
学生が交通事故の被害に遭ったら、被害者である学生本人やその保護者は、将来への影響を懸念することでしょう。
学生が交通事故により後遺障害を負うと、望む職業に就けなかったり収入に影響が出たりする可能性も否定できないため、「被り得る損害もきちんと補償してほしい」と考えるのは当然のことです。
この記事では、学生が交通事故に遭ったら逸失利益を請求できるか、詳しく解説します。
逸失利益の基礎知識や計算方法、請求時の注意点なども解説しますので、学生の逸失利益を適正に評価してほしいとお考えなら、ぜひご一読ください。
目次
交通事故で問題となる学生の逸失利益とは
逸失利益とは、交通事故に遭わなければ被害者が将来にわたって得られるはずだった収入を失ったことを指します。
社会人であれば給与明細や源泉徴収票、確定申告書などで被害者の実際の収入を証明できます。しかし、学生の場合はまだ就業していないため、現実の収入実績がない、もしくはアルバイト程度の収入実績しかないケースが多いです。
「現実の収入実績がないから学生の逸失利益は認められないのでは」と思うかもしれませんが、学生には将来的に就労して収入を得る蓋然性が認められています。そのため、収入実績がなくても逸失利益が認められる可能性があります。
もっとも、学生だからといって当然に将来就労して収入を得る蓋然性が認められるわけではなく、交通事故に遭った時点で労働能力があったことを立証しなければなりません。現実の収入実績もないことから、将来得られるはずの収入(基礎収入)をどのように算出するかも問題となりやすいです。
この将来得られるはずの収入を高く評価できるかどうかで、受け取れる逸失利益に差が生じます。したがって、どのような学歴や職種を想定しているのか、資格取得の可能性はあるかなど、個別の事情を細かく説明・証明できるかが重要なポイントとなります。
学生の逸失利益が認められるケース
学生の逸失利益が認められるのは、以下の2つのケースに該当する場合です。
- 後遺障害等級の認定を受けた場合
- 死亡した場合
以下で、詳しく解説します。
後遺障害等級の認定を受けた場合
後遺障害等級の認定を受けた場合に逸失利益が認められます。
交通事故により後遺障害が残り、身体の自由が制限されたり視力や聴力に障害が出たりすると、就職先の選択肢が狭まったり特定の職業に就くことが難しくなったりするかもしれません。逸失利益は、そのような後遺障害による労働能力の低下に伴う経済的損失を補償するために支払われます。
後遺障害による影響を具体的に証明して、将来の働き方に与えるマイナス面を適切に主張することが求められます。
なお、後遺障害等級とは、交通事故による後遺症をその種類と症状の程度に応じて分類したものです。1〜14等級まであり、数字が小さくなるほど重度の障害を意味します。
後遺障害等級の認定を受けることで、労働能力がどの程度低下したのか、客観的に判断しやすくなります。
もっとも、後遺障害等級は、申請すれば必ず認定されるものではありません。医師が作成する後遺障害診断書や検査結果などから厳密に審査されるため、等級認定に有利となる資料を揃えられるかどうかが重要なポイントです。
後遺障害等級は後述する労働能力喪失率にも影響を与えますので、適正な等級に認定されるよう入念に準備しましょう。
後遺障害等級認定の申請手続きについては、以下関連記事で詳しく解説しています。
死亡した場合
死亡した場合も逸失利益が認められます。
交通事故により死亡した場合、将来にわたって就労できませんから、生存していれば得られたはずの収入が得られません。逸失利益は、そのような死亡による経済的損失を補償するためにも支払われます。
死亡逸失利益は、被害者が就労可能期間の満了まで生存していたならば得られたはずの収入から、かかるはずだった生活費を控除して計算されます。
逸失利益の計算方法と重要な要素
逸失利益は、後遺障害等級の認定を受けた場合と死亡した場合で、計算方法が異なります。
後遺障害等級の認定を受けた場合は、以下の計算式で算出します。
| 基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数 |
死亡した場合は、以下の計算式で算出します。
| 基礎収入×(1―生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数 |
逸失利益の金額を具体的に算定するには、基礎収入や労働能力喪失率など複数の要素を正しく把握する必要があります。
この章では、逸失利益の計算に必要な要素について、以下の3つの項目に分けて詳しく解説します。
- 基礎収入の算定基準
- 労働能力喪失率・労働能力喪失期間の考え方
- ライプニッツ係数と生活費控除のポイント
基礎収入の算定基準
基礎収入とは事故前の収入のことで、学生の場合は賃金センサスの平均賃金額が採用されるのが一般的です。
賃金センサスとは、政府が毎年発表する賃金構造基本統計調査の結果をまとめた資料のことです。性別・年齢・学歴・企業規模などの属性別の平均賃金や労働時間が掲載されています。
収入実績がない学生に対して客観的かつ公平な基準を適用するために、全年齢の賃金センサスの平均賃金額を基礎収入とするケースが多いです。
もっとも、将来的に平均賃金以上の高収入が得られる蓋然性がある場合は、例外的に平均賃金額以上の金額を基礎収入に設定することもあります。
以下のような場合は、成績証明書や専門性を示す客観的資料などを用いて高収入の蓋然性を裏付けることで、平均賃金額以上の金額が基礎収入に設定される可能性があります。
- 医学部や歯学部に在籍している
- 難関大学に在籍し専門職種(弁護士、公認会計士など)を目指している
- すでに難関資格や免許を取得している
- 成績優秀で将来高収入を得られる見込みがある
将来設計や資格取得の可能性をどれだけ示せるかが重要なポイントとなるでしょう。
参考:賃金構造基本統計調査|厚生労働省
労働能力喪失率・労働能力喪失期間の考え方
労働能力喪失率とは、交通事故が原因で後遺障害が残った場合に労働能力がどの程度低下したかを表すものです。
労働能力喪失率は、後遺障害等級ごとに以下のとおり定められています。
| 後遺障害等級 | 労働能力喪失率 |
|---|---|
| 1級 | 100% |
| 2級 | 100% |
| 3級 | 100% |
| 4級 | 92% |
| 5級 | 79% |
| 6級 | 67% |
| 7級 | 56% |
| 8級 | 45% |
| 9級 | 35% |
| 10級 | 27% |
| 11級 | 20% |
| 12級 | 14% |
| 13級 | 9% |
| 14級 | 5% |
もっとも、四肢に障害を負ってもデスクワークが可能な場合には喪失率が低めに見積もられることもありますし、実際の職場環境や業務内容によっては、より高い喪失率が認められることもあります。
労働能力喪失期間とは、後遺障害によって労働能力を喪失した期間のことです。症状固定日から67歳までの期間とするのが一般的です。
学生の場合はまだ実際に就労していないため、学業終了の時期から67歳までとすることもあります。
ライプニッツ係数と生活費控除のポイント
ライプニッツ係数とは、中間利息を控除するための係数です。
逸失利益は将来の収入を先取りするため、そのお金を運用すれば、通常どおりに受け取るよりも多くの利益(中間利息)が発生します。
この中間利息を控除するために、ライプニッツ係数を用います。
被害者が18歳未満の場合のライプニッツ係数は、事故当時の年齢ごとに定められています。
| 事故当時の年齢 | ライプニッツ係数 |
|---|---|
| 0歳 | 14.9795 |
| 1歳 | 15.4289 |
| 2歳 | 15.8918 |
| 3歳 | 16.3686 |
| 4歳 | 16.8596 |
| 5歳 | 17.3653 |
| 6歳 | 17.8864 |
| 7歳 | 18.4230 |
| 8歳 | 18.9756 |
| 9歳 | 19.5449 |
| 10歳 | 20.1312 |
| 11歳 | 20.7352 |
| 12歳 | 21.3572 |
| 13歳 | 21.9980 |
| 14歳 | 22.6579 |
| 15歳 | 23.3376 |
| 16歳 | 24.0377 |
| 17歳 | 24.7589 |
被害者が18歳以上のライプニッツ係数は、労働能力喪失期間ごとに定められています。
| 労働能力喪失期間 | ライプニッツ係数 |
|---|---|
| 1年 | 0.9709 |
| 2年 | 1.9135 |
| 3年 | 2.8286 |
| 4年 | 3.7171 |
| 5年 | 4.5797 |
| 6年 | 5.4172 |
| 7年 | 6.2303 |
| 8年 | 7.0197 |
| 9年 | 7.7861 |
| 10年 | 8.5302 |
なお、法定利率の変更によって実際に使用される係数も変わるため、算定時期に応じた最新の数値を用いる必要があります。
生活費控除率とは、被害者が生存していればかかったはずの生活費です。
被害者が死亡した場合は将来の生活費はかからないため、その分を控除する必要があります。
裁判実務では、以下の率で計算されます。
| 被害者の性別や扶養の有無 | 生活費控除率 |
|---|---|
| 一家の支柱の場合 | 30〜40% |
| 男性(既婚・独身・学生を含む) | 50% |
| 女性(既婚・未婚・学生を含む) | 30〜40% |
こうした計算要素に小さな誤りがあるだけでも、逸失利益の金額は変動します。正確な係数や控除率を理解して計算することが大切です。
学生の逸失利益に影響を与える学歴・性別の差異
同じ学生でも、学歴や性別によって受け取れる逸失利益の金額は異なることがあります。
学歴や性別によって、基礎収入額が変わる可能性があるためです。
例えば、高卒と大卒では将来の職業選択の幅や所得水準が異なるため、基礎収入に差が出る可能性があります。
学生の基礎収入は、原則として賃金センサスの平均賃金額が適用されるものの、将来大学へ進学する蓋然性が高いと認められた場合は、より高額な大学・大学院卒の平均賃金額が適用されることがあります。
賃金センサスには大卒・高卒の区別だけでなく、医療系や理系・文系、男女別などの統計もあるため、性別によっても基礎収入に差が出ることもあります。
もっとも、男女の賃金格差をそのまま反映することが社会正義の観点から妥当なのかとの議論もあるため、裁判実務では、統計上の平均値を一律に使用することもあります。
特に、学生の場合は将来の収入見込みを正確に示すことが難しいため、詳細な進路情報や実際の統計資料を提示して、可能な限り客観的かつ公正な算定を目指すことが大切です。
学生の基礎収入が引き上げられた裁判例を紹介
大学進学の高度な蓋然性が認められ、基礎収入が引き上げられた裁判例を紹介します。
インターナショナルスクールに通う高校3年生の男子学生が交通事故で亡くなった事案です(名古屋地裁令和3年9月29日判決)。
裁判所は、以下の事実を根拠に、被害者は大学に進学する高度の蓋然性があったと認めました。
- 被害者の学業成績が優秀であったこと。
- 事故前に特定の大学への入学資格を得ていたこと
大学に進学する高度の蓋然性があったと認められたことで、より高額な大学・大学院卒、全年齢平均賃金である668万9300円が基礎収入として適用されました。
客観的な証拠を集め、高度の蓋然性を法的に立証することが、賠償額を最大化するための決定的な鍵となります。
休業損害・慰謝料との兼ね合いと請求時の注意点
学生が交通事故に遭った場合に問題となるのは、逸失利益だけではありません。
休業損害や慰謝料を請求できることもあります。
休業損害とは、交通事故により負った怪我の治療のために休業したり、不十分な就労を余儀なくされたりしたことによる減収のことです。
アルバイトやインターンなど、学生でも収入を得ている場合は休業損害を請求できる可能性があります。
交通事故における慰謝料(入通院慰謝料)とは、交通事故により入院・通院を強いられたことで被った精神的苦痛に対して支払われる金銭です。
社会人と同様、学生も慰謝料を請求できます。特に、長期の治療や手術、重度の後遺障害を負った場合は、慰謝料の金額も高額になる傾向にあります。
請求する際は、逸失利益だけでなく休業損害や慰謝料と合わせてトータルの損害を主張していく必要があります。損害項目ごとに適切な金額を算定し、保険会社や裁判所の基準を理解して交渉することが大切です。
休業損害については、以下関連記事で詳しく解説しています。
慰謝料の計算方法については、以下関連記事で詳しく解説しています。
学生が交通事故に遭った場合に弁護士に依頼するメリット
学生の交通事故における逸失利益は複雑な計算と証明が必要になるため、弁護士への依頼を積極的に検討することをおすすめします。
弁護士へ依頼することで得られる主なメリットは、以下の4つです。
- 基礎収入額を最大化しやすくなる
- 弁護士基準で算定・請求してもらえる
- 煩雑な交渉や法的手続きをすべて任せられる
- 弁護士費用特約を利用すれば費用を気にせず依頼できる
以下で、詳しく紹介します。
基礎収入額を最大化しやすくなる
基礎収入額を最大化しやすくなります。
弁護士は裁判例や賃金センサスの使い方を熟知しているため、大学に進学する高度な蓋然性や就職可能性を的確に主張してもらえます。
単純に高卒や大卒の平均賃金額を当てはめるだけでなく、より具体的な職業に基づく高い基礎収入が認められる可能性が高まります。
例えば、医療系や専門職を志望していた証拠があれば、その仕事内容や待遇を踏まえた主張ができます。裁判所が認めれば、結果的に逸失利益の算定に良い影響を与えられます。
弁護士のサポートを得ることで、客観的データと具体的根拠を揃えやすくなるため、交渉の場において説得力を高められるでしょう。
弁護士基準で算定・請求してもらえる
弁護士基準で算定・請求してもらえます。
逸失利益を含む損害賠償金の算定基準には以下の3つがあり、どの基準を使用するかで算定結果に差が生じます。
- 自賠責基準:自動車損害賠償保障法に規定された最低限の補償を目的とする基準
- 任意保険基準:それぞれの保険会社が独自に定める内部基準(非公開)
- 弁護士基準(裁判基準):過去の裁判例をもとに定められた法的正当性の高い基準
保険会社が提示する金額は、自賠責基準や任意保険基準など、弁護士基準より低額となる基準で算定された金額が提示されることがほとんどです。
弁護士に依頼すれば、法的正当性の高い弁護士基準で算定・交渉してもらえます。
弁護士基準は、3つの基準の中で最も高額になる傾向にあり、弁護士基準とそれ以外の基準では多大な差が出ることも少なくありません。
学生にとって大切な将来の生活資金を確保しやすくなるため、治療費や学業継続のための費用をまかなう一助となるでしょう。
煩雑な交渉や法的手続きをすべて任せられる
煩雑な交渉や法的手続きをすべて任せられます。
交通事故の示談交渉は、保険会社との煩雑なやり取りや専門的な書類の準備、立証資料の収集が伴うため、被害者や保護者にとって精神的負担となりやすいです。学生本人が対応するとなれば、学業や日々の生活に支障が出るかもしれません。
弁護士に依頼すれば、これらすべての交渉窓口や法的手続きを一任できます。
治療や学業に集中できる環境を確保しやすくなりますし、適切な書類準備などもサポートしてもらえるため、迅速かつ的確に示談交渉を進めやすくなるでしょう。
自分で動く時間と精神的な負担が軽減されるため、治療や学習に集中しながらも正当な賠償を得やすくなるでしょう。
弁護士費用特約を利用すれば費用を気にせず依頼できる
弁護士費用特約を利用すれば費用を気にせず依頼できます。
弁護士費用特約とは、交通事故の損害賠償請求にかかる弁護士費用を保険会社が負担する自動車保険の特約です。
学生本人やご家族が加入する自動車保険に弁護士費用特約が付帯している場合、特約の限度額内(一般的に法律相談料10万円、弁護士費用300万円)において、保険会社に弁護士費用を負担してもらえます。
弁護士費用特約を利用すれば経済的な不安なく弁護士に依頼できるため、弁護士費用特約が付帯しているかどうか保険契約を早い段階でチェックしてみてください。
まとめ
学生の交通事故における逸失利益は、将来の生活設計に直結する非常に重要な賠償項目です。
逸失利益として受け取る金額を最大化させるには、いかに大学・大学院卒の平均賃金を基礎収入として認定させるかが鍵を握ります。
適正な逸失利益を受け取りたいとお考えなら、ぜひネクスパート法律事務所にご相談ください。
ネクスパート法律事務所には、交通事故問題に精通した弁護士が数多く在籍しています。
被害者が置かれている状況を総合的に考慮し、適切な方法をアドバイスいたします。
初回相談は30分無料です。対面のほか、リモートでのご相談にも対応しておりますので、事務所に足を運ぶのが難しい方もお気軽にお問い合わせください。
