
現代社会において、「ながらスマホ」という言葉は、私たちの生活の様々な場面で当たり前の光景となりました。
歩きながら、食事をしながら、そして、車を運転しながら。しかし、運転中の「ながらスマホ」は、人命に関わる行為です。
一見すると、ほんの一瞬、画面に目をやるだけの行為かもしれません。
しかし、その「一瞬」が、取り返しのつかない悲劇につながることを、私たちは十分に認識しているでしょうか。
今回は、運転中のスマホ操作が引き起こす交通事故の深刻な問題に焦点を当て、その危険性の科学的根拠、そして厳罰化された道路交通法改正の背景と、万が一事故に巻き込まれた際の適切な対応について解説します。
目次
データが示す「見えない脅威」:事故の現状と実態
運転中のスマホ操作は、単純な「わき見運転」とは根本的に危険性が異なります。
警察庁が発表する統計データによると、携帯電話使用等による交通事故は、厳罰化が図られた後も依然として高い水準で推移しており、特に死亡・重傷事故につながるケースが後を絶ちません。
この深刻な状況の背景には、私たちの脳の機能と密接に関わる、物理的な危険性が潜んでいます。
例えば、時速60kmで走行している車は、1秒間に約16.7メートル進みます。もし運転者がスマートフォンに目をやり、わずか2秒間だけ前方から視線を外したとすると、その車は約33メートルも「盲目状態」で走行することになります。これは、信号が赤に変わったり、目の前で子どもが飛び出してきたりしても、それに気づくことができない距離です。
スマホに気を取られた運転者は、信号無視による交差点での衝突、車間距離不足による追突、そして横断歩行者との接触など、本来であれば避けられたはずの事故を多発させているのです。
科学的根拠:なぜ運転とスマホは両立しないのか
ここでは、運転行為とスマホを見る行為が両立しない科学的根拠について解説します。
マルチタスクとながらスマホ
人間の脳は、複数の複雑なタスクを同時に完璧にこなすようにはできていません。私たちが「マルチタスク」と呼んでいる行為は、実際には、脳が非常に速いスピードでタスクからタスクへと注意を切り替えているにすぎないのです。
運転という行為は、周囲の状況を認知し、危険を判断し、適切な操作を実行するという、高度に複雑なプロセスです。この3つの段階のいずれかが欠けても、事故につながります。
認知の遅延
スマートフォンに視線が固定されると、周囲の状況を認識する能力が極端に低下します。
これを「非注意性盲目」と呼びます。たとえ目の前に危険が迫っていても、それが脳に「重要な情報」として認識されず、見過ごされてしまうのです。
反応時間の低下
脳の情報処理能力がスマートフォンの情報で占有されると、運転に必要な判断力が鈍ります。危険を察知しても、どのタイミングでブレーキを踏むべきか、どちらにハンドルを切るべきか、という判断が遅れます。
たとえ危険に気づき、判断ができたとしても、スマートフォンを操作している手はすぐに運転に戻れません。
心理的要因
さらに、心理的な要因も大きく影響します。
「今すぐ返信しなくては」「いいねの数が気になる」といった、SNSやメッセージがもたらす社会的プレッシャーや依存性は、「運転中は控える」という理性を麻痺させます。
厳罰化の背景:道路交通法改正の内容と意図
こうした危険性を踏まえ、日本でも2019年に道路交通法が改正され、運転中のスマートフォン使用に対する罰則が大幅に強化されました。
2019年12月改正の具体的な内容は以下のとおりです。
罰則の大幅強化
運転中に携帯電話を手で持って通話したり、画像を見たりする行為(保持)に対する罰則が引き上げられました。
改正前は、反則金6,000円、違反点数1点でしたが、改正後は反則金18,000円、違反点数3点となったのです。
刑事罰の大幅強化
上記のような行為が原因で事故を起こすなど、交通の危険を生じさせた場合は、即座に刑事罰の対象となりました。
改正前は、3月以下の懲役または5万円以下の罰金であったのが、改正後は、1年以下の懲役(現在は拘禁刑)または30万円以下の罰金、免許停止処分となったのです。
被害者にならないために:もしもの時の備え
残念ながら、どんなに自分が安全運転を心がけていても、「ながらスマホ」の加害者によって突然事故に巻き込まれてしまうリスクは誰にでもあります。
万が一、不運にも事故に遭遇してしまった場合、冷静な対応が必要です。
安全確保と警察への通報が最優先
二次的な事故を防ぐため、まずは安全な場所に移動しましょう。
そして、どんなに軽微な事故に見えても、その場で示談にはせず、必ず警察に連絡しましょう。
警察への届け出がなければ、交通事故証明書が発行されず、保険金請求や損害賠償請求が難しくなります。
加害者の情報と証拠を記録
加害者の氏名、住所、連絡先、車のナンバー、加入している保険会社を必ず控えましょう。
また、その場で可能な限り、事故現場や車両の損害状況を写真や動画で撮影しておくことも重要です。
加害者のスマホ操作が事故原因だと感じた場合は、そのことも記録しておきましょう。
診断書の取得と弁護士への相談
事故直後は痛みを感じなくても、後から症状が現れることがあります。
事故後すぐに病院を受診し、「交通事故による負傷」であることを医師に伝え、診断書を作成してもらいましょう。
そして、早い段階で交通事故に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。
保険会社との示談交渉、適正な賠償額の算定、精神的苦痛に対する慰謝料請求など、専門的な知識が必要な場面で、弁護士は強力な味方となります。
意識改革と具体的な行動
「ながらスマホ」運転は、被害者だけでなく、加害者自身の人生にも大きく影響します。
以下のことを徹底することで、「ながらスマホ」運転は防ぐことができます。
運転前の「儀式」をつくる
車に乗り込む前に、メッセージの確認やナビ設定など、スマホに関するすべての用事を済ませる習慣をつけましょう。
物理的にスマホを遠ざける
運転中はスマホを手の届かない場所に置き、物理的に操作できないようにしましょう。
社会全体で意識を共有する
「ながらスマホ」運転を許容しない社会の雰囲気を作り、家族や友人同士で注意し合いましょう。
まとめ
道路交通法改正により、「ながらスマホ」運転の罰則は強化されましたが、法律だけでは事故は防げません。スマホは便利な道具ですが、その使い方を誤れば、凶器にもなり得ることがお分かりいただけたと思います。
弁護士法人ネクスパート法律事務所は、交通事故の実績が多数あり、「ながらスマホ」運転による交通事故にも対応しております。
「ながらスマホ」運転をして交通事故を起こした方も、被害に遭われた方もぜひ一度ご相談ください。解決まで丁寧にサポートいたします。
