新株予約権付融資の法的論点|2026年銀行協会報告書を弁護士が解説

新株予約権付融資の法的論点|2026年銀行協会報告書を弁護士が解説
新株予約権付融資は、スタートアップが株式の希薄化を抑えながら成長資金を確保できる手段として注目されていますが、実行にあたってはいくつかの法的論点があります。
これまで実務上グレーとされていた論点について、2026年2月、全国銀行協会の事務局のもとに設置された検討会が報告書を公表し、一定の整理が示されました。本記事では、新株予約権付融資を検討するスタートアップ向けに、押さえておくべき法的論点を、法律にあまり詳しくない方にもわかるよう弁護士の視点で解説します。
なお、新株予約権付融資の基本的な仕組みについては、別記事【新株予約権付融資とは?仕組みとメリットを弁護士がわかりやすく解説】をご参照ください。
1.新株予約権付融資をめぐる法的論点の全体像
ここでは、新株予約権付融資に関わる主な法的論点を概観します。
⑴ 主な論点
新株予約権付融資の実行にあたり、検討すべき主な法的論点は次のとおりです。
- 利息制限法・出資法との関係(新株予約権が「利息」にあたるか)
- 期限前弁済が起きた場合の取扱い
- 会社法上の発行手続(株主総会・取締役会の決議、有利発行該当性、発行可能株式総数との関係)
- 既存投資家との関係(投資契約上の事前承諾)
- 銀行法上の議決権保有規制(貸し手側の論点)
⑵ 全国銀行協会の検討会報告書(2026年2月)
これらの論点のうち、特に利息制限法・出資法上の課題については、長らく実務上の解釈が固まっておらず、金融機関が新株予約権付融資に取り組むことの妨げとなっていました。
そこで、政府の規制改革推進会議の議論を経て設置されたのが、全国銀行協会を事務局とする「新株予約権付融資に関する検討会」です。同検討会は2025年7月から2026年2月にかけて5回開催され、金融庁・法務省もオブザーバーとして参加し、2026年2月に報告書を公表しました(出典:全国銀行協会「新株予約権付融資に関する検討会報告書」)。
報告書は、これまで不明確だった論点について実務上の指針を示す内容となっており、今後の新株予約権付融資の普及において重要な参照資料となります。
2.新株予約権は「利息」にあたるのか
ここでは、新株予約権付融資をめぐる最大の論点である利息該当性について説明します。
⑴ 利息制限法・出資法の規制
利息制限法は、不当な高利の貸付けから債務者を保護するため、上限金利を定めています。元本100万円以上では年15パーセントが上限で、これを超える部分の契約は無効となります(利息制限法1条)。
出資法は、業として金銭の貸付けを行う場合に年20パーセントを超える金利を定めると、刑事罰の対象となることを規定しています(出資法5条2項)。
新株予約権付融資では、融資の金利だけを見ると上限金利の範囲内であっても、貸し手に無償で交付される新株予約権が「利息」にあたると解釈されると、新株予約権の経済的価値を加味した実質金利が上限を超えてしまうおそれがあります。
⑵ 「元本使用の対価性」がポイント
報告書は、新株予約権が「利息」にあたるかどうかの判断基準として、「元本使用の対価性」があるかを重視しています。
「元本使用の対価性」とは、貸し手が借り手にお金を使わせることへの補償として受け取るものかどうかを意味します。報告書では、次のような商品設計の場合には「対価性あり」と評価されやすいとされています。
- 貸し手がキャピタルゲインを目的として新株予約権を取得している
- 新株予約権が無償で割り当てられている
- 新株予約権の取得を踏まえて融資の金利が軽減されている
報告書は、典型的な新株予約権付融資はこれらの特徴に該当することが多いため、新株予約権が利息に該当する可能性を念頭に置く必要があると整理しています。
⑶ 利息に該当しない設計
一方、報告書は、次のような商品設計であれば「元本使用の対価性」が否定され、新株予約権が利息に該当しないと考えられるとしています。
- 貸し手が新株予約権の正当な評価額を金銭等で支払う場合
- 新株予約権が融資の担保目的であることが契約上明確な場合(返済が予定どおり行われた場合は新株予約権を放棄する旨を約定する等)
借り手であるスタートアップとしては、契約締結時にどのような設計になっているのかを正確に理解することが重要です。
3.期限前弁済への対応と「不精算条項」
ここでは、借り手が予定より早く返済した場合の扱いについて説明します。
⑴ 期限前弁済が起きた場合の問題
新株予約権が利息に該当し得る場合、当初の融資期間を前提に上限金利の範囲内に収まるよう設計していたとしても、借り手が予定より早く返済(期限前弁済)すれば、貸付期間が短縮されます。
その結果、新株予約権を期間で按分した利息相当額が相対的に大きくなり、上限金利を超えてしまうのではないかという懸念があり得ます。
⑵ 不精算条項を契約書に入れる意義
報告書は、この問題への実務的な対応として、不精算条項を契約書に入れることを提案しています。
不精算条項とは、期限前弁済が発生した場合でも、貸し手は新株予約権を返還したり償却したりせず、保持し続けることができる旨を、あらかじめ契約で合意しておく条項です。
報告書は、新株予約権付融資が案件ごとに個別性が強く、貸し手にとって同等の条件で再運用することが困難であることなどを踏まえ、民法第591条第3項(期限前弁済による損害賠償)に基づく損害賠償の予定(民法第420条、民法第421条)として、不精算条項の有効性が認められると整理しています。
借り手であるスタートアップとしては、契約書に不精算条項が入っている場合、期限前弁済をしても新株予約権は貸し手に残り続ける点を理解しておく必要があります。
4.会社法上の発行手続で押さえるべき点
ここでは、新株予約権の発行に関する会社法上の手続を説明します。
⑴ 株主総会・取締役会の決議
スタートアップは譲渡制限株式を発行する非公開会社であることが一般的です。非公開会社では、新株予約権の募集事項の決定には、原則として株主総会の特別決議が必要です(会社法第238条第2項、会社法第309条第2項6号)。
種類株式を発行している会社が、種類株式を目的とする新株予約権を発行する場合などは、種類株主総会の決議も必要となるケースがあります。
新株予約権付融資の実行スケジュールには、こうした決議手続のための期間を見込んでおく必要があります。
⑵ 有利発行該当性
新株予約権を無償で発行することが、引受人にとって「特に有利な条件」にあたる場合(有利発行)には、株主総会で有利発行を必要とする理由を説明することが求められます(会社法第238条第3項)。
非公開会社では、有利発行か否かにかかわらず株主総会の特別決議が必要であるため、手続上の差は大きくありません。ただし、有利発行に該当する場合には議事録に理由の説明を記載する等の対応が必要となります。
新株予約権付融資の場合、新株予約権を無償で発行する一方、貸し手には融資金利の軽減等の対価性があると整理することが一般的です。この点を踏まえた検討が必要となります。
⑶ 発行可能株式総数との関係
新株予約権者が新株予約権を行使して取得することとなる株式の数は、発行可能株式総数から発行済株式(自己株式を除く)の総数を控除した数を超えてはなりません(会社法第113条第4項)。
新株予約権付融資では、新株予約権の行使期間が発行日から始まることが一般的です。そのため、発行日時点で新株予約権が全て行使されたと仮定しても株式を交付できるよう、発行可能株式総数を事前に調整しておく必要があります。発行可能株式総数の変更には定款変更(株主総会特別決議)が必要となるため、これも実行スケジュールに織り込む必要があります。
5.その他の留意点
ここでは、上記以外の検討事項を整理します。
⑴ 既存投資家との関係
スタートアップが既存のVC等から出資を受けている場合、投資契約上、新株予約権の発行や追加の借入れに既存投資家の事前承諾が必要となるケースが少なくありません。
新株予約権付融資の検討を始める段階で、投資契約の条項を確認し、必要に応じて既存投資家との協議を進めることが必要です。
⑵ 銀行法上の議決権保有規制(貸し手側の論点)
銀行法では、銀行はその子会社等と合算して、一般事業会社の議決権の5パーセントを超えて保有することが原則として禁止されています(銀行法16条の4。銀行持株会社の場合は15パーセント)。
新株予約権の割当段階ではこの規制の対象外ですが、貸し手が銀行の場合、新株予約権を行使した後の議決権保有比率に注意が必要となります。借り手側としても、貸し手の制約を踏まえた条件交渉が必要となる場合があります。
⑶ 金融法委員会による検討資料
新株予約権付融資の利息該当性については、2025年12月26日に金融法委員会から「新株予約権への上限金利規制の適用関係に関する検討」と題する検討資料も公表されています。前述の全国銀行協会の報告書と併せて参照することが推奨されています。
6.まとめ
新株予約権付融資の主な法的論点を整理すると、次のとおりです。
- 新株予約権が「利息」にあたるかは「元本使用の対価性」で判断される
- 期限前弁済への対応として「不精算条項」を契約書に入れることが実務上推奨される
- 非公開会社では新株予約権の発行に株主総会の特別決議が必要となる
- 発行可能株式総数の事前調整が必要となる場合がある
- 既存投資家との関係(投資契約上の事前承諾)の確認が必要となる
新株予約権付融資の実行には、契約書の内容、決議手続、既存投資家との調整など、多面的な検討が必要です。具体的な発行手続や契約書の検討については、企業法務に精通した弁護士へのご相談をおすすめいたします。

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