交通事故の加害者と被害者との間で示談が成立すると、通常、示談書(または免責証書)を作成します。
原則として、示談は、一度成立するとその内容は変更できません。示談成立後の追加請求もできません。
では、示談成立後に後遺障害が発生した場合でも諦めるしかないのでしょうか?
この記事では、主に次のことについて解説しています。
- 示談書にこれ以上請求しないとあった場合の追加請求の可否
- 示談後の追加請求に関する裁判例
- 示談後の追加請求を巡るトラブルを回避するための3つのポイント
ぜひ参考にしてください。
目次
示談書にこれ以上請求しないとあったら追加請求はできない?
示談書にこれ以上請求しない旨の記載がある場合、原則として追加請求はできません。
ただし、示談成立後に後遺障害が発生したケースでは、追加請求ができる場合があります。
原則として追加請求はできない
示談書にこれ以上請求しない旨の記載がある場合、原則として追加請求はできません。
示談書を作成する際、放棄条項や清算条項を入れるのが一般的です。
- 甲:加害者
- 乙:被害者
【放棄条項】 甲及び乙は、本件事故に関し、今後裁判上、裁判外を問わず、互いに何らの請求をしないことを確認する。 |
【清算条項】 甲及び乙は、甲乙間には、本件事故に関し、本示談書に定めるもののほか、何らの債権債務がないことを確認する。 |
放棄条項や清算条項を入れることで、当該交通事故についての話し合いが終局的に解決したことを意味し、後日「やっぱり他にも損害があったので、賠償額を増やしたい。」との主張ができなくなります。
示談書は、当事者双方が示談書の内容を確認し、署名押印した時点で、当事者間の合意が成立したとされます。つまり、当該交通事故についての話し合いは解決し、後日の変更や撤回はできません。
示談後の変更や撤回が許されると、いつまで経っても紛争が解決できなくなるからです。
示談書にこれ以上請求しない旨の記載がある場合には、原則として、後から追加請求はできないでしょう。
例外|示談成立後に後遺障害が発生したケース
例外として、示談成立後に後遺障害が発生したケースでは、追加請求できる場合があります。
示談成立後に後遺障害が発生したケースについて、その後遺障害が示談成立時に予測し得ない損害と認められる場合には、その損害は示談の対象とは言えず、追加請求できるとした判例があります(最判昭和43年3月15日判決)。
示談によって被害者が放棄した損害賠償請求権は、示談当時予想していた損害についてのもののみと解すべきであって、その当時予想できなかつた不測の再手術や後遺障害がその後発生した場合、その損害についてまで、賠償請求権を放棄した趣旨と解するのは、当事者の合理的意思に合致するものとはいえない。
したがって、示談成立後に後遺障害が発生したケースでは、追加請求できる可能性があるでしょう。
示談後の後遺障害発生を理由とした追加請求は争いになることも
示談後の後遺障害発生を理由とした追加請求は争いになる可能性が高いでしょう。
原則として、示談後の追加請求は認められないため、一度示談が成立したにもかかわらず追加請求する場合、保険会社がスムーズに受け入れる可能性は低いでしょう。
示談後の後遺障害発生を理由とした追加請求には、次のことを証明する必要があります。
- 示談成立時に予測し得ない後遺障害であったこと
- 事故と後遺障害に因果関係があること
示談後の追加請求が認められる余地はあるものの、その立証は簡単ではないでしょう。
示談後の追加請求に関する裁判例
示談後の追加請求に関する裁判例についてご紹介します。
錯誤無効(錯誤取消)として追加請求を認めた裁判例
東京地裁昭和40年 1月27日判決では、被害者の傷害が軽微なものとして示談が成立した後、被害者の傷害が予想に反して重いことが判明した事例について、錯誤無効(錯誤取消)により追加請求を認めました。
示談契約は、原告の傷害が2,3か月の休業によって容易に全治する程度の軽微なものであることを前提とし、その点につき何らの争いもなく締結されたものであるのに、事実はこれに反し、原告の損害が著しく重大なものであつたのであるから、原告の意思表示には、その重要な部分に錯誤があったものということができる。しかもかような争いなき前提事実に錯誤が存する以上、民法第六九六条の規定は適用されないから、前記示談契約は、原告の主張するとおり、要素に錯誤があるものとして無効といわなければならない。
被害者の傷害が軽いものであることを前提として示談した後、被害者の傷害が予想外に重いことが判明した場合、示談契約に錯誤があるとして、追加請求が認められる場合があるでしょう。
権利放棄を否定し別損害であるとして追加請求を認めた裁判例
広島地裁昭和44年 9月26日判決では、示談後の精密検査により後遺症が判明した事例について、権利放棄を否定し追加請求を認めました。
事故による全損害を正確に把握し難い状況のもとにおいて少額の賠償金で示談契約がなされた場合には、被害者はその示談契約により示談当時予想していたその他の損害についてのみ損害賠償請求権を放棄したものと解すべきである。本件において原告は示談契約当時現在のような後遺症の残るであろうことは全く予想していなかったものであるから、示談契約によって本件後遺症による損害賠償請求権までも放棄したものということはできない。
示談成立時に全く予想していなかった後遺症が判明した場合、示談契約時に放棄した権利の対象とはならず、追加請求が認められる場合があるでしょう。
示談契約の効力を肯定し追加請求を認めなかった裁判例
神戸地裁平成 4年11月19日判決では、入院治療中に示談契約が成立したが、その後症状が悪化し治療を継続した事例について、示談契約の効力を肯定し追加請求を認めませんでした。
本件示談契約締結当時、原告においては、多少の見込み違いがあったとしても、その当時に存在していた神経症状等がその後も引き続き存続するかもしれないと予想し得たものと推認するに難くないところであって、それゆえ、その後になおも存続する同様の症状が本件示談契約締結当時原告において予想し得なかったものであるとは認められないといわざるを得ない。
示談後の損害が予測し得ないものであると認められない限り、示談契約の効力を否定するのは難しく、追加請求が認めらない可能性が高いでしょう。
示談後の追加請求を巡るトラブルを回避するための3つのポイント
示談後の追加請求を巡るトラブルを回避するためのポイントは、次の3つです。
- 症状固定後に示談する
- 示談後の後遺障害発生に備えた条項を盛り込む
- 傷害部分と後遺障害部分の損害を分けて示談する
以下、詳しく見ていきましょう。
症状固定後に示談する
1つめのポイントは、症状固定後に示談することです。
交通事故により負傷した場合は、治療終了または症状固定までは、全ての損害額が確定しません。
急いで示談すると、その後の治療費や後遺障害が発生した場合の慰謝料等の請求ができないことがあります。
したがって、まずは治療に専念し、症状固定後に示談を開始しましょう。
示談後の後遺障害発生に備えた条項を盛り込む
2つめのポイントは、示談後の後遺障害発生に備えた条項を盛り込むことです。
示談後に予期しない後遺障害が発生した場合には、当該後遺障害に関する損害については別途協議する。 |
この条項がないからと言って、後遺障害が発生した場合の追加請求ができないわけではありません。しかし、この条項を入れておくことで、後遺障害が発生した場合の再協議について、争いを回避できるでしょう。
傷害部分と後遺障害部分の損害を分けて示談する
3つめのポイントは、傷害部分と後遺障害部分の損害を分けて示談することです。
後遺障害等級の認定には時間がかかるため、既に発生している治療費や休業損害等について先に示談を成立させたい場合もあるでしょう。
その場合には、傷害部分の示談を先行し、後日後遺障害部分について別途協議する旨を明記して示談をしましょう。
これ以上請求しないと示談する前に弁護士にご相談を!
示談後の追加請求が認められる余地はあるものの、相手方と争いになる可能性が高く、追加請求を認めてもらうのは簡単ではありません。
示談成立後の後遺障害発生のリスクに備えた示談が大切です。
弁護士に依頼することで、次のような事項を確認し、示談成立後の後遺障害発生のリスクに備えた示談書の作成が可能です。
- 治療費や慰謝料等の賠償額の計上漏れがないか・金額は適正であるか
- 示談後の後遺障害発生に備えた条項が盛り込まれているか
- 被害者に不利な内容になっていないか
示談は一度成立すると、その内容を変更することは難しいですから、示談成立前に一度弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ
示談書にこれ以上請求しない旨の記載がある場合、原則として、追加請求はできません。
ただし、示談成立時に予想し得ない後遺障害が発生した場合には、追加請求できる可能性があります。
示談成立後の後遺障害で困っている・示談を成立してよいか悩んでいる方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
ネクスパート法律事務所では、交通事故事案の解決実績を豊富にもつ弁護士が在籍しています。
交通事故の損害賠償や後遺症等、お困りのことがございましたら、お気軽にご相談ください。