交通事故で示談しないリスクと他の選択肢を被害者・加害者別に解説

交通事故の示談交渉では、相手方の対応・提案への不満や相手方に対する処罰感情などから示談しない選択肢を検討する方もいらっしゃるでしょう。

示談交渉に応じない場合やどのようなリスクがあるのでしょうか?

示談交渉が決裂した場合は、その後どのように紛争を解決できるのでしょうか?

この記事では、交通事故で示談しないリスクや示談交渉以外の解決方法を解説します。

交通事故で示談しないリスク|被害者側

ここでは、交通事故の被害者が示談しないリスクを解説します。

損害賠償金を受け取るまでに時間がかかる

交通事故における示談とは、裁判外で当事者間が損害賠償金や過失割合などについて話し合い、双方の合意により解決することです。

示談しなければ加害者が被害者に支払うべき賠償額が確定しないため、被害者は示談金を受け取れません。

交通事故の紛争解決には示談交渉以外の方法もありますが、訴訟等に移行すると最終的な解決までに相当な時間がかかる可能性があります。解決までの期間が長引けば長引くほど、損害賠償金の支払い時期も遅くなります。

交通事故の示談金の相場はいくら?内訳や計算方法を詳しく解説!

時効が成立すると損害賠償金を受け取れなくなる

示談を拒否した場合だけでなく示談交渉があまりに長引いてしまうと、時効により損害賠償請求権が消滅するおそれもあります。

交通事故の被害者が有する損害賠償請求権は、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権を根拠としています。

民法は、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効を以下のとおり規定しています。

 

時効

起算日

物損事故

3年

事故発生日の翌日

人身事故(傷害のみ)

5年

事故発生日の翌日

人身事故(後遺障害)

症状固定日の翌日

死亡事故

死亡日の翌日

加害者不明の事故

20年

事故発生日の翌日

時効が成立すると加害者に損害賠償請求ができなくなり、損害賠償金も受け取れなくなります。

交通事故で示談しないリスク|加害者側

ここでは、交通事故の加害者が示談しないリスクを解説します。

被害者に支払う損害賠償金が増える可能性がある

示談をしなければ、被害者に対し示談金を支払う必要がなくなるので、示談しないリスクはないと考える方もいらっしゃるでしょう。

しかし、加害者が示談に応じなければ、被害者は民事訴訟の提起等に移ることがあります。

訴訟に移行すると、以下の理由から、示談を成立させる場合に比べて被害者に支払う損害賠償金が増える可能性があります。

  • 裁判基準(弁護士基準)で損害額が算定される
  • 弁護士費用や遅延損害金が上乗せされるおそれがある

訴訟対応を弁護士に依頼する場合には、弁護士費用も負担しなければなりません。

刑事罰が重くなる可能性がある

以下のような場合には、加害者が逮捕され刑事事件の被疑者になることがあります。

  • 事故によって被害者に重篤な怪我を負わせたり死亡させたりした場合
  • ひき逃げや飲酒運転をした場合
  • スピード違反があった場合
  • 事故後の救護義務や警察への報告義務に違反した場合

加害者と被害者との間に示談が成立しているかどうかは、加害者が起訴すべきかどうかの判断に影響します。

加害者が起訴された場合、その後の刑事訴訟においても、示談が成立しているかどうかが刑事罰に影響を及ぼすことがあります。

加害者が示談をしなければ起訴される可能性が高まり、その後の刑事訴訟でも不利に働くおそれがあります。

交通事故で示談しない場合は裁判になる?示談以外の解決方法は?

ここでは、示談以外の交通事故に関する紛争解決の方法を紹介します。

民事調停による解決

交通事故の相手方が示談に応じない場合や示談交渉が決裂した場合には、民事調停を申立てる方法があります。

民事調停とは、簡易裁判所の裁判官と民間から選出された2名の調停委員で構成される調停委員会が、当事者双方の主張を交互に聞いて事案に即した解決を図る手続きです。

民事調停のメリット

民事調停は、訴訟と比べて費用が安く済み、訴訟物以外の事柄についても解決を図れる柔軟性があります。

調停が成立すると、裁判上の和解と同一の効力を有するため、以下のような場合に有効な手段です。

  • 加害者が任意保険に加入していない
  • 調停委員に加害者本人を説得してもらう必要がある
  • 債務名義を得たい(債務の履行を確保したい)

民事調停の申立ては時効中断事由となるため、治療が長引いている場合で以下のようなリスクがある場合には、時効中断効を狙って調停を申立てることもあります。

  • 将来、治療の必要性・相当性が争点となる可能性がある
  • 後遺障害が非該当となるおそれがある

加害者側のメリットとしては、妥当な賠償案であれば調停委員から被害者本人を説得してもらえるので、スムーズな解決が期待できます。

民事調停のデメリット

加害者が任意保険に加入している場合は、調停の事実上の相手方は保険会社となります。

保険会社が調停成立に応じるには、社内稟議を得る必要があるため、調停委員により当事者の説得が行われて合意に至る調停のうまみが発揮しにくいのがデメリットです。

簡易裁判所における民事調停は、交通事故の損害賠償事案のみを取り扱っているわけではないので、民間から選ばれた調停委員が損害賠償実務に精通していないことも指摘されています。

ADR(裁判外紛争処理機関)による解決

ADR(Alternative Dispute Resolution)とは、裁判外紛争解決手続きです。交通事故の場合は、以下のADRがよく利用されています。

  • 公益財団法人日弁連交通事故相談センターによる示談あっせん・審査
  • 公益財団法人交通事故紛争処理センターによる和解あっせん・審査

各手続きの詳細や流れは、下記関連記事をご参照ください。

交通事故の相談や示談交渉・あっせんを扱う専門家や公的機関をご紹介

ADRのメリット

上記いずれの機関でも、示談・和解あっせんを担当するのは交通事故事件の処理に精通した弁護士であるため、適切な解決が期待できます。

加害者が任意保険に加入している場合は、保険会社を片面的に拘束する示談案・和解案を提示するケースもあることから、訴訟よりも迅速・安価に解決できる可能性があります。

ADRのデメリット

ADRのデメリットは、以下のとおりです。

  • 対象となる紛争が限定されていて、全ての事案で利用できるとは限らない
  • 数回程度の期日で解決を図るため、事案が解決に熟していない段階では利用できない
  • 証人尋問や検証等が行われないので事実関係そのものに争いがあると利用に適さない
  • 申立てに時効中断効がない

訴訟による解決

示談交渉・民事調停・ADRでの解決が見込めない場合には、民事訴訟を提起する方法があります。

訴訟のメリット

交通事故で民事訴訟を提起するメリットは、以下のとおりです。

  • 紛争を終局的に解決できる
  • 弁護士(裁判)基準で算定された賠償金の支払いが期待できる
  • 弁護士費用や遅延損害金を請求できる
  • 裁判上の和解ができれば早期に柔軟かつ抜本的な解決が得らえる

訴訟のデメリット

交通事故で民事訴訟を提起するデメリットは、以下のとおりです。

  • 時間的にも費用的にも当事者の負担が増える
  • 手続きが厳格であるため弁護士のサポートを要する場合が多い(弁護士費用がかかる)
  • 手続きが公開されるためプライバシーの保護に欠ける

交通事故で安易に示談しない方が良いケース

交通事故で示談しないリスクがある一方、安易に示談しない方がいいケースもあります。

ここでは、交通事故の示談交渉で安易に示談に応じない方が良いケースを紹介します。

治療を終えていないのに示談案を提示された

人身事故の場合は、怪我の治療が終了し治癒又は症状固定した後に損害が確定します。

示談交渉は損害の確定を待って行うのが原則ですが、加害者側の保険会社から治療の必要性・相当性を否定され、治療を終える前に示談案を提示されるケースもあります。

このような提案に応じると、事故により生じた損害全額の賠償を受けられなくなる可能性があります。

早期に示談金を受け取りたくても、交通事故で受けたすべての損害が確定するまでは示談しない方がよいでしょう。

過失割合が過度に評価されている

交通事故の示談交渉では、通常、損害額が確定した段階で当事者双方の合意で過失割合を決めます。

加害者側の保険会社は、保険金の支払いを少しでも減らせるよう、被害者側の過失割合を過大に主張することがあります。

過失割合が適正に評価されていない状態で示談に応じれば、本来受け取れるはずの金額より低い示談金しか受け取れない可能性があります。重大な後遺障害が残る事故や死亡事故では、過失割合が5%異なるだけで損害額が数百万円以上異なることもあります。

加害者の保険会社が主張する過失割合に納得できない場合は安易に示談せず、まずは弁護士への相談をおすすめします。

交通事故の過失割合とは|決め方・納得できない場合の反論方法を紹介

後遺障害等級の認定結果に納得がいかない

交通事故による怪我で障害が残ったら、後遺障害等級の認定を受けることで、後遺障害慰謝料や逸失利益を請求できます。

後遺障害等級の認定申請をしても、必ずしも適正な等級に認定されるとは限りません。

後遺障害等級の認定結果に不服がある場合、そのまま示談してしまうと、支払われる示談金の額が本来受け取れるはずの額より低くなる可能性があります。

以下のような場合には、認定結果が適切かどうかを慎重に検討する必要があります。

  • 想定より低い等級で認定された
  • 事前認定で後遺障害等級の認定申請をした
  • 提出した書類に不備や漏れがあった

後遺障害認定の結果に納得がいかない場合は、安易に示談せずに異議申立てを検討することをおすすめします。

【交通事故】後遺障害等級認定の申請手続きとは?|必要書類や所用期間も解説

提示された示談金の額が適正なのか判断できない

加害者側の保険会社から提示された示談金の額が適正かどうか判断できない場合も、安易に示談しない方が良いでしょう。

示談成立後は、原則として合意内容を撤回できません。提示された金額が適正かどうか判断できないまま示談すると、本来得られるはずの金額を受け取れないおそれがあります。

交通事故で早く示談しないと生活に困るときはどうすればいい?

示談交渉がスムーズに進まない場合や治療に長期間を要して損害を確定できない段階では、被害者が必要な補償を受けられず生活に困ることもあるでしょう。そのような場合は、どうすればよいのでしょうか?

ここでは、示談成立前に交通事故の損害賠償金の一部を受け取る方法を紹介します。

自賠責保険の仮渡金制度を利用する

仮渡金制度とは、被害者の治療費や生活費などの当座の出費にあてられるよう、自賠責保険に対し、損害賠償額の中から仮に渡してもらうお金を請求できる制度です。

仮渡金の額は、被害の程度によって下表のとおり定められています。

傷害の場合

A 以下の傷害を受けた場合

・脊柱の骨折で脊髄を損傷したと認めらえる症状を有するもの

・上腕または前腕の骨折で合併症を有するもの

・大腿または下腿の骨折

・内臓の破裂で腹膜炎を併発したもの

・14日以上の入院を要する傷害で、医師の治療を要する期間が30日以上のもの

40万円

B 以下の傷害を受けた場合(Aに該当する場合を除く)

・脊柱の骨折

・上腕または前腕の骨折

・内臓の破裂

・入院を要する傷害で、医師の治療を有する期間が30日以上のもの

・14日以上の入院を要する傷害

20万円

C 11日以上医師の治療を要する傷害(AとBを除く)

5万円

死亡の場合

290万円

なお、支払われた仮払金が確定した損害賠償額を超える場合には、その超えた額を返還しなければなりません。

自賠責保険に被害者請求する

被害者請求とは、加害者が加入している自賠責保険会社に対し、被害者が損害賠償金を直接請求する制度です。被害者請求をすれば、示談成立前でも損害賠償金の一部を受け取れます。

ただし、自賠責保険には支払限度額が定められており、傷害部分については120万円までしか請求できません。

交通事故で示談するかしないか判断できないときはどうすればいい?

ここでは、交通事故で示談に応じるか否か判断できない場合の対処法について解説します。

弁護士に相談する

交通事故で示談に応じるべきかどうか判断できない場合は、弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士に相談・依頼するメリット

交通事故に詳しい弁護士であれば、専門知識や過去の判例に基づき適正な損害額を算定できるので、不利な条件で示談を成立するリスクを回避できます。

示談以外の方法での解決が望ましい事案であれば、適切な解決手段を提案してもらえます。

交通事故の示談交渉を弁護士に依頼するメリットと依頼後の流れ

まとめ

交通事故で示談に応じなければ、被害者・加害者双方に看過できないリスクが生じることがあります。

示談交渉は解決に要する時間も短く、他の選択肢を利用する場合に発生する手続き費用もかからないので、双方が歩み寄って妥当な解決案を示せれば、当事者の負担も少なく済みます。

しかし、相手方との合意を期待できない事案では無理をして示談交渉を継続しない方が良いケースもあります。

ご自身で示談に応じるべきかどうかの判断ができない場合には、弁護士への相談をおすすめします。

示談交渉にお悩みの方や示談以外の解決を検討中の方は、ぜひ一度ネクスパート法律事務所にご相談ください。

 

 

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