交通事故の被害に遭っても、必ずしも加害者側から慰謝料を支払ってもらえるわけではありません。
慰謝料をもらえないケースや想定よりも慰謝料が少なくなるケースもあります。
この記事では、交通事故で慰謝料がもらえないケースや慰謝料が少なくなるケースについて解説します。
目次
交通事故で慰謝料がもらえないケース
ここでは、交通事故で慰謝料がもらえないケースについて解説します。
物損事故の場合
慰謝料は、被害者に生じた精神的損害を補うための金銭賠償であるため、原則として物損事故では請求できません。物的損害については、その物の経済的価値が回復されれば、精神的損害は生じないと考えられているからです。
ただし物損事故でも、被害者の愛情利益や精神的平穏を強く害するような特段の事情が存在する場合には、例外的に慰謝料が認められることもあります。
例えば、以下のようなケースです。
- 被害物件が代替性のない芸術作品であった(被害者がそれを制作した芸術家であった)
- 被害者の飼い犬が負傷または死亡した
- 被害物件が墓石であり、墓石が倒壊し、骨壺が露出した
加害者が特定できない・加害者が無保険かつ無資力
ひき逃げ事故の場合、警察の捜査によっても、加害者が見つからないことがあります。
加害者が特定できない場合は、加害者または加害者が加入する自賠責保険や任意保険に慰謝料を請求できません。
加害者が特定できても、加害者が自賠責保険や任意保険に加入しておらず、損害賠償を支払うだけの資力もない場合は、慰謝料を支払ってもらえません。
ただし、このような場合は政府保障事業による救済が図れます。
政府保障事業とは、政府(国土交通省)が、自動車損害賠償保障法に基づき自賠責保険(共済)の対象とならない交通事故の被害者を救済するために損害のてん補を行う制度です。
てん補される損害の範囲や限度額は自賠責保険の基準と同様であるため、請求し得る慰謝料の額が全額てん補されるわけではありませんが、必要最小限の救済が受けられます。
時効により請求権が消滅した
交通事故による損害賠償請求権や自賠責保険への被害者請求権には時効があります。
時効が成立すると権利そのものが消滅するため、慰謝料を請求できません。
各請求権の時効や起算日は、以下のとおりです。
請求権 |
事故の種類 |
時効 |
起算日 |
損害賠償請求権 |
物損事故 |
3年 |
事故発生日の翌日 |
人身事故(傷害のみ) |
5年 |
事故発生日の翌日 |
|
人身事故(後遺障害) |
症状固定日の翌日 |
||
死亡事故 |
死亡日の翌日 |
||
自賠責保険への 被害者請求権 |
人身事故(傷害のみ) |
3年 |
事故発生日の翌日 |
人身事故(後遺障害) |
症状固定日の翌日 |
||
死亡事故 |
死亡日の翌日 |
交通事故で慰謝料を満額もらえないケース
ここでは、慰謝料を満額もらえない可能性があるケースを紹介します。
被害者に過失がある
被害者にも事故の発生について過失(落ち度)がある場合は、その程度に応じて慰謝料が減額されることがあります。
被害者の過失が事故の発生や損害の拡大に影響を与えた場合に、公平の観点から損害賠償額を減額することを過失相殺といいます。
例えば、慰謝料を含む損害額の合計が500万円で、過失割合が加害者80:被害者20であった場合、過失相殺により被害者が受け取れる賠償額は、以下のとおり400万円です。
500万円-100万円(500万円×0.2)=400万円 |
加害者側の保険会社は、加害者の主張や説明を前提に過失割合を検討・判断するため、提示された過失割合が必ずしも適正であるとは限りません。被害者側の過失割合が過大に評価された場合、それを鵜呑みにすると本来もらえるはずの慰謝料よりも少ない金額しかもらえない可能性があります。
既往症や既存病変がある
被害者の事情によって損害が発生・拡大した場合は、慰謝料が減額されることがあります。損害の発生・拡大に影響を及ぼす被害者の事情を素因といいます。
減額の対象となる素因は、体質的・身体的素因と心因的素因に分けられます。
体質的・身体的素因
例えば、被害者に事故前から既往症があり、それが事故と相まって症状を発生させた場合や症状が重くなった場合などです。
被害者に対する加害行為と被害者の疾患がともに原因となって損害が発生した場合、加害者に損害の全部を賠償させるのが不公平と判断されると、慰謝料が減額されることがあります。
心因的素因
例えば、加害者の態度に対する不満や被害者の特異な性格等の心理的要因によって、症状が悪化したり治療が長期化したりした場合などです。
被害者の損害が、加害行為のみによって通常発生する程度・範囲を超えていて、かつ、その損害の拡大について被害者の心理的要因が影響を及ぼしている場合には、慰謝料が減額されることがあります。
交通事故で入通院慰謝料を十分にもらえないケース
ここでは、入通院慰謝料が少なくなるケースを紹介します。
入通院慰謝料は傷害慰謝料ともいい、事故による怪我で病院に入院・通院したことに対して支払われる慰謝料です。
治療期間が短い・通院頻度が低い
入通院慰謝料は、治療のために実際に入院・通院した期間に基づき算定されます。
怪我の程度が軽傷の場合には、仕事や家事のために痛みなどの症状を我慢して通院を怠ったり、自己判断で治療を中断したりするケースがあります。
本来治療を受けるべき期間に治療を中断すると、治療期間が短くなるため、当然に慰謝料の額が少なくなります。
通院頻度が少なかったり、前回の通院から日が空いたりすると、保険会社から治療の必要性を疑われ、入通院慰謝料の減額を主張されることもあります。
弁護士基準で慰謝料を計算していない
慰謝料の算定基準には、以下の3つの種類があります。
自賠責基準 |
自賠責保険の算定に利用する基準。被害者の損害について最低限の補償が目的で、3つの基準のうち慰謝料の額が最も低く、支払限度額も定められている。 |
任意保険基準
|
各保険会社が独自に定めている基準で、算定方法や具体的な金額は公開されていないが、自賠責保険基準と同程度あるいはやや高くなる。 |
弁護士(裁判)基準 |
過去の交通事故の裁判例を基に定められた基準で、弁護士による示談交渉や裁判実務で用いられる基準。 3つの基準の中で最も慰謝料の額が高くなる。 |
加害者側の任意保険会社は自社の損失を少なくするため、被害者に対し自賠責基準で算定した金額に近い慰謝料を提示することがほとんどです。
被害者が自ら示談交渉に対応している場合は、被害者の知識不足に乗じて自賠責基準よりも低い慰謝料の額を提示することもあります。自賠責基準で算定される慰謝料は、弁護士(裁判)基準の2分の1~3分の1程度に留まります。
慰謝料の3つの基準を知らないまま示談交渉を進めると、思いもよらぬ不利益を被ることがあります。
弁護士に依頼すれば、慰謝料算定の3つの基準の中で最も高い弁護士(裁判)基準で、慰謝料を算定・請求してもらえます。
交通事故で後遺障害慰謝料を十分にもらえないケース
ここでは、後遺障害慰謝料が少なくなるケースを紹介します。
後遺障害等級認定の結果が非該当だった
後遺障害慰謝料とは、交通事故により後遺障害が残ったこと対して支払われる慰謝料です。
自覚症状があっても他覚所見が全くない場合は、後遺障害等級の認定申請をしても、非該当となる可能性が高いです。
後遺障害等級認定の結果が非該当であり、異議申し立てをしても認定結果を覆せなければ、後遺障害慰謝料をもらえません。
後遺障害等級認定で適切な等級に認定されなかった
後遺障害等級認定の申請を加害者側の保険会社に委ねたり(事前認定)、被害者請求で申請しても申請書類に不備があったりすると、本来認定されるべき等級よりも低い等級に認定されてしまう可能性があります。
後遺障害慰謝料は、等級が上がるほど高くなります。適切な後遺障害等級に認定されず、本来よりも低い等級で認定された場合は、後遺障害慰謝料の額が低くなります。
弁護士基準で慰謝料を計算していない
自賠責基準や弁護士(裁判)基準では、後遺障害等級に応じて、以下のとおり慰謝料の額が定められています。
後遺障害等級 |
自賠責基準※ |
弁護士(裁判)基準 |
第1級 |
1,150万円 |
2,800万円 |
第2級 |
998万円 |
2,370万円 |
第3級 |
861万円 |
1,990万円 |
第4級 |
737万円 |
1,670万円 |
第5級 |
618万円 |
1,400万円 |
第6級 |
512万円 |
1,180万円 |
第7級 |
419万円 |
1,000万円 |
第8級 |
331万円 |
830万円 |
第9級 |
249万円 |
690万円 |
第10級 |
190万円 |
550万円 |
第11級 |
136万円 |
420万円 |
第12級 |
94万円 |
290万円 |
第13級 |
57万円 |
180万円 |
第14級 |
32万円 |
110万円 |
※2020年4月1日以降に発生した事故の後遺障害慰謝料
加害者側の任意保険会社は自社の損失を少なくするため、被害者に対し自賠責基準で算定した金額に近い慰謝料を提示することがほとんどです。
弁護士に依頼すれば、慰謝料算定の3つの基準の中で最も高い弁護士(裁判)基準で、慰謝料を算定・請求してもらえます。
交通事故の慰謝料がもらえない不安があるときは弁護士に相談を
ここでは、交通事故の慰謝料請求(示談交渉)を弁護士に依頼するメリットを解説します。
適正な慰謝料の額を算定してもらえる
弁護士は、示談交渉において弁護士(裁判)基準を用いて慰謝料の額を算定します。
ただし、弁護士(裁判)基準は、あくまで標準的な事案を前提に慰謝料の基準を示したものにすぎません。
慰謝料は、被害者に生じた精神的損害をてん補するものであるため、以下のような事情を総合的に考慮して算定すべきです。
- 被害者が被った損害の内容・程度
- 加害者・被害者の過失行為の内容(過失割合)
- 被害者の年齢、職業、収入、家族関係 など
加害者の事故態様が悪質な場合や、被害者が標準的な事案よりも強い精神的苦痛を被った場合などには、基準よりも高い慰謝料が認められることもあります。
弁護士に依頼すれば、過去の類似事故の判例を駆使して、適正な慰謝料を算定してもらえます。
加害者が無保険の場合も適切に対処してもらえる
以下のような場合、被害者は自賠責保険では救済されません。
- 加害者が自賠責保険(共済)や任意保険に加入していない場合
- 盗難車による事故などで責任保険(共済)の被保険者以外に事故の責任がある場合
これらの場合は政府保障事業への損害のてん補請求が必要です。
請求時には、さまざまな書類を提出しなければならず、政府に対し損害のてん補を請求できる理由や請求金額とその算定基礎の根拠を示さなければなりません。
弁護士に依頼すれば、これらの煩雑な手続きもすべて任せられます。
弁護士費用特約を使えば実質無料で相談できる
弁護士費用特約とは、交通事故の被害者が弁護士に相談・依頼した場合に発生する相談費用や弁護士費用を補償する特約です。
被害者本人やその家族が加入している自動車保険で弁護士費用特約に加入している場合、一定の条件を満たせば、相談費用や弁護士費用を保険会社に負担してもらえます。
保険会社により異なりますが、一般的な補償の限度額は以下のとおりです。
- 相談費用は1事案につき最大10万円
- 弁護士費用は被害者1人につき最大300万円まで
まとめ
物損事故では、原則として慰謝料を請求できません。
人身事故でも、慰謝料を十分にもらえないこともあります。
加害者側の保険会社から適正な慰謝料を提案してもらえない場合や、加害者が無保険で慰謝料を請求できない場合は、弁護士に示談交渉を依頼することをおすすめします。
弁護士であれば、交渉においても弁護士(裁判)基準で算定した慰謝料を請求してもらえます。加害者が無保険・無資力でも政府保障事業への損害のてん補請求のサポートを受けられるでしょう。
人身事故の被害に遭い、慰謝料を十分に支払われない不安がある方は、ぜひ一度ネクスパート法律事務所にご相談ください。