,000円~1万円程度 |
着手金 |
経済的利益の額が ・300万円以下の場合・・・経済的利益の8% ・300万円を超え3,000万円以下の場合・・・経済的利益の5%+9万円 ・3,000万円を超え3億円以下の場合・・・経済的利益の3%+69万円 ・3億円を超える場合・・・経済的利益の2%+369万円 |
報酬金
|
経済的利益の額が ・300万円以下の場合・・・経済的利益の16% ・300万円を超え3,000万円以下の場合・・・経済的利益の10%+18万円 ・3,000万円を超え3億円以下の場合・・・経済的利益の6%+138万円 ・3億円を超える場合・・・経済的利益の4%+738万円 |
実費 |
数千円~数万円程度 |
日当 |
1日あたり3万~10万円程度 |
弁護士費用の額は法律事務所によって異なるので、依頼する弁護士に事前に確認しましょう。
交通事故の慰謝料は裁判の方が示談交渉より高くなる?
ここでは、交通事故の慰謝料は裁判の方が示談交渉より高くなるかどうかについて解説します。
裁判では最も高い慰謝料算定基準が用いられる
交通事故の慰謝料算定基準には、次の3つの基準があります。
- 自賠責基準:自賠責保険の算定に利用する基準
- 任意保険基準:各保険会社が独自に定める基準
- 弁護士(裁判)基準:過去の判例を基に設定された基準
交通事故裁判実務では、慰謝料の算定においてある程度統一的に処理する必要性から、基準額が決められています。この基準は過去の標準的な裁判を基に設定された基準で、弁護士も示談交渉時に用いる基準です。裁判実務や弁護士が用いる基準であることから、弁護士(裁判)基準と呼ばれています。
弁護士(裁判)基準は、慰謝料算定の3つの基準の中で最も高い水準です。
示談交渉では、加害者側の保険会社が独自に定めた基準で慰謝料を算定するため、弁護士(裁判)基準よりも低い金額の慰謝料が提示されることが多いです。任意保険基準はあくまで示談交渉時の基準なので、裁判で損害が認定されれば、加入保険金を上限として全額の支払いを受けられる可能性があります。
基準以上の慰謝料が認められることもある
本来、慰謝料は精神的損害の大きさによって決まるものであるため、慰謝料算定にあたっては、以下の一切の事情が考慮されます。
- 被害者が被った損害の内容・程度
- 当事者の過失行為の内容・程度
- 被害者の年齢、職業、収入、家族関係等
慰謝料を増額すべき特段の事情がある場合には、裁判官の裁量的判断により基準以上の慰謝料が認められることもあります。
慰謝料の増額を考慮されるケースは、以下のような場合です。
- 事故による怪我で生死が危ぶまれる状態が継続した
- 複数回の手術で大きな苦痛を受けた
- 被害者が妊婦で事故により胎児を死産・流産した
- 事故後の後遺障害により職業選択の制約や転職を余儀なくされた
- 事故後の後遺障害により将来の身体状況や受胎能力に影響を受けた
- 加害者に飲酒運転、無免許運転、ひき逃げ等の重過失があった
- 外貌醜状等の損害額の算定が不可能または困難な損害の発生が認められる
- 被害者の遺族が被害者の死亡によるショックで精神疾患を発症した
交通事故裁判で裁判官が提示する和解案は判決よりも低水準になる?
ここでは、交通事故裁判で裁判官が提示する和解案は判決よりも低水準になるかどうかについて解説します。
和解案では弁護士費用を計上しないのが通例
紛争の早期解決の趣旨から、和解にあたっては弁護士費用を計上しないのが一般的です。
判決では弁護士費用として認容額の10%程度が認められることがあるので、判決の場合に比べて被告から支払われる損害賠償金の額が低くなる可能性はあります。
ただし、和解案を蹴って時間と費用をかけて裁判を続けた場合に、和解案よりも有利な判決が得られるとは限らないため、和解案が判決よりも低水準になるとは一概には言えません。
遅延損害金の一部が調整金として計上されるのが多い
和解では、紛争の早期解決の趣旨から遅延損害金も計上しないのが原則ですが、和解内容が判決に近いものになっていることもあります。交通事故裁判では、被害者保護の観点から遅延損害金の一部を調整金として計上して和解案が提示されることが多いようです。
交通事故裁判の多くが和解により解決している
交通事故裁判では、多くが和解により解決しています。
裁判所から和解案が提示される際には、損害項目ごとに簡単な説明がなされることが多く、裁判官の心証もある程度開示されることから、当事者の納得が得られやすい傾向があります。
交通事故の裁判が長引くのはどんなケース?
ここでは、交通事故の裁判が長引くケースを紹介します。
過失割合に争いがある
当事者間で過失割合の主張に争いがあると、裁判が長引く傾向があります。
裁判実務では、以下の書籍に記載された基準を基礎とし、個別の事情に応じて過失割合を増減させて判断するのが一般的です。
- 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(別冊判例タイムズ38号)
- 民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(通称:赤い本)
しかし、これらの書籍に記載のない事案では、双方が過失割合を巡って争いになることも多くあります。
過失割合は、損害賠償金の額に大きな影響を及ぼす要素であるため、双方の意見が対立すると裁判が長引く可能性があります。
被害者に重篤な後遺障害が残った
交通事故裁判では、後遺障害の内容や労働能力喪失率については、当時者のいずれからも異論がない限り、損害保険料率算出機構(自賠責損害調査事務所)の認定と同様の判断がされることが多いです。
しかし、外貌醜状等のように後遺障害の内容と労働能力喪失率が必ずしも結び付かないケースや、被害者の職業によっては後遺障害等級認定よりも重い労働能力喪失率を算定されるケースもあります。
被害者に後遺障害が残る場合には損害賠償金が高額になる傾向があるため、後遺障害等級そのものが争われることや、後遺障害等級を認めつつも労働能力喪失が争われることもあります。
この場合、後遺障害等級の認定結果だけでなく、医療機関等に対する文書送付嘱託等が必要になることもあるため裁判が長引く可能性があります。
被害者が死亡した
死亡事故の場合は、被害者の遺族(相続人)が原告となります。
遺族の気持ちの整理に時間を要する場合や加害者への処罰感情が強い場合は、裁判が長引く可能性があります。
鑑定または鑑定の嘱託が実施された
民事訴訟法には、鑑定および鑑定の嘱託という制度が用意されています。交通事故裁判においては、官公署のほかNPO法人に鑑定を嘱託することがあります。
鑑定および鑑定の嘱託には、相当程度の時間と費用がかかります。
鑑定または鑑定の嘱託が実施された場合の平均審理期間は34.5か月と、鑑定が実施されない場合に比べて3倍近い時間がかかります。
なお、裁判所が公表している裁判の迅速化に係る検証に関する報告書によると、令和2年に終局した交通事故裁判14,506件のうち0.4%(65件)の事件で鑑定が実施されています。
交通事故で裁判を視野に入れるのはどんなとき?
ここでは、交通事故で裁判を視野に入れるのはどんなケースかについて解説します。
示談交渉で解決できる見込みがない
当事者双方の言い分に極端な違いがあり、当初から示談交渉で解決見込みがない場合は、訴訟を含めた示談交渉以外の解決手段を検討します。
当初は示談交渉により解決できる見込みがあっても、途中で状況が変わって交渉が暗礁に乗り上げることもあります。そのような場合は、無理に交渉を続けるよりも裁判での解決を図った方が良いケースもあります。
民事調停・ADRで解決できなかった
民事調停・ADRにより話し合いを試みても、損害額や過失割合についてどうしても折り合えないこともあります。
そのような場合は、訴訟を選択することになります。
時効が迫っている
交通事故に基づく被害者の損害賠償請求権は、損害および加害者を知った日の翌日から原則3年あるいは5年で時効により消滅します。
裁判上の請求や民事調停の申立ては、これらの手続きが終了するまで時効の完成が猶予されるため、時効が迫っている場合には、裁判を起こすことで時効の進行をストップできます。
確定判決や裁判上の和解があった場合は時効期間がリセット(更新)され、確定された権利の時効期間が10年に延びます。
賠償額が高額な場合
損害額が高額な場合も、裁判を視野に入れるケースの一つです。
裁判を起こさなくても、示談交渉を弁護士に依頼すれば、弁護士(裁判)基準に近い損害賠償金を受け取れることも少なくありません。
ただし、損害額が高額に及ぶ場合には、1割程度の減額に応じるだけでも数百万円の差が出ることがあります。
裁判なら、弁護士(裁判)基準の金額が満額認められ、かつ、遅延損害金が上乗せされる可能性があります。
まとめ|交通事故の裁判は弁護士への依頼がおすすめ!
交通事故に関する紛争の多くは、示談交渉によって解決されています。
しかし、当事者間で損害額や過失割合に関する主張に対立があると、示談交渉や民事調停等の話し合いによる解決が困難になることもあります。
裁判を起こすかどうかは、裁判にかかる費用やリスク等を勘案して慎重に判断しなければなりません。やみくもに裁判を起こすと、期待する結果を得られないこともあります。
弁護士であれば、争点になると予想される事項や裁判をした場合の見通しを立てられます。
示談交渉に弁護士を立てることで、裁判した場合と遜色のない結果が得られる可能性もあります。
交通事故の示談交渉にお悩みの方や裁判をお考えの方は、ぜひ一度ネクスパート法律事務所にご相談ください。
交通事故裁判・交渉に詳しい弁護士が、個々の事情に応じた適切な解決方法をご提案します。