【ホテルのM&Aについて②】許認可および法令順守に関する法務デューデリジェンスの重要ポイント

前回の記事(①)では、ホテルM&Aの全体的な流れと法務デューデリジェンス(法務DD)の重要ポイントについて解説しました。本記事では、特に許認可や法令順守に関する法務DDに焦点を当て、M&Aの過程で確認すべき法的要件を詳しく説明します。
ホテルの運営には、旅館業法や食品衛生法をはじめとする多くの法令が関わっており、これらの許認可を適切に引き継ぐことができなければ、M&A後の事業継続に支障をきたす可能性があります。そのため、買収時には慎重な法務DDを行い、リスクを回避する必要があります。

旅館業法 宿泊施設の基本許可要件
宿泊者名簿の作成義務
旅館業法に基づき、ホテルは宿泊者の氏名、住所、職業、宿泊日数などを記載した宿泊者名簿を作成し、一定期間保存する義務があります(旅館業法第6条)。
- 宿泊者名簿の記載内容が適切か、必要な情報が記録されているかを確認。
- 宿泊者データの管理が個人情報保護法に準拠しているかを検討(過去に情報漏えい事故がないかなど)。
許可の継続性と届出義務
- ホテルの譲渡後も旅館業営業許可が維持されるか確認。
- 営業者が変わる場合は、管轄の保健所へ適切な届出を行う必要がある。
【リスク回避策】
M&A後に営業許可が無効とならないよう、必要な届出が行われているかを契約書のクロージング条件に含める。
食品衛生法 ホテル内のレストラン・厨房管理
HACCPの遵守状況
ホテル内のレストラン・宴会場では、食品衛生法に基づくHACCP(ハサップ)による衛生管理が義務付けられています。
- 衛生管理計画が適切に策定・運用されているか。
- 食中毒発生履歴や過去の保健所指導歴の確認。
食品衛生責任者の選任
- ホテルの厨房・レストランには食品衛生責任者の選任が義務付けられている。
- 買収後も責任者が継続するか、交代する場合の手続きが適切に行われるかを確認。
【リスク回避策】
食品衛生法違反による営業停止リスクを回避するため、法務DDの段階でHACCPマニュアルの確認や、責任者のヒアリングを実施。
温泉法・公衆浴場法 温泉・スパ施設の許可要件
ホテルに温泉施設やスパが付属する場合、温泉法および公衆浴場法に基づく許可が必要です。
温泉法
温泉利用の許可が適切に取得されているか。
公衆浴場法
衛生管理基準(換水・消毒の頻度など)を遵守しているか。
水質検査
レポートが適正に保存され、定期的な検査が実施されているかを確認。
【リスク回避策】
温泉・スパ施設が営業停止処分を受けるリスクを避けるため、過去の行政指導履歴や施設管理状況を精査する。
酒税法・風営法 酒類提供および特定営業の許可
酒類提供の許可(酒税法)
- ホテル内のバーやレストランで酒類を提供する場合、酒類販売業免許を取得しているかを確認。
- 買収後も免許の継続が可能か、税務署への届出が必要かをチェック。
風営法の適用
ホテル内にカジノ、ナイトクラブ、カラオケバーなど風営法の規制対象となる施設が含まれる場合、特定の許可が必要。
- 風営許可を取得しているか。
- 過去に行政処分を受けていないか。
【リスク回避策】
酒類販売業免許の取得要件や、風営法の適用範囲を精査し、必要に応じて買収前に手続きを実施。
国際観光ホテル整備法 外国人観光客向け施設の基準
外客接遇主任者の選任が適正か
- 国際観光ホテルとして登録されている施設は、外客接遇主任者を設置する義務がある。
登録ホテルとしての標識掲示
- 「登録ホテル」であることを示す標識の掲示義務を履行しているか確認。
【リスク回避策】
国際観光ホテルの基準を満たしているかを確認し、要件を満たさない場合の是正策を検討。
消防法 防火管理および安全対策
ホテルは多数の宿泊客を受け入れる施設であるため、消防法に基づく厳格な防火対策が求められます。
防火管理者の設置
- 一定規模以上のホテルには 防火管理者の選任が義務付けられている。
- 買収後も継続して防火管理者が選任されるか確認。
消防設備の点検・維持管理
- 消火器、スプリンクラー、避難誘導設備などが適正に設置・管理されているか。
- 定期点検(年2回) の記録が保管されているか。
【リスク回避策】
消防設備点検の未実施が発覚した場合、行政指導・営業停止処分を受ける可能性があるため、事前に是正措置を検討。
道路交通法・道路運送車両法 ホテル送迎車の管理
安全運転管理者の選任
- 事業用車両を一定台数以上所有するホテルは、安全運転管理者の選任が義務付けられる。
整備管理者の選任
- ホテルがバス・送迎車両を保有している場合、整備管理者の配置が適正かを確認。
【リスク回避策】
道路交通法違反により、ホテルの送迎サービスが停止しないよう、運転管理体制を整備。
まとめ
ホテルM&Aにおいては、許認可の適正な承継が事業継続のカギとなります。法務DDの段階で各種許認可の有無を確認し、問題があれば是正措置を講じることが重要です。
弊所では、ホテルM&Aの法務デューデリジェンスおよび許認可手続のサポートを行っております。ぜひご相談ください。

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弁護士 尾又比呂人 (第一東京弁護士会所属)