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弁護士法人ネクスパート法律事務所

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事例から学ぶインドにおける紛争防止6 – ジョイントベンチャーと競業避止及び撤退戦略

インドにおける紛争防止について、事例をご紹介します。

目次

相談内容

弊社は10年前からインドパートナーと共にインド北部において、電子部品を製造販売する合弁会社(ジョイントベンチャー企業)を運営する日本企業です。持ち株比率は60%対40%であり、弊社がマイノリティー株主となります。ジョイントベンチャーパートナーとは、経営方針において対立することも多く、また長年の事業運営にもかかわらず、黒字化の目処が立たないため、弊社独資で完全子会社をインド国内に設立し、独自でビジネスを展開したいと考えるに至りました。このことをジョイントベンチャーパートナーに説明したところ、合弁契約書の競業避止義務に抵触するため、弊社が完全子会社を設立して本件ジョイントベンチャー企業と競合する事業をインド国内で実施する事は契約上許されないと言われました。また、どうしても独資の形態でビジネスをインド国内で行いたいのであれば、インドパートナーが保有するジョイントベンチャー企業の株式を法外な値段で買取るよう求めてきました。一体どのように対処すれば良いでしょうか?

合弁契約書/株主間契約書の重要性

インドで事業を行うにあたって、インド企業パートナーと合弁会社を設立し、事業展開を行う事は、不慣れなインド市場において事業を拡大するための有力な選択肢となります。他方、文化や商習慣が大きく異なるインドパートナーと協働して会社を運営する事は容易でなく、インドにおけるジョイントベンチャー企業の運営には数多くのリスクが潜んでいます。インドにおけるジョイントベンチャー企業の運営は紛争の宝庫であり、これまで数多くの多種多様な合弁企業運営に関係する問題を目の当たりにしてきました。

このような、インドで頻発する様々なジョイントベンチャー企業運営に関する紛争の解決の道標となるのが合弁契約書/株主間契約書になります。合弁契約書/株主間契約書はジョイントベンチャーの立ち上げ時である、プロジェクトの初期時点で作成されるものですが、事業がうまくいかなかった場合の取り扱いなど、立ち上げからある程度期間が経過したのちに発生する問題の対処方法が規定され、撤退や競業避止など後ろ向きの事項も論点となることが通常です。

日本人ビジネスマンからは、これからビジネスを一緒に協力して拡大していこうという段階において、後ろ向きのことばかり交渉するのは気が引けるといった感想もよく聞きます。しかし、合弁契約書/株主間契約書の内容は合弁事業を立ち上げようとするスタート時点にしか交渉するチャンスがありません。紛争が発生してから相手方に契約内容の修正を申し入れたとしても、まず受け入れてもらえないからです。インドパートナーが準備した合弁契約書/株主間契約書にそのままサインをしてしまう、あるいは事業がうまくいかなかった場合の取り扱いについて社内で検討・反映させないと、いざ事業がうまくいかなかった時に、ほぼ間違いなく、インドパートナーに丸め込まれて、不利な条件で応諾する羽目になります。それほどインド人ビジネスマンはハードネゴシエーターであり、もっと言うとゴネるのが上手な人種です。

ジョイントベンチャー企業のトラブルが溢れるインドにおいては、トラブル解決の指針となる合弁契約書/株主間契約書がこの上なく重要であり、その検討及び作り込みに労力を割くことが不可欠となります。

競業避止義務及び撤退戦略の重要性

合弁契約書/株主間契約書の中でも、特に慎重な検討を要するのが競業避止条項および撤退に関する条項です。相談企業の事例では、まさにこれらの条項の作り込みが甘く、インドパートナーに言われるがまま条件を飲んでしまった部分があったため、痛い目を見る結果となりました。

(1) 競業避止義務

合弁契約書/株主間契約書における競業避止義務は、株主が直接または間接的にジョイントベンチャー企業と競合するビジネスに関与することを禁止する条項です。禁止されるビジネスの内容を幅広くとってしまうと、実質的にジョイントベンチャー企業と競合しないビジネスの実施まで過大に禁止されることになり、将来の自社独自の事業展開の障害となる可能性があるため、禁止される事業の範囲の検討には細心の注意を払う必要があります。

相談企業の事例では、非常に幅広い形で禁止事業の範囲が設定されていたため、直接的にジョイントベンチャー企業と競合するビジネスに従事することが禁止されていたことは勿論、ジョイントベンチャー企業が関与していない周辺事業分野についても禁止される結果となり、相談企業が事業分野やアプローチを変えるといった形でインド国内においてビジネス展開を行う可能性が広く阻害される形になっていました。そのため、相談企業は、競業避止義務の効果を解消させないことには、インドにおけるビジネスの実施が事実上難しいという非常に困難な立場に置かれていました。そして、この競業避止義務の効力を解消するには、合弁契約書/株主間契約書を解除するしか現実的な方法がありませんでした。

(2) 撤退に関する条項

合弁契約/株主間契約を解除するにあたって重要となるのがジョイントベンチャーの撤退に関する条項になります。撤退に関する条項の内容としては、合弁契約書/株主間契約書を解除することができる場面、インド側/日本側のうちいずれの株主がパートナーからジョイントベンチャー企業の株式を取得するといったジョイントベンチャー解消の方法、ジョイントベンチャー解消にあたって譲渡される株式価値の算定方法などが通常規定されます。

しかし、相談企業の事例では、合弁契約書の中にこのような撤退に関する条項が一切規定されていませんでした。そうなると撤退の方法についてゼロベースから交渉するしかありません。しかし、本件では相談企業は交渉上非常に不利な立場に置かれていました。インドパートナーからすればジョイントベンチャー企業株式の過半数を保有しており、事実上経営をコントロールしている実態にあったため、インド国内で事業を行うにあたっては、既存のジョイントベンチャー企業があれば充分でした。一方、相談企業にとっては、既存ジョイントベンチャー企業によるインドの事業展開に限界を感じており、自社独自で事業を行いたいと考えていましたが競業避止義務が障害となり、それが叶わない状況にありました。インド企業からすれば合弁を解消する積極的な理由はなく、かつ急いで解消する必要もない状況でしたが、相談企業としては、一刻も早くジョイントベンチャーを解消し、独自に事業に着手したい状況に置かれていたのです。このような交渉上不利な立場にある場面において、合弁契約書/株主間契約書において撤退に関する条項が規定されていない事は致命的です。撤退条項においては、譲渡される株式価値の算定方法に関する条項が規定されることが通常ですが、このような譲渡株式の価格算定に関する規定があれば、株式価格の交渉において、相手方にもある程度合理的な交渉が期待できます。しかし、株式価格の決定に関して、一切の指針となる条項が存在しないと、インド側は日本人にとって法外としか思えないような買取り価格を提示してくることが一般的です。相場の10倍20倍の価格で株式の買取りを求めてくる事は珍しくなく、こうなってしまうと、日系企業が許容できるような価格レンジ内で株式譲渡価格の合意形成を実現することは非常に難しくなってしまいます。

相談企業の事例においても、ジョイントベンチャー企業は利益を出していない会社であり、株式価値は理論上あまりつかないはずであるにもかかわらず、インドパートナーは法外な金額を提示してきました。相談企業にとってインド市場は非常に重要なマーケットですが、インドパートナーとの関係がこじれてしまった現状においては既存ジョイントベンチャー企業を通じてのインド市場においてビジネスを拡大していくことは望めない状況に陥っていました。事実上、採用しうる有効な手立ては、インドパートナーからジョイントベンチャー企業の株式を買い取り、競業避止義務を解消する方法しかなかったのです。

結局、相談企業は法外な値段で、インドパートナーから株式を買い取るほか手段がなく、株式価格についてはある程度交渉したものの、非常に高額な価格で、インド人パートナーが保有するジョイントベンチャー企業の株式を買い取らされる結果となってしまいました。

もし、相談企業が合弁契約書/株主間契約書を作成するにあたって、インドパートナーに言われるがまま競業避止義務を受諾せず、せめて一般的な撤退情報について規定していれば、ここまで不利な形で終結しなかったことが予想されます。これから一緒に事業を始めると言うタイミングで、競業の禁止や撤退について交渉しづらいということは無理からぬところもございます。しかし、その交渉は合弁立ち上げ時が唯一のタイミングであり、また、そもそもインド人にとっては、激しい契約交渉は日常茶飯であるため交渉それ自体によってパートナー関係に悪影響及ぶことはありません。合弁事業の立ち上げは、企業にとって大きな投資となることが通常ですので、撤退条件も含めしっかりと交渉していくことが重要となります。

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