更新日:2024年3月19日 (火)
公開日:2020年12月7日 (月)
奨学金は自己破産できる?手続きのメリット・デメリットを解説
サマリー
経済的な事情や雇用の変化などにより、奨学金の返還を続けることが困難になり、自己破産を検討される方もいらっしゃるのではないでしょうか。
奨学金は自己破産における免責の対象に含まれますが、財産の処分や信用情報への影響に加え、連帯保証人への請求リスクなども慎重に考慮する必要があります。
この記事では、奨学金を自己破産する場合のメリットやデメリット、保証人への影響、さらには機構の救済制度や他の債務整理といった自己破産以外の解決方法について解説します。
奨学金は自己破産できる?免責の対象と認められる要件

奨学金の返還が困難になった場合、裁判所に自己破産を申し立てて免責許可決定を受けることで、返還義務を免除してもらうことが法的に可能です。
奨学金は公的な性質を持つ資金ですが、法的には金銭消費貸借契約に基づく債務であるため、民間の借入金と同様に自己破産の免責対象に含まれます。
奨学金以外の借金がない場合に「支払不能」と認められる基準
自己破産の手続きを進めるには、裁判所から「支払不能」の状態にあると判断される必要があります。
支払不能とは、債務者の収入や資産、信用などを総合的に考慮し、客観的に見て借金の返済を継続できない状態を指します。
奨学金は利息制限法の上限と比べて低い金利(年率3%以下など)が設定されており、月々の返還額も1万〜2万円程度であることが一般的です。
そのため、奨学金以外に借金がない状況では、現在の収入の範囲で返還を継続できるとみなされ、申立てが認められにくい側面もあります。
奨学金のみの債務で支払不能と認められる可能性があるケースとしては、主に以下のような事情が挙げられます。
- 重い病気や怪我により長期にわたって就労が困難である
- 失業などによって収入が途絶え、今後の回復も見込めない
- 奨学金の返還に充てられる預貯金や不動産などの財産を所持していない
税金など免責されない「非免責債権」との違い
自己破産を行って免責許可が確定した場合でも、法律上すべての支払義務が免除されるわけではありません。
破産法には「非免責債権」と定められた項目があり、これらに該当する支払いは自己破産後も残り続けます。
非免責債権の主な例としては、住民税や所得税などの各種税金、国民健康保険料、養育費や婚姻費用、悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償金、罰金などが該当します。
奨学金の返還債務は非免責債権には該当しないため、免責許可決定が確定すれば、元金だけでなく利息や延滞金も含めて返還義務が免除されます。
奨学金を自己破産で解決する主なメリット
奨学金の返還が困難になった際に自己破産を選択する最大のメリットは、裁判所から免責許可決定を受け、それが確定することで奨学金の返還義務が法的に免除される点にあります。
免責許可決定が確定すれば、残っている奨学金の元金および利息について支払義務が免除されます。
奨学金以外の借金も包括的に免責対象となる
自己破産の手続きでは、債権者平等の原則に基づき、一部の債権者だけを除外することなくすべての借入れを裁判所に申告して手続きを進める必要があります。
そのため、奨学金だけでなく、クレジットカードのショッピング利用分やリボ払い、消費者金融からの借入れ、銀行のカードローンなど、抱えている複数の債務を原則として同時に免責の対象とすることができます。
奨学金の返還負担が重なったことで生活費を補うために別の借金を重ねてしまった場合や、複数の債務が原因で返済に行き詰まってしまった場合でも、一連の債務をまとめて整理することが可能です。
返済の負担を解消し生活再建を目指せる
税金や養育費といった法令で定められた「非免責債権」を除き、対象となる債務の返済義務が免除されるため、毎月の返済に追われる生活から抜け出し、家計の立て直しを図るきっかけとなります。
督促や返済のプレッシャーから解放され、得られた収入を今後の生活維持や立て直しに充てられるようになる点も、法的な手続きを通じて得られる大きな利点といえます。
奨学金を自己破産するデメリットと保証人への影響

自己破産を行うと奨学金を含む債務の免除が期待できる一方で、財産の処分や生活面での各種制限といったデメリットを伴います。
財産の処分や資格制限・信用情報への登録
自己破産の手続きでは、原則として評価額が20万円を超える預貯金や不動産、自動車、生命保険の解約返戻金などの財産は処分され、債権者への配当に充てられます。
ただし、生活に必要な家財道具や生活必需品、99万円以下の現金は手元に残すことが認められています。
また、破産手続開始決定から免責許可決定が確定するまでの間は、一定の資格や職業に対する制限を受けます。
弁護士や司法書士、公認会計士、税理士といった士業のほか、生命保険募集人や警備員などの業務に一時的に就けなくなる点に留意が必要です。
さらに、信用情報機関に破産の事実が事故情報として登録されます。
これにより、破産後およそ5〜10年間は新たな借り入れやクレジットカードの発行、住宅ローンや自動車ローンの契約が困難になります。
保証人・連帯保証人への請求リスク
奨学金の主たる債務者が自己破産によって免責を得ても、保証人や連帯保証人の返還義務までは免除されません。
破産手続きを行うと、奨学金の残額は保証人に対して一括で請求されるのが原則です。
保証形態には、親族などが連帯保証人になる「人的保証」と、保証会社を利用する「機関保証」の2種類があり、破産時の影響が大きく異なります。
| 保証形態 | 主な保証人 | 主たる債務者の破産による影響 |
|---|---|---|
| 人的保証 | 親・親族など | 主たる債務者が自己破産すると、親族である連帯保証人に残額が請求されます。
保証人も一括返済が難しい場合、保証人自身も債務整理を検討せざるを得ないことがあります。 |
| 機関保証 | 公益財団法人等(保証機関) | 保証機関が代位弁済を行うため、家族や親族に直接の返還請求が及ぶことはありません。 |
親や親族が連帯保証人になっている場合は、事前に事情を共有し、保証人側の返済資力や対応方針についても慎重に確認しておくことが重要です。
自己破産以外の解決方法|救済制度や他の債務整理の選択肢
奨学金の返還が厳しくなった場合でも、直ちに自己破産を選択するのではなく、貸付機関が設けている救済制度や他の債務整理手続きを活用して生活再建を図る道があります。
日本学生支援機構(JASSO)の救済制度
独立行政法人日本学生支援機構では、経済的困難、失業、傷病、災害などによって返還が難しくなった返還者を対象に、3種類の公的な救済制度を整備しています。
| 制度名 | 内容 | 主な要件・留意点 |
|---|---|---|
| 減額返還制度 | 毎月の返還額を2分の1または3分の1に減額し、減額された期間に応じて返還期間を延長する | 延滞が生じる前に申請する必要がある。
返還総額自体は減額されない |
| 返還期限猶予制度 | 返還を一時的に先送りし、支払いを待ってもらう(1回の申請で1年間、通算最長10年まで) | すでに延滞が生じている場合でも事情により申請可能。
猶予期間中の利息は発生しない |
| 返還免除 | 残っている奨学金の全部または一部の返還義務が免除される | 本人の死亡、または精神・身体の障害により労働能力を喪失・著しく制限された場合に限られる |
返還の継続が難しいと感じた段階で早めにこれらの制度を申請することで、延滞や信用情報への影響を防ぎながら返還負担を調整できる可能性があります。
奨学金に対する任意整理の適用が難しい理由
債務整理の代表的な手続きとして「任意整理」がありますが、奨学金の返還負担を軽減する目的では活用しにくいのが実情です。
任意整理は、裁判所を介さず債権者と直接交渉し、将来利息のカットや返済期間の延長を取り付ける手続きです。
奨学金はもともと利息制限法の上限利率に比べて極めて低利(年率3%以下など)に設定されているため、将来利息を免除されたとしても総返済額を減らす効果がほとんど得られません。
加えて、日本学生支援機構は原則として個別の任意交渉に応じない運用をとっているため、奨学金単体を対象とした任意整理は成立させることが困難です。
奨学金以外の一般の借入れについて任意整理を行い、浮いた支出を奨学金の返還に充てるといった柔軟な対応が検討されます。
安定した収入がある場合に検討できる個人再生
奨学金を含めた借入総額が大きく、かつ将来にわたって継続的・安定した収入が見込める場合には、「個人再生」が有力な選択肢となります。
個人再生は、裁判所に申立てを行って債務総額を原則として概ね5分の1程度に圧縮し、減額された金額を原則3年(最長5年)で分割返済していく手続きです。
住宅ローン特則を利用すれば、持ち家を手放さずに手続きを進められる利点もあります。
ただし、再生計画案に沿った分割返済を確実に継続できる収入基盤が必要となるため、無職の方や収入が極めて不安定な状況では利用が認められない点に注意が必要です。
奨学金の返還が厳しい場合の弁護士への相談
借入状況や保証人の有無に応じた手続きの検討
奨学金の返還に苦慮している場合、検討すべき解決策は借入の総額や債務の内訳、さらには保証人の設定状況によって大きく異なります。
必ずしも自己破産のみが選択肢となるわけではありません。
たとえば奨学金以外にも消費者金融やクレジットカードなどの借入れを抱えている場合、奨学金以外の債務について整理を行うことで、月々の負担を軽減し奨学金の返還を継続できる可能性があります。
また、親や親族が連帯保証人になっているケースでは、主債務者の破産によって保証人に一括請求が及ぶリスクがあるため、保証人への影響も踏まえた総合的な判断が求められます。
滞納が長期化する前に適切な相談を行う重要性
返還の遅延が続くと、延滞金の加算や一括返還の請求、裁判所を通じた回収手続きなどに発展することがあります。
事態が深刻化する前に、現状を把握し適切な措置を検討することが望まれます。
日本学生支援機構(JASSO)が提供する猶予や減額などの救済制度の利用可否を確認するとともに、債務整理を視野に入れる場合は弁護士などの専門家に相談することが一つの方法です。
個々の収支や保証人の有無に応じた適切な解決方針を早期に立てることが、生活の安定を図るうえで重要です。
専門家に相談することで、自身の生活状況や法的な条件に照らし合わせてどの手続きが適しているか、客観的な助言を得ながら解決へ進めることが可能になります。
コラム監修者
Shunsuke Teragaki
所属:代表(東京オフィス)
広島県広島市出身。修道高校、慶應義塾大学商学部、青山学院大学法科大学院を卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、個人・法人問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。ネクスパート法律事務所の代表弁護士として、依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。