自己破産における同時廃止と管財事件|手続きの違いや基準を解説
自己破産には、同時廃止事件と管財事件の2つの手続きがあります。
破産法上は管財事件が原則で、同時廃止事件が特則です。一定の換価すべき財産があれば管財事件となります。同時廃止事件は、申立代理人(弁護士)が破産者に対して一定の監督的機能を果たす実務慣行の形成を踏まえて運用されています。
この記事では、同時廃止事件と管財事件について、次のとおり解説します。
- 自己破産には同時廃止と管財事件の2つの手続きがある
- 自己破産における同時廃止と管財事件の主な違いは?
- 自己破産で同時廃止になる基準は?
- 自己破産で管財事件になる基準は?
自己破産を検討中の方は、ぜひご参考になさってください。
自己破産には同時廃止と管財事件の2つの手続きがある
自己破産には、次の2つの手続きがあります。
- 同時廃止事件
- 破産管財事件
ここでは、それぞれの手続きの概要を解説します。
同時廃止事件とは?
同時廃止事件とは、裁判所が破産手続開始と同時に破産手続きを終了(廃止)させる手続きです。申立人の財産が少なくて、それをお金に換えても破産手続費用(破産管財人の報酬等)を賄えないことが明らかな場合、同時廃止事件として取り扱われます。
同時廃止事件の流れ
同時廃止事件の手続きのおおまかな流れは次のとおりです。
- 自己破産の申立て
- 破産手続開始決定・同時廃止決定
- 免責審尋
- 免責許可・不許可決定
管財事件とは?
管財事件とは、裁判所が選任した破産管財人が、破産者の財産を強制的にお金に換えて(換価)、これを債権者に公平に分配(配当)して清算する手続きです。
管財事件の流れ
管財事件の手続きのおおまかな流れは次のとおりです。
- 自己破産の申立て
- 破産手続開始決定・破産管財人の選任
- 引継予納金の納付
- 破産管財人との打ち合わせ・面接
- 破産管財人による財産調査・換価処分等
- 債権者集会
- 免責審尋
- 免責許可・不許可決定
- 債権者への配当
- 任務終了報告集会
少額管財
管財事件には、通常の管財事件のほか少額管財事件が運用されている裁判所があります。少額管財とは、裁判所に支払う予納金の金額を通常の管財事件よりも少額に定め、手続きを限定・簡素化した制度です。裁判所によって、簡易管財やS管財と呼び方が異なることがあります。
少額管財制度は、弁護士が申立代理人になっている場合しか利用できません。
自己破産における同時廃止と管財事件の主な違いは?
同時廃止事件と破産管財事件はどのような違いがあるのでしょうか?
ここでは、同時廃止事件と破産管財事件の違いを解説します。
管財事件は破産管財人が選任される
同時廃止事件は、破産手続きが開始と同時に廃止されるため、破産管財人は選任されません。
管財事件の場合は、開始決定と同時に裁判所が破産管財人を選任します。
破産管財人は、次の4つの業務を担当します。
- 破産財団に属する財産の管理・換価
- 破産債権の調査・確定
- 配当
- 免責調査
ひとつずつ説明します。
破産財団に属する財産の管理・換価
破産管財人は、破産者の財産状況の調査をし、財産を売却してお金に換えます。裁判所の許可が必要な行為については、裁判所の許可を得て行います。
破産者宛ての郵便物は管財人に転送され、破産管財人は郵便物の差出人や内容から、既に判明している破産者の財産かどうかを確認します。
財産目録に記載のない財産が見つかった場合は、差出人や破産者に対する調査を経て、裁判所に報告します。
破産債権の調査・確定
破産管財人は、破産債権を調査・確定します。
具体的な債権調査手続きの流れは次のとおりです。
- 裁判所または破産管財人が、各債権者に破産手続開始を通知し破産債権届出書の提出を求める
- 届出債権の存否・内容・金額を調査する
- 債権の認否を行う
- 債権調査期間または債権調査期日を定め債権を確定する
配当
破産財団に属する財産すべての換価が終了し、破産管財人の報酬や租税等の請求権を弁済しても残りがある場合は、破産管財人が配当を実施します。
債権者への配当にあてられる財産がない場合は、異時廃止により終了します。
免責調査
破産管財人は、破産者が提出した書類や破産者からの事情聴取により、次の点を調査します。
- 免責不許可事由があるかどうか
- 免責不許可事由がある場合に裁量免責が認められる事情があるかどうか
破産管財人は、調査内容をまとめた免責調査報告書を裁判所に提出します。
手続きにかかる期間が異なる
同時廃止事件は、破産管財人が選任されず、破産手続きが開始と同時に廃止します。そのため、管財事件に比べて、手続きにかかる期間が短くなります。
各手続きの申立てから免責許可決定確定までの期間は次のとおりです。
- 同時廃止:3~4ヶ月程度
- 少額管財:4~6ヶ月程度
- 通常管財:6ヶ月~1年以上
手続きにかかる費用が異なる
同時廃止では、破産管財人への報酬が不要であるため、裁判所に支払う手続き費用が安く済みます。
管財事件では、破産管財人への報酬(引継予納金)を含めて、同時廃止よりも高額な費用がかかります。東京地方裁判所では、次のとおり引継予納金の額を定めています。
- 少額管財事件 20万円~
- 通常管財事件 50万円~

手続中に受ける制限の範囲が異なる
自己破産を裁判所に申立てて破産手続開始決定が出ると、申立人は破産者となります。
破産者には、次のとおり一定の制限が課せられます。
- 資格制限
- 通信の秘密の制限
- 居住・移動の制限
同時廃止事件と管財事件では、手続中に受ける制限の範囲が異なります。
ひとつずつ説明します。
資格制限
破産者は、同時廃止事件・管財事件のいずれの手続きでも資格制限を受けます。
資格制限とは、破産手続きの開始により、一定の資格を取得できなかったり、資格を失ったり、一定の職業に就けなくなったりすることです。
資格制限を受ける資格・職種の代表例は以下のとおりです。
- 士業(弁護士、司法書士、税理士等)
- 警備業・警備員
- 宅地建物取引業・宅地建物取引主任
- 生命保険募集人・損害保険の代理店
多くの場合、免責決定の確定により資格制限が解除(復権)されます。
通信の秘密の制限
管財事件では、破産者あての郵便物は、すべて破産管財人に転送され、破産管財人に閲覧されます。これを通信の秘密の制限といいます。
破産管財人は、郵便物のチェックから財産の申告漏れや財産隠しの有無を調査します。
同時廃止事件では、このような制限を受けません。
居住・移動の制限
破産管財事件では、住居の移動に裁判所の許可が必要です。住所の変更はもちろん、次の場合も裁判所の許可が必要です。
- 宿泊を要する旅行をするとき
- 宿泊を要しない遠隔地への旅行をするとき
同時廃止事件では、住民票の移動を裁判所に報告する必要はありますが、引っ越しや旅行に裁判所の許可は要りません。
自己破産で同時廃止になる基準は?
ここでは、自己破産で同時廃止事件になる基準を解説します。
換価できる財産がほとんどない場合
申立人に換価できる財産がほとんどない場合は、同時廃止になる可能性があります。
具体的な基準は裁判所によって異なりますが、所有財産の価値が20万円未満の場合は、同時廃止事件になることが多いです。
ただし、20万円を超える場合でも、破産手続開始前に裁判所の指示のもと、財産と同等の金額を積み立てて債権者に配当すれば、同時廃止事件として処理されることもあります。これを按分弁済による同時廃止処理といいます。
破産に至った事情を調査する必要がない場合
免責不許可事由がないことが明らかな場合は、同時廃止事件となる可能性が高いです。
自己破産で管財事件になる基準は?
ここでは、自己破産で管財事件になる基準を解説します。
事業者またはその代表者が申立てる場合
個人事業主や法人の代表者が自己破産を申立てた場合、管財事件として処理される可能性があります。財産や取引が事業と個人生活との間で分離されていないことが多く、その実態調査のため破産管財人による十分な調査が必要だからです。
もっとも、個人事業主においては、負債額・事業内容・財産状況によっては、同時廃止事件として取り扱われることもあります。
一定の換価すべき財産がある場合
20万円以上の価値のある財産がある場合は、破産管財事件として処理されるのが原則です。
開始決定時にほとんど財産がない場合でも、保証債務や住宅ローンを除いた債務が3,000万円以上ある場合は、管財事件になる可能性があります。
多額の債務を負担できるほどの一定の信用力があったとみなされ、これに見合った財産があった可能性があるため資産調査の必要があるからです。
破産に至った事情を調査する必要がある場合
次の場合は、財産が少なくても管財事件になる可能性があります。
- 免責不許可事由があると疑われる場合
- 免責不許可事由の調査が不十分な場合
- 免責不許可事由がある場合
- 生活状況(主に家計収支)について指導監督が必要である場合
まとめ
自己破産において、同時廃止事件と管財事件のどちらで処理されるかは、裁判所が決定します。
同時廃止事件として処理されれば債務者の負担が少なくなります。しかし、同時廃止事件として処理されて欲しいからといって、財産を隠す等の不正行為をすると免責は許可されません。
申立前に十分な調査・検討ができれば、破産管財人による調査が不要と判断されることもあります。そのためには、自己破産を依頼する弁護士に包み隠さず正直に申告することが重要です。
自己破産を検討中の方は、同時廃止事件・管財事件の見通しを含め、ぜひ当事務所の無料相談をご利用ください。