交通事故に遭い、怪我の治療などのために会社を休まざるを得なかったという経験を持つ人は少なくありません。その際、勤務先に迷惑をかけたくないという思いから、会社に欠勤届を出す代わりに有給休暇を使って休む方も多いでしょう。
有給休暇を使って給与が支払われた場合でも、加害者に対して休業損害を請求できるのでしょうか。
労災保険の休業補償給付も請求できるのでしょうか。
疑問を持つ方もいらっしゃると思います。
そこで、今回は、交通事故による負傷で有給休暇を使用した場合に休業損害や休業補償を受け取ることはできるのかについて、解説します。
目次
休業損害とは何か?
休業損害とは、交通事故によって被害者が働けなくなり、その間に本来得られたはずの収入が得られなかった場合に、その損失を加害者に請求できるものです。
これは民法上の損害賠償請求権に基づいて請求できるものです。
給与所得者は、給与明細や源泉徴収書などを用いることにより、容易に休業損害の算定できますが、自営業者でも、確定申告書や家賃等の固定経費の証明資料を用いて休業損害を請求できます。
有給休暇の利用と休業損害
交通事故のために有給休暇を利用した場合、休業損害を請求することはできるでしょうか。
以下で解説します。
有給休暇を利用した場合に損害は発生するか
有給休暇を使って休んだ場合、会社を休んでも給料を支払ってもらえます。
そこで、休業により損害が発生したといえるかが問題となります。例えば、交通事故による負傷が原因で5日間休んだものの、これを有給扱いにして給与が満額支払われたとします。このようなケースで、果たして休業損害を請求できるのかという問題が生じます。
有休を使った場合でも、休業損害を請求できると考えられています。
理由は、有給休暇は労働者にとって財産的価値のある権利とされているからです。
本来、有給休暇は労働者が体調不良や私用などに備えて自由に使えるストックとしての意味をもちます。
交通事故がなければ将来の他の目的に使えたはずの有給休暇が、事故によって強制的に消費されてしまったと考えられます。
この考え方によれば、有給休暇を消化することによって労働者が「将来使えるはずだった有給休暇を取得する権利を失った」という損害が発生することになるのです。
実務上の取り扱いと裁判例
実務上、保険会社は、有給休暇を使って給与が支払われた場合でも休業損害を一定の範囲で認めています。
裁判例でも認められています。
例えば、東京地裁平成15年7月17日判決では、「有給休暇を取得した場合においても、その分将来使える日数が減少するという経済的不利益があることから、損害として評価される」として、休業損害が認められました。
有給休暇を使用した場合の休業損害の請求では、以下の点に留意する必要があります。
有給休暇の使用したことの証明
実際に有給休暇を使用したことを証明するためには、勤務先から発行される休暇取得証明書や給与明細などを準備する必要があります。
これにより、事故による欠勤が有給扱いで処理されたことを証明できます。
休業損害の計算方法
有給休暇で給与が全額支払われている場合でも、その日数分は通常の給与額で損害額を算定します。
事故がなければ取得されなかったはずの休暇であれば、その分の給与相当額を損害とみなすことができます。
保険会社との交渉の留意点
加害者側の保険会社は、独自の基準で支払額を低額化しようとする傾向にあり、「給与が出ているなら損害はない」と主張してくるケースも散見されます。
しかし、有給休暇の使用には経済的損失があるとされているため、あきらめる必要はありません。
仮に加害者側の保険会社からこのように言われた場合には、弁護士に相談して対応してもらうことが望ましいでしょう。
休業補償の支払は受けられるか
休業損害と混同されやすいものに、労災保険による休業補償給付が挙げられます。
これは、業務中または通勤中に事故に遭った場合に、労災保険から給付を受ける制度です。
労災保険における休業補償給付では、平均賃金の60%に休業特別支給金20%加算された金額が支給されます。
交通事故が業務中あるいは通勤中の事故であれば、労災保険による休業補償給付と加害者への休業損害の請求を並行して行えます。
しかし、二重取りはできないとされているため、休業損害、休業補償給付のうちどちらかからの支払いが先になされた場合には、他方の支払額が調整されます。
さいごに
交通事故の負傷のために有給休暇を使用して給与が支払われた場合、「損害がないから請求できない」と誤解する被害者も少なくありません。しかし、これまで見たところからわかるように、この場合でも一般的には、休業損害は発生していると評価されます。
交通事故に巻き込まれた場合、自分にどのような損害が生じたのかを正確に把握し、適切に請求することが重要です。
交通事故による損害賠償請求は複雑な手続が絡むことも多いため、不安がある場合は早めに弁護士にご相談ください。
ネクスパート法律事務所は、交通事故に知識や経験が豊富な弁護士が在籍しております。
有給休暇を利用したために加害者側の保険会社から、休業損害の支払いを拒否されている方がいらっしゃったら、是非当事務所にご相談ください。
ご相談後迅速に対応いたします。お気軽にご相談ください。