偏頗弁済(へんぱべんさい)とは?用語の意味をわかりやすく解説
自己破産や個人再生において偏頗弁済(へんぱべんさい)が問題になることがあります。
偏頗弁済がどのようなものなのか、どのようなリスクがあるのか知らない人も多いのではないでしょうか?
この記事では、以下の点を説明します。
- 偏頗弁済(へんぱべんさい)とは
- 偏頗弁済になるのはいつから?
- 偏頗弁済してバレない?
- 偏頗弁済になるケース・ならないケース
- 自己破産で偏頗弁済したらどうなる?
- 個人再生で偏頗弁済したらどうなる?
- 偏頗弁済のその他のリスク
偏頗弁済への理解を深めるためのご参考になれば幸いです。

特定の相手に返済をしたい方は、任意整理の方が向いているかもしれません。
債務整理を検討している方は、一度状況をお聞かせください。
どの方法が向いているのか検討していきましょう。
目次
偏頗弁済(へんぱべんさい)とは
偏頗弁済とは、特定の債権者に優先的に返済したり、担保を提供したりする行為です。
ここでは、偏頗弁済と債権者平等の原則について解説します。
偏頗弁済は債権者平等の原則に反する
特定の債権者にだけ返済する行為(偏頗弁済)は、それ以外の債権者に不利益を与えるため、債権者平等の原則に反します。
債権者平等の原則とは
全ての債権者を平等・公平に取り扱うことを債権者平等の原則といいます。全ての債権者に平等に返済しなければなりません。
債権者平等の例外
債権者平等の原則の例外として、支払うことが認められる債権は次のとおりです。
- 担保権が設定されている債権
- 非免責債権
- 公共料金(滞納分を除く)
ひとつずつ説明します。
⑴担保権が設定されている債権
担保権が設定されている債権は、他の債権者よりも優先して返済を受ける権利があります。債権回収のために努力をした債権者は、むしろ優先的に返済を受ける権利を与えることが公平だと考えられています。
担保権が設定されている債権の代表的な例は、住宅ローンで自宅(土地・建物)に設定する抵当権です。
⑵非免責債権
非免責債権は、自己破産や個人再生により免除・減額されない債権です。以下の債権は返済しても債権者平等の原則に反しません。
- 税金
- 年金・健康保険料
- 養育費(滞納分を除く)
- 悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償金
⑶家賃・公共料金(滞納分を除く)
生活に必要な月々の支払いは債権者平等の原則に反しません。具体例は次のとおりです。
- 家賃
- 水道光熱費
- 携帯・スマホの通信料金
ただし、滞納分の支払いは偏頗弁済に該当します。
偏頗弁済になるのはいつから?
いつからいつまでの返済が偏頗弁済となるでしょうか。
ここでは、偏頗弁済の基準となる以下3つのタイミングについて解説します。
- 支払不能後
- 破産手続開始の申立後
- 支払不能前30日以内(非義務的偏頗行為のみ)
ひとつずつ見てみましょう。
支払不能後
借金の返済ができなくなった後に、特定の債権者に返済すると偏頗弁済となります。
支払を停止し、かつ、債権者にその旨を表示したときに支払不能が推定されます。よって、遅くとも弁護士が受任通知を送付した後は一切の返済を停止しなければなりません。
破産手続開始の申立後
破産手続申立後に特定の債権者に返済すると偏頗弁済になります。
ご自身で自己破産を申立てる場合、あらかじめ債権者に支払停止の意思表示をしていない場合は、裁判所への自己破産の申立てが支払停止の意思表示となります。
ただし、申立ての準備を開始した時点で支払不能であることは明らかですので、申立前も特定の債権者への返済は控えましょう。
支払不能前30日以内(非義務的偏頗行為のみ)
自己破産の免責不許可事由には、非義務的偏頗行為が含まれます。非義務的偏頗行為とは、債務者に義務がないにもかかわらずに行った偏頗行為のことです。
具体的には、次のような行為です。
- 時効期間を経過した借金を返済した
- 約定の期限前に返済した
- 特約がないのに担保を提供した
債務者が支払不能になる30日前に上記行為をした場合、その行為は破産管財人に取り消される可能性があります。
偏頗弁済してバレない?
偏頗弁済を隠すことはできません。自己破産や個人再生では、裁判所が提出書類を厳しくチェックし、偏頗弁済の有無を確認します。
ここでは、偏頗弁済がバレる理由を説明します。
自己破産・個人再生で偏頗弁済がバレる理由
裁判所は、次の提出書類に不審な点がある場合、申立人に説明を求めます。
通帳のコピー
申立時、直近2年分の通帳のコピーを裁判所に提出します。裁判所は預金の動きに不審な点がないか、友人や家族に優先的に返済していないか厳しくチェックします。
申立後も、家計収支表とともに一定期間提出を求められる場合があります。
家計収支表
申立時、直近2ヶ月分の家計収支表を提出します。裁判所は家計収支に大きな支出はないか、使途が不明確な支払いがないかチェックします。
申立後も、毎月家計収支表の提出が求められるケースもあります。
給与明細書
申立てに際して、直近2ヶ月分の給与明細を提出します。裁判所は会社からの借入の返済金が給与から天引きされていないかチェックします。
不動産の登記事項証明書
不動産を持っている場合、不動産の登記事項証明書を提出します。登記事項証明書から申立直前に担保の提供をうかがわせる記載がある場合、裁判所(または破産管財人)が事実関係を調査します。
郵便物(自己破産・管財事件の場合)
自己破産で管財事件の場合、破産者あての郵便物は破産管財人に転送されます。破産管財人は郵便物をすべて開封して中身をチェックします。債権者からの送付された領収証から偏頗弁済が判明するケースも少なくありません。
履行可能性テスト・積立金制度(個人再生の場合)
個人再生では、一部の裁判所で再生計画案に沿った返済が可能かを見極めるテストを実施します。毎月決まった金額を積み立てられない場合、裁判所(または個人再生委員)が申告していない支出がないか申立人に説明を求めることがあります。
偏頗弁済になるケース
ここでは、自己破産・個人再生で偏頗弁済となるケースの典型例を紹介します。
親族・友人にだけ返済した場合
親族・友人にだけ優先的に返済した場合、偏頗弁済となります。
債権者の中に親族・友人が含まれていると、「迷惑をかけたくないから少しでも返済したい。」と思うかもしれません。しかし、親族や友人も債権者の一人として平等に取り扱わなければなりません。
養育費滞納分を支払った場合
養育費の滞納分を支払うと偏頗弁済となります。
手続開始前に支払期日が到来した養育費は、手続開始後に支払ってはいけません。ただし、養育費は非免責債権となるため、手続終了後に滞納分を支払う義務が残ります。
携帯料金の滞納分を支払った場合
次の場合は偏頗弁済となります。
- 携帯電話・スマートフォンの滞納通信料の支払い
- 機種代金の割賦払い
手続開始前に支払期日が到来した携帯料金は、他の債権と同様に平等に取り扱わなければいけません。
偏頗弁済にならないケース
ここでは、自己破産・個人再生で偏頗弁済とならないケースの具体例を紹介します。
家賃・水道光熱費
家賃や水道光熱費などの毎月の支払は偏頗弁済になりません。
滞納分の支払いは原則として偏頗弁済となりますが、次のとおり裁判所が問題視しないケースもあります。
家賃の滞納が短期間である場合
家賃の滞納が1~2ヶ月と短期間である場合、裁判所が最低限安定した生活に必要な支出と認める場合があります。
家賃を支払えなければ退去を余儀なくされ、経済的な更生を妨げる可能性があるからです。
スマホ・インターネットの通信料
スマホやインターネットなどの月々の通信料も滞納していない限りは払い続けて問題ありません。
養育費(滞納分を除く)
手続開始後に支払期日が到来する養育費の支払いは偏頗弁済となりません。養育費は子供の健全な成長のためには欠かせません。特に滞納がある場合は、滞納分は手続終了後まで支払えませんので、毎月の支払は怠らないようにしましょう。
住宅ローン(個人再生で住宅資金特別条項を利用する場合)
個人再生では、住宅資金特別条項を利用した場合に限り、住宅ローンの返済を続けても偏頗弁済にはなりません。
自己破産で偏頗弁済したらどうなる?
ここでは、自己破産における偏頗弁済の取扱いを解説します。
免責不許可になる可能性がある
偏頗弁済は免責不許可事由であるため、免責されないリスクが高まります。
ただし、次のような場合は、裁量による免責を得られる可能性があります。
- 裁判所や破産管財人の調査に協力的な場合
- 偏頗弁済相当額を積み立てて債権者に配当した場合
同時廃止事件ではなく管財事件になる
免責不許可事由がある場合、原則として管財事件に振り分けられます。
管財事件になると、破産管財人が選任され、最低でも20万円の引継予納金を用意しなければなりません。手間や期間もかかります。
ただし、次のように行為が軽微な場合は、同時廃止になるケースもあります。
- 偏頗弁済の金額が極めて少額
- 債務者の意図せぬ偏頗弁済(例 口座から自動的に引き落とされた)
破産管財人に回収される可能性がある
偏頗弁済は、破産管財人の否認権行使の対象となります。否認権行使とは、不当な取引を取り消す権利です。破産管財人は、偏頗弁済を受けた相手方に対し、返済を受けたお金を返すよう求め、これを回収します。
個人再生で偏頗弁済したらどうなる?
ここでは、個人再生における偏頗弁済の取扱いを説明します。
申立てが棄却される可能性がある
偏頗弁済の事実が開始決定前に判明した場合、不当な目的で申立てをしたものとみなされ、申立てが棄却される可能性があります。
最低弁済額より多く返済する可能性がある
個人再生開始決定後に偏頗弁済の事実が判明すると、再生計画案に基づく返済額が増加する可能性があります。
個人再生では、清算価値保障原則によって、偏頗弁済の額を清算価値に計上しなければなりません。
任意整理と偏頗弁済の関係
ここでは、任意整理における偏頗弁済の取扱いを説明します。
任意整理による弁済は偏頗弁済とならない
任意整理は、対象とする債権者を自由に選ぶことができます。したがって、一部の債権者を任意整理し、他の債権者に約定通りの返済を続けることは問題ありません。
任意整理から自己破産や個人再生への切り替え時は要注意
任意整理から自己破産・個人再生に切り替える前に、特定の債権者に優先的に返済すると偏頗弁済を疑われる可能性があります。
ただし、当初から自己破産・個人再生することを意図していなかったことが認められれば、裁判所に咎められる可能性は低くなります。
任意整理から自己破産・個人再生に切替えるときは、偏頗弁済を疑われないように注意しましょう。
偏頗弁済のその他のリスク
次の場合、偏頗弁済自体が罪に問われる可能性があります。
- 特定の債権者に損害を与えることを目的とした場合
- 偏頗行為の悪質性が高いと認められた場合
破産法265条では、詐欺破産罪について、次のとおり罰則を定めています。
10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金
悪質性が極めて高い偏頗弁済は詐欺破産罪に問われる可能性があるので注意しましょう。
まとめ
偏頗弁済が問題となるケースやリスクについてご紹介しました。
ご自身の意図せぬところで偏頗弁済となるケースもありますので、借金の返済ができなくなった後は、一切の返済を停止することが大切です。
「偏頗弁済しているかもしれない」とご不安がある方は、弁護士に相談しましょう。既に偏頗弁済してしまった場合も包み隠さずに相談してください。
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