事例から学ぶインドにおける紛争防止1 – ディーラー事案

インドにおける紛争防止について、事例をご紹介します。
相談内容
弊社はインドで製造業を行うメーカーです。弊社製品はインド国内で弊社が認定した認証ディーラーを通じて一般消費者に販売されています。
このたび、認証ディーラーのうちの1つが、弊社製品を消費者に販売し、対価を受領していたにもかかわらず、その製品を消費者に引き渡していないと言う事案が発生していることが判明しました。
被害者の数は多数にのぼり、被害らによる集団訴訟が提起されました。その民事訴訟の被告には、当該認証ディーラーが含まれている事はもちろんですが、契約当事者となっていない弊社及び弊社取締役(駐在員)も被告として含まれてしまっています。その上、民事訴訟に留まらず、弊社取締役含め認証ディーラーとの間で、共謀があるものとして刑事告訴までされています。
このような問題にどのように対処すれば良いでしょうか?
インド特有の裁判トラブル
本件は、認証ディーラーが、多数の消費者との間で、製品を販売し代金を受領したにもかかわらず、製品の引き渡しを行わなかったため、本来であれば、契約関係がなく無関係であるはずのメーカーが民事及び刑事の双方で紛争に巻き込まれてしまった事案です。
直接的な契約関係がなく、本来であれば被告適格がない当事者が民事訴訟に巻き込まれてしまうことは、インドではメジャーなトラブル類型のひとつとなっています。
また、民事上の争いにおいて、刑事手続きを活用することで、相手方にプレッシャーをかけ、その債権回収の目的を図ろうとする戦略も、日本では見られないインド特有の紛争類型の1つといえます。
特に後者は日本人駐在員が逮捕リスクに晒されるため、慎重に対処する必要があります。
本件紛争の原因
本件における紛争の原因としてデューデリジェンスの不十分さ及び契約条項の不備の2つが指摘することができます。
本件では、相談企業は、認証ディーラーの財務状況のチェックなど、本来認証ディーラーを選任する際に、果たすべきデューデリジェンスを十分に実施しませんでした。相談企業の取り扱い製品の単価は、高額な部類に属し、本来であれば認証ディーラーを選任するにあたって、そのディーラーの財務状況が強固であることについて、事前に調査を実施すべきでした。財務基盤が脆弱である場合、資金に困った認証ディーラーが想定しない形で相談企業の製品を処分してしまう恐れが発生するからです。本件についても認証ディーラーの財務基盤が不十分であったことに端を発したトラブルであったことが後々判明しました。
また、相談企業と認証ディーラーの間で締結されていた認証ディーラー選任に関する契約書には、対象製品の販売に関するレポーティングメカニズムが一切規定されていませんでした。情報の透明性が確保されていれば、被害が拡大する前に防止することができた可能性があり、また、仮にこれを防止することができなかったとしても相談企業が尽くすべき注意を払っていたことを示す根拠となり、民事及び刑事手続きにおいて有利に働きうるため、このような条項を規定することが望ましいと言えました。
インドでディストリビューターやディーラーを選任するにあたっては、デューデリジェンスに適切な実施及び適切な契約書のドラフティングが不可欠といえます。
本件で実施された対応
本件は、相談企業が消費者との間の契約当事者ではなく、また認証ディーラーが独断で違法行為を行った事が明らかであったため、法的に、民事上及び刑事上の責任がない事は明らかな事案でした。
しかし、相談企業のレピュテーションリスクの観点から、相談企業は被害にあった消費者に対して対象製品を追加対価を受領することなく納品することを実施しました。この対応により、相談企業の消費者との関係における民事及び刑事上の紛争は解決しました。
他方で、相談企業は、認証ディーラーに対する責任追求の一環として、認証ディーラーに対する刑事告訴を実施しました。認証ディーラーが行っていたことが刑法に違反する事は明らかであったため、刑事告訴の結果認証ディーラーは警察に逮捕されました。告訴を取り下げることの引き換えに、認証ディーラーは、相談企業が消費者に対して引き渡した製品相当額を含めた損害を賠償し、相談企業は無事損害を回復することができました。
また、相談企業は、再発防止策として認証ディーラー選任における内部デューデリジェンス手続き規定を作成するとともに認証ディーラー選任に関する契約書の整備を実施しました。これらの施策により、認証ディーラーの質が担保されるとともに、認証ディーラー選任後も取引の透明性が確保及び万が一の際のリスク低減を図ることに成功しました。

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