個人再生が失敗するのはどんなケース?失敗しないためのポイントも解説
個人再生は、債務整理の中でも最も複雑な手続きです。裁判所に申立てれば、必ず個人再生が成功するわけではありません。法律や手続きを正しく理解していないと、失敗する可能性もあります。
では、どのような場合に個人再生は失敗するのでしょうか?
この記事では、個人再生が失敗するケースについて、次のとおり解説します。
- 個人再生が失敗する5つのケース
- 個人再生で失敗しないためのポイント
- 個人再生に失敗した場合の対応策
個人再生に失敗したくない方は、ぜひご参考になさってください
目次
個人再生が失敗する5つのケース
個人再生が失敗するのはどのようなケースなのでしょうか。
ここでは、個人再生が失敗する5つのケースを紹介します。
個人再生が失敗するのは、次の5つのケースに該当する場合です。
- 個人再生の失敗例①申立ての棄却|申立てが認められない
- 個人再生の失敗例②手続きの廃止|手続きが途中で打ち切られる
- 個人再生の失敗例③再生計画の不認可|再生計画が不認可となる
- 個人再生の失敗例④再生計画の不履行|再生計画どおりの返済ができない
- 個人再生の失敗例⑤再生計画の取消|再生計画の認可が取り消される
それぞれのケースを詳しく見てみましょう。
個人再生の失敗例①申立ての棄却|申立てが認められない
ここでは、個人再生の申立が認められず個人再生に失敗するケースを解説します。
申立ての棄却事由
次のいずれかに該当する場合、個人再生の申立てが棄却されます。
- 個人再生の利用条件を満たしていないとき
- 費用の予納がないとき
- 裁判所に破産手続が係属し、破産させた方が債権者の一般の利益に適合するとき
- 再生計画案の作成・可決の見込み・再生計画の見込みがないことが明らかなとき
- 不当な目的で個人再生が申立てられたとき、申立てが誠実になされなかったとき
ひとつずつ説明します。
個人再生の利用条件を満たしていないとき
個人再生の利用条件を満たしていない場合、個人再生の申立てが棄却されます。具体的には、次のような場合です。
- 申立人が個人でない
- 負債総額(住宅ローンを除く)が5,000万円を超えている
- 申立書類に補正不能な不備・不足がある
費用の予納がないとき
手続きに必要な費用を納付しなかった場合、申立てが棄却されます。
裁判所に破産手続きが係属し、破産させた方が債権者の一般の利益に適合するとき
債権者申立てにより、すでに破産手続きが開始されていて、その手続きによることが債権者の一般の利益に適合する場合は、個人再生の申立てが棄却されます。
再生計画案の作成・可決の見込み・再生計画の見込みがないことが明らかなとき
再生計画案の作成・可決・再生計画の見込みがないことが明らかである場合、個人再生の申立が棄却されます。具体的には、次のような場合です。
- 債務者の資産や返済能力が著しく低いため弁済計画を立てられない場合
- 申立時点で大部分の債権者の反対が予想される場合
- 裁判所が再生計画の遂行可能性がないと判断した場合
不当な目的で個人再生が申立てられたとき、申立てが誠実になされなかったとき
不当な目的で個人再生が申立てられたときや、その他申立てが誠実にされたものでないときは、個人再生の申立てが棄却されます。
不当な目的の申立てとは、具体的には次のようなケースです。
- 弁済禁止の保全処分の申立を悪用し財産を隠す目的(取下げ前提で)申立てた場合
- 根抵当権を抹消することを目的として申立てた場合
申立てが棄却されると借金は全額残る
申立てが棄却されると、借金は減額されずに全額残ります。
個人再生の失敗例②手続きの廃止|手続きが途中で打ち切られる
ここでは、手続きが途中で打ち切られて個人再生に失敗するケースを解説します。
手続きの廃止事由
個人再生手続きが途中で打ち切られることを手続きの廃止といいます。個人再生が失敗例でもっとも多いのは、手続きが廃止されるケースです。
手続きが廃止される理由は、次のいずれかに該当した場合です。
- 再生手続開始決定後に個人再生の利用条件を満たさないことが明らかとなったとき
- 裁判所の命令に違反したとき
- 裁判所の許可を得ずに民事再生法で禁止された行為を行ったとき
- 財産目録への不記載・不正記載を行ったとき
- 再生計画案を提出期限までに提出しなかったとき
- 再生計画を作成できる見込みがないと判断されたとき
- 再生計画案を否決されたとき
ひとつずつ説明します。
再生手続開始決定後に個人再生の利用条件を満たさないことが明らかとなったとき
再生手続開始決定後に、個人再生の利用条件を満たさないことが判明した場合、手続きが廃止されます。
例えば、再生手続開始決定後に、借金を約定どおり返済できる収入や財産があることが判明した場合などです。
裁判所の命令に違反したとき
裁判所は、再生債務者の業務及び財産に関し、仮差押え・仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができます。再生債務者がこれらの裁判所の命令に違反した場合、手続きが廃止されます。
裁判所の許可を得ずに民事再生法で禁止された行為を行ったとき
裁判所の許可を得ずに次の行為を行った場合、手続きが廃止されます。
- 財産の処分・譲り受け
- 借財
- 営業譲渡
- 訴えの提起
- 和解・仲裁
- その他裁判所が指定する行為
財産目録への不記載・不正記載を行ったとき
次のような行為により財産隠しが発覚した場合も、手続きが廃止されます。
- 財産目録に記載すべき財産を記載しなかった
- 財産目録に不正の記載をした
財産隠しが悪質な場合は詐欺再生罪にあたり、10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金が科せられます。
再生計画案を提出期限までに提出しなかったとき
再生計画案は、裁判所に指定された期日までに提出しなければなりません。1日でも遅れると、手続きが廃止されます。
期限までに再生計画案を提出したとしても、その内容が法律で定められた要件満たしていない場合、手続きが廃止されることがあります。
再生計画を作成できる見込みがないと判断されたとき
要件を満たした再生計画案が作成される可能性がないと裁判所が判断した場合、手続きが廃止されます。
再生計画案を否決されたとき
再生計画案は、小規模個人再生の場合、債権者に対し、同意するかどうか書面による決議が行われます。(給与所得者等再生では、決議ではなく意見聴取が行われます。)
書面決議においては、債権者の過半数以上の不同意または反対する債権者の債権額が債権総額の過半数を超えた場合には再生計画案は否決されます。
手続きが廃止された場合は自己破産に移行することもある
手続きが廃止された場合、借金は個人再生の申立前の状態に戻ります。裁判所が、破産原因があると判断した場合は、職権で破産手続きを開始することもあります。
個人再生の失敗例③再生計画の不認可|再生計画が不認可となる
ここでは、再生計画案が認可されずに個人再生に失敗するケースを解説します。
再生計画の不認可事由
再生計画案について債権者の同意が得られても、裁判所が認可しなければ個人再生は失敗に終わります。次のような場合は、再生計画が不認可となる可能性があります。
- 提出書類に補正不可能な不備があったとき
- 最低弁済額基準に違反しているとき
- 再生計画が遂行される見込みがないとき
- 再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき
- 債権額要件(5,000万円要件)に違反しているとき
- 債権者の書面決議で否決されたとき(小規模個人再生の場合)
ひとつずつ説明します。
提出書類に補正不可能な不備があったとき
手続きや再生計画案に、重大な法律違反があり、その不備を補正することができないときは、再生計画は不認可となります。
最低弁済額基準に違反しているとき
再生計画案の計画弁済総額が、最低弁済額を満たしていない場合は、再生計画が不認可となります。
再生計画が遂行される見込みがないとき
裁判所が、再生債務者には再生計画を実現できる見込みがないと判断した場合は、再生計画が不認可となります。
債権額要件(5,000万円要件)に違反しているとき
住宅ローンを除く借金の総額が5,000万円を超えていることが発覚した場合、再生計画が不認可となります。
債権者の書面決議で否決されたとき(小規模個人再生の場合)
小規模個人再生では、再生計画案について、債権者による決議を経る必要があります。債権者によって再生計画案が否決された場合、手続きが廃止されます。
債権額又は頭数において過半数の債権者が不同意意見を出した場合、再生計画案が否決されます。
再生計画が不認可となると借金は元どおりになる
再生計画が不認可となると、手続きは終了し、借金は減額されないまま全額残ります。
個人再生の失敗例④再生計画の不履行|再生計画どおりの返済ができない
ここでは、再生計画どおりの返済ができなくなったことにより個人再生に失敗するケースを解説します。
再生計画どおりの返済ができなくなるとどうなる?
再生計画どおりに返済できなくなった場合、裁判所が再生計画の認可を取り消すことがあります。
再生計画不履行への対策
再生計画の履行が難しくなった場合には、次の方法で対処できる可能性があります。
- 再生計画の変更
- ハードシップ免責
ひとつずつ説明します。
再生計画の変更
認可決定後、一定の要件を満たす場合、再生債務者の申立てによって、再生計画を変更できることがあります。具体的には、次のような場合です。
- ボーナスのカットにより減収した
- 病気や怪我で減収した
裁判所の許可が得られれば、再生計画の期間を最大2年まで延長できます。期間の延長により毎月の返済額を軽減できます。
ハードシップ免責
一定の要件を満たせば、裁判所にハードシップ免責を申立てられます。免責が得られれば、残りの債務が免除されます。ハードシップ免責を得るには、次の5つの要件を満たす必要があります。
- 再生計画の履行が極めて困難なこと
- やむを得ない事情があること(失業・交通事故・病気や怪我による入院)
- 再生計画に基づく弁済額の4分の3以上を既に返済していること
- 再生計画が清算価値保障の原則を満たしていること
- 再生計画を変更して最長2年の期限を延長しても返済が困難となったこと
個人再生の失敗例⑤再生計画の取消|再生計画の認可が取り消される
ここでは、再生計画の認可が取り消されて個人再生に失敗するケースを紹介します。
再生計画の取消とは
再生計画の取消しとは、いったん認可された再生計画の効力を取り消し、借金を再生計画認可前の状態に戻す手続きです(既に履行した部分を除く)。再生計画認可後に、再生債務者の不正が発覚した場合は、再生計画の認可が取り消されます。
再生計画が取り消されると、債権者は既に支払われた分を除き借金の全額を債務者に請求できます。
再生計画の取消要件
次のいずれかの場合、再生債権者の申立てにより、裁判所は再生計画の取消を決定できます。
- 再生計画が不正の方法により成立したこと
- 再生債務者が再生計画の履行を怠ったこと
- 再生債務者が裁判所の許可なく禁止された行為を行ったこと
- 再生計画認可決定確定後、最低弁済額基準に違反していることが明らかになったこと
ひとつずつ説明します。
再生計画が不正の方法により成立したこと
不正な方法によって再生計画が可決された場合、再生計画が取り消されます。
具体的には、再生計画の認可決定確定後に、再生手続きにおける財産隠しが発覚したケースなどです。
再生債務者が再生計画の履行を怠ったこと
正当な理由なく再生計画どおりの返済を怠った場合、債権者の申立てにより、再生計画の認可が取り消されることがあります。
再生債務者が裁判所の許可なく禁止された行為を行ったこと
裁判所の許可を得ずに次の行為を行った場合、再生計画が取り消されます。
- 財産の処分・譲り受け
- 借財
- 営業譲渡
- 訴えの提起
- 和解・仲裁
- その他裁判所が指定する行為
再生計画認可決定確定後、最低弁済額基準に違反していることが明らかになったこと
小規模個人再生において、計画弁済総額が、再生計画認可決定時の清算価値を下回ることが明らかになった場合、再生計画が取り消されます。
再生計画が取り消された場合は自己破産に移行することもある
再生計画が取り消された場合、裁判所が職権で破産手続きに移行することがあります。これを牽連破産(けんれんはさん)といいます。
裁判実務上は、ほとんどの裁判所で再生計画の取消確定による牽連破産は行わない運用になっています。
個人再生で失敗しないためのポイント
ここでは、個人再生で失敗しないためのポイントを解説します。
個人再生の利用条件・手続上のルールを正しく把握する
個人再生に失敗するケースのほとんどは、法律や手続きを正しく理解していなかったことが原因です。
個人再生に失敗しないためには、少なくとも次の事項を正確に判断しなければなりません。
- そもそも個人再生で借金問題を解決できるか
- 申立書類に不備・不足はないか
- 再生計画案は法律の要件を満たしているか
- 再生計画の実現可能性はあるか
書類の提出期限を厳守する
個人再生では、裁判所が指定した期限までに書類を提出する必要があります。特に、再生計画案は1日でも提出が遅れるとその時点で個人再生が失敗に終わります。
期限までに余裕をもって書類を提出できるよう準備しましょう。
債権者が納得できる再生計画案を作成する
再生計画案が認可されなければ個人再生は失敗します。このため、債権者から異議が出ない内容の再生計画案を作成しなければなりません。
特に、小規模個人再生では、再生計画案を作成する際に債権者が納得する内容にすることが重要です。
弁護士に依頼する
前述したポイントは、法律知識のない一般の方が自力で対処するのが難しいものばかりです。弁護士に依頼すれば、すべての手続きを代行してくれます。
個人再生を失敗させないためには、個人再生の手続きに精通した弁護士に依頼することをおすすめします。
個人再生に失敗した場合の対応策
個人再生に失敗した場合は、どうすればよいのでしょうか。
ここでは、個人再生に失敗した場合の対応策を解説します。
個人再生の再申立て
個人再生は何度でも申立てられます。
一度目の個人再生で失敗した原因を解消できれば、個人再生を再度申立てるのも一つの手段です。
自己破産の申立て
個人再生では借金を解決できない場合は、自己破産を検討します。
ただし、自己破産では原則として一定の財産が処分されます。マイホームを残すために個人再生を選択した場合も、失敗して自己破産に切り替えるとマイホームを残すのは諦めなければなりません。
ただし、免責不許可事由にあたる行為があり、免責不許可のリスクを避けるために個人再生を利用した場合は、個人再生の失敗が自己破産手続きで有利に考慮されることもあります。
まとめ
個人再生は、債務整理の中でも最も複雑な手続きです。法律や手続きを正しく理解していなければ、個人再生に失敗してしまう可能性があります。
弁護士費用を節約するために、自分の知識だけで手続きを進めると、個人再生に失敗するリスクが伴います。
個人再生を検討している場合には、弁護士に相談することをおすすめします。