交通事故で負った怪我や病気の治療に使用できる保険には、加害者が加入する自賠責保険や任意保険、被害者が加入する健康保険があります。
仕事中や通勤中に交通事故に遭った場合、その交通事故が業務災害や通勤災害に該当すれば、第三者行為災害として労災保険給付を受けられます。
交通事故の被害に遭った際には、事故の状況等を踏まえ、これらの保険の中から使用するものを選択できます。
この記事では、交通事故で労災保険を使うメリット・デメリットや労災保険の利用上の注意点を解説します。
目次
交通事故で労災は使わないほうがいい?|労災を使うメリット・デメリット
ここでは、交通事故で労災保険を使うメリット・デメリットを紹介します。
労災を使うメリット
治療費の支払いを打ち切られる心配がない
労災保険には、治療費に相当するものとして、療養(補償)給付があります。
療養(補償)給付には、療養の給付と療養の費用の支給があります。
療養の給付 |
労災指定医療機関および労災病院において治療を受けた場合、その費用を国(政府)が療養を行った医療機関に直接支払う現物給付 |
療養の費用の支給 |
以下のような理由により、労災指定医療機関および労災病院以外の医療機関で治療を受けた場合に、被災労働者が立替えた治療費を償還する現金給付 ・緊急に診療を受けなければならず、最寄りの労災指定医療機関および労災病院以外の医療機関で治療を受けた ・治療に特殊な医療技術や設備を必要とするが、最寄りに条件を満たす労災指定医療機関や労災病院がなかった ・会社の所在地や居住地に労災指定医療機関や労災病院がなかった |
療養(補償)給付は、傷病の治ゆにより療養(治療)の必要がなくなるまで支給されます。
加害者が加入する任意保険を利用すると、保険会社から一方的に治療打ち切りの宣告を受けることがありますが、労災保険を利用すればそのような心配はありません。
怪我や病気が治る(あるいは症状が固定する)まで安心して治療を受けられます。
過失相殺による減額がない
交通事故の被害者にも過失があり、被害者の過失が事故の発生や損害の拡大に寄与している場合に、公平の観点から損害賠償額を減額することを過失相殺といいます。
自賠責保険では被害者の過失が7割未満であれば減額されませんが、加害者が加入する任意保険では双方が合意した過失割合に応じて損害賠償額が減額されます。
労災保険では被害者に過失があっても減額されず、各保険給付の支給要件を満たす限り全額支給されます。
加害者が無保険でも補償を受けられる
加害者が自賠責保険や任意保険に加入していれば、被害者は、加害者側の保険会社から賠償を受けることで事故による損害を回復できます。しかし、加害者が無保険で資力もない場合には、被害者は事故により被った損害について十分な補償を受けられないことがあります。
労災保険では、加害者の保険加入の有無に関わらず補償を受けられるため、加害者が無保険でも、労災保険の保険給付を受けることで事故による損害を回復できます。
特別支給金が受け取れる
労災保険には、保険給付に付加して支給される特別支給金があります。
特別支給金は、以下の保険給付の受給権者である被災労働者または遺族に対し、その申請に基づき支給されます。
- 休業(補償)給付
- 傷病(補償)年金
- 障害(補償)年金
- 障害(補償)一時金
- 障害(補償)年金差額一時金
- 遺族(補償)年金
- 遺族(補償)一時金
特別支給金の支給額は、以下のとおりです。
保険給付 |
特別支給金 |
|
一般の特別支給金 |
ボーナス特別支給金 |
|
休業(補償)給付 |
休業給付日額の100分の20 |
― |
傷病(補償)年金 |
第1級~第3級まで114万円~100万円を一時金として支給 |
第1級~第3級まで算定基礎日額の313日分~245日分の年金を支給 |
障害(補償)年金 |
第1級~第7級まで342万円~159万円を一時金として支給 |
第1級~第7級まで算定基礎日額の313日分~131日分の年金を支給 |
障害(補償)一時金 |
第8級~第14級まで65万円~8万円を一時金として支給 |
第8級~第14級まで算定基礎日額の503日分~56日分の年金を支給 |
障害(補償)年金差額一時金 |
― |
第1級から第7級まで算定基礎日額の1,340日分~56日分の額から、既に支給された障害特別年金の額を控除した額 |
遺族(補償)年金 |
300万円を一時金として支給 |
遺族数に応じ、算定基礎日額の245日~153日分の年金を支給 |
遺族(補償)一時金 |
300万円を一時金として支給 |
算定基礎日額の1,000日分から遺族特別年金の額の合計額を控除した額 |
特別支給金は損害のてん補を目的とするものではないため、損益相殺の対象となりません。つまり、特別支給金として受け取った金額は、加害者に請求する損害賠償金から差し引かれません。
労災を使うデメリット
労災保険からは慰謝料が支払われない
労災保険の補償内容には、事故により被害者が被った精神的損害に対する慰謝料が含まれていません。
慰謝料のほか、物的損害(車両の修理費等)も労災保険の補償対象外です。
療養(補償)給付を除く労災保険の各保険給付は支給額が定額化されているため、被害者が被った損害の全部が補てんされるわけではありません。
健康保険は併用できない
健康保険は、労働者の業務外の事由による疾病、負傷もしくは死亡または出産およびその被扶養者の疾病、負傷、死亡または出産に関して保険給付を行うものです。
交通事故などの第三者行為による場合でも健康保険を利用できます。
しかし、労災保険の給付を受けられる場合には、健康保険の給付は行われません。
交通事故で労災保険から支払われない慰謝料は加害者に請求できる?
ここでは、労災保険による補償対象外の損害を加害者に賠償請求できるかどうかについて解説します。
慰謝料は加害者側に請求できる
交通事故により被害者に生じた精神的損害は、慰謝料として加害者に請求できます。
慰謝料には、以下の3つの種類があります。
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 死亡慰謝料
加害者が任意保険に加入している場合は、事故による損害の確定後、加害者側の保険会社に請求します。
慰謝料以外の不足部分も加害者に請求できる
慰謝料のほか、労災保険では補償を受けられない物的損害も加害者側に請求できます。
労災保険では全額カバーできない損害部分も加害者側に請求できます。
具体的には、事故により生じた損害の賠償金を費目ごとに算定し、それに対応する労災保険から支給された費目を控除した残額を請求します。
労災保険給付の費目と損害賠償の費目の対応関係は、以下のとおりです。
労災保険給付の費目 |
損害賠償の費目 |
療養(補償)給付 |
治療費(ただし、入院雑費や通院交通費への充当を認める裁判例も多い。) |
休業(補償)給付、傷病(補償)年金 |
休業損害 |
障害(補償)給付 |
後遺障害による逸失利益 |
介護(補償)給付 |
将来介護費 |
遺族(補償)給付 |
死亡による逸失利益 |
葬祭料・葬祭給付 |
葬儀費用 |
交通事故で労災保険から休業補償を受けていても加害者に請求できる?
ここでは、交通事故で労災保険から休業(補償)給付を受けていても加害者に休業損害を請求できるかについて解説します。
労災保険の休業補償は最大80%
労災保険の休業(補償)給付の額は、休業1日につき給付基礎日額(労働基準法第12条の平均賃金に相当する額)の60%です。休業特別支給金の額は休業1日につき給付基礎日額の20%なので、労災保険から受けられる休業補償は合計で80%です。
ただし、休業の初日から 3 日目(この間を「待期期間」といいます。)までは労災保険から休業補償を受けられません。
不足分は加害者に請求できる
休業損害は、事故前の収入を基礎とする現実の収入源を補償するものであり、休業以外の遅刻・早退・労働能力低下により生じた減収も含まれます。
休業損害の一般的な算定方法は、以下のとおりです。
休業損害=基礎収入×休業期間 |
基礎収入は、被害者の職業等によって、下表のとおり異なります。
被害者の職業 |
基礎収入 |
給与所得者 |
以下のいずれかを基礎収入とする。 ①事故前3か月の平均給与を基礎とする ②年間給与・年収を基礎とする |
日雇労働者 非常勤日給者 |
以下の計算式で求めた額を基礎収入とする。 {(日給×過去3か月分の就業日数)÷90日}×休業日数 |
事業所得者 |
得られたはずの収入(売上額)から、これを得るために必要としたはずの原価と経費(主に流動経費)を控除した額を基礎収入とする。 売上額や原価・経費は休業前の実績の平均的数値に基づいて判断する。 |
家事従事者 |
原則として、賃金センサス第1巻第1表産業計・企業規模計・学歴計・女性労働者の全年齢平均賃金を基礎収入とする。 |
無職者 |
事故前に現に収入を得ていない者に対しては、原則として休業損害が認められない。 ただし、治療が長期にわたる場合で、事故がなければ治療期間中に就職する蓋然性が高いときは、休業損害が認められる。 この場合、失業前の現実収入の額や予想される将来の職業等を参考に、基礎収入を算定する。 |
上記算定式で求めた休業損害の額から、労災保険から支払われた休業(補償)給付を差し引いた残額を加害者に請求できます。
休業特別支給金は損益相殺の対象とならないため、加害者への請求額から差し引く必要はありません。
したがって、労災保険から休業(補償)給付(60%)と休業特別支給金(20%)の支給を受け、休業(補償)給付で補てんされなかった休業損害部分(40%)を加害者に請求すると、休業1日につき最大で平均賃金相当額の120%を受け取れる可能性があります。
待期期間中の休業損害については、業務災害の場合は事業主から1日につき平均賃金の60%に相当する額の休業補償を受けられるので、その残額を加害者に請求できます。
通勤災害の場合は、待期期間中の休業損害は全額加害者に請求できます。
もっとも、事業主が恩恵的に賃金を全額補償した部分については、重複して加害者側に請求できません。
交通事故で労災保険を使う際の注意点
ここでは、交通事故で労災保険を利用する際の注意点を解説します。
損害賠償や自賠責保険との調整
労災保険への保険給付の請求と損害賠償または自賠責保険への請求は、いずれを先行しても構いません。損害が重複しててん補されないように調整が図られています。
労災保険への請求を先行した場合には、その保険給付の価額の限度で、加害者に対する損害賠償請求権または保険会社に対する損害賠償額の支払請求権を国(政府)が取得します。
損害賠償または自賠責保険への請求を先行した場合は、それが労災保険給付と同一事由のものの場合には、損害賠償の価額を控除した保険給付が受けられます。
損害賠償の価額が本来の労災保険給付の額を超えれば、労災保険の保険給付は行われません。
示談と労災保険の保険給付の関係
加害者に対して有する損害賠償請求権の全部をてん補する目的の示談が成立すると、労災保険の保険給付は行われません。
まとめ|交通事故の労災請求・損害賠償請求は弁護士に相談を!
交通事故で労災保険の保険給付を受けるためには、業務災害または通勤災害の条件に該当することが必要です。
労災保険を使えば、治療費の自己負担が不要で限度額もないため、費用面や加害者側の保険会社からの打ち切り宣告を気にせず治療に専念できます。
労災保険でカバーされない損害部分については、交通事故の加害者または加害者側の保険会社に賠償を請求できます。
弁護士に相談すれば、労災保険の給付漏れを防ぎ、適正な金額を加害者に請求できます。
仕事中や通勤中に交通事故に遭われた方は、ぜひ一度ネクスパート法律事務所にご相談ください。