個人再生できる条件まとめ|個人再生が向いているのはどんな人?
個人再生は、民事再生法に基づく手続きで、個人(個人事業主を含む)だけが利用できます。個人再生には、小規模個人再生と給与所得者等再生の2つの手続きがあります。
個人再生の利用条件(要件)は、次の3つに分かれます。
- 申立要件
- 開始要件
- 認可要件
このうち開始要件と認可要件は、小規模個人再生と給与者所得再生で異なります。
この記事では、次の項目を詳しく説明します。
- 個人再生の利用条件(申立要件・開始要件)
- 個人再生の認可条件
- 個人再生で住宅資金特別条項を利用する条件
- 個人再生が向いている人
個人再生を検討している方は、ぜひ最後までご覧ください。
個人再生の利用条件
ここでは、個人再生の利用条件を解説します。
個人再生の申立てや手続きが開始される条件は次のとおりです。
小規模個人再生 | 給与所得者等再生 | ||
---|---|---|---|
申立
要件 |
共通 | 支払不能のおそれがあること | |
特有 | 事業の継続に著しい支障をきたすことなく、弁済期にある債務の弁済ができないこと | -
|
|
開始
要件 |
共通 | ・将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあること
・基準債権額が5,000万円を超えないこと ・通常の民事再生手続きの法定棄却事由がないこと |
|
特有 | - | ・給与等の定期的な収入があり、かつ、その収入の変動幅が小さいと見込まれること
・過去7年間に免責又は再生計画の認可決定・ハードシップ免責を受けていないこと |
ひとつずつ詳しく見てみましょう。
小規模個人再生と給与所得者等再生の共通条件
個人再生全般に共通する条件を説明します。
申立要件
2つの手続きに共通する条件(申立要件)は次のとおりです。
- 支払不能のおそれがあること
支払不能が生じるおそれがあることが必要です。
支払不能とは、支払能力を欠き、支払期日が来た債務を弁済できない状況が継続することです。個人再生は、自己破産の開始原因である支払不能に至るよりも早い時期での経済的更生を図ります。
開始要件
2つの手続きに共通する条件(開始要件)は次のとおりです。
- 将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあること
- 基準債権額が5,000万円を超えないこと
- 通常の民事再生手続きの法定棄却事由がないこと
将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあること
将来とは、再生計画案に基づく返済期間の3~5年間を指します。収入は、収入源(給与・事業所得・年金)に制限はありません。自営や雇用により先3~5年間収入を継続して得られる見込みがあれば、この要件を満たします。
基準債権額が5,000万円を超えないこと
基準債権額とは、次の金額のことです。
基準債権額=借金の総額-住宅ローンを含め債権者が別除権の行使で回収が見込まれる額 |
別除権とは、個人再生手続きとは無関係に、他の債権者に先立って債務者の財産から弁済を受けることができる権利です(例:不動産に設定された抵当権)。すなわち、借金の総額から住宅ローンや担保物件の売却益を差し引いた金額が5,000円を超えないことが必要です。
通常の民事再生手続きの法定棄却事由がないこと
以下の場合、棄却事由として申立てが棄却されます。
- 費用の予納がないこと
- 再生計画の作成・可決又は再生計画の見込みがないことが明白であるとき
- 破産手続きが係属し、その手続きによることが債権者の一般の利益に適合するとき
- 不当な目的で申立てがなされたとき・申立てが誠実になされたものでないとき
小規模個人再生の利用条件
小規模個人再生は、個人事業主・サラリーマン(給与所得者)のどちらも利用できます。
小規模個人再生の利用条件は次のとおりです。
申立要件
申立人が個人事業主の場合は、共通要件に加え、次の条件を満たす必要があります。
- 事業の継続に著しい支障をきたすことなく、弁済期にある債務の弁済ができないこと
例えば、事業用の資産を売却して換価すれば返済ができるが、売却すると事業が継続できないケースです。
開始要件
小規模個人再生の開始要件は、先述の2つの手続きに共通する条件(開始要件)のとおりです。
給与所得者等再生の利用条件
給与所得者等再生は、給与所得者(サラリーマン)しか利用できません。給与所得者等再生特有の利用条件を確認してみましょう。
申立要件
給与所得者等再生の申立要件は、先述の2つの手続きに共通する条件(申立要件)のとおりです。
開始要件
給与所得者等再生の場合は、共通要件に加え、次の条件を満たす必要があります。
- 給与等の定期的な収入があり、かつ、その収入の変動幅が小さいと見込まれること
- 過去7年間に免責又は再生計画の認可決定・ハードシップ免責を受けていないこと
以下詳述します。
給与等の定期的な収入があり、かつ、その収入の変動幅が小さいと見込まれること
会社員や公務員など毎月の給料が予測できる人で、過去2年間の年収に20%以上の変動がないことを指します。パート・アルバイトでも条件を満たせば給与所得者等再生が利用できます。
過去7年間に免責又は再生計画の認可決定・ハードシップ免責を受けていないこと
給与所得者等再生に限り、再申立て制限があります。給与所得者等再生は、要件を満たせば債権者の意見にかかわらず再生計画が認可されるため、制限が設けられています。
個人再生の認可条件
ここでは、個人再生の認可要件について解説します。
再生計画の認可要件は、次のとおりです。
小規模個人再生 | 給与所得者等再生 | ||
---|---|---|---|
認可
要件 |
共通 | 最低弁済額を上回る金額の支払いを3年間(特別な事情がある場合は5年間)継続できること
申立人が再生計画案提出期限までに再生計画案を提出すること |
|
特有 | 再生債権者による再生計画案の書面決議での可決(過半数の消極的同意) | - |
最低弁済額を上回る金額の支払いを3年間(特別な事情がある場合は5年間)継続できること(共通)
以下⑴~⑶の基準の中で最も高額となる基準を最低弁済額として返済を継続きることが必要です。
⑴最低弁済額要件(共通)
借金の総額(基準債権額)に応じて、以下のとおり最低弁済額が決まります。
基準債権額 | 最低弁済額 |
---|---|
100万円未満 | 全額 |
100万円以上500万円以下 | 100万円 |
500万円を超え1,500万円以下 | 借金額の5分の1 |
1,500万円を超え3,000万円以下 | 300万円 |
3,000万円を超え5,000万円以下 | 借金額の10分の1 |
⑵清算価値保障原則(共通)
再生手続開始決定時点における資産の額(破産した場合に配当される額)を清算価値といいます。清算価値が最低弁済額を上回る場合、その金額が最低弁済額となります。
⑶過去2年間の可処分所得(給与所得者等再生のみ)
可処分所得とは、再生計画案提出前2年間の年収の合計から次の年額を控除した額を2で割って1年分の手取り収入を算出し、この金額から最低限の生活費(政令で定めた額)を控除した額を2倍(2年分)したものです。
- 所得税
- 住民税
- 社会保険料
給与所得者等再生では、最低でも過去2年間の可処分所得を支払う必要があります。
申立人が再生計画案提出期限までに再生計画案を提出すること(共通)
裁判所は、再生手続開始決定と同時に再生計画案の提出期限を定めます。この提出期限を1日でもすぎると手続きが廃止されます。やむを得ない事情で提出期限に間に合わない場合は、期限伸長の申立てが必要です。
再生計画案の書面決議による可決(小規模個人再生のみ)
小規模個人再生では、申立人が提出した再生計画案に対して債権者の書面による決議をとります。この決議は消極的同意で足ります。つまり、反対意見(再生計画案に同意しない)を持つ債権者のみが書面で回答します。書面の提出がない場合は同意したものとみなします。
積極的な反対意見が半数に満たず、かつ、その議決権総額の半額以下である場合は、再生計画が可決されます。
個人再生で住宅資金特別条項を利用する条件
住宅資金特別条項とは、住宅ローンをリスケジュールする制度です。再生債権と異なり住宅ローンは減額するのではなく、元本・利息・遅延損害金を含めた全額の支払方法を変更(期限を猶予)してもらいます。
住宅資金特別条項は、小規模個人再生・給与所得者等再生を問わず利用できます。ここでは、個人再生で住宅資金特別条項を利用する条件を説明します。
住宅資金特別条項が利用できる条件
住宅資金特別条項を利用するためには、次の4つの条件を満たす必要があります。
- 住宅であること
- 住宅資金貸付債権(住宅ローン債権)であること
- 住宅に住宅資金貸付債権以外の債権の抵当権が設定されていないこと
- 住宅ローン貸付債権について法定代位が生じていないこと
住宅であること
適用の対象となる住宅は、次のとおりです。
- 個人である再生債務者が所有している家屋であること(共有名義可)
- 自己の居住の用に供する建物であること
- 床面積の2分の1以上に相当する部分が、自己の居住のためにあること
したがって、実際に居住していない建物や賃貸に出している建物は、住宅資金特別条項を適用できません。
住宅資金貸付債権(住宅ローン債権)であること
適用の対象となる住宅ローン債権が、次を目的として貸し付けられ、分割の定めのある債権であることが必要です。
- 住宅の建設もしくは購入に必要な資金
- 住宅の改良(増築・改築・リフォーム)に必要な資金
住宅に住宅資金貸付債権以外の債権の抵当権が設定されていないこと
住宅に、住宅ローン債権の抵当権が設定されていることが必要です。ただし、住宅ローン以外の債権の抵当権が設定されている場合は利用できません。
住宅ローン貸付債権について法定代位が生じていないこと
保証会社が住宅ローンの代位弁済(保証債務の支払い)している場合、代位弁済の日から6ヶ月以内に個人再生を申立てた場合は、住宅資金特別条項を利用できます。
個人再生を申立てたのが、代位弁済から6ヶ月を経過したあとの場合は、住宅資金特別条項が利用できません。
個人再生が向いている人
ここでは、個人再生が向いている人を解説します。
次の方は、個人再生の利用が適しています。
- マイホームを残したい人
- 残したい財産がある人
- 借金の理由が免責不許可事由に該当する人
- 資格制限のある職業に就いている人
マイホームを残したい人
住宅ローンを返済中の場合、自己破産をすると自宅を手放さなければなりません。個人再生では住宅ローンを支払いながら、自宅に住み続けられます。
残したい財産がある人
自己破産では一定の財産を残し、破産者が持っている財産は処分されます。個人再生では財産を処分しないので、手放したくない財産がある場合は、利用を検討すると良いでしょう。
借金の理由が免責不許可事由に該当する人
自己破産では、借金の理由が収入に見合わない浪費やギャンブルなどの場合、免責を許可されないことがあります(免責不許可事由)。
個人再生は免責不許可事由の定めがないので、借入の理由を問わず利用できます。
資格制限のある職業に就いている人
自己破産では、特定の資格や職種に就く人は、一定期間、その資格や職種の仕事ができなくなります。資格の制限を受ける代表的な例は次のとおりです。
- 士業(弁護士・税理士・公認会計士など)
- 生命保険募集人・損害保険代理店
- 宅地建物取引士・不動産鑑定士
- 警備員
- 旅行業者
個人再生はこのような制限はありません。自己破産で資格制限を受ける人は個人再生の利用を検討するとよいでしょう。
まとめ
個人再生は、債務整理の中でも最も手続きが複雑です。スケジュールも細かく定められており、提出期限を守らなければいけません。マイホームを残したい方で、住宅ローンの滞納が生じている場合は、一日も早く弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に個人再生を依頼すれば、スムーズに手続きを進めてもらえます。借金にお悩みの方は、お気軽にご相談ください。