自己破産できる条件とは?できないケースやその場合の対処法も解説
自己破産は借金の返済義務を免除する制度です。しかし、利用にはいくつかの条件があり、自己破産をすれば必ず借金を免除してもらえるわけではありません。
この記事では、主に次の点を解説します。
- 自己破産手続き開始に必要な条件
- 自己破産で免責を受けるために必要な条件
- 自己破産できない可能性があるケース
- 自己破産ができない場合の対処法
自己破産を検討されている方は、是非ご参考になさってください。
自己破産手続開始に必要な条件
ここでは、手続きの開始に必要な条件を説明します。
支払不能の状態にあること
自己破産手続開始に必要な条件は、支払不能の状態にあることです。
支払不能とは、債務者が支払能力を欠くため、弁済期が来た債務を一般的かつ継続的に弁済することができない状態です。
支払不能は債務者の客観的な状態で判断されます。つまり、自分では払えないと思うだけでは認められません。具体的には次の点で判断されます。
- 弁済能力が欠乏した状態であること
- 弁済期が来た債務を弁済できないこと
- 一般的、かつ、継続的に弁済できないこと
ひとつずつ確認してみましょう。
弁済能力が欠乏した状態であること
弁済能力は、以下の3つの要素で構成されます。
- 財産
- 信用
- 労力による収入
個人の破産手続きでは、上記いずれの要素を見ても金銭が調達できない状態が必要です。
法人の破産の債務超過はこの3要素のうち財産だけを基準としています。
弁済期が来た債務を弁済できないこと
弁済期が来た債務を弁済できないこととは、履行期(返済期日)が到来している状況で弁済できない、かつ、債権者が返済を求めていることを意味します。
一般的、かつ、継続的に弁済できないこと
借金の一部を返済できない状態ではなく、借金の全部または大部分を返済できない状態です。
支払不能かどうかの判断に明確な基準はありませんが、裁判所は次の点を考慮して個別的・相対的に判断します。
- 債権者の数
- 借金の総額
- 毎月の返済額
- 債務者の返済能力
- 同居の家族の収入と債務
自己破産で免責を受けるために必要な条件
ここでは、免責許可に必要な条件を説明します。
自己破産で免責を受けるために必要な条件は次の3つです。
- 免責不許可事由がないこと
- 裁量による免責の余地があること
- 債務が非免責債権でないこと
以下、詳しく解説します。
免責不許可事由がないこと
免責不許可事由がない場合、裁判所は免責許可決定を出します。免責不許可事由があるときは、裁判所は免責不許可を決定できます。
破産法252条第1項は、次のとおり11つの免責不許可事由を定めています。
①破産財団に属する財産の隠匿・不利益処分・財産価値減少行為
自己破産の前後を問わず、次のいずれかを目的として財産を隠したり、法外に安く処分したりする行為です。
- 債務者本人や他人の利益を図る目的
- 債権者の利益を害する目的
自己破産で財産を没収されるのを避けるために財産を隠す行為もこれに含まれます。
②不利益な条件での債務負担、不利益な条件での処分
破産手続開始を遅らせる目的でなされた次のような行為を意味します。
- クレジットカードで購入したものを売却して現金化する
- 闇金(貸金業法・出資法に違反する高利)でお金を借りる
③偏頗(へんぱ)で、かつ、義務なき弁済等
自己破産の前後を問わず、支払不能があることを知りながら、
- 特定の債権者にだけ優先して借金を返済する
- 担保を提供する(抵当権、質権、譲渡担保権を設定する)
行為で、債務者の義務に属しない行為(返済方法や返済時期に本来義務がないのに返済すること)を意味します。
④浪費・賭博(とばく・ギャンブル)行為による債務負担
自己破産の前後を問わず、浪費やギャンブルで著しく財産を減少し、または多額の借金を負担した場合です。
パチンコや競馬などのギャンブルや収入に見合わない浪費があっても、それ自体が支払不能に直結しない場合は、その事実を証明する必要があります。
⑤破産手続開始申立日の前1年以内の詐術による借入等
申立日の1年前の日から破産手続開始決定日までの間に、支払不能があることを知りながら、その事実がないと信じさせるために相手を欺いて借金をする行為です。
具体的には、次のような行為です。
- 返済の見込みがないのに返済できるふりをしてお金を借りる
- 複数の借金があることを隠してお金を借りる
⑥財産状態につき虚偽陳述
財産に関する書類や帳簿などを隠したり、改ざんしたりする行為です。例えば、退職金債権や生命保険金の解約返戻金が存在するのに、これを財産目録に記載せず意図的に外すケースを意味します。
⑦虚偽の債権者名簿の提出
具体的には、次に例をあげる行為を意味します。
- 債権者名簿に虚偽の記載をする
- 一部の債権者を債権者名簿から意図的に外す
⑧裁判所の調査に対する説明の拒否又は虚偽の説明
裁判所や破産管財人に、破産手続きに関する説明を拒んだり、虚偽の説明をしたりする行為は、債権者の権利を害することになり免責が認められません。
⑨破産管財人等の職務への不正な妨害
次のような行為は、破産管財人の業務を妨害する行為とみなされます。
- 破産管財人との面談を拒否する
- 財産を勝手に売却して現金化する
- 破産管財人の調査に協力しない
- 債権者集会を無断欠席する
⑩7年以内の免責・給与所得者等再生による再生計画の認可
自己破産の申立日の前7年以内に、次に該当する事実がある場合は、再度の免責許可の申立てが認められません。
- 免責許可の決定が確定した場合
- 給与所得者等再生による再生計画が遂行された場合
⑪破産法上の義務違反行為
破産者が次の義務を果たさず、破産手続きに非協力的と判断された場合、免責が認められません。
- 破産について事情を説明する義務
- 重要な財産を明らかにする義務
- 免責不許可事由に関する事情を説明する義務
- 裁量免責の判断に必要となる事情を説明する義務
裁量による免責の余地があること
裁判官は、免責不許可事由がある場合でも、その裁量によって免責を許可できます。これを裁量免責といいます。
裁量免責が認められるための事情には次のものがあります。
- 免責不許可事由の行為が軽微である
- 任意配当など債権者への配慮や弁済への努力がみられる
- 借金ができた経緯に同情する事情がある
- 債務者に損害回復の努力がみられる
- 財産を保持する努力のあとがみられる
- 破産管財人の業務に協力的である
- 借金の原因を認識して反省・対策ができている
- 執拗な取り立てや悪質業者の存在により免責が必要不可欠である
債務が非免責債権でないこと
自己破産では全ての債権が免責されるわけではありません。非免責債権の返済義務は免除されません。
非免責債権とは
自己破産をしても支払義務を免除されないものを非免責債権といいます。非免責債権に該当する債権は、以下のとおりです。
①租税等の請求権
国税徴収法または国税徴収の例によって徴収するものが該当します。具体的には次のとおりです。
- 所得税
- 贈与税
- 相続税
- 住民税
- 固定資産税
- 自動車税
- 国民健康保険料
- 国民年金保険料
②悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権の支払義務は自己破産をしても免除されません。悪意とは、他人を害する積極的な害意を意味します。
③故意または重過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
具体例として、飲酒運転や危険運転により、人身事故を起こしてしまった場合が挙げられます。わき見運転や軽度のスピード違反などにより生じた損害賠償請求権は免責の対象となります。
④夫婦間の相互協力扶助義務に基づく請求権
夫婦で暮らしていくための生活費・医療費の請求権です。
例えば、夫婦の一方が怪我で働けなくなった場合、他方に対して生活費を請求する場合がこれにあたります。
⑤夫婦間の婚姻費用分担義務に基づく請求権
結婚生活のために必要となる費用が対象です。別居中の婚姻費用分担請求権もこれに含まれます。
⑥親族や子どもの扶養義務および監護義務に基づく請求権
子の養育費(生活費・医療費・教育費など)を支払う義務は免責されません。
⑦雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金返還請求権
従業員が雇い主に請求できる給料や退職金です。個人事業主が自己破産した場合、給料や退職金の支払義務は免除されません。
⑧破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権
自己破産申立ての際、裁判所に債権者一覧表を提出します。
自己破産で免責を受けられるのは、原則として債権者一覧表に記載した借金に限られます。あえて特定の債権者(家族や友人)を債権一覧表から外した場合、当該債権者への支払義務は免除されません。例外的に、債権者が自己破産手続きを知っていた場合には、免除されることがあります。
⑨罰金等の請求権
次のものが罰金等の請求権に該当します。
- 罰金・科料の請求権(罪を犯したときに罰として取られるお金)
- 過料の請求権(行政上の規律に違反した場合に取り立てられるお金)
- 刑事訴訟費用の請求権(刑事裁判で必要となった費用)
- 追徴金の請求権(犯罪行為により得た報酬に相当する額として取られるお金)
非免責債権以外の債務がない場合は自己破産できない
非免責債権以外に借金がない場合、自己破産を申し立てることができません。具体例をあげると次のとおりです。
- 借金はないが税金の滞納分が支払えない
- 借金はないが養育費が支払えない
- 借金はないが飲酒運転による交通事故の損害賠償金が払えない
自己破産できない可能性があるケース
ここでは、自己破産ができない可能性があるケースを紹介します。
支払不能の状態にない
次のような場合は、支払不能を推定する支払停止には該当しない可能性があります。
- 一部の債権者にだけ返済してない
- 急な出費があり今月分だけ返済してない
- 一部の債権者に今月分の返済の猶予を求めた
支払不能を推定させる支払停止に該当しない場合
債権者への支払いを単に停止するだけでは支払不能と推定されません。
破産法15条2項は、「債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する。」と定めています。支払停止とは、一般的かつ継続的に弁済できないことを外部に表示する行為です。具体的には次の方法があります。
- 弁護士から送付する受任通知
- 2回目の手形の不渡り
- 貼り紙・広告
- 夜逃げ・廃業
債務の額が少額な場合
借金の額が少なく、2~3年で完済できる見込みがある場合は、自己破産が認められないことがあります。任意整理や特定調停によって利息減額後の分割返済が可能なケースでは、裁判所から「そのくらい収入があるなら、頑張れば返済できるでしょう。」と判断され、自己破産ができない可能性があります。
免責不許可事由がある
次に該当する場合、裁量による免責の余地がないとして、免責が許可されない場合があります。
- 免責不許可事由が極めて悪質な場合
- 過去にも同じ原因で借金をして裁量免責を受けている場合
予納金が支払えない
破産管財事件では、破産管財人の報酬(引継予納金)を支払う必要があります。予納金が支払えない場合、原則として破産手続きができません。破産の申立が棄却・却下されることがあります。
職業や資格の制限を受ける
破産手続開始によって一定の資格を得られなくなったり、資格を失ったりすることがあります。免責許可決定が確定すれば,資格制限は解除されますが、次に例をあげる職業の方は自己破産の手続期間中、仕事ができなくなります。資格制限中、収入が途絶えることになりますので、事情によっては自己破産以外の債務整理を検討する必要があります。
①士業(弁護士・司法書士・行政書士ほか)
②司法修習生 ③生命保険募集人・損害保険代理店 ④宅地建物取扱主任者・宅地建物取扱業 ⑤建築士事務所開設者 ⑥建設業(一般建設業,特別建設業) ⑦旅行業務取扱主任者・旅行業者 ⑧警備員・警備業者 ⑨卸売業者 ⑩貸金業者 |
⑪教育委員会委員
⑫質屋 ⑬商工会議者会員 ⑭人事官 ⑮一般廃棄物処理業者・産業廃棄物処理業者 ⑯遺言執行者 ⑰後見人・保佐人・補助人 ⑱公証人 |
7年以内に免責・再生計画の認可を受けている
以下のケースでは、免責を認めても同じ過ちを繰り返す可能性が高いと判断され、免責されない可能性が高くなります。
- 申立前7年以内に同じ理由で免責を受けている
- 申立前7年以内に再生計画の認可を受けた後すぐに返済できなくなった
自己破産できない場合の対処法
ここでは、自己破産ができない場合の対処法を説明します。
支払不能の状態にない場合の対処法
借金の利息や借金そのものを減額すれば返済が可能な場合は、他の債務整理で借金問題を解決できる場合があります。
任意整理
債権者との交渉により返済方法の変更・調整を行う手続きです。通常、利息制限法に基づき引き直し計算をし、減額した借金を分割返済します。最終取引日以降の利息や遅延損害金をカットしてもらえる場合もあります。
特定調停
債権者と債務者が簡易裁判所の調停委員を交えて次の点を話し合い、当事者の合意をはかる裁判手続きです。
- 返済期間の延長による毎月の返済額の減額
- 将来利息の減額・カット
- 利息制限法に基づく引き直しによる債務額の圧縮
調停が成立すると調停調書が作成され、判決と同じ効力が生じます。
個人再生
裁判所の認可を受けて住宅ローン以外の借金を概ね5分の1に減額し、減額後の借金を原則3年間(最長5年間)で返済する手続きです。
自己破産と異なり財産を処分する必要がないため、車やマイホームを残せます。
免責不許可事由がある場合
裁量による免責の余地
実際の破産手続では、免責不許可事由が悪質とはいえない場合、裁量免責が認められるケースも多くあります。裁量免責を得るためには、主に次の点を意識し経済的更生のための意欲を裁判所に示すことが必要です。
- 免責不許可事由に関する事情を説明する
- 借金の原因を認識し反省の意を示す
- 破産手続きに協力する
即時抗告の申立て
免責不許可の決定がなされた場合、裁判所の通知が届いてから1週間以内に即時抗告を申し立てられます。即時抗告は裁判所の決定に対する不服申立ての制度であり、免責の余地がないか再度審査してもらえます。
ケースによっては不許可決定が覆る可能性もあります。
個人再生の利用を検討する
免責不許可事由があり、裁量免責の余地もないケースでは個人再生を検討しましょう。個人再生には、自己破産のような免責不許可事由の規定はありません。浪費やギャンブルが原因で借金ができた場合でも、債権者の過半数の同意を得られれば借金を減額してもらえます。
ただし、個人再生も一部の債権者への支払いや財産隠しは禁止されています。
資格制限に対応できない場合
次の対応をとることで、最低限の生活を確保できるケースもあります。
- 勤務先で資格を使わない業務に一定期間転属してもらう
- アルバイトやパートで破産手続中の生活費をつなぐ
上記の対応が困難な場合は、他の債務整理を検討しましょう。いずれの手続きも資格の制限を受けません。
- 任意整理
- 特定調停
- 個人再生
マイホームを残したい場合
自己破産をすると、マイホームは処分されます。マイホームを残したい場合、住宅ローンの返済を継続することが必須ですが、以下の手続きで他の借金を減額できます。
- 任意整理
- 特定調停
- 個人再生
非免責債権しかない場合の対処法
非免責債権以外の債権がない場合は、次のとおり対応します。
滞納税の分割・猶予の交渉
税金を滞納している場合は、管轄の税務署または役所の担当窓口に行き、分割納付や納付猶予を認めてもらえるよう相談しましょう。
国民健康保険料・国民年金保険料の分割・猶予の交渉
国民健康保険料・国民年金保険料を滞納している場合は、役所の担当窓口に行き、分割納付や納付猶予を認めてもらえるよう相談しましょう。
養育費や婚姻費用の減額請求
養育費や婚姻費用は、支払方法や金額を定めた時点で予測できなかった経済的事情の変動があった場合に限り、家庭裁判所に調停や審判を申立てることで減額できるケースもあります。裁判外で債権者との直接交渉により合意を得られるケースもあります。
その他の非免責債権
その他の非免責債権も、債権者との交渉により返済方法の変更や返済期限の延長を認めてもらえる可能性があります。
まとめ
自己破産の条件を満たしているか、ご自身で判断するのは難しいです。
特に、免責不許可事由がある場合、自己破産に精通する弁護士に相談することをおすすめします。免責不許可事由に該当するケースでも、弁護士の申立てにより裁量免責を受けられる可能性が高くなります。
当事務所では、自己破産を含め個々の事情に応じた借金の総合的な解決をサポートしております。借金にお悩みの方は、お気軽にご相談ください。