
交通事故によるむちうちでは、後遺障害等級14級と12級の違いによって、受け取れる慰謝料や逸失利益を含む損害賠償金が大きく変わることがあります。
しかし実際には、
- むちうちの後遺障害等級14級と12級の違いがわからない
- 症状があるのに後遺障害14級にしか認定されなかった
- むちうちで本当は12級の可能性があったのではないか
と悩まれる方も少なくありません。
この記事では、交通事故によるむちうちの後遺障害等級14級と12級の違いを、①症状、②認定条件、③慰謝料・逸失利益を中心とした損害賠償額の目安、の3つに分けてわかりやすく解説します。
ぜひ最後までご覧ください。
目次
一目でわかる|むちうちの後遺障害等級14級と12級の違い
むちうちの後遺障害14級と12級を判断するうえで、特に重視されるポイントの一つが、【医学的に説明できるか/証明できるか】です。
むちうちで後遺障害14級と12級のどちらに該当するのかは、症状の重さそのものだけでなく、医学的にどこまで証明できるかで判断されます。
| 項目 | 14級9号 | 12級13号 |
|---|---|---|
| 定義 | 局部に神経症状を残すもの | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
| むちうちの後遺障害認定率(目安) | 2%程度 | 1%未満 |
| 認定の要件 | 症状の医学的な説明が可能(自覚症状と事故状況・治療経過との整合性) | 症状の医学的な証明が可能(画像所見+神経学的検査の異常) |
| 後遺障害慰謝料(弁護士基準) | 110万円 | 290万円 |
| 賠償金総額の目安 | 200万円~350万円程度 | 600万円~1,000万円程度 |
この説明(推定)と証明の違いが、事案によっては最終的な賠償額に大きな差を生じさせる要因となることがあります。
慰謝料・逸失利益|むちうち後遺障害14級と12級の差がわかる例
「等級が2つ違うだけで、本当にそんなに金額が変わるのか?」
と疑問に思う方もいるかもしれません。
実際のケースを想定して計算してみます。

- 被害者:40歳・男性・会社員
- 年収:500万円
- 過失なし
この男性の場合、後遺障害14級9号と12級13号とで、約663万円の差が生じる可能性があります。

(なお、労働能力喪失期間を、14級は5年間、12級は10年間として計算した試算例です。)
このような差額が生じ得ることから、症状の実態に見合った後遺障害等級が適切に評価されることが重要になります。
逸失利益の具体的な計算方法について知りたい方は、以下の記事を合わせてご参照ください。
むちうちの後遺障害12級13号を獲得するための3つの医学的条件
むちうちで12級13号が認定されるケースは多くなく、実務上も認定のハードルは高いとされています。
以下の3点が、特に重要な判断要素として重視される傾向があります。
- MRI画像での他覚的所見 – 神経学的検査での陽性所見 – 症状の一貫性と常時性
以下、詳しく解説します。
① MRI画像での他覚的所見
12級13号では、MRI画像で確認できる他覚的所見が重要になります。
たとえば、単にヘルニアがあるだけでは足りないケースもあります。
原則として、事故による衝撃で飛び出したヘルニアなどが、神経根(神経の根本)を圧迫していることがMRI画像上で確認できると、12級13号の認定がされやすくなります。
ただし、画像上の所見が加齢による変性(経年変化)と判断された場合は、事故との因果関係が否定され、認定が難しくなる場合があります。
② 神経学的検査での陽性所見
画像による他覚的所見だけでなく、神経学的検査での陽性所見(異常あり)も重要です。
特に重視されるのが、以下の3つの検査です。
ジャクソンテスト・スパーリングテスト
ジャクソンテスト・スパーリングテストは、神経の圧迫による症状を誘発するための検査です。

頭を後ろに反らせたり(ジャクソン)、首を左右に傾けたり(スパーリング)した状態で、医師が頭の上から圧迫を加えます。
首が痛いだけでなく、手や腕の先までビリッと電気が走るような痛み(放散痛)が生じた場合に陽性とされます。
深部腱反射テスト(DTR)
深部腱反射テスト(DTR)とは、患者の意思とは無関係な体の反射を見ることで、神経のダメージを測る検査です。

ゴムハンマーで肘や膝の腱を軽く叩きます。
通常は叩くと腕や足がビクッと動きますが、神経の障害がある場合、この反射が消失(まったく動かない)したり、低下(動きが弱い)したりすることがあります。
これが、12級13号の認定を検討するうえで重要な他覚的所見の一つとなります。
筋萎縮(きんいしゅく)検査
筋萎縮(きんいしゅく)検査とは、神経麻痺の影響が筋肉に出ているかを確認する検査です。

両腕(上腕や前腕)の太さをメジャーで計測し、左右差を比べます。
神経が圧迫され続けると、その先の筋肉が使われにくくなり、痩せて細くなります。
患側(事故でけがをした側)の腕が明らかに細くなっている場合、長期的な神経障害を裏付ける有力な資料となる可能性があります。
③ 症状の一貫性と常時性
症状の一貫性と常時性が重要です。
症状の一貫性
症状の一貫性とは、事故直後から同じ部位の同じ症状が継続しているかです。
- 事故直後から首や肩の痛みが続いているか
- 治療を続けてもなお残存する頑固な症状か
- 時間の経過や日常生活で症状の変動が大きくないか
例えば、事故後すぐに痛みが出たが数週間でほとんど消えた場合、一貫性は低く評価される可能性があります。一方、事故後から継続的に痛みがある場合は、一貫性が高いと判断されやすいです。
症状の常時性
症状の常時性とは、日常生活の中で症状が常に存在するかです。
- 朝起きたときから首や肩が痛む
- 仕事中や家事の最中も症状がある
- 雨の日や特定の動作だけでなく、日常的に痛みやしびれを感じる
例えば、雨の日だけ痛む場合は常時性が低く評価される可能性がありますが、日常生活で常に痛みやしびれがある場合は常時性が高いと判断されやすいです。
実務的なアドバイス
通院の際には、以下のことを意識しましょう。
- 通院日記や痛みの記録を毎日つける
- 痛みやしびれの状態を正確に医師に伝える
むちうちの後遺障害14級9号が簡単ではない理由|認定率は約2%
「痛みが残っていれば、最低でも14級は認定されるだろう」
そう考える方は多いですが、現実は非常にシビアです。
損害保険料率算出機構の統計データによると、後遺障害の申請を行った総件数のうち、14級の認定率は約2%前後、12級の認定率は1%未満とされています。
つまり、統計上は、適切な医学的資料が十分に整っていない場合には、申請者の多くが非該当となっているのが現実です。
適切な認定を受けるためには、単に痛みを訴えるだけでなく、医学的な証拠を積み上げる対策が重要です。
認定を受けやすくするためには、通院や治療経過の記録を丁寧に残すことが推奨されます。
むちうちの後遺障害14級9号の認定に向けた通院の3つの鉄則
適切な等級認定を獲得するためには、認定基準を押さえた正しい通院が大切です。
ここでは、通院時の3つのポイントを紹介します。
① 整形外科への通院をベースにする
認定されない原因の一つとして、整骨院(接骨院)のみに通院しているケースが挙げられます。
等級認定の申請に必要な後遺障害診断書は、原則として医師が作成する必要があります。 しかし、整骨院(接骨院)の施術者は医師ではありません。
整骨院(接骨院)に通う場合でも、最低月1〜2回は整形外科を受診することが望ましいと考えられます。
② 適切な期間・頻度で通院を継続する
むちうちで後遺障害(神経症状)が認められるには、治療を尽くしたが十分に回復しなかったという経過が必要です。
一般的な目安は、以下のとおりです。
- 期間:事故から最低6か月以上 – 頻度:週2〜3回程度
これらはあくまで目安であり、症状により個人差があります。医師の指示に従い適切に通院しましょう。
③ 医師に痛みを正しく伝える
医師への症状の伝え方も重要です。
カルテに正確な情報が残ることで、適切な等級が認定される可能性が高まります。
症状は一貫して、かつ具体的に伝えることが大切です。
むちうちで後遺障害14級から12級に上がるのは可能?|異議申立て
「認定結果は14級だったが、症状の辛さからすれば12級が妥当ではないか?」
「画像を見落とされているのではないか?」
一度認定された等級に納得がいかない場合、異議申立て手続きを行うことで、認定結果が覆る可能性もあります。
ハードルは高いものの、医学的な立証を補強することで逆転認定されるケースはあります。
異議申立てとは?
異議申立てとは、自賠責保険(正式名称:自動車損害賠償責任保険)の後遺障害等級認定について、認定結果の再審査を求める手続きです。
審査には損害保険料率算出機構が関与します。
ただし、単に納得がいかないと訴えるだけでは結果は変わりません。
前回の審査で、なぜ12級が否定されたのかを分析し、それを覆すだけの新たな医学的証拠を提出する必要があります。
後遺障害14級から12級へ上げるための3つの対策
後遺障害14級から12級への変更を目指す場合、実務上は以下の3つのアプローチが有効と考えられます。
① MRI画像の再鑑定
初回の審査では、【異常なし】などと判断された画像でも、脊椎や脊髄などに詳しい専門医が詳細に見直すことで、見落とされていた神経圧迫が発見されることがあります。
画像所見が新たに認められれば、12級認定が検討される余地が広がることがあります。
② 不足していた検査の追加実施
認定時に、神経学的検査(深部腱反射や筋萎縮検査など)が行われていなかった、あるいは記載が不十分だったケースです。
改めて検査を行い、他覚的な神経症状の存在を証明する検査結果を提出します。
③ 医師による医学意見書の添付
主治医に依頼し、「なぜこの患者の症状が、画像所見や検査結果と一致するのか」を医学的に解説した意見書を作成してもらいます。
診断書だけでは伝わりきらない症状の整合性を、医師の言葉で補強することで、認定結果に影響を与える場合があります。
諦めないことが重要
一度14級と認定されると、「これ以上の対応は難しいのではないか」と感じ、追加の手続きを検討されない方も少なくありません。
しかし、専門家の視点で資料を見直せば、本来評価されるべき証拠が埋もれていることは珍しくありません。
12級と認定されれば、事案によっては賠償額が大きく増額する可能性があります。
12級の可能性が考えられる場合は、示談する前に一度、交通事故に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士費用が心配な方へ|費用倒れのリスクを減らす弁護士特約
弁護士費用特約がある場合には、費用負担が軽減されます。 弁護士費用特約とは、弁護士に支払う費用をあなたが加入する保険会社が代わりに支払うサービスです。
弁護士費用特約には上限が設定されているのが一般的です(例:弁護士費用300万円、法律相談料10万円など)。契約内容によって異なるため、ご自身の保険約款で確認しましょう。
弁護士費用特約が利用できれば、費用を気にすることなく、弁護士に依頼が可能です。
まとめ
むちうちの後遺障害等級14級と12級の違いは、単なる数字の差ではありません。 認定要件・賠償金額において、以下のような違いがあります。
- 医学的根拠:説明できる(14級)か、証明できる(12級)か – 賠償金額:数百万円程度の差が生じる可能性
むちうちの後遺障害が残り、今後の後遺障害等級認定に不安がある方は、一度弁護士にご相談ください。
ネクスパート法律事務所では、交通事故事案に強い弁護士が多数在籍しています。
初回相談は30分無料です。ぜひ一度ご相談ください。
