交通事故によるむちうちの場合、一般的に治療費や慰謝料などを加害者側の保険会社に請求します。また、弁護士が介入することで慰謝料が増額する場合があります。
しかし、むちうちの症状や特徴を知らずにその機会を逃してしまうことも少なくありません。
この記事では、交通事故によって受傷したむちうちについて、具体的な症状や症状の特徴、通院時の注意点についてご説明いたします。
目次
むちうちとは
むちうちとは、首が鞭のようにしなることによっておこる症状の総称です。
交通事故での追突、衝突、急停車などにより、頭が後方に大きく仰け反り首が急激な過伸展を起こしたり、首の過伸展の反動で頭が前方に大きく屈曲したりします。その結果、首が損傷し、むちうちの症状が現れます。
ここでは、むちうちの医学上の傷病名や具体的な症状についてご説明します。
むちうちの医学的傷病名
むちうちとは症状の総称であり、医学上は多彩な症状が出ることから総合的に外傷性頚部症候群とも言われます。
むちうちは症状によって次のとおり分類されます。
- 頸椎捻挫・頸椎挫傷
- 自律神経障害
- 神経根損傷
- 脊髄損傷
- 脳脊髄液減少症
以下で詳細をご説明します。
頸椎捻挫、頸椎挫傷
むちうちと呼ばれる症状の多くは、頸椎捻挫や頸椎挫傷です。
首や肩の痛み、首の可動域が狭まるといった症状が出ます。骨に異常がなくても、椎間板や靭帯に異常がある可能性があります。
自律神経障害
自律神経障害は、バレ・リュー症候群とも呼ばれています。
衝撃により頸部の交感神経に異常が生じ、肩こり、頭痛、吐き気、めまい、耳鳴り、いらつき、不眠などの症状がでます。発症は、受傷後早くて1週間程度ですが、ほかの症状と複合して1カ月以上経過してから発症することもあります。
神経根損傷
神経根が圧迫や刺激されることで、肩、背中、腕、肘、後頭部などの痛みや腕の知覚異常などの症状がでます。また、運動神経が損傷した場合、筋力低下や握力低下などの症状もでます。
しびれ程度で治まることもありますが、受傷直後から3週間程度で痛みが増強することがあります。
脊髄損傷
脊椎の脱臼や骨折などによって脊髄が圧迫されることで起こります。脱臼や骨折がない場合でも、もともと脊柱管が狭い人などは脊椎に衝撃を受けることで起こります。
両手の痺れ、筋力の低下の症状がでます。また、重度な場合は、両下肢の麻痺、尿や便が出にくくなることもあります。
脳脊髄液減少症
脳脊髄腔から髄液が持続的または断続的に漏出し、髄液圧が低下することで、主に頭痛の症状が出ます。また、頭が重い、全身の倦怠感、めまい、吐き気、耳鳴り、いらつき、不眠、鬱状態を引き起こすことがあります。更に症状が天候に応じて症状が左右されることがあり、非常に診断が困難とされています。
むちうちの具体的な症状例
むちうちの代表的な症状は次のとおりです。
- 首の後部、前部、側面の痛み
- 頭部、頸椎、腕の痛み
- 首、肩、背中の凝りや重みを感じる
- 首が回らない、動かすと痛い
- めまい、目のかすみ、目の疲労感
- 不眠
- 吐き気
- 握力低下
- 足や指先の麻痺、しびれ、力が入らない
むちうちの注意点
納得のいく損害賠償を受けるために、むちうちの症状の特徴を理解し、症状や通院時の注意点を把握しておきましょう。
ここでは、次の点についてご説明します。
- むちうちの症状の注意点
- むちうち症状の通院時の注意点
むちうちの症状についての注意点
むちうちの症状には、次の特徴があります。
- 軽度の交通事故でもむちうちになる
- 交通事故後、数日後から数週間後に発症する
- 症状が長期化する
- 医学的証明が困難
むちうちの特徴を理解し、注意しなければならない点は次のとおりです。
軽度の交通事故でもむちうちになる
車両の破損や衝撃が小さい事故でも、数日後に症状が現れることがあります。
大きな事故でないからといって、むちうちの症状が出ないわけではないので注意が必要です。
交通事故後、数日後から数週間後に発症する
むちうちは、事故直後に痛みや不調を感じないことが多くあります。事故直後は、当事者が興奮状態にあり、痛みの感覚が麻痺している場合があるからです。
よって、事故日から数日~数週間後に首や肩の不調などの症状が出ることがあります。
症状が出た後に、むちうちの診断を受けても、一定期間が経過していると症状と交通事故との因果関係が認められない場合があります。因果関係が認められなければ、交通事故による治療費や慰謝料などが請求できず、不利益を被ることになります。
自覚症状がない場合でも、事故後すぐに医療機関を受診しましょう。
症状が長期化する
交通事故によるむちうちは、治癒に1~3ヶ月程度要すると言われています。
違和感やだるい程度の軽度の症状だからといって油断すると、症状が長引く可能性があります。不調を感じた場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。
医学的証明が困難
むちうちは、被害者本人の自覚症状のみで、レントゲン画像では骨の異常や大きな損傷などが見つからないケースがほとんどです。近年は特に、症状の改善が見込めず後遺障害等級認定の申請をしても、他覚的所見がなければ認定を受けることが難しくなっています。
医学的な証明を得るため、MRIや神経学的検査を受けることを医師へ相談しましょう。
むちうち症状の通院時の注意点
交通事故に遭ったら症状の有無にかかわらず、すぐに医療機関を受診することをお勧めします。
通院時の注意点は、次のとおりです。
整形外科の受診
まずは、必ず整形外科を受診しましょう。
交通事故による損傷であることを示す診断書を作成できるのは医師のみです。
むちうちの症状が出たら、整形外科には行かずに整骨院などに通われる方もいますが、整骨院などでは検査・診断をすることができません。
必ず整形外科を受診し医師に相談したうえで、整骨院での施術が必要であれば通うようにしましょう。
保険会社は整形外科への通院の有無や頻度を重視して症状の重度や通院期間を判断する傾向があります。
また、整形外科では、次の検査を受けましょう。
- レントゲン撮影
- CT撮影
- MRI撮影
レントゲン撮影では、骨折や脱臼など骨に異常がないかを確認します。
CT撮影は、主に大きな事故の場合に利用されますが、レントゲン撮影では確認できない骨折などの異常が確認できます。
MRI撮影では、脊髄、靭帯、椎間板など軟部組織に損傷がないかを確認します。MRI撮影により、何らかの異常が確認された場合、後遺障害等級認定や損害賠償を請求する際の重要な資料となります。
具体的かつ正確に症状を伝える
自覚症状があるにもかかわらず、レントゲン画像などから客観的な症状の原因が見つからない場合、医師は被害者本人の症状の申告に基づいて診断や治療内容を決めます。
そのため、症状の部位や状態が二転三転したり、曖昧であったりすると保険会社から虚偽の申告と疑われる可能性があります。
以下のように具体的かつ正確に症状を伝えることが重要となります。
- いつから・どこが・どのような症状か
- その症状がどのような経過を辿っているか
- その症状のため日常生活や仕事などにどのような不具合があるか など
症状の一貫性
医師に訴える症状が一貫していることも重要となります。
治療を中断したり、自覚症状が変遷して一貫性がないと保険会社から虚偽の申告と疑われたり、後遺障害等級の認定申請の際に非該当と判断されることがあります。
安易に医療機関を変えることも良い印象を与えないため、やむを得ず医療機関を変える場合は必ず紹介状を書いてもらいましょう。
一定期間継続して受診する
整形外科を受診後、整骨院などへ通うことになっても、並行して最低月に1回は整形外科を受診しましょう。
症状が長引き、後遺障害等級認定を受けようとした場合、申請に必要となる後遺障害診断書を作成できるのは医師のみです。等級認定を受けやすくするには、継続的な受診が重要です。
保険会社は整形外科への受診頻度を重視する傾向にあります。一方で、整骨院のみの治療については、消極的な見方をします。
整骨院の方が通いやすく、よく施術してくれるという話もありますが、整骨院は医療機関ではないので、注意が必要です。
むちうちの治療方法
むちうちの治療方法は、以下の経過に伴って変化します。
- 受傷直後
- 症状が落ち着いてきた時期
- 回復傾向の時期
受傷直後
痛みを緩和するための治療がなされます。具体的な方法は次のとおりです。
- 筋肉を冷やすことで炎症を抑える
- 内外服薬の投薬により痛みを和らげる
- 強い痛みがある場合はブロック注射などを打つ
- 頸椎カラー(コルセット)の装着により首の負担を軽くする
症状が落ち着いてきた時期
血行促進のために次のようなリハビリが開始されます。
- マッサージ
- ストレッチ
- 牽引(けんいん)療法
- 電気療法
- 温熱療法 など
回復傾向の時期
機能回復のために次のようなリハビリが開始されます。
- マッサージ
- ストレッチ
- 運動療法 など
症状によっては、整形外科でなく麻酔科や神経内科などでの治療が必要となる場合があります。医師の指示に従って適切な治療を受けましょう。
むちうちの治療期間
むちうちの治療期間は、一般的に1~3ヶ月程度と言われています。
しかし、衝撃の強さ、衝撃を受けた時の姿勢、年齢などによっては、半年や1年以上に渡って症状に悩まされる場合があります。半年以上治療を継続しても症状が変わらなければ、「症状固定」として後遺障害の等級認定申請を検討する必要があります。
申請に必要となる「後遺障害診断書」は通院先の医師に作成してもらうため、相談するとよいでしょう。
治療費の支払いの打ち切りの連絡が来たら
交通事故の治療費は、加害者が加入している任意保険会社が直接医療機関に支払ってくれることがほとんどです。しかし、治療開始から約3ヶ月が経つと、保険会社から治療費の支払いを打ち切るとの連絡が入ることがあります。保険会社にとっては、治療期間が短い方が、治療費や慰謝料などの支払額を低く抑えられるからです。
しかし、治療終了の判断は医師がするものです。症状の回復が見込める場合は、治療を継続する必要があります。
保険会社から治療費の支払いの打ち切りの連絡が来たら次のとおり対応しましょう。
- 医師に治療継続の必要があるかを相談する
- 治療継続の必要があれば保険会社に継続して支払ってもらうよう交渉する
- 医師の判断を伝えても治療費が打ち切られた場合は健康保険などを利用して治療継続する
まとめ
むちうちの症状は、事故に遭って一定期間が経過してから現れることも少なくありません。交通事故に遭ったら症状の有無にかかわらず、すぐに医療機関を受診しましょう。
交通事故でむちうちの症状になった場合、弁護士に依頼することで以下のようなメリットがあります。
- 加害者の任意保険会社とのやりとりを代わりに対応できる
- 後遺障害の等級認定申請の際の手続を代わりに対応できる
- 示談交渉の場合、「弁護士基準」で算定できるため賠償金の受け取り金額が高くなる
- 症状固定日や症状に争いがある場合は、裁判手続などにより法的な解決ができる
納得のいく解決を得るためにも、なるべく早い時点で弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。