任意整理とは?条件・費用・流れ・メリット・デメリットなどを総解説
任意整理(にんいせいり)とは、裁判外で、債権者との交渉により返済方法を変更する手続きです。
引き直し計算や将来利息のカットなどにより、約定どおりの返済を続ける場合に比べて、返済総額を減額できる特徴があります。分割回数を増やし月々の返済額を生活に支障のない範囲に抑えられる可能性もあります。
この記事では、任意整理について、以下の点を分かりやすく解説します。
- 任意整理とは
- 任意整理のメリット・デメリット
- 任意整理しない方がいいケース・任意整理した方がいいケース
- 任意整理にかかる費用の相場
この記事をご覧の方が、任意整理がどのような手続きであるかを正しく理解する助けになれば幸いです。
目次
任意整理とは
裁判外で債権者と債務者が話し合い、借金を無理なく返済できるように交渉する手続きです。
債権者にもよりますが、多くの場合で、将来発生する利息のカットや3〜5年程度の長期分割返済などによる負担軽減が期待できます。
任意整理で借金が減額できる仕組み
任意整理では、次の4つの仕組みによって借金を減額できる可能性があります。
- 最終返済日から和解成立日までの利息(経過利息)の免除
- 利息制限法の上限金利(15~20%)を超えた利息分の減額
- 最終返済日の翌日から発生する遅延損害金の免除
- 和解日以降に発生する利息・手数料(将来利息・将来手数料)の免除
任意整理では、原則として借金の元金のみを3~5年かけて返済することになります。そのため、約定どおりの返済を続ける場合に比べて返済総額は確実に減り、月々の返済額も軽減できます。
月々の返済が利息にしか充当されず元本がなかなか減らない状況(任意整理前)と、返済した分だけ借金残高が減る状況(任意整理後)をイメージすると良いでしょう。
任意整理による借金減額の仕組みについては、下記関連記事をご参照ください。

任意整理できる3つの条件
任意整理をするためには、次の3つの条件を満たしている必要があります。
- 安定した収入がある
- 3~5年で完済する見込みがある
- 返済を継続する意志がある
ひとつずつ説明します。
安定した収入がある
任意整理は、返済を前提とする債務整理手続きです。毎月決まった金額を3~5年間返済し続けなければならないため、安定した収入が必要です。
ただし、無職の方でも、家族から援助を受けたり、就職の予定があったりして、和解に基づく返済を確実に実行できる場合には、債権者が任意整理に応じてくれることもあります。
3~5年で完済する見込みがある
任意整理では、原則として3~5年分割で借金を完済する返済計画を立てます。そのため、元本を36~60回分割しても完済できる見込みがない場合は、任意整理で借金を解決できない可能性があります。
返済能力に比して借金が大きすぎる場合には、他の債務整理方法を検討せざるを得ないケースもあります。
返済を継続する意志がある
債権者に和解に応じてもらうためには、返済する意思があることを真摯に示さなければなりません。債権者に、利息をカットしたり返済期間を猶予したりすれば確実に返済してもらえると信用してもらう必要があるからです。
任意整理の8つのメリット
ここでは、任意整理の8つのメリットを紹介します。
任意整理の主なメリットは、以下のとおりです。
- 返済総額や毎月の負担を減らせる
- 交渉する債権者を自由に選べる
- 財産を手放す必要がない
- 取り立てや督促から解放される
- 返済を一時的停止できる
- 資格制限を受けない
- 周囲の人にバレにくい
- 法外な利息を払っていた場合は過払金が戻る可能性がある
ひとつずつ説明します。
返済総額や毎月の負担を減らせる
債権者に将来利息のカットや返済期間の延長に応じてもらえれば、返済総額や毎月の負担を軽減できます。
収入の範囲内で無理なく返済できる計画を立てるため、家計に余裕が出て生活が楽になる可能性があります。
交渉する債権者を自由に選べる
任意整理は、裁判所を通さない手続きであるため、交渉する債権者を自由に選べます。
保証人がいる借金や車のローンを対象から外すことで、保証人に迷惑をかけたり車が没収されたりすることを防げます。
財産を手放す必要がない
借金の返済義務を免除する代わりに一定の財産が処分される自己破産とは異なり、任意整理では財産を手放す必要がありません。
ただし、ローンやクレジットカードを利用して購入した車や商品は、当該ローン・カード会社を任意整理の対象にすると、債権者に没収されることもあります。
取り立てや督促から解放される
任意整理を弁護士に依頼すると、弁護士が交渉先の債権者に受任通知を送付します。受任通知を受け取った債権者は、原則として本人への直接の取り立て・督促ができなくなります。
取り立てや督促が止まれば、平穏な生活を取り戻せて心理的な負担も軽減できます。
返済を一時的停止できる
任意整理では、受任通知送付後は一時的に返済を停止します。債権者への交渉に先立ち、取引履歴を取り寄せて借金の額を確定する必要があるからです。
任意整理を弁護士に依頼してから和解が成立するまでの期間は、返済をストップできるため、その間に生活を立て直したり、弁護士費用を積み立てたりできます。
資格制限を受けない
一定の資格や職業に制限を受ける自己破産と異なり、任意整理ではそのような資格制限を受けることはありません。
生命保険の外交員や警備員、士業の方も、仕事を続けながら借金問題を解決できます。
周囲の人にバレにくい
任意整理は裁判外の手続きであるため、手続きを利用した事実が官報に掲載されることもありません。弁護士に依頼すれば、債権者とのやり取りもすべて弁護士が対応してくれるため、債権者からの電話や郵便によって周囲の人にバレるリスクも軽減できます。
法外な利息を払っていた場合は過払金が戻る可能性がある
利息制限法の上限金利(15~20%)を超える利息を支払っていた場合は、引き直し計算により払い過ぎた利息を取り戻せる可能性があります。過払金の額が、借金の残高を上回っていれば借金はゼロになり、ブラックリストに載ることもありません。
回収した過払金で、他の借金を完済できる可能性もあります。
任意整理の6つのデメリット
ここでは、任意整理の6つのデメリットを紹介します。
任意整理の主なデメリットは、以下のとおりです。
- ブラックリストに載る
- 新規借入れやクレジットカードの作成ができなくなる
- 携帯電話やスマートフォンの本体代を分割払いできなくなる
- 債権者が和解に応じないこともある
- 差し押さえを阻止できない
- 交渉する金融機関に口座を開設していると凍結されるおそれがある
ひとつずつ説明します。
ブラックリストに載る
任意整理すると、信用情報機関に事故情報が登録されます。いわゆるブラックリストに載る状態です。
新規借入れやクレジットカードの作成ができなくなる
ブラックリストに載ると、一定期間、新規借入れやクレジットカードができなくなります。
任意整理の対象外としたクレジットカードも、途上与信や更新時に事故情報が参照され、限度額引き下げや利用停止となる可能性があります。
携帯電話やスマートフォンの本体代を分割払いできなくなる
ブラックリストに載ると、携帯電話やスマートフォンの本体代を分割払いにできなくなります。割賦契約の申込審査では、個人信用情報が参照されるからです。
任意整理後に携帯電話やスマートフォンを購入する場合は、現金一括払いが原則です。
債権者が和解に応じないこともある
任意整理は、債権者と債務者の話し合いによる手続きであるため、強制力がありません。
そのため、必ずしも債権者が和解に応じてくれるわけではありません。希望する返済額や返済回数では合意に至らないケースや、任意整理そのものを拒否されるケースもあります。
差し押さえを阻止できない
個人再生や自己破産を利用すると、裁判所への申立てにより差し押さえを中止したり、新たな差し押さえを回避したりできます。
任意整理は裁判所が関与しない手続きであるため、強制的に差し押さえを停止させる効果はありません。任意整理の交渉を開始した時点で、すでに差し押さえを受けている場合、強制執行を停止するかどうかは債権者の判断に委ねられます。
交渉する金融機関に口座を開設していると凍結されるおそれがある
任意整理の対象とした銀行に口座を開設している場合は、受任通知の送付により口座を凍結される可能性があります。
口座が凍結されると、現金の引き出しや送金、公共料金等の自動引き落としなどができなくなります。料金の引き落としができなくなると滞納扱いとなるため、延滞金の発生も懸念されます。
交渉する金融機関に口座を開設している場合は、以下のような事前対策が必要です。
- 公共料金や携帯電話料金等の振替口座に指定している場合は、他の口座に変更する
- 給与の振込先口座に指定している場合は、他の口座に変更する
口座変更の手続きが間に合わない場合や、他に預金口座を持っていない場合などは、現金払いに変更すると良いでしょう。
任意整理しない方がいいケース・任意整理で解決できないケースとは?
ここでは、任意整理しない方がいいケースや任意整理で解決できないケースについて解説します。
減額しても完済できる見込みがない場合は他の債務整理の検討も必要
借金の元本を3~5年で返済できる見込みがない場合は、他の債務整理を検討しましょう。
返済額が収入の3割を超え、返済期間が5年を超える返済計画は、途中で破綻する可能性が高いです。無理のない返済計画が立てられない場合には、初めから自己破産や個人再生を検討した方が良いケースもあります。
奨学金は任意整理で解決できない可能性がある
奨学金の多くは、利息制限法の上限金利を大幅に下回る金利が設定されているため、任意整理しても返済額を軽減できません。日本学生支援機構は、任意整理に応じない姿勢を打ち出しています。
奨学金を提供する機関の多くは、返還困難者への独自の救済措置が用意されています。奨学金以外に借金がない場合は、任意整理ではなく各機関の救済制度を利用しましょう。
詳細は下記関連記事をご参照ください。
税金や社会保険料は任意整理で解決できない
個人が負担する滞納税や滞納社会保険料は、任意整理で減額・免除できません。任意整理以外の手続きを利用しても同様です。税金や社会保険料の納付は国民の義務であるため、債務整理しても支払義務が残ります。
税金や社会保険料の支払いが困難な場合は、ご自身で税務署や市町村役場の担当窓口に行き、分納や納付猶予を相談しましょう。
任意整理はこんな人におすすめ!任意整理に向いている人とは?
ここでは、任意整理に向いている人やケースについて解説します。
車や自宅など手元に残したい財産がある
車や自宅など手元に残したい財産があり、かつ、安定した収入を得られる方は、任意整理を検討すると良いでしょう。
任意整理では、交渉する債権者を自由に選べるため、返済中のローンを対象外にすれば車や自宅を手放さずに済みます。
保証人に迷惑をかけたくない
保証人に迷惑をかけたくない方は、任意整理を検討しましょう。保証人がいる借金を手続きから外すことで、保証人に迷惑をかけず他の借金を減額できる可能性があります。
周囲の人に借金があることを知られたくない
なるべく周囲の人にバレずに借金問題を解決したい方も、任意整理を検討すると良いでしょう。任意整理は裁判所を通さない手続きであるため、他の手続きに比べて周囲の人にバレる可能性を低くできます。
任意整理では、同居家族の収入を証する書面や退職金証明書等を収集・提出したり、官報に掲載されたりすることがないからです。
手続きに時間や手間をかけたくない
自己破産や個人再生は裁判所を利用する手続きであるため、書類の収集・作成や裁判所への出廷が必要になります。
任意整理では、弁護士に依頼した後は、弁護士が債権者との交渉を代理するため、面倒な手続きをする必要が一切ありません。
なるべく費用を抑えたい
自己破産や個人再生を利用する場合は、弁護士費用や裁判所費用として、最低でも30万円程度の費用がかかります。任意整理であれば、裁判所に支払う費用はかかりません。他の手続きに比べて弁護士費用もリーズナブルであるため、なるべく費用を抑えたい方におすすめの手続きです。
任意整理にかかる期間や手続きの流れ
ここでは、任意整理にかかる期間や手続きの流れについて解説します。
任意整理にかかる期間の目安は3~6か月
任意整理を弁護士に依頼してから和解成立までの期間は、債権者や事案にもよりますが、通常3~6か月程度です。
任意整理の手続きの流れ
任意整理を弁護士に依頼してから返済を開始するまでの大まかな流れは、以下のとおりです。
- 弁護士への相談・依頼
- 受任通知の送付・取引履歴の開示請求
- 引き直し計算・過払金の有無の調査
- 債権額の確定
- 返済案の提示
- 交渉
- 和解成立・和解書の締結
- 和解書に基づく返済開始
手続きの流れの詳細は、下記関連記事をご参照ください。
任意整理中や和解後の返済中に注意すべきこと
ここでは、任意整理中や和解後の返済中に注意すべき点を解説します。
任意整理中の借入れは控える
任意整理中は、新たな借金やクレジットカードを作ることは控えましょう。
任意整理中に新たな借入れをした事実が判明すると、債権者との交渉が難航したり、弁護士に辞任されたりするおそれがあります。
新たに借入れをして借金を増やす行為は、和解に基づく返済計画を破綻させることに繋がりかねません。
返済が遅れそうな場合は事前に連絡する
和解後の返済が遅れそうな場合は、必ず事前に債権者に連絡しましょう。何の連絡もせずにいると返済期日経過後に債権者から督促の連絡が入ります。
2か月分以上の延滞が生じると、残金を一括請求されるおそれもあります。
事前に連絡して事情を説明することで返済期日を延ばしてもらえることもあるため、返済が遅れることが分かった時点で債権者に連絡することを心がけましょう。
長期間返済できない場合は他の債務整理への切り替えも検討する
病気が怪我、失業等により長期間返済できない状況が続く見込みがある場合は、他の債務整理への切り替えを検討しましょう。
2か月以上返済が滞る可能性がある場合は、なるべく早く弁護士に相談することをおすすめします。和解後の返済が長期間滞ると、一括返済や差し押さえのリスクが生じます。
任意整理後のブラックリスト登録期間
ここでは、任意整理後のブラックリスト登録期間について解説します。
弁護士の受任通知発送後からブラックリストに登録される
任意整理でブラックリストに登録されるタイミングの一つ目は、弁護士が送付した受任通知が債権者に届いた時点です。この時点で債務整理として事故情報が登録されるため、以後、原則として新たな借入やクレジットカード作成ができなくなります。
和解に基づく返済の完済後5年間は消去されない
多くの場合、和解後に借金を完済したタイミングで新たに事故情報が登録されます。債権者によっては、和解成立時に事故情報を登録することもあります。
完済後5年経過すると事故情報が削除されますが、それまでの間は新規借入れやクレジットカード作成ができない状況が続きます
任意整理にかかる費用の相場は?弁護士費用が払えない場合はどうすればよい?
ここでは、任意整理の費用相場や弁護士費用が払えない場合の対処法について解説します。
任意整理の弁護士費用の相場
任意整理の弁護士費用の相場は、以下のとおりです。
- 着手金または基本手数料:債権者1社につき3~5万円程度
- 成功報酬:経済的利益(減額できた額)の10~20%程度
一括払いが困難な場合は弁護士に分割払いの相談を
手続きの対象とする債権者が多い場合など、着手金または基本手数料の一括払いが困難な場合は、依頼する弁護士に分割払いが可能か相談すると良いでしょう。
分割払いに応じている法律事務所も多くありますので、弁護士を選ぶ時点で、分割払いに対応している事務所を探すのも選択肢の一つです。
法テラスの利用で費用を抑えられることもある
法テラスを利用して任意整理した場合は、1社につき以下の費用がかかります。
- 着手金3万3,000円
- 実費1万円
ただし、法テラス利用では成功報酬が発生しないため、その分の負担が軽くなります(過払金が発生する場合を除く)。
法テラスに立て替えてもらったお金は、月々5,000円からの分割返済が可能です。民事法律扶助制度の利用要件を満たす場合は、法テラスを検討しても良いでしょう。
※なお、当事務所では法テラスの民事法律扶助制度の利用を希望される方からのご相談は現在受け付けておりません。
まとめ
任意整理は、自己破産や個人再生に比べてデメリットが少ない手続きですが、デメリットが全くないわけではありません。借金の総額や収入状況によっては、他の債務整理手続きを検討した方がよい場合もあります。
借金問題を根本的に解決するためには、それぞれの事情や状況にあった手続きを選択することが重要です。借金にお悩みの方は、まずは弁護士に相談しましょう。
ネクスパート法律事務所の無料相談をご活用いただければ、それぞれの事情に適した解決をご提案させていただきます。