交通事故の示談交渉は、損害額が確定してから開始します。
ただし、治療期間が長期に及ぶ傷害事故などでは、治癒または症状固定前でも治療費や通院費用、休業損害の内払いを求める交渉を行うこともあります。
この記事では、物損事故・人身事故・死亡事故の示談交渉にかかる標準的な期間と流れを解説します。
交通事故の被害に遭われた方は、ぜひご参考になさってください。
目次
交通事故の示談交渉にかかる期間と流れ|①物損事故の場合
ここでは、物損事故の示談交渉にかかる期間と流れについて解説します。
事故発生~示談交渉の開始|1~2か月程度
物損事故の示談交渉では、物的損害の損害額の確定に1~2か月程度かかるのが一般的です。
損害額の算定~確定
物損事故の場合、加害者に請求し得る損害項目の主な例は、以下のとおりです。
- 修理費(被害車両の修理が可能な場合)
- 経済全損(被害車両の修理費が車両の時価を超える場合)
- 車両の買い替え差額(被害車両の修理が不能な場合)
- 評価損(修理しても車両の機能や外観が修復されない場合等)
- 代車費用(代車を使用した場合)
- 休車損(被害車両が営業用車両の場合)
- その他(買い替えにかかる登録手続関係費用、雑費等)
損害項目ごとに見積書や請求書等の資料を収集し、損害額を確定します。
示談交渉の開始~示談成立|2~3か月程度
物的損害の損害額が確定したら、示談交渉を開始します。
交渉開始から示談成立までの期間は、2~3か月程度です。ただし、修理費や車両の買い替え差額等について、当事者間に争いがある場合は、それ以上かかることがあります。
示談成立~示談金の振込|2~3週間程度
示談が成立したら、示談書を作成します。示談書の形式は、当事者双方が記名押印する示談書の形式をとる場合と、被害者のみが記名押印する免責証書の場合があります。
当事者双方に弁護士が就いている場合は示談書の形式をとることが多く、被害者側のみに弁護士が就いている場合は、保険会社が免責証書を作成するのが一般的です。
示談成立から示談金が振り込まれるまでの期間は概ね2~3週間です。
交通事故の示談交渉にかかる期間と流れ|②人身事故の場合
ここでは、人身事故の示談交渉にかかる期間と流れについて解説します。
事故発生~示談交渉の開始|ケースバイケース
人身事故の場合は、治癒または症状固定後に示談交渉を開始します。
受傷の程度や治療経過によって損害額を確定するまでの期間が異なるため、事故発生から示談交渉を開始する期間はケースバイケースです。
治療の終了
事故による怪我が完治し、またはこれ以上治療しても症状の改善が見込まれない状態(この状態を症状固定といいます。)になって治療が終了したら、治療費等の損害額を算定します。
治療費は、交通事故から発生した傷害の治療に必要かつ相当な範囲であれば、その実費全額が損害として認められます。ただし、原則として症状固定後の治療費は認められません。
症状の改善は期待できないものの、リハビリテーション等の保存的治療が必要な場合などには、症状固定後の治療費や将来の治療費が認められることもあります。
後遺障害等級認定申請
怪我が完治せず、後遺障害を残す場合には、医師に対し、必要な検査等の実施や後遺障害等級診断書の作成を依頼します。
後遺障害診断書その他必要書類を入手したら、自賠責損害調査事務所(損害保険料率算出機構)に後遺障害等級認定の申請を行います。
損害額の算定~確定
人身事故の場合、加害者に請求し得る損害項目は、以下のとおり多岐にわたります。
- 治療費関係(治療費、治療器具・薬品代等、症状固定後や将来の治療費等)
- 付添看護費(入院付添看護費、通院付添看護費、将来の付添看護費、雑費等)
- 入院雑費(通常入院雑費、将来の雑費等)
- 通院交通費(被害者本人の通院交通費、付添人の交通費等)
- その他積極損害(医師への謝礼、装具・器具購入費、家屋・自動車等改造費等)
- 弁護士費用
- 休業損害
- 後遺障害による逸失利益
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 物的損害(車両修理費、代車料等)
損害項目ごとに資料を収集し、損害額を確定します。
弁護士が就いている場合は、以下のいずれかの基準(弁護士基準・裁判基準)を用いて、損害額を算定します。
- 日弁連交通事故相談センター東京支部編 民事交通事故訴訟 損害賠償算定基準 上巻
- 日弁連交通事故相談センター編 交通事故損害額算定基準
示談交渉の開始~示談成立|2~3か月程度
損害額が確定したら、示談交渉を開始します。
交渉がスムーズに進む場合は、交渉開始から2~3か月程度で示談が成立します。
ただし、当事者の過失割合に争いがある場合や被害者に後遺障害が残る場合は、交渉が長期化する傾向があります。
示談成立~示談金の振込|2~3週間程度
示談が成立したら、示談書を作成します。示談書の形式は、当事者双方が記名押印する示談書の形式をとる場合と、被害者のみが記名押印する免責証書の場合があります。
当事者双方に弁護士が就いている場合は示談書の形式をとることが多く、被害者側のみに弁護士が就いている場合は、保険会社が免責証書を作成するのが一般的です。
示談成立から示談金が振り込まれるまでの期間は概ね2~3週間です。
交通事故の示談交渉にかかる期間と流れ|③死亡事故の場合
ここでは、死亡事故の示談交渉にかかる期間と流れについて解説します。
事故発生~示談交渉の開始|1~2か月程度
死亡事故の場合は、理論的には事故発生時に損害が確定しているため、事故後いつでも示談交渉を開始できますが、四十九日等が済んでから行うのが一般的です。
死亡事故で請求し得る損害項目は、主に以下のとおりです。
- 死亡慰謝料
- 死亡に伴う逸失利益
- 葬儀費用
- 弁護士費用
事故発生から死亡までに入院期間等があった場合、以下の損害項目も請求できます。
- 治療費関係(治療費、治療器具・薬品代等)
- 入院付添看護費
- 入院雑費
- 付添人の交通費等
損害項目ごとに資料を収集し、損害額を確定します。
示談交渉の開始~示談成立|2~3か月程度
損害額の算定後、示談交渉を開始します。
交渉がスムーズに進む場合は、交渉開始から2~3か月程度で示談が成立します。
ただし、ご遺族の気持ちの整理に時間を要する場合や、加害者への処罰感情が強い場合は、交渉が長引くこともあります。
示談成立~示談金の振込|2~3週間程度
示談が成立したら、示談書を作成します。示談書の形式は、加害者と被害者の相続人が記名押印する示談書の形式をとる場合と、被害者の相続人のみが記名押印する免責証書の場合があります。
当事者双方に弁護士が就いている場合は示談書の形式をとることが多く、被害者側のみに弁護士が就いている場合は、保険会社が免責証書を作成するのが一般的です。
示談成立から示談金が振り込まれるまでの期間は概ね2~3週間です。
交通事故の示談交渉の期間が長引くのはどんなとき?
ここでは、示談交渉が長引く可能性があるケースについて解説します。
以下のような場合は、示談交渉が長引く可能性があります。
- 治療期間が長期にわたる
- 後遺障害等級認定の結果に納得がいかない
- 過失割合に争いがある
- 加害者が無保険である
- 遺族の気持ちの整理に時間が必要である
示談交渉が長引く理由の詳細やその対応策については、下記関連記事をご参照ください。
交通事故の示談成立までの期間に損害額の内金を受け取れる制度
通常、示談金を受け取れるのは示談が成立してからです。
しかし、交通事故の被害に遭うと、働けなくなって収入が途絶えたり、治療費がかさんだりして、経済的に困窮するリスクを抱えます。
このようなリスクから被害者を救済するために、示談成立前にまとまったお金を受け取れる制度がいくつかあります。
ここでは、交通事故の示談成立前に損害金の内金を受け取れる制度を解説します。
自賠責保険の仮渡金制度
自賠責保険には、仮渡金(かりわたしきん)制度があります。
仮渡金とは、事故に遭った当初に、加害者側から当座の費用のための支払いが受けられず、まとまった現金が必要な被害者が自賠責保険に対して請求できる制度です。
名前のとおり、仮に渡すお金であるため、治療が終了したり、損害が確定したりした後は、その損害賠償額との過不足を精算することになります。
仮渡金の額は、被害の程度によって下表のとおり定められています。
死亡の場合 |
290万円 |
|
---|---|---|
傷害の場合 |
・入院14日間以上で、かつ治療期間が30日以上の負傷 ・脊柱の骨折で脊髄を損傷したと認められる負傷 ・内臓の破裂で腹膜炎を併発した負傷 ・大腿骨や下腿骨の骨折 など |
40万円 |
・入院を要する治療期間30日以上の負傷 ・内臓の破裂を被った負傷 ・上腕骨や前腕骨の骨折 など |
20万円 |
|
治療期間11日以上の負傷 |
5万円 |
ただし、仮渡金制度を利用すると、一括対応の対象から外れます。
不足分はあとから請求できるものの、治療費を立て替える必要がある点に注意が必要です。
自賠責保険の被害者請求
被害者請求とは、加害者が加入している自賠責保険会社に対し、損害賠償金を直接請求する制度です。自賠責法16条に規定された制度であることから、法16条請求とも呼ばれます。
任意保険会社との示談交渉が長引きそうなケースでは、被害者請求をすることで、より早く賠償金を受け取れます。
ただし、以下のとおり支払限度額が定められています。
- 傷害の場合:120万円
- 後遺障害の場合:等級に応じて75万~4,000万円
- 死亡の場合:3,000万円
被害者請求を行うと、一括対応が打ち切られる点に注意が必要です。不足分はあとから請求できるものの、治療費を立て替える必要があります。
任意保険会社に対する内払い・仮払い請求
加害者が加入している任意保険会社に対しても、損害額の一部を内払い・仮払い請求できる可能性があります。
すべての保険会社が対応しているわけではありませんが、以下の費用の内払いまたは仮払いを求める交渉がなされるケースはよくあります。
- 治療費
- 休業損害
- 通院費用
交通事故の示談までの期間をストレスなく過ごすために弁護士のサポートを!
ここでは、交通事故の示談交渉を弁護士に依頼するメリットを解説します。
事故対応のストレスから解放されて治療に専念できる
事故による怪我で体調が優れない中で、加害者側の保険会社とやり取りをしなければならないことにストレスを感じる被害者の方は少なくありません。
交通事故の示談交渉は、資料集めだけでもかなりの時間や労力がかかります。
弁護士に依頼すれば、資料集めや保険会社との面倒な交渉を全て任せられるため、ストレスから解放され、治療に専念できます。
後遺障害等級認定のために必要な助言を得られる
治療しても完治しない症状が残る場合には、後遺障害等級の認定を受けられる可能性があります。後遺障害等級認定の申請は、被害者本人で行うことも可能ですが、後遺障害を認めてもらうための資料集めに手間や負担がかかります。
弁護士に示談交渉を依頼すれば、後遺障害等級認定の申請手続きを代行してもらえます。
認定を受けやすくなるための治療方法や通院頻度、治療期間、検査方法などのアドバイスも受けられるでしょう。
示談金の増額が期待できる
弁護士に依頼すれば、示談金の増額が期待できます。
相手方保険会社は、損害額の算定に自社独自の支払い基準(任意保険基準)を用います。
任意保険基準は、最低限の補償を目的とする自賠責基準よりは若干高くなりますが、弁護士基準(裁判基準)よりも低いです。
弁護士に依頼すれば、過去の裁判例をもとにした基準で損害額を算定してもらえるため、示談金の増額が期待できます。
早期解決が見込める
保険会社としては、被害者に支払う保険金をなるべく低く抑えたいと考えています。そのため、示談交渉では、被害者が納得できない金額が提示されることも少なくありません。
保険会社が強固な態度を貫き、被害者が納得できない状況が続けば、解決までの期間が長引くおそれがあります。
弁護士に依頼すれば、早期解決が期待できます。十分な証拠を示して裁判例に近い損害額を提示すると、保険会社も時間や費用をかけて裁判するよりは交渉での解決した方が良いと考える傾向にあるからです。
まとめ
交通事故の示談交渉にかかる期間は、事故の状況や受傷・治療状況によって異なります。
示談交渉を開始してから2~3か月程度で成立するケースが多いですが、当事者の意見が対立する場合は、半年から1年以上かかることもあります。
示談にかかる期間や手間を少しでも減らしたい場合は、弁護士への依頼を検討してみましょう。弁護士に依頼すれば、スムーズな解決が望めるだけでなく、示談金の増額等も期待できます。