交通事故の過失割合とは|事故の類型別に事例を挙げて徹底解説

交通事故の過失割合 類方別に事例を解説

交通事故における過失割合は事故当事者のそれぞれの責任度合いを数値化したもので、損害賠償額を左右する重要な要素のひとつです。

80:20などの割合で表され、交通事故によって生じた損害をどちらがどの程度負担すべきかを決定する際の根拠となります。

しかし、過失割合は交通事故の発生状況や悪質行為の有無などにより異なるため、その算出は簡単ではありません。過失割合を正しく把握することで、保険会社との示談交渉や手続きをスムーズに進めやすくなります。

この記事では、交通事故の過失割合について、事故の類型別に具体的な事例を挙げて詳しく解説します。

高次脳機能障害を負った場合の後遺障害等級の認定基準や留意すべき損害賠償項目などについても解説しますので、交通事故後に違和感を覚えているならぜひご一読ください。

目次

交通事故における過失割合の定義と判定基準

この章では、交通事故における過失割合について、以下の4つの観点から詳しく解説します。

  • 過失割合の定義と公平の原則
  • 過失割合が損害賠償額に与える影響
  • 判例タイムズに見る過失割合の基準と適用範囲
  • 警察の判断と過失割合の関係

過失割合について、理解を深めましょう。

過失割合の定義と公平の原則

交通事故の過失割合とは、事故当事者双方にどのような不注意(過失)が存在し、その過失が事故発生にどの程度寄与したかを数値的に評価したものです。

日本の損害賠償制度は、損害の公平な分担を基本理念としています。そのため、被害者側にも過失があった場合、その割合に応じて賠償額を減額することで、当事者間の公平性を担保します。

例えば、被害総額が1,000万円で過失割合が加害者90:被害者10の場合、被害者は自らの過失分である10%(100万円)を負担し、加害者からは残りの900万円を受け取ります。

過失割合は、双方が任意保険に加入している場合は、過失割合が100:0となるもらい事故を除き、双方の保険会社の事故状況調査をもとに話し合って決めるのが一般的です。その際、事故と類似した過去の裁判例を基準として、実際の事故状況に応じて割合を修正しながら決定します。

例えば、信号無視や一時停止の未実施などの明白な違反がある場合には、違反があった側の過失割合が増加します。

現在の過失割合の判断基準は、過去の裁判例のほか、判例タイムズなどの専門資料も参考とするケースが多く見られます。裁判例や判例タイムズなどの資料では多数の事故パターンにおける過失割合が整理されているため、実際の事故状況をそこに当てはめる形で具体的な割合を算出します。

もっとも、実務では双方の言い分や証拠が重視される傾向にあるため、過失割合が決まるまでには時間がかかることも少なくありません。

過失割合が損害賠償額に与える影響

過失割合が変わると、最終的に受け取る損害賠償額が変わります

過失割合は、治療費や慰謝料、休業損害などの金額を左右するためです。

例えば、被害総額が1,000万円の場合、過失割合が加害者80:被害者20であれば800万円を受け取れます。しかし、過失割合が加害者6:被害者4となれば600万円しか受け取れなくなります。

被害者であるあなたの過失割合が大きくなればなるほど受け取れる金額は減少するため、正当な過失割合を主張することが大切です。

判例タイムズに見る過失割合の基準と適用範囲

判例タイムズとは、法律実務家向けに判例情報や論文を掲載する、株式会社判例タイムズ社が発行する法律専門雑誌です。さまざまなテーマで発行されている判例タイムズのうち、別冊判例タイムズ38号では、過去の裁判例に基づいた交通事故の類型ごとの過失割合の基準が示されています。

別冊判例タイムズ38号を参照すれば、交通事故の状況に応じた基本過失割合や保険会社が提示する過失割合の妥当性を確認できます。

もっとも、判例タイムズに示されている過失割合はあくまで目安です。実際には事故当時の天候や路面状況、当事者の交通ルール違反などの条件を加味して最終決定されます。

警察の判断と過失割合の関係

交通事故発生の連絡をすると、警察官が現場に駆けつけ、現場確認と当事者からの状況確認を行い、事故状況を記録します。しかし、警察には民事不介入の原則がありますので、過失割合の決定に警察が介入することはありません

過失割合は、事故の当事者である加害者と被害者が話し合って決めるのが原則です。

警察が作成する実況見分調書などの資料の情報をもとに過失割合の算定を進めます。

事故類型別に事例を紹介!四輪車同士の過失割合

四輪車同士の事故の場合、車両の運動性能が同等であるため、道路交通法上の優先関係が過失割合を決定する主要因となるのが一般的です。

例えば、優先道路への進入時にしっかりと停車して安全確認をしたにも関わらず、対向車が信号を無視して衝突した場合、相手方の過失が高く設定される可能性が高いです。

もっとも、一見単純な事故でも、ドライバーの見落としや合流のタイミングなどが絡んでくるため、過失割合の算出は複雑化しがちです。

実務では、過失割合を巡り当事者間や保険会社間で意見が分かれることも少なくありません。そのため、事故が発生したら、できるだけ詳しい実況見分やドライブレコーダーの映像を確保することが重要です。

この章では、以下の4つの事故パターンにおける基本過失割合を紹介します。

  • 信号機のある交差点での事故
  • 信号機のない交差点での事故
  • 進路変更による事故
  • 駐車場内の事故

ぜひ参考にしてください。

信号機のある交差点での事故

信号機のある交差点での事故の場合は、信号の色が判断の基軸となります。

ここでは、もっとも典型的な交差点での右直事故(右折車対直進車)の事例を分析します。

当事者A(直進車) 当事者B(右折車) 基本過失割合(A:B) 法的・実務的解説
青信号 青信号 20:80 道路交通法上、直進車優先の原則があるため右折車の過失が重く評価される。 しかし、直進車にも交差点内の安全進行義務があるため、基本的には無過失にはならず、20%の過失が課される。
黄信号 赤信号 20:80 Aが黄信号で進入した過失よりも、Bの赤信号無視(信号指示違反)の過失が重く評価される。
赤信号 赤信号 50:50 双方に信号無視の過失があるため、責任は等分される。
青信号 赤信号 0:100 Bの完全な信号無視であり、Aに予見可能性がないため、Aは無過失となる。

直進車Aにとって、青信号で進入したにもかかわらず20%の過失を問われることへの心理的抵抗は強いでしょう。しかし、相手方が合図を出さなかった場合などは、修正要素を主張することで数値を変動させられる余地があります。

信号機のない交差点での事故

信号機のない交差点での事故の場合は、道路の優先関係が判断の基軸となります。

道路の状況 優先関係 基本過失割合
道路幅が同じ場合 左側から来る車両が優先される。 (左方優先の原則 左方車40:右方車60
一方の道路が明らかに広い場合 広路側が優先される。 (広路優先 広路車30:狭路車70
一時停止線がある場合 一時停止線がある側は停止・安全確認義務違反により過失が加重される。 優先車20:停止線側80

進路変更による事故

進路変更(車線変更)による事故の場合は、進路を変更する車両は直進車の進行を妨害しない義務(道路交通法第26条の2)を負うため、基本過失割合は直進車30:変更車70となります。
ただし、変更車が合図(ウインカー)を出さずに変更した場合は、変更車に20%加算され、直進車10:変更車90となります。
進路変更禁止区間(黄色ライン)で変更した場合も、変更車に20%加算され直進車10:変更車90となります。
なお、真横からの幅寄せや急激な割り込みなど、直進車に回避可能性がない場合は、例外的に直進車0:変更車100が認定されることがあります。

駐車場内の事故

駐車場は公道ではないため、不特定多数が利用する場合は道路交通法が準用されるものの、以下のような特有の論理が働きます。

通路を走行している車同士の事故の場合は交差点と同様の考え方をするものの、駐車場内は徐行義務が前提となるため、双方の注意義務が高く設定されて50:50となるのが一般的です。

通路を走行する車と駐車スペースから出る車の事故の場合は、駐車スペースから出る車の方が重い注意義務を負います。そのため、基本過失割合は通路走行車30:駐車スペースから出る車70となります。

もっとも、判例タイムズの適用を巡って争いになりやすい事例であり、詳細な事実認定により数値を変動させられる余地はあります。

事故類型別に事例を紹介!四輪車と二輪車の過失割合

二輪車は、四輪車と比較すると車体が小さいため視認されにくく、転倒による身体的被害が甚大になりやすいです。そのため、優者危険負担の原則に基づき、四輪車側に重い責任を課す単車(二輪車)修正が適用されるのが一般的です。

例えば、四輪車側は二輪車に比べて車体が大きく、バイクを視認しづらいことも多いため、ウインカーやミラーによる死角確認が一層求められます。

もっとも、二輪車側も車間距離や転倒リスクなどの考慮は必要ですから、速度超過や無理なすり抜けが確認される場合には、その分の過失が二輪車側に上乗せされるのが一般的です。

この章では、以下の3つの事故パターンにおける基本過失割合を紹介します。

  • 交差点での右直事故
  • 左折巻き込みによる事故
  • 進路変更による事故

ぜひ参考にしてください。

交差点での右直事故

四輪車同士の右直事故の基本過失割合は直進車20:右折車80ですが、直進車が二輪車の場合はその過失が軽減され、二輪車(直進)15:四輪車(右折)85となります。

これは、二輪車が四輪車よりも交通弱者であることを考慮し、四輪車同士の場合と比較して二輪車側の過失が調整されるためです。

左折巻き込みによる事故

交差点を左折する四輪車がその左側を直進しようとする二輪車を巻き込む事故の場合、基本過失割合は二輪車20:四輪車80となります。

もっとも、四輪車が左折前にあらかじめ道路の左側に寄せて後続二輪車の侵入を防ぐ義務(左側端寄り義務)を怠った場合は、四輪車の過失が加重されることがあります。

二輪車が無理なすり抜けをした場合や、四輪車がすでに左折動作に入っているにもかかわらず突っ込んだ場合などは、二輪車側の過失が加重されます。

進路変更による事故

四輪車同士の進路変更による事故の基本過失割合は直進車30:変更車70ですが、二輪車の場合は二輪車(直進車)20:四輪車(変更車)80となります。

二輪車が進路変更する際の事故でも、二輪車の転倒リスクなどを考慮し、四輪車(直進車)40:二輪車(変更車)60が基本となることが多いです。

事故類型別に事例を紹介!四輪車と自転車の過失割合

自転車は道路交通法上軽車両に分類されますが、免許制度がなく、子どもや高齢者も利用することから、二輪車以上に交通弱者として保護されるのが一般的です。

しかし、近年自転車側の危険運転に対する社会的視線が厳しくなっているため、修正要素による加算がシビアになっている傾向が見られます。

この章では、以下の2つの事故パターンにおける基本過失割合を紹介します。

  • 信号機のある交差点での事故
  • 信号機のない交差点での事故

自転車特有の危険行為と修正要素も紹介しますので、参考にしてください。

信号機のある交差点での事故

2章で紹介したとおり、信号機のある交差点での事故は信号の色が判断の基軸となります。

しかし、四輪車と自転車の事故の場合は、四輪車に対して「自転車が信号を無視して飛び出してくるかもしれない」と予見し、回避のための高度な注意義務を課しています。

そのため、四輪車同士であれば100:0となる赤信号対青信号の場合でも、自転車(赤信号)80:四輪車(青信号)20が基本過失割合となります。

信号機のない交差点での事故

2章で紹介したとおり、信号機のない交差点では、道路幅が同じ場合は左方優先の原則が働きます。

四輪車同士であれば基本過失割合は左方車40:右方車60となりますが、四輪車と自転車の事故の場合は以下のように自転車側の過失が20〜25%程度低く設定されます。

  • 自転車が左方の場合は自転車15:四輪車85
  • 自転車が右方の場合は自転車40:四輪車60

補足|自転車特有の危険行為と修正要素

自転車の利用マナー悪化に伴い、以下の行為があった場合は著しい過失や重過失として自転車側の過失が加算されます。

行為 修正カテゴリー 修正幅の目安 解説
傘差し運転 著しい過失 +5%~10% 片手運転による操作不安定および視界不良を招くため。
スマホ・携帯使用 著しい過失 +10%~ ながら運転は前方不注視の典型であるため。
ヘッドホン使用 著しい過失 +5%~10% 周囲の音(クラクションなど)を聞き取る義務を怠ったとみなされるため。
夜間無灯火 著しい過失 +5%~10% 四輪車からの発見を困難にさせるため。
二人乗り 著しい過失 +5%~10% 制動能力の低下を招く危険行為であるため。
両手放し運転 重過失 +20%~ 故意に近い危険行為であるため。

なお、自転車の運転者が児童・幼児(13歳未満)や高齢者(65歳以上)の場合は、判断能力や運動能力の低さを考慮し、自転車側の過失が5%~10%減算される保護規定があります。

事故類型別に事例を紹介!四輪車と歩行者の過失割合

歩行者は交通社会における弱者であり、絶対的な保護対象です。

そのため、四輪車と歩行者の事故では、四輪車側に極めて重い責任が課され、歩行者の過失は限定的に解釈されるのが一般的です。

例えば、横断歩道に信号がある場合で歩行者が赤信号で横断した場合でも四輪車が危険を予見できたかどうかが争点となったり、歩行者の不注意により飛び出した場合でも車が徐行すべき場所であれば四輪車の違反とみなされたりすることもあります。

いずれにしても、四輪車は常に歩行者を最優先に保護する義務があるため、その点を踏まえた運転と事故後の適切な対応が求められます。

この章では、以下の3つの事故パターンにおける基本過失割合を紹介します。

  • 信号機のある横断歩道を横断中の事故
  • 信号のない横断歩道や横断場所での事故
  • 横断歩道外の事故

ぜひ参考にしてください。

信号機のある横断歩道を横断中の事故

信号機のある横断歩道を横断中の事故で、歩行者が青信号を横断していた場合、歩行者は無過失です。基本過失割合は歩行者0:四輪車100となります。

歩行者が赤信号であるにも関わらず横断していた場合も、四輪車には前方の安全確認義務が課されているため、100%免責されるわけではありません。歩行者側に信号無視という重大な違反があっても、基本過失割合は歩行者70:四輪車30となります。

信号のない横断歩道や横断場所での事故

信号のない横断歩道や横断場所では、歩行者優先の原則が極めて重視されるため、基本過失割合は歩行者0:四輪車100となります。

たとえ歩行者が左右を確認せずに横断した場合でも、車両は横断歩道手前での減速・停止義務を負うため、原則として歩行者の過失は問われません

ただし、歩行者が車両の直前で飛び出した場合や、夜間に黒っぽい服装で歩行しているなど発見が著しく困難である場合などは、歩行者に5〜10%程度の過失が認められることがあります。

横断歩道外の事故

横断歩道がない場所を横断(乱横断)した場合は、危険行為として歩行者の過失が認められるため、基本過失割合は歩行者20:四輪車80となります。

なお、発見が遅れやすい夜間や高速走行が想定される幹線道路などでの乱横断や車両の直前での飛び出しなどは危険性が高いため、歩行者の過失がさらに加算されます。

交通事故の過失割合を左右する修正要素とは

基本過失割合は事故パターン別にある程度の目安が存在しますが、実際の示談交渉では数多くの修正要素を積み上げることで、最終的な数値を5%刻みで調整します。

例えば、運転者の年齢や経験値、車両の整備状態などが一部考慮されることがありますし、初心者ドライバーの場合は監督義務違反や安全運転義務違反が厳格に問われることもあります。

事故当日の天候や時間帯、道路状況などの環境要因も見逃せません。夜間の視認性が低い場所でライトをつけていなかったり、雨天でブレーキが利きにくいのにスピードを出しすぎていたりすると、結果的に過失割合が修正されます。

代表的な修正要素を一覧で紹介しますので、ぜひご覧ください。

カテゴリ 修正要素の内容 修正幅の目安 解説
道路環境 夜間・雨天・濃霧 5% 視認性が低下するため、発見される側(被害者)の過失が増える場合と、注意義務を怠った側(加害者)の過失が増えることがある。
住宅街・商店街 5%~10% 歩行者等の飛び出しが予見される場所では、車両側の注意義務が高まる。
幹線道路 10%~20% 車の流れが速いため、歩行者や自転車の進入に対する車両側の回避義務が相対的に下がる。
運転行動 ウインカーなし 10%~20% 進路変更や右左折時の合図不履行は、予見可能性を奪うため重く修正される。
徐行義務違反 10% 見通しの悪い交差点等での徐行なし。
早回り・大回り右折 5%~10% 交差点での不適切な通行方法。
人的属性 初心者・高齢者マーク 5%~10% 表示車両に対しては、周囲の車が保護・配慮する義務がある。
児童・高齢者・障害者 5%~10% 歩行者や自転車がこれらの属性の場合、弱者保護のため車両側の責任が加重される。

交通事故の過失割合を左右する重大な修正要素については、次章で詳しく紹介します。

交通事故の過失割合を左右する重大な修正要素

修正要素の中でも、特に過失割合を大きく左右するのが著しい過失重過失です。

著しい過失や重過失が加害者側に認められれば、被害者側の過失を大幅に相殺、あるいはゼロにできる可能性があります。

この章では、著しい過失と重過失に分けて、重大な修正要素について詳しく解説します。

著しい過失

著しい過失とは、事故態様として通常想定される過失の程度を超えているものの、故意に近いとまでは言えないレベルの不注意を指します。

相手方に著しい過失があった場合、相手方の過失割合が10%程度加算されます。

四輪車・二輪車の場合、以下のようなことが著しい過失に該当します。

  • 脇見運転(著しい前方不注視)
  • 時速15km以上30km未満の速度超過
  • 酒気帯び運転(呼気中アルコール濃度0.15mg/L以上0.25mg/L未満)
  • ハンドル・ブレーキ操作の著しい不適切
  • 携帯電話・スマホの使用(通話・画像注視)

自転車の場合、以下のようなことが著しい過失に該当します。

  • 傘差し運転
  • 二人乗り
  • 無灯火
  • ヘッドホン使用

重過失

重過失とは、著しい過失よりもさらに悪質で、故意に比肩する重大な注意義務違反を指します。

相手方に重過失があった場合、相手方の過失割合が20%以上加算されます。

四輪車・二輪車の場合、以下のようなことが重過失に該当します。

  • 居眠り運転
  • 酒酔い運転(正常な運転ができない状態)
  • 無免許運転
  • 時速30km以上の速度超過
  • 過労運転、薬物等運転

自転車の場合、以下のようなことが重過失に該当します。

  • 両手放し運転
  • 信号無視(悪質な場合)
  • 高速道路への進入

なお、重過失の証明には客観的な証拠が不可欠です。速度超過であればEDR(イベントデータレコーダー)や防犯カメラの解析、目撃証言などが重要な証拠となり得ます。

特に、スマホを見ながらの運転は近年厳罰化されているため、相手方が運転中にスマホを操作していた場合は、これを立証できれば交渉を有利に進めやすくなります。

過失割合は損害賠償金にどのように影響する?

過失割合は単なる責任の比率ではなく、最終的に受け取る金額を直接削減する計算式、すなわち過失相殺の係数として機能します。

過失相殺とは、損害の発生について被害者にも落ち度がある場合に、損害の公平な分担の見地から、賠償額について一定の減額を行うことです。

損害賠償額は、以下の式で算出します。

損害総額×(100%−自分の過失割合)=受け取り金額

例えば、治療費や休業損害として100万円かかったとしても、自身に30%の過失がある場合は30万円分が相殺されるため、70万円しか請求できません。

事故による損害が大きいほど損害賠償額も大きくなるため、過失割合が少し変わるだけでも最終的に受け取れる金額に大きな差が出ることも珍しくありません。

いかに自分の過失を減らし、相手方の過失を明確に示せるかがポイントとなります。

過失割合100:0のもらい事故の場合の留意点

過失割合100:0のもらい事故の場合、一見被害者側には負担がないように思われますが、その解決は必ずしも簡単ではありません。

過失割合100:0のもらい事故の場合の主な留意点として、以下の3つを紹介します。

  • 被害者側の保険会社が交渉を代行できない
  • 加害者側の保険会社から不当な過失主張をされやすい
  • 示談交渉が停滞・長期化しやすい

今後の対応の参考にしてください。

被害者側の保険会社が交渉を代行できない

過失割合100:0のもらい事故の場合、被害者側の保険会社が交渉を代行できません

被害者の過失が0の場合、被害者が加入している保険会社は相手方に保険金を支払う義務が発生しません。保険会社はあくまで契約者の賠償責任をカバーする立場であり、自社に利害関係のないトラブルに介入して示談交渉を行うことは、弁護士法72条(非弁行為の禁止)により固く禁じられています。

そのため、保険会社の担当者は示談交渉サービスを提供できず、被害者は自身で相手方の保険会社と直接交渉しなければなりません

加害者側の保険会社から不当な過失主張をされやすい

過失割合100:0のもらい事故の場合、加害者側の保険会社から不当な過失主張をされやすいです。

証拠が不十分な場合、加害者側の保険会社が「実は被害者にも前方不注意があったのでは」などと過失を主張してくるケースは少なくありません。このような主張に対して適切に反論できないと、最終的に過失割合100:0で解決できなくなるおそれがあります。

ドライブレコーダーの映像や警察の事故証明書など、客観的な資料をそろえておくことが重要です。

示談交渉が停滞・長期化しやすい

過失割合100:0のもらい事故の場合、示談交渉が停滞・長期化しやすい傾向にあります。

たとえもらい事故でも、相手方が過失を認めなければ示談交渉は進みません。主張が対立すれば交渉は膠着状態となり、時間ばかりがかかって精神的な負担も増すでしょう。

こうした事態を防ぐためには、初動の段階で正確な情報収集と証拠の確保を行い、必要ならば弁護士などの第三者のサポートを利用することが有効です。

過失割合に納得できないときの対処法

提示された過失割合に納得できないときの対処法として、以下の3つを紹介します。

  • 事故直後の証拠と実況見分調書を活用して交渉する
  • 裁判外紛争解決手続きへの移行を検討する
  • 交通事故対応を弁護士に依頼する

今後の対応の参考にしてください。

事故直後の証拠と実況見分調書を活用して交渉する

事故直後の証拠と現場検証記録を活用して交渉しましょう

保険会社が提示する過失割合が適正とは限りません。ドライブレコーダーや目撃者の証言などの新たな証拠が出てくれば、過失割合が変更される可能性は十分にあります。

警察署で実況見分調書を入手し、警察が記録した事故状況と保険会社の主張に食い違いがないかを確認するとよいでしょう。

例えば、調書に「相手方は信号を見落とし」とあるのに、保険会社が「青信号だった」と主張しているなら、調書が強力な反論資料となります。

自分が適切に状況を説明しないまま交渉を終えてしまうと、不利な条件のまま示談交渉を進めることになりかねません。

警察が行う現場検証の記録やドライブレコーダーの映像は有力な材料となるので、過失割合の再検討を求める際に積極的に活用しましょう。

裁判外紛争解決手続きへの移行を検討する

裁判外紛争解決手続きへの移行を検討するのも方法のひとつです。

保険会社との話し合いでは解決が難しい場合、ADR(裁判外紛争解決手続)や交通事故紛争処理センターなどの機関に申立てを行う方法があります。

これらの機関では、担当弁護士が双方から提出された証拠を精査して、中立の立場で和解案を提示します。センターが提示する和解案については、保険会社側も原則としてこれに従う運用となっているため、より公正な割合へ修正される可能性が高まります。

なお、被害者に不服がある場合は、裁判への移行が可能です。

費用はかかりませんので、当事者間での交渉が決裂した場合は、裁判への移行前の選択肢として検討してみてはいかがでしょうか。

交通事故紛争処理センターについては、以下関連記事で詳しく解説しています。

交通事故紛争処理センターとは|利用方法やメリット・デメリット

交通事故対応を弁護士に依頼する

交通事故対応を弁護士に依頼することも積極的に検討してみてください。

弁護士に依頼することで、法律の専門知識と交渉力を活用し、保険会社との交渉を有利に進められる可能性が高まります。

交渉・手続きを一任できるため、時間的・精神的な負担も最小限に抑えられるでしょう。

特に、弁護士費用特約がついている自動車保険に加入している場合は、費用負担なく依頼できることもあるため、迷わず相談してみてください。

プロの助力を得ることで、より公平な過失割合の評価を目指せるでしょう。

まとめ

交通事故における過失割合は、損害賠償金や示談交渉の結果を大きく変える重要な要素です。

四輪車同士、二輪車、歩行者、自転車など、事故パターンは多岐にわたります。基本的な判断基準はあるものの、実際には事故状況や修正要素によって割合が変動するため、その判断は簡単ではありません。しかし、自分の過失をいかに少なくできるか、相手方の注意義務違反を立証できるかによって、受け取れる損害賠償金が増減します。納得のいかない過失割合が提示されたら、適切に反論することが大切です。

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