交通事故の慰謝料を受け取れるのは、通常、示談が成立してからです。
しかし、交通事故の被害に遭うと、事故による怪我の治療のため休業を余儀なくされたり、治療費が嵩んだりして経済的に困窮することもあるでしょう。
そのような場合、交通事故の慰謝料を前払いしてもらえるのでしょうか?
交通事故被害者を経済的リスクから救済するために、示談成立前にまとまったお金を受け取れる制度がいくつかあります。
この記事では、交通事故の示談成立前に慰謝料を含む損害金の内金を受け取れる制度を解説します。
目次
慰謝料を前払いしてもらう方法|①自賠責保険への被害者請求
ここでは、自賠責保険の被害者請求について解説します。
被害者請求とは
被害者請求とは、加害者が加入する自賠責保険会社に対し、損害賠償金の支払いを直接請求する制度です。自賠責法16条に規定された制度であることから、法16条請求とも呼ばれます。
被害者請求をすれば、慰謝料を含めた損害賠償金の全部または一部を、示談成立を待たずに受け取れます。
被害者請求に必要な書類
被害者請求に必要な書類は以下のとおりです。
- 自動車損害賠償責任保険 保険金支払請求書兼支払指図書
- 診断書または死亡検案書(死亡診断書)
- 戸籍謄本(死亡の場合)
- 交通事故証明書
- 事故発生状況報告書
- 診療報酬明細書
- 通院交通費明細書
- 付添看護自認書または看護料領収書
- 自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書
- 休業損害証明書または確定申告書(控)等
- 請求者の印鑑証明書
- 委任状および委任者の印鑑証明書(第三者に委任する場合)
加害者側の自賠責保険会社に連絡すれば、書類一式を送付してもらえます。
必要書類が揃ったら、加害者側の自賠責保険会社を介して損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所に提出します。
振込時期
自賠責保険会社から保険金が振り込まれる平均的な期間は、必要書類の提出後おおむね1~2か月程度です。
書類に不備があった場合や損害調査の課程で医療照会が行われる場合などには、更に時間を要することもあります。
利用上の注意点
物損事故は対象とならない
自賠責保険は、自動車の運行によって死傷した被害者が、その人身損害の全部または一部の賠償を受けられるなど被害救済が図れるように、原則としてすべての車両に契約または加入が義務付けられた強制保険です。そのため、物的損害は対象となっていません。
支払限度額が定められている
自賠責保険から支払われる保険金には、傷害・後遺障害・死亡による損害について、以下のとおり、それぞれ支払限度額が定められています。
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支払限度額 |
損害の範囲 |
傷害の場合(死亡に至るまでの傷害も含む) |
120万円 |
・治療関係費 ・休業損害 ・傷害慰謝料 |
後遺障害の場合 |
後遺障害等級に応じて75万~4,000万円 |
・後遺障害慰謝料 ・後遺障害による逸失利益 |
死亡の場合 |
3,000万円 |
・葬儀費 ・死亡本人の慰謝料 ・遺族の慰謝料 ・死亡による逸失利益 |
傷害分による損害は、入通院を通して発生した損害額を補償するものであるため、治療費や休業損害が120万円を超える場合には、自賠責保険から慰謝料の前払いを受けられません。120万円を超える部分は、後日の示談交渉で加害者の任意保険会社(または加害者本人)に請求できます。
被害者に7割以上の重過失があると保険金が減額される
自賠責保険では、被害者に7割以上の重過失が発生していない限り、過失相殺は行われません。
ただし、被害者に7割以上の重過失が認められる場合には、下表の減額割合に基づいて自賠責保険金が減額されます。
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減額割合 |
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後遺障害または死亡事案 |
傷害事案 |
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7割以上8割未満 |
2割減額 |
減額なし |
8割以上9割未満 |
3割減額 |
2割減額 |
9割以上10割未満 |
5割減額 |
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10割 |
自賠責保険金は支払われない |
傷害による損害額が20万円未満の場合は減額されず、減額により20万円以下となる場合は一律20万円となります。
損害額が支払い限度額を超える場合には、支払限度額から減額されます。
一括対応が解除される可能性がある
加害者が任意保険に加入している場合、任意保険会社が自賠責保険部分を立て替えて任意保険と併せて被害者に損害を賠償できます。これを一括対応(一括払い)と呼びます。
被害者請求を行うと任意保険会社が一括対応を解除することがあるため、その一環でなされていた治療費の内払い(医療機関への直接支払い)も打ち切られる可能性があります。
事故による怪我の治療中は、被害者請求を差し控えて一括対応を続けてもらう方が被害者に簡便な場合もあるので、被害者請求のタイミングは慎重に検討しましょう。
ご自身での判断が難しい場合や手続きに不安がある場合は、当事務所の初回無料相談をご活用いただき、弁護士にご相談ください。
慰謝料を前払いしてもらう方法|②自賠責保険の仮渡金制度の利用
ここでは、自賠責保険の仮渡金制度について解説します。
仮渡金制度とは
仮渡金制度とは、被害者の治療費や生活費などの当座の出費にあてられるよう、自賠責保険に対し、損害賠償額の中から仮に渡してもらうお金を請求できる制度です。
仮渡金の額は、被害の程度によって下表のとおり定められています。
傷害の場合 |
A 以下の傷害を受けた場合 ・脊柱の骨折で脊髄を損傷したと認めらえる症状を有するもの ・上腕または前腕の骨折で合併症を有するもの ・大腿または下腿の骨折 ・内臓の破裂で腹膜炎を併発したもの ・14日以上の入院を要する傷害で、医師の治療を要する期間が30日以上のもの |
40万円 |
B 以下の傷害を受けた場合(Aに該当する場合を除く) ・脊柱の骨折 ・上腕または前腕の骨折 ・内臓の破裂 ・入院を要する傷害で、医師の治療を有する期間が30日以上のもの ・14日以上の入院を要する傷害 |
20万円 |
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C 11日以上医師の治療を要する傷害(AとBを除く) |
5万円 |
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死亡の場合 |
290万円 |
仮渡金請求に必要な書類
仮渡金請求に必要な書類は以下のとおりです。
- 仮渡金支払請求書
- 交通事故証明書
- 事故発生状況報告書
- 診断書または死亡検案書(死亡診断書)
- 請求者の印鑑証明書
- 委任状および委任者の印鑑証明書(第三者に委任する場合)
加害者側の自賠責保険会社に連絡すれば、書類一式を送付してもらえます。
必要書類が揃ったら、加害者側の自賠責保険会社を介して損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所に提出します。
振込時期
自賠責保険会社から仮渡金が振り込まれる平均的な期間は、必要書類の提出後おおむね1週間程度です。書類に不備があった場合などには、それ以上かかることもあります。
利用上の注意点
支払われた仮渡金が確定損害額を上回る場合は返還義務がある
仮渡金制度は、その名の通り、仮に渡すお金です。
支払われた仮払金が確定した損害賠償額を超える場合には、その超えた額を返還しなければなりません。
被害者請求を先行した場合は仮渡金が受けられないこともある
仮渡金は、自賠責保険金の支払限度額の枠内で支払われます。
そのため、傷害による損害について、治療費や休業損害として既に支払われた自賠責保険金が120万円に達している場合には、仮渡金は請求できません。
一括対応を解除される可能性がある
仮渡金制度を利用すると、任意保険会社が一括対応を解除する可能性があるため、治療費等を立て替えなければならないことがあります。
加害者側の任意保険会社からも慰謝料の前払いは受けられる?
ここでは、加害者側の任意保険会社から慰謝料の前払いを受けられるかどうかについて解説します。
慰謝料の支払時期は示談成立後が原則
加害者側の任意保険会社から交通事故の慰謝料が支払われるのは、原則として示談成立後です。
死亡事故の場合は、理論的には事故発生時に損害が確定しており、事故後いつでも示談交渉を開始できますが、傷害事故の場合は治癒または症状固定後に示談交渉を開始します。
示談交渉にかかる期間については、下記関連記事をご参照ください。
保険会社に内払いを請求しうる損害項目
任意保険会社との交渉次第では、治療費のほか通院交通費や休業損害の内払いを受けられることがあります。
治療に長期間を要する傷害事故などでは、被害者が通院交通費や休業損害をいったん支出することが困難なことも多く、加害者側の保険会社も治療経過や休業期間等を把握できるなどのメリットから、治癒または症状固定までも内払いがなされるのが通例です。
内払いの注意点
加害者側の任意保険会社や加害者本人には、法的に賠償金を内払いする義務はありません。
保険会社の承諾が得られなければ、内払いは受けられません。
以下のような場合には、損害賠償金の内払いに難色を示されることがあります。
- 治療が長期間に及んでいるのに他覚的所見から症状の改善が判然としない場合
- 被害者の過失割合が高い場合
- 症状などから長期間の療養や休業の必要性が認められない場合
被害者が加入する保険会社に慰謝料を前払いしてもらえることもある?
ここでは、被害者が加入する保険会社に慰謝料を前払いしてもらえるかどうかについて解説します。
人身傷害補償保険
人身傷害補償保険は、被保険者が人身事故によって傷害を負った場合に、契約保険金額の範囲内で保険金を支払うことを内容とする実損補填型傷害保険です。
約款所定の基準によって損害額が積算されるため、被害者は自己の過失の有無や割合を気にすることなく損害のてん補を受けられます。
人身傷害補償保険の一般的な補償内容には、以下のとおり慰謝料も含まれます。
被害の程度 |
補償内容 |
入院・通院した場合 |
治療費等の実費、休業損害、慰謝料など |
後遺障害が残った場合 |
治療費等の実費、逸失利益、慰謝料、将来の介護料など |
死亡した場合 |
治療費等の実費、逸失利益、慰謝料、葬儀費用など |
人身傷害補償条項(特約)は、その内容が各保険会社の約款で定められているため、各社で補償内容が異なります。人身傷害補償保険の利用時には、加入している自動車保険の人身傷害補償条項(特約)を事前に確認しましょう。
無保険車傷害保険
無保険車傷害保険とは、無保険車との事故で死亡または後遺障害が生じ、加害者側から十分な補償を受けられない場合に、被害者自身が契約している対人賠償責任保険金額と同額を限度として保険金を受け取れる特約です。当て逃げ、ひき逃げなどで加害者が特定できない場合にも、保険金が支払われます。
無保険車傷害特約で支払われる保険金は、加害者が負担すべき損害賠償金のうち、自賠責保険などの保険金を超える部分に限られます。
後遺障害の残らない傷害にかかる損害は補償の対象外ですが、死亡または後遺障害が生じ、自賠責保険から慰謝料を満足に受けられない場合には、無保険車傷害特約で支払われる保険金でてん補できます。
利用上の注意点
人身傷害補償保険や無保険傷害補償保険により損害のてん補を受けた場合、保険会社は、保険金の支払いの限度で被害者の加害者に対する損害賠償請求権を代位します。
人身傷害補償保険で補償する損害は約定所定の基準により積算されるため、訴訟で認められる損害と異なる場合があります。その場合、誰がどのように請求ないし求償できるかについて見解が複数あり、保険会社間でも対応が異なるので注意が必要です。
まとめ
交通事故で怪我をした場合、その治療のために仕事を休まざるを得ないことがあります。働けない期間が長くなれば、経済的な負担も大きくなるでしょう。
示談交渉が長引きそうな場合や加害者側の任意保険会社から内払いを受けられそうにない場合は、自賠責保険への被害者請求・仮渡金制度やご自身が加入している任意保険の活用を検討してみましょう。
弁護士に依頼すれば、自賠責保険への各種請求に必要な書類の収集・作成や加害者側の任意保険会社との交渉を任せられるため、時間的・精神的負担を軽減できます。示談成立までの期間の短縮や慰謝料を含む損害額の増額も期待できます。
交通事故の慰謝料や治療中の経済負担にお悩みの方は、ぜひ一度ネクスパート法律事務所にご相談ください。