誘因事故の真実について現役弁護士が解説!交通事故の見えない責任について

誘因事故の真実と交通事故の見えない責任

信号のない交差点に差し掛かった時、右から急に自転車が飛び出してきたとします。危険を察知し、迷わず急ブレーキを踏みました。間一髪で接触は避けられ、自転車の運転手も何事もなかったかのように走り去っていきました。安堵のため息をつき、事なきを得たと考えるでしょう。
しかし、もし自分の急ブレーキが原因で、後続車が追突していたらどうでしょう? 「後ろの車がちゃんと車間距離を取っていなかったからだ」「急ブレーキを踏まざるを得なかったのだから自分に責任はない」と考えるかもしれません。
確かに追突した車にも前方不注意の責任はあるでしょう。
しかし、実は「不必要な急ブレーキ」という行為そのものが、事故のきっかけとして、法的な責任を問われる可能性があるのです。
こうした、直接の接触はなくても、結果的に事故を引き起こした先行行為を、「誘因事故」と呼びます。
今回は、多くのドライバーが見落としがちなこの「見えない責任」について、深く掘り下げて解説していきます。

誘因事故の定義:法律が捉える「見えない原因」

最初に、そもそも「誘因事故」とはどのようなものかについて解説します。

誘因事故とは?

誘因事故は、道路交通法や刑法に直接明記された用語ではありません。これは、判例を通じて確立されてきた法的概念です。
簡単に言えば、「不注意な行為」や「危険な運転行為」が、別の車両の運転者に緊急回避行動を取らせ、その結果として事故が発生した場合に、最初の行為者が事故の責任を負うという考え方です。
通常の事故では、過失のあったドライバー(例:赤信号を無視したドライバー)に責任が集中します。
これに対し、誘因事故では、「直接の衝突や接触がない」という点が最大の特徴です。物理的な事故の当事者ではなく、あくまで事故の引き金、つまり「誘因(トリガー)」となった行為に責任の焦点が当てられます。

「誘因」行為に責任が向けられる理由

ではなぜ、このような考え方が必要なのでしょうか。
現代の交通状況は複雑です。高速道路での玉突き事故や、複数車両が絡む多重事故では、どの行為が「最初の原因」だったのかを特定することが困難になります。
そこで、「事故の発生を予見できたにもかかわらず、危険な行動をとった」最初のドライバーにも責任を問うことで、より公正な過失割合を導き出し、被害者の救済を図る必要があるのです。
これは、「共同不法行為」といった民法上の概念にも通じる、重要な考え方です。

事例で学ぶ「誘因事故」

以下では、誘因事故の概念をより深く理解するために、具体的な事例について解説します。

事例A:不必要な急ブレーキと玉突き事故

高速道路を走行中、前方の路上に落ちていた小さな空き缶を避けるために、急ブレーキを踏んでしまいました。幸い空き缶は避けられましたが、後続車が減速しきれずに先行車に追突し、さらにその後ろの車も追突、玉突き事故が発生しました。
このケースでは、後続車には前方不注意という過失がありますが、そもそも小さな空き缶のために高速道路上で急ブレーキを踏んだ運転手について、その行為の妥当性が問われます。
法的には、「危険回避の必要性がなかった」と判断され、急ブレーキが事故の誘因とみなされる可能性が高いと考えられます。

事例B:急な車線変更と後続車のガードレール接触

目的地が近づき、焦って後方確認が不十分なまま、急に車線変更を行いました。幸い接触はしませんでしたが、後続車が先行車の急な動きを避けようとハンドルを切り、ガードレールに接触してしまいました。
この場合、直接の接触がないため「自分は無関係」と考えがちですが、先行車の「進路変更方法違反」という行為が後続車の事故を引き起こしたと判断されます。
この後続車の運転手は、先行車の危険な運転を避けるための「緊急避難」行動であったと主張し、過失責任を問うことができます。

事例C:危険な路上駐車と二輪車の転倒事故

配達のために、狭い道に一時的に車を路上駐車しました。その道を走ってきたバイクが、配達車を避けようと対向車線にはみ出したところ、路面の段差に乗り上げて転倒し、運転手が負傷してしまいました。
駐車行為そのものは事故ではありませんが、その場所が通行の妨げとなる「危険な駐車」と見なされた場合、バイクの転倒事故の誘因となります。たとえ事故現場に配達車の運転手がその時いなくても、法的な責任が発生します

事例D:動物の飛び出しと後続の追突事故

深夜の山道を走行中、突然シカが飛び出してきました。とっさにハンドルを切り、路肩に停車。無事でしたが、後続車が先行車の急な回避行動に気づかず、追突してしまいました。
このケースでは、先の急ブレーキの事例とは異なり、「危険回避の必要性」が極めて高いと判断されるため、先行車の運転に過失は問われる可能性は低いです。
しかし、これがシカではなく小さな動物(タヌキやネコなど)だった場合、急ブレーキや急ハンドルが「過剰な行為」と判断されるリスクもゼロではありません。

責任の分かれ道:過失割合はどう決まるのか

「誘因事故」の判断が下されたとしても、最初の行為者がすべての責任を負うわけではありません。ここで重要になるのが「過失割合」です。 たとえば、急ブレーキを踏んだ行為が誘因と認められたとしても、追突した側にも「前方不注意」という過失が必ず問われます。通常、車間距離を適切に保っていれば追突は避けられたはずだからです。
そのため、双方の過失が複雑に絡み合い、それぞれの過失の度合いに応じて責任が分担されることになります。
この過失割合は、事故の状況(場所、天候、速度など)、当事者の行為の妥当性、法的義務の違反の有無(車間距離不保持、進路変更方法違反など)を総合的に考慮して決定されます。
最終的には保険会社の交渉や、場合によっては裁判を通じて判断されますが、当事者同士の主張だけではなかなか決着がつかないことも多いのが実情です。
特に示談交渉では、当事者の感情や保険会社の判断が先行し、法的な根拠に基づいた交渉が難しい場面も少なくありません。

誘因事故を起こさないための心構え

では、どうすれば誘因事故の加害者にも被害者にもならないように運転できるのでしょうか。
最も重要なのは「かもしれない」運転を徹底することです。
「この先から歩行者が飛び出してくるかもしれない」「前の車が急にブレーキを踏むかもしれない」といった予測を常に立てて運転することで、心と時間に余裕が生まれます。これが、不必要な急ブレーキや急ハンドルを避ける第一歩となります。
また、十分な車間距離を確保することは、誘因事故を防ぐ上で最も効果的な対策です。車間距離が十分にあれば、前の車が急ブレーキを踏んでも、自分も後続車も安全に停止できます。
自分の運転が、他の車の運転に影響を与えているという「交通社会の一員」としての自覚を持つことが、見えない責任から自分と他者を守るための心構えといえます。

もし「誘因事故」に巻き込まれたら:正しい対処法

万が一、誘因事故に巻き込まれてしまったら、冷静な対処が何よりも重要です。
まず、必ず警察に届け出をしましょう。また、接触がなかった最初の誘因行為を行った車両についても、ナンバーや車種、色などをできるだけ詳しく控えておいてください。
その車両の運転手が立ち去ってしまっても、警察の捜査やドライブレコーダーの映像で特定できる可能性があります。
目撃者がいれば、連絡先を交換しておくことも重要です。
そして何より、ドライブレコーダーの映像は強力な証拠になります。日頃から録画機能が作動しているか確認しておきましょう。

まとめ

誘因事故は自身が起こしても、巻き込まれても、対応に苦慮するものと言えるでしょう。
自身が誘因となった場合には、事故を引き起こしたことが実感できないにもかかわらず、責任問題を突きつけられることになります。
巻き込まれた場合には、自分が事故を起こした原因は他人にあるにもかかわらず、自身が責任を負うことに不条理を感じることもあるでしょう。
保険会社が提示してきた過失割合は損害賠償額にも納得がいかないことが少なくないと思われます。
弁護士法人ネクスパート法律事務所は、交通事故に関する実績が豊富で、誘因事故についても数多く取り扱っています。
自分が誘因となった方、誘因により事故を起こした方そして事故の被害者の皆様は、ぜひお早目にご相談下さい。
ご自身の立場から見て納得がいく解決ができるよう全力でサポートいたします。

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