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弁護士法人ネクスパート法律事務所

弁護士法人ネクスパート法律事務所は、中小企業の法務に強い法律事務所です。

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事例から学ぶインドにおける紛争防止8 – ジョイントベンチャーにおける運転資金の不足及び増資にまつわる問題とモニタリングの重要性

インドにおける紛争防止について、事例をご紹介します。

目次

相談内容

弊社はインド北部において、インドパートナーともに、自動車部品を製造・販売するジョイントベンチャー企業を運営する日本企業です。

出資比率は51対49であり、弊社がマイノリティとなります。

弊社からは営業担当のものが取締役として1名駐在しています。

ジョイントベンチャーを設立し、10年が経過しますが、ようやく事業が軌道に乗り始めた状況にあります。これまで紆余曲折あり、1年ほど前に追加資本を出資しています。

この追加出資に関して、インドパートナーが財務上の理由から追加出資を拒否したため、株主間契約書に従い、弊社が単独で増資をしました。この増資により、弊社の持ち株比率は、50%を超えるはずでした。

しかし、インドパートナーは、ジョイントベンチャー企業に対して自社が多額の債権を有するなど主張し、当該債権を株式引き受けの対価として支払ったものとして取り扱い、勝手にインドパートナー側の持ち株比率を51%まで戻す手続きを実施していたことがこの度判明しました。

調査を実施したところ、インドパートナーが主張する債権の存在が疑わしいだけでなく、ジョイントベンチャー企業からインドパートナーの関連会社に関して不透明な資金の流れがあることが確認されました。このような問題にどのように対処すれば良いでしょうか?

ジョイントベンチャーにおける運転資本の不足と増資

インドでは想定していた通りにビジネスが進むことの方が稀であり、思い描いたように売上が立たず、予想以上にコストが嵩み、結果として運転資金が不足するということがしばしば発生します。

合弁契約書/株主間契約書には、このような場合に備えて、追加資本が必要になった場合の取り扱いについて規定することが通常ですが、本件事案のようにインドパートナー側が追加出資を拒絶するというケースが多くあります。

ジョイントベンチャー企業における運転資金の不足と、インドパートナーによる追加出資の拒絶は、インドジョイントベンチャー企業運営上の典型的な問題の1つであるため、合弁契約書/株主間契約書を作成するにあたっても、インドパートナーが追加出資を拒絶した場合に備え、例えば、デッドロックに陥って追加出資それ自体ができなくなってしまうといった不都合が発生しないように関連規定をドラフティングすることが必要となります。

相談事例では合弁契約書/株主間契約書の条項それ自体には問題はなく、インドパートナーが追加出資を拒絶したものの、合弁契約書/株主間契約書の規定に従い、相談企業のみが100%追加で増資する形となりました。

会社法コンプライアンスに対するモニタリングの重要性

相談企業は、ジョイントベンチャー企業の取締役として駐在員を1名派遣していました。しかし、同駐在員は、営業寄りの人間であり、ジョイントベンチャー企業の経営に関連する事項についてはタッチしていませんでした。日系企業がインドパートナーとジョイントベンチャーを設立する場合、インドにおける財務・会計や会社運営に関するコンプライアンスはインドパートナーの方が詳しいことを理由に、インドパートナーに一任してしまうケースが多々見受けられます。しかし、財務会計や会社法コンプライアンスといった事項は、ジョイントベンチャー企業の経営マターに属するものであり、インドパートナーに丸投げすることは適当ではありません。相談事例のトラブルも、まさに会社法コンプライアンスといった重要事項をインドパートナーに丸投げしてしまったために発生したものでした。

そもそも、相談事例では、債権を株式に転換するデッドエクイティスワップという手続きは、合弁契約書/株主間契約書上、全会一致事項の対象とされており、インドパートナーが単独で実施することができない行為でした。しかし、ジョイントベンチャー企業がインドパートナーの息のかかった会社秘書役を起用していたがため、当該コンプライアンス違反が見過ごされてしまったのです。相談企業側も会社法コンプライアンスにしっかり関心を持ち、相談企業のモニタリングが及ぶ状況にしていれば、このような問題は発生しなかったはずです。インドパートナーが財務上の理由から増資に応じられないものの、持株比率が希釈化されることを嫌い、勝手に自社の持ち株比率を上げてしまうというトラブルは、インドでは珍しくないため、会社法コンプライアンスについても日本企業は留意する必要があります。

財務・会計モニタリングの重要性

また、相談事例では、調査の結果、ジョイントベンチャー企業の資金がインドパートナーの関連会社に流出していることが確認されています。インドパートナー関連会社に対するジョイントベンチャー企業の資金流出についても、インドジョイントベンチャー企業運営における典型的な問題の1つということができます。そもそも役務提供の実体がない資金流出事例もありますが、よくあるのは、ジョイントベンチャー企業がインドパートナーの関連企業から何らかの役務の提供を受けたものの、その対価が相場と比較して非常に高額であるといったケースです。

このような問題に対処するためには、インドパートナーが、ジョイントベンチャー企業の資金を不正に流出させることができないよう日本側でもモニタリングできる体制を整えることが重要です。典型的な手法としては、合弁契約書/株主間契約書において、(a)CFOを日本サイドから選出することを規定する、(b)関連会社取引を全会一致事項として規定する、(c)関連会社との取引に関してインドパートナーに対して報告義務を規定するといった方法が挙げられます。

ジョイントベンチャー企業におけるインドパートナー関連会社に対する資金流出は、インドにおけるジョイントベンチャー企業運営における最も典型的なトラブルの一つであり、合弁契約書/株主間契約書を作成するにあたってはどのように財務・会計モニタリングを及ぼすか慎重に検討することが必要となります。

合弁契約書/株主間契約書の定款反映手続きの重要性

相談事例においてインドパートナーが無断で行った増資は、合弁契約書/株主間契約書に違反する行為でした。相談企業としては、インドパートナーのみならず、ジョイントベンチャー企業に対しても違反を是正するよう主張していく必要がありますが、ここで重要となるのが、合弁契約書/株主間契約書の定款への反映手続きです。

株主間契約書/合弁契約書はあくまで株主間で締結されることが通常であり、対ジョイントベンチャー企業に対して直ちに法的拘束力を発生させるものではなく、また、契約法上の拘束力は認められるものの会社法上の拘束力を及ぼすものではありません。

合弁契約書/株主間契約書に違反した事項の是正を確実に求められるようにするためには、合弁契約書/株主間契約書の内容をジョイントベンチャー企業の定款に反映させる手続きが必須となります。

この作業を怠ると、インドパートナーに対して契約違反の責任を追求することはできるが、対ジョイントベンチャー企業との関係で持ち株比率の是正を求めることができないといった問題が発生する可能性があります。定款反映手続きを怠ると、コストをかけて作成した合弁契約書/株主間契約書が、絵に描いた餅になってしまうおそれがあるため、インドにおいてジョイントベンチャー企業を設立するにあたっては、合弁契約書/株主契約書の定款への反映作業が必須となります。

相談企業の事例では、合弁契約書/株主間契約書の内容は適切に定款に反映されていました。その後、相談企業はインド人弁護士を利用することで、インドパートナーと交渉を実施しました。インドパートナーは、当初は強気の交渉の姿勢を見せていましたが、自らも弁護士を利用するようになってから、態度を軟化させ、最終的には一定の被害弁償を実施するとともに、持ち株比率の是正に応じることとなりました。インドパートナーが行った行為の違法性が明確な事案でしたが、インドパートナーが自らも弁護士を起用することでそのことを認識するに至ったことが、態度の軟化に繋がったものと思料されます。

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