むちうちの治療を受ける際は、通院の頻度など、注意するべきことがいくつかあります。
この点を理解していないと、症状が治癒する前に保険会社に治療費の支払いを打ち切られたり、本来よりも割安な慰謝料で泣き寝入りしてしまったりすることも考えられます。
不意の出費や休職を余儀なくされてしまった以上、金銭面の損失は避けたいところ。
この記事では、上記のリスクを避けるために知っておきたい知識をご紹介します。
交通事故に遭い、むちうちの治療を受けている方はぜひご参考ください。
目次
むちうちの治療
首や肩、背中の痛みなどむちうちの症状が出た場合、治療のためにはどこに通うと良いのでしょうか。
整形外科や整骨院、接骨院などが考えられますが、交通事故によるむちうちの場合はまず整形外科を受診するようにしましょう。
ここでは整形外科と整骨院や接骨院の違いをご説明します。
整形外科
交通事故に遭った場合、まずは事故の大小や怪我の有無に関わらず、必ず整形外科を受診しましょう。その理由は以下のとおりです。
整形外科を受診する理由
- 交通事故よる損傷であることを示す診断書を作成してもらえる
- レントゲン、MRI、CTを使用した検査ができる
- 保険会社は整形外科への通院の有無や頻度を重視している
- 後遺障害等級申請の際に必要となる後遺障害診断書を作成してもらえる
整骨院や接骨院
整骨院や接骨院の通院は、医師に相談し、必要があれば行うようにしましょう。
整骨院などの方が通いやすく、よく施術してくれるという話もあります。しかし、整骨院などは医療機関ではないので、注意が必要です。
整形外科との違い
- 国家資格である柔道整復師がマッサージや温熱・電気療法などの施術を行う
- 柔道整復師は医師の同意がある場合のみ脱臼や骨折の患部の施術ができる
- 検査や診断はできない
- 損傷や経過を示す診断書の作成はできない
むちうちの治療費
交通事故に遭い、むちうちの症状が出て治療のために医療機関等に通院した場合、治療費は誰が負担するのでしょうか。
被害者としては、思いがけない事故により負担を強いられるためご自身で支払いをすることに抵抗がある方もいるでしょう。
ここでは、むちうちの治療費についてご説明します。
治療費の支払い方法について
治療費の支払い方法は以下の3通りです。
- 加害者の任意保険会社が支払う
- 被害者が治療費を立て替える
- 労災保険による支払い
以下で詳しくご説明します。
加害者の任意保険会社による支払い
交通事故の治療費は、加害者の保険会社に請求できます。一般的に加害者の任意保険会社が直接医療機関等に支払うことが多いです。
ただし、治療費と認められる範囲は「必要かつ相当な実費全額」とされています。
すなわち必要性、相当性がないと判断される場合は、過剰診療、高額診療として加害者の保険会社から支払いを拒否されることがあります。
加害者の任意保険会社が直接治療費を支払う際、被害者からの同意書を医療機関等に提出する必要があります。この同意書が得られないと、保険会社は支払いができないため、同意書の提出を求められた場合はすみやかにサインし、提出しましょう。
また、次に当てはまる場合は、任意保険会社の直接払いを行ってもらえないため、被害者が一旦治療費を支払わなければなりません。
- 加害者が任意保険に加入していない
- 加害者が任意保険を利用しない
- 保険会社からの直接支払に医療機関等が対応しない
- 加害者の任意保険会社が支払いを行わない方針とする
- 被害者の過失割合が4割を超える
被害者が治療費を立て替える
加害者の任意保険会社が医療機関等に治療費の支払いを行わない場合、被害者は治療費を立て替えなければなりません。その際は、後日加害者や加害者の保険会社へ請求できるよう必ず領収書を保管しましょう。
また、被害者が治療費を立て替える場合、「自由診療」と「保険診療」を選ぶことができます。
どちらを選んでも追って加害者側に請求できますが、なるべく保険診療での治療をお勧めします。なぜなら、被害者にも過失がある場合、過失に相当する部分については被害者の費用負担となるからです。
しかし、医療機関等によっては、交通事故の治療については保険診療ができないと言われることがあります。
その場合は、健康保険組合や国民健康保険へ「第三者行為による傷病届」を提出しましょう。
この第三者行為による傷病届は、交通事故など第三者の行為による負傷について、健康保険で治療を受けた際に、健康保険組合や国民健康保険から、加害者への求償を可能にするために必要です。
この届出をしていることを医療機関等に伝えれば、保険診療が可能となります。
労災保険による支払い
勤務中や出退勤中の交通事故の場合は、労災保険が利用できます。労災指定病院であれば、治療費は労災保険から直接支払われます。
加害者側の保険会社が治療費を支払わない場合はもちろん、支払われる場合でも労災保険の利用は可能です。
ただし、労災保険で受けた給付分については、重複して保険会社から受け取ることはできません。
被害者が治療費を立て替えた場合の回収方法
立て替えた治療費は、基本的に加害者の任意保険会社へ示談交渉を行う際に請求します。
加害者が任意保険に加入していない、加入していても保険を利用しない場合などは次の方法で回収することが可能です。
- 加害者の自賠責保険に対する被害者請求
- 被害者の人身傷害保険を利用する
以下でご説明します。
加害者の自賠責保険に対する被害者請求
被害者が、加害者の自賠責保険に請求する方法を「被害者請求」といいます。
自賠責保険の支払限度額は治療費・入通院慰謝料・休業損害を合わせて120万円までと決められています。補償の範囲を超えた金額は請求できないので、注意が必要です。
被害者請求の流れは次のとおりです。
1 事故証明書により加害者の自賠責保険会社を確認する
2 加害者の自賠責保険会社から所定の書式を取り寄せる
3 自賠責保険会社へ診断書等の必要書類を提出する
4 自賠責保険会社が損害保険料率算出機構へ書類を回付する
5 損害保険料率算出機構において事故状況・因果関係・損害などを調査する
6 損害保険料率算出機構から自賠責保険会社へ調査結果が報告される
7 調査結果をもとに自賠責会社が支払基準に従って請求者に保険金を支払う
被害者の人身傷害保険を利用する
人身傷害保険とは、交通事故により被保険者とその同乗者が負傷したり亡くなったりした場合に、治療費などの保険金が加入保険会社から支払われる補償制度です。自動車保険の「特約」として付加されているのが通常です。
人身傷害保険は、被保険者の過失割合に関係なく実際の損害額が支給されます。
ただし、加害者側から支払いがあった場合など、重複して受け取ることはできません。
請求できる治療費の内訳
治療費として保険会社へ請求できるものは以下のとおりです。これは自賠責基準における支払基準であり、弁護士介入し、加害者の任意保険会社と交渉のうえ弁護士基準で解決することができれば、増額される場合があります。
- 応急手当費
応急手当に直接かかる必要かつ妥当な実費についての請求が可能です。
- 診察料
初診料、再診料または往診料にかかる必要かつ妥当な実費についての請求が可能です。
- 入院料
原則として普通病室への入院に必要かつ妥当な実費が請求可能です。しかし、医師の指示や症状が重篤であったり、空室がなかったりなどの特別な事情がある場合は特別室使用料を請求できることがあります。
- 投薬料・手術費・処置料
治療のために必要かつ妥当な実費についての請求が可能です。
- 交通費(通院費、転院費、入院費又は退院費)
バスや電車などの公共交通機関を利用して医療機関等に通院した場合は、全額請求できます。
自家用車で通院した場合は、駐車場代やガソリン代(15円/1㎞)を請求できます。
しかし、タクシー利用については、症状により歩行が困難な状態であったり、公共交通機関の利用が極めて不便であったりなどやむを得ない事情でタクシー利用が相当とされる場合のみしか支払われないことがあるので注意が必要です。
- 看護料
入院中の看護料について、原則として12歳以下の子供に近親者などが付き添った場合は1日4200円の請求が可能です。
また、自宅看護料や通院看護料については、医師が看護の必要性を認めた際に職業付添人に支払った実費全額が、近親者などが付き添った場合は1日2100円の請求が可能です。なお、12歳以下の子供の通院等に近親者などが付き添った場合は医師の証明は不要です。
- 諸雑費
入院中の日用品やテレビカードの購入代金などの諸雑費については、入院1日につき1100円の請求が可能です。領収書などの立証資料により1日1100円を超えることが明らかな場合は必要かつ妥当とされる実費相当分が支払われることもあります。
通院または自宅療養中の諸雑費についても必要かつ妥当と判断されれば実費相当分を請求できます。
- 柔道整復等通院費用
症状により有効かつ相当な場合で、特に医師の指示がある場合は保険会社において支払がなされる傾向にあります。
しかし、医師の指示がないにもかかわらず自己判断により針灸治療やマッサージなどの施術を受けた場合に治療費と認められないことがあるので、注意が必要です。
- 義肢等の装具費用
医師が身体の機能を補完するために必要と認めた義肢、歯科補てつ、義眼、眼鏡、コンタクトレンズ、補聴器、松葉杖等の用具についての制作や修繕、再調達に必要かつ妥当な実費を請求できます。ただし、眼鏡とコンタクトレンズの費用については、5万円が限度とされています。
- 診断書発行手数料
診断書、診療報酬明細書などの発行に必要かつ妥当な実費を請求できます。
(参考)自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準|国土交通省
むちうちの治療期間
交通事故が原因でむちうち症状が現れ、治療から数カ月経っても治まらないといって永遠に加害者の保険会社が治療費を支払ってくれるわけではありません。
交通事故に関する解決のためには、被害者の治療に区切りをつける必要があります。
治療の区切りは以下のタイミングで行われます。
- 治癒
- 症状固定
ここでは、むちうちの治療期間についてご説明します。
交通事故の平均的な治療期間
交通事故によるむちうちは、一般的に1~3ヶ月程度で治癒すると言われています。
しかし、衝撃の強さ、衝撃を受けた時の姿勢、年齢などによっては、半年や1年以上に渡って症状に悩まされる場合があります。半年以上治療を継続しても症状が変わらなければ、「症状固定」として後遺障害の等級認定申請を検討する必要があります。
症状固定とは
症状固定とは、治療を継続してもその効果が見込まれず症状の改善がない状態のことを指します。
交通事故によるむちうちの場合、治療開始から6ヶ月が症状固定の目安になります。
加害者の保険会社が治療費を医療機関等に直接支払っている場合、症状固定日までは対応してくれますが、それ以降の支払いは打ち切られ、すべて自己負担となります。
症状固定を治療の区切りとするのは、症状固定日の前後で賠償の種類を区別して算出するためです。
損害賠償の区分上、以下のように請求できる項目が異なります。
- 症状固定前:傷害分
治療費・休業損害・入通院慰謝料
- 症状固定後:後遺障害分
後遺障害逸失利益・後遺障害慰謝料
症状固定後に残った症状がある場合は、後遺障害等級の認定申請を行い、認定を受けることができれば、後遺障害分を請求することになります。
症状固定日を決めるのは、後遺障害診断書を作成する医師です。
しかし、加害者の保険会社が早期解決や保険金の支払いを抑えるために治療費の打ち切りや早めに症状固定を促してくることがあります。
ご自身の症状や経過に合わせた治療をしてもらうためにも、症状固定時期については医師と相談のうえ決めましょう。
通院時の注意点
むちうちの症状が長引き、後遺障害等級の認定申請を行う場合に備えて、以下の点に注意して通院しましょう。
- レントゲン撮影やMRI撮影による検査を受ける
- 医師へ症状について具体的かつ正確に伝える
- 医師へ症状に一貫性があるように伝える
- 整骨院等で並行して施術を受ける際も最低月1回は継続して整形外科を受診する
治療期間別|むちうちの慰謝料相場
交通事故に遭い、むちうちの症状が出た場合でも慰謝料の請求ができます。
被害者は、むちうちの症状による痛みで精神的苦痛を感じることはもちろん、治療のために入通院することにも精神的苦痛を感じることでしょう。
慰謝料はこれらの精神的苦痛を和らげたり、取り除いたりするために請求します。
慰謝料は治療期間によって相場が変わります。
また、慰謝料の算定には次の3つの基準があります。
- 自賠責基準
- 任意保険基準
- 弁護士基準
それぞれの相場は以下のとおりです。
自賠責基準
自賠責保険の慰謝料は、1日4300円と決まっています。
基本的な算定方法は、4300円×通院日数です。
通院日数とは、被害者の傷害の態様や実治療日数などの事情を考慮して計算されます。多くは実際に通院した日数を2乗した日数と治療開始日から治療終了日までの総日数の少ない方が採用されます。
具体的には以下の図のとおりです。
なお、入院期間がある場合は、増額する場合があります。
任意保険基準
任意保険基準の金額は、示談交渉の際に加害者の任意保険会社が提示してくる金額です。
各保険会社により基準は様々ですが、自賠責基準と同等または少し上回る金額が想定されます。
しかし、平成11年に撤廃された任意保険基準を受け継いで設定している保険会社が多くみられるため、ここでは旧任意保険基準を以下でご紹介します。
なお、入院期間がある場合は、増額されます。
弁護士基準
弁護士基準で算出した場合の慰謝料は以下のとおりです。
自賠責基準や任意保険基準にくらべて高額になることがわかります。
なお、入院期間がある場合は、増額されます。
むちうちの治療打ち切り
治療費が打ち切られやすいケースには、以下のような場合が挙げられます。
- 通院頻度が少ない
- 治療内容が簡易
- 車両の損傷の程度が明らかに軽微
また、治療終了は医師や治療費を支払っている保険会社から促される場合があります。
ここでは治療打ち切りの打診があった場合の対応方法をご説明します。
医師に治療終了と言われたら
通院先の医師により検査結果などから治療終了を打診されることがあります。
症状が治癒していれば、医師の判断に従って治療を終了し、加害者の任意保険との交渉を開始して問題ありません。しかし、痛みなどの症状がある場合は、治療継続や通院期間によっては後遺障害診断書の作成について相談する必要があります。
保険会社から治療終了と言われたら
一般的にむちうちの治療期間が1~3ヶ月程度と言われているため、治療から3ヶ月頃が経つと加害者の任意保険会社から治療費の支払いを打ち切るという連絡や治療を終了するように促されることがあります。
症状があり、治療を継続することで回復の見込みがある場合は、医師に症状固定がいつになるかを確認し、その診断結果などを説明しながら治療費の支払いを延長してもらえるよう交渉する必要があります。
治療継続の医師の判断にもかかわらず保険会社から治療費を打ち切られたら
治療を続ける必要があるとの医師の判断を伝えたにもかかわらず、加害者の任意保険会社から治療費を打ち切ると言われた場合は、健康保険などを利用して自費で治療継続することになります。
この場合、治癒ないし症状固定後、あらためて加害者の保険会社へ請求することになります。
ただし、負担した治療費が必ず支払ってもらえるとは限りません。治療継続が必要かつ妥当と判断してもらう必要があります。正当な判断を得るために裁判となることもあります。
まとめ
むちうちの治療期間は、一般的に1~3ヶ月と言われていますが、衝撃の強さや衝撃を受けたときの姿勢、年齢によっては、治癒までに半年や1年以上を要する場合があります。
半年以上治療を継続しても改善が見込まれない場合は、症状固定として治療に区切りをつける必要があります。
交通事故でむちうちになり、治療費について困りごとが生じた場合、弁護士に依頼することで以下のようなメリットがあります。
- 加害者の任意保険会社との示談交渉での解決金を増額できる
- 後遺症が残った場合に後遺障害等級認定申請手続を代わりに対応する
- 治療費の打ち切りを打診された際に保険会社から治療継続が認められることがある
- 自費で通った治療費を請求する際にスムーズに対応してくれることがある
- 治療費の必要性かつ妥当性を争う場合、医学的根拠をもとに裁判手続ができる
納得のいく解決を得るためにも、なるべく早い時点で弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。