
交通事故により傷害を負ったからといって、必ずしも加害者側から慰謝料を支払ってもらえるわけではありません。
慰謝料をもらえないことや、少額の慰謝料しかもらえないこともあります。
この記事では、交通事故の慰謝料がもらえないケースについて、詳しく解説します。
慰謝料はもらえるものの少額に留まるケースや、適切な対処法も紹介しますので、ぜひご一読ください。
目次
交通事故の慰謝料がもらえない5つのケース
交通事故の慰謝料は、以下の5つのケースに該当する場合は支払ってもらえません。
- 事故と傷害の因果関係が認められない場合
- 加害者が特定できない・加害者が保険未加入で資力もない場合
- 自損事故の場合
- 物損事故の場合
- 損害賠償請求権の時効が成立している場合
以下で、詳しく解説します。
事故と傷害の因果関係が認められない場合
事故と傷害の因果関係が認められない場合は慰謝料がもらえません。
交通事故による損害賠償請求は、傷害が当該事故によって生じたこと(因果関係)を証明できる場合に行えます。
そのため、以下のような事実がある場合は、保険会社から「その傷害は事故とは無関係だ」などと因果関係を否定され、慰謝料だけでなく治療費の支払いも拒否される可能性があります。
- 事故から受診までに期間が空いている
- 画像資料や検査資料などから事故による傷害だと判断できない
交通事故に遭ったら、できるだけ早期に医師の診断を受けることが大切です。
加害者が特定できない・加害者が保険未加入で資力もない場合
加害者が特定できない・加害者が保険未加入で資力もない場合も加害者や加害者側保険会社から慰謝料を回収するのは困難です。
加害者が特定できない場合は、加害者または加害者が加入する自賠責保険や任意保険に慰謝料を請求できないためです。
加害者が特定できても、加害者が自賠責保険や任意保険に未加入で損害賠償金を支払うだけの資力もない場合も、慰謝料を支払ってもらうのは難しいでしょう。
もっとも、このような場合は、自動車損害賠償保障事業(政府保障事業)による救済を求められます。
政府保障事業とは、ひき逃げ事故や無保険者による事故の被害者に対し、国が自賠責保険・共済と同等の損害をてん補する制度です。
てん補される損害の範囲や限度額は自賠責保険の基準と同様であるため、請求し得る慰謝料の額が全額塡補されるわけではありませんが、必要最小限の救済は受けられます。
政府保障事業については、以下関連記事で詳しく解説しています。
自損事故の場合
自損事故の場合も慰謝料はもらえません。
自損事故とは、相手方のいない、被害者自身に100%の過失がある事故のことです。
慰謝料は、加害者側が被害者に対して負う損害賠償義務の一部です。そのため、被害者自身が単独で起こした事故の場合は慰謝料を請求できません。
もっとも、ご自身が加入している人身傷害保険などは利用できる可能性があります。
物損事故の場合
物損事故の場合も慰謝料はもらえません。
慰謝料は、被害者に生じた精神的損害を補うための金銭賠償です。物的損害はその物の経済的価値が回復されれば精神的損害は生じないと考えられているため、被害が物的損害だけの場合は慰謝料を請求できません。
ただし、物損事故でも、被害者の愛情利益や精神的平穏を強く害する特段の事情が存在する以下のようなケースでは、例外的に慰謝料が認められることもあります。
- 被害物件が代替性のない芸術作品であった場合
- 被害者の飼い犬が負傷または死亡した場合
- 墓石が倒壊し骨壺が露出した場合
物損事故の損害賠償については、以下関連記事で詳しく解説しています。
損害賠償請求権の時効が成立している場合
損害賠償請求権の時効が成立している場合も慰謝料はもらえません。
交通事故による損害賠償請求権や自賠責保険への被害者請求権には時効があります。
時効が成立すると権利そのものが消滅するため、慰謝料を請求できません。
各請求権の時効や起算日は、以下のとおりです。

交通事故の慰謝料が減額される可能性がある5つのケース
交通事故の慰謝料は、以下の5つのケースに該当する場合は、慰謝料はもらえても減額される可能性があります。
- 実通院日数が少ない場合
- 症状固定の判断前に治療を中断した場合
- 事故と怪我の因果関係を証明する診断書に不備がある場合
- 被害者であるあなたの過失割合が高い場合
- 素因減額・損益相殺されるケースに該当している場合
以下で、詳しく解説します。
実通院日数が少ない場合
実通院日数が少ない場合は、慰謝料が減額される可能性があります。
入通院慰謝料は、治療期間や実際に入院・通院した日数に基づいて計算されます。
そのため、実通院日数が少ない場合は、慰謝料額も低くなる傾向にあります。
入通院慰謝料の計算方法については、以下関連記事で詳しく解説しています。
症状固定の判断前に治療を中断した場合
症状固定の判断前に治療を中断した場合も、慰謝料が減額される可能性があります。
症状固定とは、これ以上治療を継続しても症状の改善が見込めない状態を指し、この症状固定日までの期間が入通院慰謝料の算定対象です。
そのため、症状固定の判断前に治療を中断すれば慰謝料算定期間が短くなるため、本来受け取れたはずの慰謝料が受け取れなくなります。
治療の継続・終了については、あなたの治療状況を把握している担当医師の判断に従うことが大切です。
事故と傷害の因果関係を証明する診断書に不備がある場合
事故と傷害の因果関係を証明する診断書に不備がある場合も、慰謝料が減額される可能性があります。
交通事故による傷害の内容や治療経過を記録した診断書は、因果関係や損害額を証明する重要な証拠となるため、その作成は慎重に行う必要があります。
特に、治療を続けても症状が残った場合に行う後遺障害等級認定の申請手続きでは、後遺障害診断書の内容によっては、症状が残っているにもかかわらず後遺障害等級非該当と判断されたり、低い等級で認定されたりする可能性も否定できません。
書類に不備があったり、記載内容が不十分であったりすると、因果関係が証明できなかったり、適切な等級認定を受けられなかったりするおそれがあります。
後遺障害等級認定の申請手続きについては、以下関連記事で詳しく解説しています。
被害者であるあなたの過失割合が高い場合
被害者であるあなたの過失割合が高い場合も、慰謝料が減額される可能性があります。
過失割合とは、発生した交通事故に対する加害者と被害者の責任の割合です。
各当事者間の負担額を公平にするため、損害の発生・拡大について被害者にも過失がある場合には、その割合に応じて損害賠償額から差し引かれます。
例えば、被害者に信号無視や安全運転義務違反などの要素があると、被害者の過失割合が大きくなることがあります。
原則として、すべての損害項目が過失相殺の対象となるため、事故態様について被害者にも過失がある場合は慰謝料が減額される可能性があります。
もっとも、保険会社が提示する過失割合は、必ずしも適正であるとは限りません。
保険会社が提示する過失割合に納得いかない場合は、交通事故案件を豊富に扱う弁護士に相談することをお勧めします。
過失割合については、以下関連記事で詳しく解説しています。
素因減額・損益相殺されるケースに該当している場合
素因減額・損益相殺されるケースに該当している場合も、慰謝料が減額される可能性があります。
素因減額とは、被害者が事故前から持っていた事情が、交通事故による損害の発生あるいは拡大に寄与したと判断できる場合に、その事情が寄与した部分について損害賠償額から差し引かれることです。
既存の疾患が影響していると考えられる場合などに減額が適用されます。
損益相殺とは、交通事故の損害賠償金の二重取りを防ぐための制度です。
保険金や休業補償などがほかの公的制度などからすでに支給されている場合は、その利益分を損害賠償金から差し引くことで調整を図ります。
素因減額については、以下関連記事で詳しく解説しています。
損益相殺については、以下関連記事で詳しく解説しています。
交通事故による傷害の治療中に抱えやすい不安を解消する対処法
交通事故による障害の治療中は、さまざまな不安を抱えやすいです。
この章では、以下の2つのケースについて、具体的な対処法をお伝えします。
- 保険会社から治療費打ち切りを打診されたら
- 治療中の生活費の不足に直面しているなら
ぜひ参考にしてください。
保険会社から治療費打ち切りを打診されたら
保険会社から治療費打ち切りを打診されても、治療の必要性があると医師が判断している限り、すぐに治療を辞める必要はありません。
治療の必要性の有無は、医学的な観点から担当医師が判断すべきことで、保険会社が勝手に判断し、一方的に治療費を打ち切るべきではありません。
治療継続が必要にもかかわらず打ち切りを打診された場合は、医師の診断書や治療計画を根拠に、保険会社に対し支払いの継続を要求しましょう。保険会社が頑なに拒否する場合は、自身の健康保険や人身傷害保険に切り替えて治療を継続し、保険会社に治療費を請求するのも選択肢の一つです。
治療費打ち切りに関する交渉は精神的に負担がかかるでしょうから、弁護士への依頼も検討すると良いでしょう。
治療中の生活費の不足に直面しているなら
治療中の生活費の不足に直面しているなら、自賠責保険の制度や労災保険を活用して、一時的な支援を受けることも検討しましょう。
自賠責保険には、事故直後の生活資金を援助するための仮渡金制度があります。
仮渡金制度とは、最終的な賠償金額が確定する前に、損害賠償金の一部を前払いする制度です。仮渡金は保険金の一部の前払いですから、最終的な賠償金が確定すれば清算されます。
交通事故が通勤中や業務中に発生したものであれば、労災保険も活用できます。
労災保険からは、休業補償給付として給与の60%、休業特別支給金として給与の20%、合計80%の補償が受けられます。
なお、休業特別支給金は、休業損害と調整されないため、労災保険を申請した方が受け取れる休業損害の合計金額は多くなります。
労災保険の休業補償については、以下関連記事で詳しく解説しています。
交通事故の慰謝料がもらえない不安があるなら弁護士に相談を
「交通事故の慰謝料がもらえないかも」との不安を抱えているなら、弁護士に相談・依頼することをお勧めします。
弁護士への依頼を勧める主な理由は、以下の4つです。
- 最も高額な弁護士基準で慰謝料を算定・請求してもらえる
- もらい事故でも交渉を任せられる
- 交渉・手続きを一任できるため負担から解放される
- 弁護士費用特約を活用すれば実質無料で依頼できる
以下で、詳しく紹介します。
最も高額な弁護士基準で慰謝料を算定・請求してもらえる
最も高額な弁護士基準で慰謝料を算定・請求してもらえます。
交通事故の慰謝料を算定する基準には以下の3つの種類があり、どの基準を用いるかによって算定結果に差が生じます。
- 自賠責基準:自動車損害賠償保障法に規定された最低限の補償を目的とする基準
- 弁護士基準(裁判基準):過去の判例に基づいて定められた法的正当性の高い基準
- 任意保険基準:それぞれの保険会社が独自に定めた社内基準(非公開)
保険会社は営利企業ですから、支払額を最小限に抑えようとするのが一般的です。そのため、保険会社から提示された金額が適正であるとは限りません。
弁護士に依頼すれば、最も高額な弁護士基準で慰謝料を算定・請求できるため、適正な慰謝料を獲得できる可能性が高まります。
交通事故慰謝料の計算方法については、以下関連記事で詳しく解説しています。
もらい事故でも交渉を任せられる
もらい事故でも交渉を任せられます。
被害者側の過失割合がゼロのもらい事故(追突事故など)では、原則として、被害者自身の保険会社は交渉を代行できません(商品により支援や弁護士費用特約の利用可)。
そのため、専門知識を持たない被害者本人が、法律と交渉のプロである保険会社と直接交渉しなければなりませんが、容易ではないでしょう。
弁護士に依頼すれば、もらい事故でも交渉を任せられるため、最善の解決を図りやすくなるでしょう。
交渉・手続きを一任できるため負担から解放される
交渉・手続きを一任できるため負担から解放されます。
保険会社との交渉や手続きは、精神的にも時間的にも多大な負担がかかります。
弁護士に依頼すれば、難易度が高い交渉や煩雑な手続きを一任できます。負担から解放され、治療に専念できる環境を整えやすくなります。
治療費打ち切りの打診に対する交渉や、後遺障害等級認定の手続きなども任せられるため、納得のいく解決を図りやすくなるでしょう。
弁護士費用特約を活用すれば実質無料で依頼できる
弁護士費用特約を活用すれば実質無料で依頼できます。
弁護士費用特約とは、交通事故の損害賠償請求を弁護士に依頼した際にかかる費用を保険会社が負担してくれる自動車保険の特約です。
特約の限度額内(一般的に法律相談料10万円、弁護士費用300万円)であれば、弁護士費用を自己負担せずに弁護士に依頼できるため、弁護士特約が使える場合は迷わず弁護士に相談しましょう。
ただし、あなたに故意または重大な過失がある場合など、弁護士特約が使えないケースもあります。
弁護士特約の使い方については、以下関連記事で詳しく解説しています。
まとめ
交通事故により傷害を負っても、状況によっては慰謝料を支払ってもらえないケースもあります。「慰謝料がもらえないかも」との不安を抱えたら、弁護士への相談・依頼を積極的に検討することをお勧めします。
交通事故の示談交渉を弁護士に任せたいとお考えなら、ぜひネクスパート法律事務所にご相談ください。
初回無料相談を実施しておりますので、費用を気にせずご相談いただけます。対面でのご相談はもちろん、リモートでのご相談にも対応しておりますので、事務所に足を運ぶのが困難な方もお気軽にお問い合わせください。