
脇見運転は、誰にとっても身近な不注意行為です。
しかし、その一瞬の気の緩みが交通事故を招き、運転者は刑事罰・行政罰、さらには被害者への損害賠償という民事責任を負うことになります。
特に、令和元年(2019年)の【ながらスマホ】の罰則強化により、脇見運転に対する社会と法の目は一層厳しくなっています。
この記事では、脇見運転の具体的な危険性や適用される罰則、そして事故発生時に加害者・被害者双方に決定的な影響を与える過失割合について解説します。
この知識を携え、もしもの時に適切な法的対応を取る準備をしましょう。
目次
脇見運転はなぜ危険?|【脇見運転の定義と危険性】
脇見運転は、単なる不注意行為ではなく、重大な交通事故を引き起こす要因のひとつです。
「うっかり」や「少しくらい…」の気持ちが、重大な事故を引き起こします。
脇見運転とは?
脇見運転とは、運転中に車外の景色や車内の落下物、カーナビゲーションの操作などに気を取られ、前方を注視していない状態です。
運転行為から視線が物理的に逸れるのが特徴です。
道路交通法上、車両の運転者には、ハンドルやブレーキなどを的確に操作し、他の交通状況に注意を払い、安全な運転をしなければならない義務が課されています(道路交通法第70条・安全運転義務)。
脇見運転は、前方不注意を原因とする安全運転義務違反に該当し、行政罰・刑事罰・民事上の責任の3つの法的責任を負う可能性があります。
特に、被害者に対する損害賠償額を決定する民事上の責任では、脇見運転が過失割合に著しく不利な修正をもたらします。
脇見運転と混同されやすい漫然運転とは?
脇見運転と混同されやすい行為として、漫然運転があります。
漫然運転は、物理的には前を見て運転しているものの、考え事やぼんやりとした状態により、状況把握や危険の発見が遅れてしまう状態です。
どちらも、前方不注意を原因とする安全運転義務違反に該当します。
脇見運転の危険性|【2秒で約33メートル!?】
脇見運転の最大の危険性は、ドライバーが意図しない【目をつぶっている状態と同視し得る状況】を瞬時に作り出す点にあります。
わずか数秒間だけでも、走行中の車両にとっては致命的な距離を進むことになります。
例えば、一般道の法定速度60km/h で走行している車両は、1秒間に約17メートルの距離を進みます。
もし、ドライバーが2秒間、スマートフォンや車内の落とし物に視線を奪われた場合、その車両は約33メートルの距離を、前方の危険を認識できない状態で走行します。
たった2秒という短時間で、先行車の急ブレーキや歩行者の飛び出し、あるいは信号変化などの状況を見逃す可能性も高く、短時間の油断が事故に直結します。
脇見運転を引き起こす原因とその対策方法
脇見運転は、ドライバーの意図的な危険運転とは異なり、些細なきっかけで引き起こされることが多いものの、その結果は重大です。
原因を理解し、適切な対策を講じることが事故防止の第一歩となります。
脇見運転を引き起こす具体的な原因
脇見運転の主な原因としては、以下のような状況が挙げられます。
- 車外の光景に気を取られること
珍しい建物や事故現場、看板など、運転とは無関係な対象に視線を奪われることで、脇見運転が起こりやすくなります。 - 車内の落下物や探し物に気を取られること
運転中にスマートフォンや飲み物などの小物を探したり、拾おうとしたりする行為により、脇見運転が起こりやすくなります。 - 同乗者との会話に夢中になること
同乗者との適度な会話は、居眠り運転や漫然運転を防ぐ良い側面もあります。
しかし、会話に夢中になりすぎて、同乗者のほうを頻繁に振り向くなど、前方への注意が欠ける場合があり、脇見運転が起こりやすくなります。
脇見運転を防ぐための事故防止策
脇見運転を防ぐために、前述の原因に対応した【誰もが簡単に取り組める】事故防止策について解説します。
- 意識的に運転に集中する
脇見運転を防ぐための事故防止策として、運転中は、車外の無関係な光景に意識的に視線を向けないことが重要です。
珍しい建物や事故現場など、運転とは無関係な対象に気を取られないよう、前方に集中する意識を持つ必要があります。 - 運転環境を整備する
車内の操作や落下物による脇見運転を防ぐため、運転環境の整備が重要です。
運転席周辺に不必要な物を置かず、走行中に操作が必要なカーナビゲーションやオーディオは、運転開始前に設定を完了させておくべきです。 - 会話はほどほどに留める
同乗者との会話が原因で前方への注意が欠けることを防ぐため、会話はほどほどに留めることが求められます。
会話に夢中になりすぎて同乗者のほうを頻繁に振り向くなど、前方への注意を怠らないように意識しましょう。
これらの予防策は、単に個人の安全運転意識を高めるだけでなく、安全運転義務の履行にも直結します。
脇見運転の違反点数・反則金・罰則
脇見運転の違反点数・反則金・罰則について解説します。
脇見運転の行政処分|違反点数と反則金
| 違反内容 | 違反点数 | 反則金 | |||
|---|---|---|---|---|---|
| 安全運転義務違反 (脇見運転) | 2点 (基礎点数) | 大型車 | 普通車 | 二輪車 | 原付車 |
| 12,000円 | 9,000円 | 7,000円 | 6,000円 |
脇見運転は、道路交通法第70条の安全運転義務違反として取り扱われます。
一般的な前方不注意による違反では、違反点数2点、普通車の場合で反則金9,000円が課せられるのが基本です。
ただし、脇見運転により事故を起こした場合には、その程度によって、個別に違反点数が加算されます。
人身事故を起こした際の刑事罰|過失運転致死傷罪・危険運転致死傷罪
脇見運転の結果、人身事故(負傷または死亡)を引き起こした場合、加害者には過失運転致死傷罪が適用される可能性があります。
この罪の罰則は、【7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金】です。
さらに、脇見運転の態様が悪質で、その不注意が極めて危険な行為であったと認定される場合には、より重い危険運転致死傷罪が適用される可能性があります。
この罪の罰則は、被害者が負傷した場合は【15年以下の拘禁刑】、被害者が死亡した場合は【1年以上の有期拘禁刑】です。
脇見運転は単なる罰金で済まされる問題ではなく、重い刑事責任を問われるリスクを伴います。
脇見運転の原因にもなる【ながらスマホ】の罰則強化
脇見運転の中でも、特に深刻かつ増加傾向にあるのが、運転中の携帯電話(スマートフォン)の使用です。
この行為は【ながらスマホ】として、令和元年(2019年)12月1日に罰則が強化されました。
この厳罰化は、脇見運転、特に携帯電話使用が社会的に許容されない著しい過失として認識され始めた、近年の法的なトレンドを反映しています。
強化された罰則は以下のとおりです。
| 違反行為 | 罰則 | 違反点数 | 反則金 |
|---|---|---|---|
| 携帯電話使用等(通話・保持・画面注視など)の場合 | 6か月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金 | 3点 | 大型車:25,000円 普通車:18,000円 二輪車:15,000円 原付車:12,000円 |
| 携帯電話使用等により道路における交通の危険を生じさせた場合 | 1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 | 6点 (免許停止) | なし (罰則適用) |
違反点数は、改正により3倍に引き上げられました。
特に重要な点は、事故を起こさなかった単なる携帯電話使用等の違反でも、【6か月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金】へと引き上げられたことです。
さらに、携帯電話使用等により道路における交通の危険を生じさせた場合は、反則金制度の適用外となり、罰則の対象となります。
これにより、【ながらスマホ】は反則金だけでは済まされず、刑事罰の適用範囲が拡大しました。
脇見運転による事故の被害者は民事上の損害賠償請求が可能
脇見運転による交通事故で損害を被った被害者は、加害者に対して損害賠償を請求できます。
これは、加害者の不注意(過失)によって被害者に損害が発生したことに対する民事上の責任です。
被害者が請求できる損害賠償の項目には、以下のようなものが含まれます。
- 治療費、入院費、付添費などの積極損害
- 休業損害(事故によって働けなくなったことによる減収)
- 逸失利益(後遺障害が残った場合に将来得られるはずだった利益)
- 慰謝料(入通院慰謝料、後遺障害慰謝料など、精神的苦痛に対する賠償)
- 車の修理費などの物的損害
請求できる項目は、事故の内容に応じて異なりますが、適切な過失割合が認定されることで、請求できる総額が決定します。
脇見運転は過失割合に影響する
脇見運転が引き起こす民事上の責任の中で、特に、被害者の損害賠償額に決定的な影響を与えるのが、過失割合です。
過失割合とは、発生した事故に対する当事者双方の責任や不注意の度合いのことです。
例えば、被害者に対する賠償金が1,000万円と仮定した場合、過失割合が加害者9:被害者1のケースでは、最終的な賠償金は、900万円です。
| 1,000万円-(1,000万円×1/10)=900万円 |
|---|
このように、過失割合によって、最終的な賠償金が決まりますが、脇見運転は、加害者にとって不利な修正要素として扱われます。
脇見運転は著しい過失にあたる
過失割合の修正要素とは、交通事故の基本となる過失割合を、事故の個別具体的な状況に応じて調整(増減)するための要素です。
脇見運転は、事故の原因となった不注意の程度が、通常の過失よりも著しく大きいと評価される【著しい過失】に該当します。
脇見運転のほかにも、携帯電話を使用しながらの運転や酒気帯び運転などがこれに該当します。
したがって、脇見運転は、基本の過失割合を決定した後の加害者側の過失を増やす修正要素として機能します。
脇見運転は修正要素として5~20%程度加算される
脇見運転が著しい過失と認定された場合、その修正幅は具体的に定められています。
| 過失の分類 | 過失割合への修正幅 | 具体的な行為の例 |
|---|---|---|
| 著しい過失 | 5~20%程度加算 | 脇見運転、携帯電話を使用しながらの運転、酒気帯び運転 |
加害者が脇見運転をしていたことが発覚すれば、基本となる過失割合から、加害者側に5%から20%程度の過失が加算されます。
脇見運転の修正要素の適用例
例えば、基本の過失割合が加害者8:被害者2の事故で、加害者の脇見運転(著しい過失)により10%が加算された場合、最終的な過失割合は加害者9:被害者1 になります。
この修正は、被害者が受け取る賠償額に直接的な影響を及ぼします。
被害者にとっては、この10%の修正により、賠償金が増加するため、過失割合の交渉は適正な賠償金を獲得するために重要な要素です。
加害者の脇見運転が原因で交通事故に遭ったら?
脇見運転を原因とする事故の被害者が困難に直面するのは、事故発生後の示談交渉の段階です。
加害者側の保険会社は、自社の支払額を最小限に抑えようとするため、被害者は専門的な知識と交渉力をもって対抗する必要があります。
加害者が脇見運転の事実を認めない場合の対処法
脇見運転は、運転者の意識の有無にかかわる主観的な過失であるため、加害者が事故後にその事実を否定したり、記憶がないと主張したりするケースが多くあります。
加害者が事実を認めない場合、被害者側で脇見運転の客観的な証拠を収集することが不可欠です。
有効な証拠としては、以下のようなものが挙げられます。
- 加害車両のドライブレコーダー映像
- 現場の目撃者の証言
- 事故直後の警察による実況見分調書
- 事故状況から合理的に推測される加害者の行動パターン(例:急な進路変更や不自然な制動)など
これらの証拠を法的な観点から整理し、著しい過失があったことを立証する必要があります。
加害者側保険会社の提示する過失割合に納得できない場合の対処法
加害者が任意保険に加入している場合、通常、加害者側の保険会社が、被害者に対して、過失割合の提示をします。
しかし、保険会社が提示する過失割合は、必ずしも事故の客観的な状況や判例に基づいた適切なものであるとは限りません。
保険会社も営利企業なため、被害者側の過失を大きく見積もる可能性も否定できません。
提示された過失割合に納得できない場合は、その根拠を明確にし、的確な証拠と共に反論する必要があります。
脇見運転が著しい過失にあたること、そして5~20%の修正要素が適用されるべきであることを、過去の判例を参照しながら主張する必要があります。
このような法的論争を適切に進めるためには、弁護士のサポートが不可欠です。
過失割合が100:0だと自身の保険会社に示談交渉を依頼できない
被害者の過失がゼロの事故(もらい事故)では、被害者の加入する保険会社は、示談交渉の代行ができません。
この場合、被害者は、交渉のプロである加害者側の保険会社を相手に、たった一人で過失割合や損害賠償額の交渉を行わなければならない状況に置かれます。
この状況を避けるためには、弁護士への依頼が不可欠となります。
脇見運転による事故の示談交渉を弁護士に依頼するメリット
脇見運転による事故の示談交渉を弁護士に依頼するメリットは、次の2つです。
- 過失割合の交渉を有利に進められる
- 示談交渉のストレスから解放される
以下、詳しく説明します。
過失割合の交渉を有利に進められる
脇見運転が関わる事故では、弁護士の介入により、過失割合の交渉を有利に進められます。
弁護士は、脇見運転という著しい過失が、具体的に判例上どれだけの過失加算(5%~20%)を伴うべきかを論理的に主張できます。

さらに、弁護士は、保険会社が提示する任意保険基準ではなく、裁判所で認められる弁護士基準(裁判所基準)に基づき損害賠償額を算定するため、結果として慰謝料や賠償総額の増額が期待できます。
示談交渉のストレスから解放される
交通事故の被害者は、怪我の治療だけでなく、加害者側保険会社との交渉に多大な時間と精神的ストレスを費やさざるを得ません。
弁護士に依頼することで、交渉の窓口を一任でき、被害者は治療と日常生活の回復に専念できます。
まとめ
脇見運転は、単なる不注意ではなく、安全運転義務違反として重い刑事罰や行政罰が科されます。
さらに、民事責任では、著しい過失として扱われ、損害賠償額に影響を与えます。
このようなリスクを避けるためにも、日ごろから安全な運転を心掛けましょう。
相手の脇見運転が原因で事故に遭った方は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
ネクスパート法律事務所では、交通事故事案の解決実績を豊富にもつ弁護士が多数在籍しています。
初回の相談は30分無料です。ぜひ一度ご相談ください。
