奨学金は個人再生で解決できる?保証人への影響・他の解決方法も解説
独立行政法人日本学生支援機構の令和2年度学生生活調査によると、大学または短期大学に進学する方の約半数が奨学金を受給しています。
社会にでても賃金が上がらず、奨学金が返済できないケースも増えています。
奨学金も個人再生の対象となる債務ですが、奨学金以外の借金の有無や奨学金の額によっては、個人再生で解決できないこともあります。
この記事では、奨学金と個人再生の関係について、次のとおり解説します。
- 奨学金は個人再生でどのくらい減額できる?
- 奨学金を個人再生すると保証人や連帯保証人に迷惑がかかる?
- 個人再生の手続きから奨学金を外すのは可能?
- 奨学金の債権者からの反対で個人再生に失敗する可能性はある?
- 個人再生以外の奨学金の解決方法
奨学金が返せず個人再生をご検討中の方は、ぜひご参考になさってください。
目次
奨学金は個人再生でどのくらい減額できる?
ここでは、個人再生における借金の減額率について解説します。
基本的には5分の1に減額できる
個人再生における借金の減額率は、概ね5分の1~10分の1(下限100万円)です。ただし、選択する手続きの種類や財産の状況によっては、減額率が低くなることがあります。
個人再生で返済する金額は、法律により、最低限返済すべき金額(最低弁済額)が決められています。
再生計画に基づく弁済額の3つの基準
再生計画に基づく弁済額は、次のどちらの手続きをするかで異なります。
- 小規模個人再生
- 給与所得者等再生
小規模個人再生の場合には、次の①、②の基準でどちらか高額になる金額を上回る金額で再生計画案を作成します。
給与所得者等再生の場合には、次の①~③の基準のうち、最も高額となる金額を上回らなければなりません。
- 基準債権額による最低弁済額基準:住宅ローンを除いた借金の総額から算出する
- 清算価値保障基準:所有している財産の額から算出する
- 可処分所得額基準:過去2年分の収入から算出する
3つの基準について、ひとつずつ説明します。
基準債権額による最低弁済額
法律が定めた最低弁済額は、住宅ローンの残債を除いた借金の総額(基準債権額)に応じて以下のとおり算出します。
例えば、奨学金とその他消費者金融等からの借金の総額が500万円である場合、最低弁済額は100万円です。
基準債権額 | 最低弁済額 |
---|---|
100万円未満 | 全額 |
100万円以上500万円以下 | 100万円 |
500万円を超え1,500万円以下 | 借金額の5分の1 |
1,500万円を超え3,000万円以下 | 300万円 |
3,000万円を超え5,000万円以下 | 借金額の10分の1 |
清算価値保障基準
清算価値保障基準は、一定額以上の価値がある財産を現金化した場合の金額(清算価値)から算出します。再生計画の弁済率は、破産した場合の配当率以上でなければなりません。
清算価値として計上される財産の例は、主に以下のとおりです(裁判所により異なる)。
- 99万円を超える現金
- 20万円を超える預貯金
- 見込額が20万円を超える生命保険解約返戻金
- 見込額が160万円を超える退職金の8分の1
- 自動車
- 生活に必要不可欠でない高価な家財道具
- 不動産(評価額からローン残高を控除した金額)
所有している財産の価値によっては、基準債権額による最低弁済額を超える金額を返済しなければならないことがあります。
可処分所得額基準
給与所得者等再生を利用する場合、弁済額は可処分所得の2年分以上の額でなければなりません。
可処分所得とは、収入から最低生活費(税金や最低限度の生活の維持に必要な費用)を除いた金額です。
奨学金を個人再生すると連帯保証人や保証人に迷惑がかかる?
個人再生すると、奨学金の保証人や連帯保証人にはどのような影響があるのでしょうか。
ここでは、個人再生における連帯保証人への影響について解説します。
連帯保証人・保証人への影響
連帯保証人・保証人のいる奨学金を個人再生すると、連帯保証人・保証人に対して奨学金の残額が一括請求されます。個人再生を行った本人は奨学金を減額してもらえても、連帯保証人・保証人にはその減額の効力が及ばないからです。
連帯保証人・保証人が一括で払えない場合は、連帯保証人・保証人も債務整理(自己破産や個人再生)を検討する必要があります。
機関保証の場合は?
機関保証とは、日本学生支援機構の貸与奨学金について、連帯保証人・保証人を立てることなく、自らの意志と責任において申し込みができる制度です。
機関保証に加入している場合は、保証機関である公益財団法人日本国際教育支援協会が、債務者に代わって残額を一括返済(代位弁済)しますので、家族や親戚に迷惑をかけることはありません。
個人再生の手続きから奨学金を外すのは可能?
ここでは、個人再生の手続きから奨学金を除外できるかどうかについて解説します。
個人再生では奨学金を除外できない
個人再生では、奨学金だけを手続きから除外できません。
個人再生の手続きでは、全ての債権者を平等に扱わなければならないからです(債権者平等の原則)。
奨学金を隠した場合は個人再生に失敗するおそれがある
奨学金を隠して個人再生を申立てたり、申立後に奨学金の返済を続けたりすると、以下のように手続きに影響するおそれがあります。
- 奨学金の返済分が弁済額に加算される
- 再生計画案が不認可となる
- 再生計画が取り消される
奨学金の債権者からの反対で個人再生に失敗する可能性はある?
ここでは、奨学金の債権者からの反対で個人再生に失敗する可能性があるかどうかについて解説します。
奨学金が債務総額の半分を超えている場合は失敗する可能性がある
小規模個人再生を利用する場合は、再生計画案について、債権者による決議を経る必要があります。債権者総数の半数以上または債権総額の2分の1を超える債権を有する債権者が不同意意見を出した場合、再生計画案が否決されます。
そのため、奨学金以外の借金がない場合や、奨学金が借金総額の半分以上の割合を占めている場合は、再生計画案が否決され手続きが打ち切られる可能性があります。
給与所得者等再生であれば反対されても個人再生できる可能性がある
給与所得者等再生の場合は、仮に再生計画案に反対する債権者いても、裁判所が再生計画を認可すれば、個人再生による借金の減額を実現できます。
給与所得者等再生では、再生計画案について、裁判所は債権者の意見を聴く必要があるとされていますが、債権者の決議までは必要とされていないからです。
個人再生以外の奨学金の解決方法
ここでは、個人再生以外の奨学金の解決方法を解説します。
日本学生支援機構の救済制度を利用する
独立行政法人日本学生支援機構は、学金の返還が困難な方に、次の3つの救済制度を用意しています。
- 減額返還制度
- 返還期限猶予制度
- 返還免除
救済制度を利用することで、連帯保証人・保証人への影響を最低限に抑えられます。
制度の概要をひとつずつ説明します。
減額返還制度
減額返還制度は、災害、傷病、経済困難、失業などの返還困難な事情が生じた場合に利用できる制度です。月々の返還金を2分の1~3分の1に減額できます。
当初の約束通りの返還は困難でも、減額した金額なら返済できる見込みがある場合は、減額返還を申請しましょう。
ただし、すでに延滞している場合には利用できないなど一定の制限があります。
返還期限猶予制度
返還期限猶予制度は、最長10年間、奨学金の返還を一時停止して期限を先送りできる制度です。災害、傷病、経済困難、失業などの返還困難な事情が生じ、一時的に返還が困難である場合などに利用できます。
返還期限猶予制度は、延滞が生じている場合も利用できます。
返還免除
返還免除は、本人が死亡した場合や障害を負った場合に、残っている奨学金の全部又は一部の返還が免除される制度です。
奨学金以外の借金がない場合は自己破産を検討
奨学金以外の借金がなく、日本学生支援機構の救済制度や個人再生を利用できない場合は、自己破産を検討しましょう。
自己破産を申立てて、裁判所に支払不能と認められ免責の許可が下りれば、奨学金の返還義務が免除されます。
奨学金を自己破産した場合のメリット・デメリットは下記をご参照ください。
奨学金以外の借金がある場合は任意整理も検討可
奨学金以外に借金がある場合は、任意整理で解決できる可能性があります。
奨学金自体は、原則として任意整理できませんが、奨学金以外の借金を任意整理することで、奨学金の返還が楽になることがあるからです。
まとめ
奨学金も個人再生で減額対象となる債務の一つです。
ただし、連帯保証人や保証人がついている場合、奨学生が個人再生すると、連帯保証人や保証人に奨学金の残額が一括請求されます。
日本学生支援機構には、奨学金の返還が困難な方に救済制度が用意されています。奨学金の返還が困難になった場合は、減額返還制度や返還期限猶予制度を検討しましょう。
救済制度が利用できない場合は、弁護士に相談し債務整理を検討しましょう。
個別の事情については弁護士に相談することをおすすめします。