サマリー
自己破産の手続きを検討する際、現在就いている仕事や保有している資格への影響が気になる方は少なくありません。
自己破産をすると、法律の定めにより一定の職種や資格で一時的に業務や登録が制限される場合があります。
ただし、この制限はすべての職業に生じるものではなく、対象となる資格や制限が続く期間にも目安があります。
この記事では、資格制限が生じる仕組みや対象となる職種の一覧、制限期間と復権の考え方、制限を受ける場合に考えられる対応、そして資格制限を伴わない債務整理の選択肢について解説します。
自己破産による資格制限とはどのような制度か
自己破産の手続きに伴う資格制限は、破産法そのものに制限対象の一覧が定められているわけではありません。
弁護士法や警備業法など、各資格や職業について定めた個別の法律の中に、破産に関する欠格事由の規定が設けられていることによって生じる仕組みです。
多くの個別法では、「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」を、資格の登録拒否事由や欠格事由として定めています。
つまり制限の根拠は資格ごとにばらばらの法律にあり、共通の一覧表のようなものが存在するわけではない点に注意が必要です。
この規定により制限の対象となるのは、裁判所から破産手続開始決定を受け、かつ復権をまだ得ていない状態にある人です。
破産手続開始決定が下りた時点で該当する個別法の欠格事由に当てはまることになり、その職業や資格に関する業務・登録に制限が生じる可能性があります。
資格制限は、資格そのものを永久に奪う制度ではなく、一定の期間に限って効力や業務が制限される一時的な措置であるという点を理解しておくことが大切です。
士業の登録や警備員の地位などが一例として挙げられますが、これらはいずれも破産手続きが続いている間に限定的に生じるものであり、手続きが進んで復権という状態に至れば、制限は解消される仕組みになっています。
資格の取消しや剥奪とは異なる点を押さえておく必要があります。
なお、制限の有無や内容は職業・資格ごとに規定されている個別法によって異なります。
すべての職業に一律の制限が及ぶわけではなく、該当する法律に欠格事由の定めがない職業であれば、自己破産の手続きを理由に業務や資格そのものが制限されることは基本的にありません。
資格制限の主な類型と制限職種一覧
自己破産に伴う資格や職業への影響は、根拠となる法律の規定の仕方によっていくつかの類型に分かれます。
自身の資格や職種がどの類型に該当するかを把握しておくと、今後の見通しを立てやすくなります。
法律上当然に業務や資格が制限されるもの
一つ目は、破産手続開始決定を受けると、特段の手続きを経ることなく法律の規定により当然に資格の効力が停止する類型です。
士業や警備員、後見人などの業務がこれに該当するとされています。
この類型に属する職種では、破産手続開始決定があった時点から業務への従事が制限される点に留意が必要です。
登録機関の手続きを経て制限されるもの
二つ目は、破産手続開始決定が出た後、登録機関などによる審査や取消手続きを経てはじめて制限が生じる類型です。
生命保険募集人や証券外務員などが代表例として挙げられます。
この類型では、破産手続開始決定の事実自体が直ちに業務停止につながるわけではなく、登録取消しなどの手続きが別途行われることで制限が実際に生じる点が特徴です。
役員の解任事由・許認可の取消事由となるもの
三つ目は、会社役員や公的機関の委員の地位、あるいは事業の許認可に関わる類型です。
株式会社の取締役などは、破産手続開始決定が委任契約の終了事由とされており、役職を退くことになる場合があります。
また、宅地建物取引業や建設業、古物商といった許可制の事業についても、事業主が破産手続開始決定を受けたことが許可の取消事由とされている場合があります。
資格制限の内容は一律ではなく、法律ごとに「当然制限」「登録手続を経た制限」「解任・取消事由」という異なる仕組みが定められている点を理解しておくことが大切です。
主な制限職種・資格・役職の一覧
制限の対象となる代表的な職種や資格、役職とその根拠法令の例は以下のとおりです。
法律に定められている職種は多岐にわたるため、ここに記載したものがすべてではない点にご留意ください。
| 分類 | 対象となる資格・職業・役職の例 | 主な根拠法令の例 |
|---|---|---|
| 士業 | 弁護士、公認会計士、税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士、土地家屋調査士、不動産鑑定士、弁理士 | 弁護士法7条、税理士法4条、司法書士法5条など |
| 金融・不動産関連 | 宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、マンション管理業務主任者、証券外務員 | 宅地建物取引業法18条、金融商品取引法29条の4など |
| 公安・保安関連 | 警備員、警備業者、探偵業者、風俗営業の管理者 | 警備業法3条・14条、探偵業法3条など |
| 民法上の地位 | 後見人、後見監督人、保佐人、補助人、遺言執行者 | 民法847条、民法1009条など |
| 役員・公的委員 | 株式会社等の取締役・監査役、各種金融機関の役員、教育委員会等の各種委員 | 会社法330条、民法653条、警察法7条など |
| 許認可事業 | 建設業、一般廃棄物処理業、古物商、質屋営業、労働者派遣事業、旅行業 | 建設業法8条、古物営業法4条、旅行業法6条など |
資格制限を受ける期間と復権の仕組み
自己破産による資格制限は、期間が定められていないまま継続するものではありません。
制限が生じる期間は、原則として裁判所による破産手続開始決定から、免責許可決定が確定するまでの間とされています。
この間に要する期間は手続きの内容によって差があり、目安としては以下のようなケースが挙げられます。
| 手続きの種類 | 期間の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 同時廃止事件 | 申立てからおおむね3〜6か月程度 | めぼしい財産がなく、管財人による調査が行われない比較的簡易な手続き |
| 管財事件 | 1年程度を要する場合がある | 財産の調査・換価や配当などの手続きが必要となる事案 |
上記はあくまで一般的な目安であり、個々の事案の内容や裁判所の判断によって前後することがあります。
免責許可決定の確定による復権
裁判所から免責許可決定が出され、それが確定すると破産者は「復権」するとされています。
復権とは、破産手続開始決定によって生じていた資格制限やその他の権利制限が消滅し、制限を受ける前の状態に戻ることを指す法律上の概念です。
復権後は、それまで制限されていた資格を用いた業務への従事や、資格の新規登録申請が可能になるとされています。
資格自体が取り消されるわけではないため、改めて試験を受け直す必要は原則として生じないと整理されています。
資格制限は免責許可決定の確定という区切りをもって解除される仕組みになっている点が、この制度を理解するうえでの基本といえます。
免責が得られない場合に想定される復権事由
仮に免責不許可事由に該当するなどして免責許可決定が得られなかった場合でも、法律上はほかの要件を満たすことで復権できる場合があるとされています。
免責許可決定の確定以外で復権の事由となり得るものとしては、次のような規定が挙げられます。
- 破産手続きについて同意廃止の決定が確定したとき
- 破産手続開始決定後、詐欺破産罪の有罪判決が確定することなく10年が経過したとき
- 個人再生手続きにおいて再生計画認可決定が確定したとき
- 債務の全部を弁済するなどして裁判所に復権の申立てを行い、許可決定が確定したとき
免責許可決定が得られず10年の経過を待つような流れになる場合、その間は資格制限が長期にわたり継続する可能性がある点に留意が必要です。
そのため、破産手続きを進めるにあたっては、免責許可決定の確定を目指して手続きを適切に進めることが、資格制限の期間を見通すうえでも重要な要素になると考えられます。
制限職種に就いている場合や資格取得を目指す場合に考えられる対応
法律上当然に資格制限が生じる職業にすでに従事している場合、破産手続開始から復権までの間は該当する資格を用いた業務を続けることができなくなります。
そのため、勤務先に状況を伝え、資格を必要としない部署への一時的な配置転換や、復権までの休職といった対応を検討することが一つの考え方となります。
勤務先への相談には心理的な負担を感じることもあるかと思いますが、制限期間中に該当資格を用いた業務を継続すると法律上の問題が生じるおそれがあります。
業務上の混乱を避けるためにも、早めに勤務先の担当部署と今後の進め方について話し合っておくことが望ましいといえます。
配置転換や休職が難しい事情がある場合も含め、早期に相談しておくことで対応の選択肢を検討しやすくなります。
個人事業主として許認可事業を営んでいる場合や、休職によって当面の生活費の確保が難しくなる場合には、制限期間中の生活をどのように維持するかをあらかじめ考えておく必要があります。
資格制限の対象とならない一般的なアルバイトやパート勤務などを通じて、復権までの間の生活基盤を確保する方法を検討しておくと安心につながります。
破産手続中の資格試験の受験と資格登録の扱い
自己破産の手続きが進行中であっても、制限対象となっている職種の国家試験や各種検定試験を受験すること自体は制限されません。
破産手続中であることを理由に受験資格が制限される規定はないため、将来に向けた試験勉強や受験の計画を断念する必要はないと考えられます。
試験に合格した場合でも、破産手続が終了して復権を得るまでの間は、各士業会や管轄官庁への登録申請を行うことはできません。
破産手続開始決定から復権までの期間は法律上の欠格事由に該当するため、登録手続きは保留される扱いとなります。
なお、試験の合格実績自体が無効になるわけではないとされています。免責許可決定が確定して復権した後に、改めて資格の登録申請を行う流れになると考えられます。
資格制限を受けない職業における勤務先への影響
これまで見てきた資格制限は、法律上定められた特定の職種や資格にのみ生じるものであり、該当しない一般的な職業であれば原則として業務を継続できます。
多くの会社員や公務員にとっては、自己破産の手続きが仕事そのものに直接影響を及ぼす場面は限定的といえます。
破産手続開始決定を受けたことのみを理由とする解雇は、労働契約法等における客観的に合理的な理由を欠くものとされ、法律上の正当な解雇理由にはあたらないと考えられています。
また、就業規則や労働契約に特段の定めがない限り、破産の申立てや免責決定の事実を自ら勤務先に報告する法律上の義務も基本的にはありません。
勤務先に自己破産の事実が知られうる主な契機
裁判所や破産管財人から勤務先へ直接連絡が入ることは原則としてありませんが、手続きの内容や個別の事情によっては、結果的に会社側に事情が伝わる場合があります。
例えば、勤務先の社内貸付制度や共済会、労働組合などからの借入れがある場合、債権者の一覧に勤務先を含めて裁判所へ申告する必要が生じます。
債権者平等の原則があるため、会社への債務だけを対象から外して手続きを進めることはできないとされています。
借金の滞納により債権者から給与の差押えを受けている場合には、裁判所から勤務先に差押命令通知書が送達されることで、手続きの存在が知られる可能性があります。
このほか、破産申立書類として退職金見込額証明書の発行を勤務先に依頼する際に、提出先や発行理由を尋ねられて事情が伝わるケースや、官報に掲載された破産情報を業務上官報を確認する担当部署等が目にするケースも考えられます。
退職金証明に関する書類については、退職金規程の写しなど別の方法で代替できる場合もあるとされていますが、対応の可否は状況によって異なるため、個別に確認しておくことが望ましいといえます。
資格制限を伴わない債務整理の選択肢
保有資格や現在の職種に資格制限の影響が生じることを避けたい場合、自己破産以外の債務整理手続きを検討する余地があります。
代表的なものとして「任意整理」と「個人再生」が挙げられ、いずれも法律上の資格制限が生じる規定は設けられていません。
任意整理の概要
任意整理は、裁判所を介さずに債権者と直接交渉を行い、将来利息のカットや返済スケジュールの見直しを目指す手続きです。
交渉の対象とする債権者を選んで進めることも可能とされています。
裁判所の手続きを利用しないため、資格や職業の制限に関する個別法の欠格事由に触れることは基本的にありません。
個人再生の概要
個人再生は、裁判所に申立てを行い、借金の総額を一定程度減額したうえで、残った金額を原則として分割で返済していく手続きです。
自己破産のように免責によって支払い義務そのものを免除するものではなく、減額後の返済を継続することが前提となります。
個人再生についても、自己破産のような資格制限の規定は設けられていません。
そのため、制限対象となる職種や資格を保有している場合の選択肢として挙げられることがあります。
自己破産・任意整理・個人再生の違い
| 手続きの種類 | 資格制限の有無 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 自己破産 | あり(免責確定まで) | 裁判所の手続きを経て、原則として借金の支払い義務が免除される |
| 任意整理 | なし | 債権者と直接交渉し、利息や返済期間の見直しを行う |
| 個人再生 | なし | 裁判所の手続きを通じて借金を減額し、分割で返済する |
任意整理や個人再生は、減額後の借金を継続して返済できるだけの収入やその見込みがあることが利用の前提となります。
借入れの総額や収入の状況によっては、希望する手続きの要件を満たせない場合もある点に留意が必要です。
どの手続きにもそれぞれ異なる要件や効果があるため、資格制限の有無だけでなく、借金の総額や収入の状況などもあわせて確認しておくことが考えられます。
弁護士への相談
ここまで、自己破産による資格制限の仕組みや対象となる職種、制限期間と復権の考え方、制限を受ける場合に考えられる対応、資格制限を伴わない債務整理の選択肢について解説してきました。
これらはいずれも一般的な法律情報であり、実際にどの制度が当てはまるかは一人ひとりの状況によって異なります。
保有している資格や職業の種類、現在の借入総額、収入の状況、家族構成などの要素によって、検討すべき手続きの方向性は変わり得ます。
同じ制限職種に就いている場合であっても、勤務先の制度や個々の事情によって配置転換や休職の可否が異なることも考えられます。
そのため、本記事の内容を参考にしつつ、自身のケースでどの手続きが現実的か、資格制限がどの程度影響するかといった具体的な判断については、弁護士に相談して整理していく流れが考えられます。
弁護士に相談する際には、保有資格の種類や勤務先での立場、借入れの件数や金額、返済状況などをあらかじめ整理しておくと、状況の説明がスムーズになる場合があります。
任意整理や個人再生など資格制限を伴わない手続きが利用できるかどうかも、収入状況などの要件と合わせて確認する材料になります。
自己破産を含む債務整理の手続きは、それぞれにメリットと留意点があり、どれか一つが一律に望ましいというものではありません。
職業や資格への影響を含めて全体像を把握したうえで、無理のない解決方法を検討していくことが、今後の生活や仕事を見通すうえでの一助になると考えられます。
コラム監修者
佐藤 塁
所属:代表(東京オフィス)
東京都杉並区出身。明治大学付属中野高校、明治大学法学部を経て、明治大学法科大学院を修了。2011年に新司法試験に合格し、最高裁判所司法研修所を修了(65期)。2012年12月に弁護士登録(東京弁護士会)し、都内の法律事務所での勤務を経て、2016年1月に寺垣俊介とともにネクスパート法律事務所を創業。代表弁護士として一般民事から企業法務まで幅広い分野を手がけるとともに、全国に拠点を持つ事務所の経営にあたる。
早くからテクノロジーと法務の融合に取り組み、2021年にはAIを利用した法律文書作成サービスを開発するLegal AI株式会社の代表取締役に就任(現在は退任)。当時はAI技術が発展途上で技術的な壁に直面したが、この挑戦を通じて「法務業務こそAIの力を借りれば飛躍的に変わる」という確信を得る。以来そのビジョンを持ち続け、生成AIが広く普及した現在は事務所の業務全体でAIの活用を進めている。2026年には日本弁護士連合会「弁護士業務改革シンポジウム」にパネリストとして登壇した。ブロックチェーン・Web3分野の法務や海外法人の設立支援にも取り組み、公益法人主催のセミナー等で講師を務める。
公正取引委員会・中小企業庁「適正取引推進講習会」講師、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員を歴任。弁護士業務のかたわら、2014年に東京青年会議所に入会して以来、10年以上にわたりボランティア活動に取り組む。2017年からは国際的な社会奉仕団体であるライオンズクラブに所属し、2022年には東京数寄屋橋ライオンズクラブ第57代会長を務めた。献血の呼びかけ、障がい者スポーツ大会の支援、保護犬活動のほか、弁護士として小中学生への法教育や薬物乱用防止教育にも携わっている。