事業承継に必要な契約書について、事業承継方法別に解説

事業承継には様々な契約書が必要です。承継方法によって必要な契約書が異なります。
必要な手続を把握し、適切に契約をすることで、事業承継をスムーズに行えます。
ここでは、以下の3つの承継方法毎に、主な契約書類について解説します。
- 親族への承継に必要な契約書
- 従業員や第三者への承継に必要な契約書
- M&Aでの承継に必要な契約書
親族への承継に必要な契約書
親族へ事業を承継する場合、以下の2点次第で手続の内容が変わってきます。
- 個人事業主か法人か
- 前経営者が存命か亡くなっているか
相続の場合も含めた主な契約書は、下記のとおりです。
個人事業主 | 法人 | |
遺言書 | 〇 | 〇 |
遺産分割協議書 | 〇 | 〇 |
生前贈与契約書 | 〇 | 〇 |
使用貸借契約書 | 〇 | 〇 |
事業譲渡契約書 | - | 〇 |
株式譲渡契約書 | - | 〇 |
個人事業主の場合
個人事業主の承継の場合は、前経営者が廃業に係る届出を行い、後継者が開業に係る届出を行うことで主な手続は終了します。
廃業・開業に必要な書類については、弊所ホームページに記載しておりますので、そちらをご参照ください。
その他、事業用資産や土地を引き継ぐ場合には、以下の書類が必要です。
遺言書
遺言書を作成することで、故人の遺志を相続人へ伝えることができ、遺産分割の話し合いも比較的スムーズにできます。
遺言書の形式としては、下記のとおりです。一般に遺言書と言われているものは、普通方式の遺言書となります。
普通形式の遺言書3種類の概要と記載すべき内容は以下のとおりです。
- 自筆証書遺言
遺言者が自筆することで成立する遺言書です。
全文自筆が必須で、一部分でも他人の代筆があると、遺言書として無効になります。
パソコンやワープロなどで作成したものは無効になりますが、遺言書に財産目録を添付する場合は、財産目録のみパソコンやワープロでの作成が認められています。
これまで自筆証書遺言は、自宅等で保管されることが多く、失くしてしまうなどのトラブルがありました。これを回避するために、法務局で保管してもらえる制度ができました。
- 公正証書遺言
証人2人以上の立ち会いのもとで、遺言者が公証人へ遺言の内容を伝え、公証人が筆記・作成する遺言書です。作成した遺言書は公証人役場で保管されます。手数料は、遺言書の資産の価格によって変わります。
- 秘密証書遺言
公証人への依頼が必要になる遺言書ですが、公正証書遺言とは違い、公証人は遺言書の存在を証明するのみとなり、公証人の手数料がかかります。
遺言書の作成は、自筆証書遺言と同様に遺言者が行い、証人もいないため、誰にも遺言書の内容を知られたくない場合に有効な遺言書です。
【記載する主な内容】
- 日付(遺言書を作成した日)
- 署名
- 押印
- 相続財産(不動産、有価証券、預貯金、生命保険、その他の財産(車、ゴルフ会員権等)等)
- 相続分の指定(誰に相続させるか)
【注意点】
- 日付は、「吉日」というような曖昧な日付は無効となります。
- 押印は認印でも構いませんが、後々のトラブルを避けるために、印鑑登録証明書と同じ実印の方が望ましいです。
- 財産目録に記載した以外の財産が発覚した場合のトラブルを避けるために、「ここに記載のない財産はすべて●●へ相続させる」「ここに記載のない財産は相続人全員によって協議する」などの取り決めを記載しておきましょう。
- 日付、署名、押印は必須で、どれか1つでも欠けてしまうと、遺言書としては無効になります(民法第968条第1項)。
- 相続財産については、各相続人への分配などを決める際に確認ができるよう、購入した時期や価格、査定書などを事前に準備しておくと良いでしょう。
遺産分割協議書
相続人全員で遺産をどのように分割するか協議を行い、合意をした内容を書面にしたものです。遺言書が作成されていない場合や、遺言書が作成されていても一部の財産しか記載されていない場合に必要です。
【記載する主な内容】
- 被相続人の氏名と死亡年月日
- 被相続人の最後の住所地
- 相続財産の分配内容
- 相続人全員の住所・氏名・押印
【注意点】
- 書式は特に決まっておらず、手書きでもパソコンやワープロでの作成も可能です。
- 相続財産については、具体的に記載します。
- 遺産分割協議が終了した後に、判明した財産があった場合の対処方法を記載しておきましょう。
- 代償金がある場合は、支払い金額と支払い期限を明確に記載します。
- 住所は住民票どおりに記載します。押印は財産の払戻手続きとの関係で、印鑑登録証明書と同じ実印が望ましいです。
- 相続人全員分を作成し、署名・捺印後、各自が1部ずつ保管しましょう。
生前贈与契約書
生前贈与は、口頭のみで契約書がなくても手続きができます。ただし、相続の場合と同様に、後々の争いを避けるためにも作成しておくことが望ましいでしょう。
【記載する主な内容】
- 贈与を行った日付
- 誰から誰へ贈与したか
- 贈与したものはなにか
- 贈与の方法
【注意点】
- 不動産の場合は、住所ではなく、登記事項証明書の記載どおりに、所在と地番を記載します。
- 贈与者は印鑑登録証明書と同じ実印での押印が必要です。
- 受贈者が未成年の場合は、受贈者名と受贈者の親権者名を記載します。
- 公証役場で「確定日付」をもらうと良いでしょう。
使用貸借契約書
使用貸借とは、無償でものを貸し、借りたものをそのまま返してもらう契約のことです。無償であることから信頼関係が前提となります。多い例が、親が所有する土地に子供が家を建てるなどの、親子間での土地や建物の使用貸借です。
【記載する主な内容】
- 使用目的
- 返還時期
- 目的外利用の禁止
- 誰から誰へ貸し付けるのか
- 貸し付ける対象物
【注意点】
- 地代や権利金を支払うと、「賃貸借」扱いとなり、贈与税が課税される場合があるので、支払はしないようにしましょう。
法人の場合
個人事業主の承継に必要な契約書に加えて、下記の書類が必要になります。
事業譲渡契約書
事業譲渡契約書とは、引き継いでもらう会社の資産や事業について、その一部、または全部を譲渡する際に作成する契約書です。
【記載する主な内容】
- 事業譲渡の対象、事業譲渡の価格、支払い条件
- 競業避止義務
- 表明保証条項
- 補償条項
【注意点】
- できるだけ具体的に記載しましょう。
- 他の契約書とのズレや矛盾がないように、確認しながら記載しましょう。
株式譲渡契約書
株式譲渡契約書とは、株式の譲渡におけるさまざまな事柄について定めた契約書です。
事業承継においては、前経営者が後継者へ株式を確実に引き継ぐために作成する必要があります。
【記載する主な内容】
- 譲渡する株式の種類・株数・対価の金額
- 支払の方法・期限
- 株主名簿の書き換えを請求する内容
- 契約解除に関する内容
- 賠償責任に関する内容
【注意点】
- 株式が株券発行会社か、株券不発行会社かを確認しましょう。
株券発行会社の場合は、譲渡の際に売主から買主に株券を渡さなければならないとされており、これをしないと譲渡が無効になります。
- 株式の譲渡制限があるかどうかを確認しましょう。
譲渡制限株式を譲渡する場合は、株式発行会社において株主総会または取締役会での承認が必要になります。
承認手続きに不備があると、株式譲渡契約が無効になることがあります。
従業員や第三者への承継に必要な契約書
株式会社の場合は、その他の承継方法でも必要な「株式譲渡契約書」の他に、株式に係る請求を行う必要があります。
株式譲渡承認請求書
譲渡制限株式を発行している「非公開会社」の場合、会社の定款で株式譲渡制限が規定されており、株式を譲渡する際には株主総会や取締役会の承認を得る必要があります。
承認を得るためには、譲渡する相手や株式数を記載した「株式譲渡承認請求」を行う必要があり、その内容を記載した請求書が「株式譲渡承認請求書」です。
【記載する主な内容】
- 譲渡することへの承認を請求する旨
- 譲渡する株の種類
- 譲渡する株式の数
- 譲渡する相手
【注意点】
- 株式の種類は普通株や、優先株、後配株の3つがあるため、種類を分けて記載します。
- 株式譲渡承認請求書を提出しても、承認されるとは限らないため、承認されなかった場合の対応も記載しておきましょう。
- 押印に使用する印鑑は、本人であることが確認できるものが良いとされています。
印鑑証明書と同じ実印や、株式名簿に登録されている印鑑で押印することが推奨されています。
株式名義書換請求書
株主名簿は、株主を管理するための重要な書類で、株式会社を設立したあとに作成する必要があります。
株式譲渡を行い、株主が変更された場合、株式名義書換請求書を会社に提出し、株主の情報を更新しておきましょう。
ちなみに、株式名簿の記載事項は下記のとおりで、すべての内容が記載されていれば、書式は特に決まっていません。
・氏名、法人の場合は名称
・住所
・保有する株式の数
・株式の種類
・株式を取得した日
・株券を発行している場合は株券の番号
【記載する主な内容】
- 譲渡する株式の種類
- 譲渡する株式の数
- 譲渡人の住所・氏名・押印
- 譲受人の住所・氏名・押印
【注意点】
- 株式譲渡が承認されても、会社が自動的に書き換えることはないので、譲渡人と譲受人が会社に対して請求しましょう。
- 本人であることが確認できるよう、印鑑登録証明書と同じ実印による押印が良いでしょう。
M&Aでの承継に必要な契約書
M&Aでの承継の際に、最初に締結する必要があるのが、「秘密保持契約書(NDA)」です。なぜならば、M&Aによって知り得た情報や、M&Aを進めているという事実の漏洩を防ぐためです。
M&Aでは、その他にも複数の契約書を締結します。
詳細は、弊所ホームページに記載しておりますので、そちらをご参照ください。
まとめ
事業承継には様々な契約書が必要になり、承継方法によって必要な契約書が異なります。
契約書には、必ず記載しなければならない項目があり、その記載がないことで無効になる場合があるので注意が必要です。
一般にひな形が公開されている契約書もあり、ご自身で対応できるものもありますが、それぞれの事情により、今回記載した契約書以外にも契約書が必要になる場合がありますので、詳細については、弁護士などの専門家に相談することをお勧めいたします。
