サマリー
個人事業主(自営業者・フリーランス)が多額の債務を抱え、資金繰りや経営が著しく困難になった際の法的な解決策の一つとして、自己破産手続きの申立てがあります。
しかし、自己破産手続きを選択した場合は、これまでの事業継続に重大な影響を及ぼす実務上のデメリットが伴う傾向にあります。
さらに、裁判所へ納める予納金など、手続きに要する費用負担の仕組みも一般的な会社員(消費者破産)のケースとは異なるため、破産法に基づく正しい知識を把握しておくことが極めて重要です。
この記事では、個人事業主の自己破産における事業継続の可否や業務上の影響、生活面の制限(デメリット)、管財事件をはじめとする手続きの流れや必要な費用について詳しく解説します。
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個人事業主の自己破産は会社員と何が違う?実務における2つの主な特徴を解説
個人事業主の自己破産手続きは、給料所得者である会社員の自己破産(消費者破産)の運用とは実務上大きく異なります。

法的に独立した組織である法人破産とは異なり、個人事業主の場合は事業主個人の私的財産と事業用資産が法律上一体(同一の権利主体)として扱われる点が大きな特徴です。
そのため、通常の会社員であれば保有していないような、業務に使用する事業用の資産であっても、原則として裁判所(破産管財人)による換価・処分の対象となります。
また、借入先である金融機関だけでなく、取引先や外注先など債権者との利害関係が複雑であることから、裁判所での審理や手続きの内容も異なってきます。
こうした構造的な違いを正しく理解することが、ご自身の今後の仕事や営業活動への影響を正確に把握するための重要な前提となります。
原則として裁判所から管財事件に指定され手続きが複雑化する
個人事業主が申し立てる自己破産は、裁判所の実務上、原則として管財事件という厳格な手続きによって進められる傾向があります。
管財事件が開始されると、裁判所から選任された弁護士(破産管財人)が、債務者の資産状況や財産の調査・処分(換価)を行い、法律の定めに従って各債権者への配当を実施します。
これは、会社員と比較して事業用資産の有無や未回収の売掛金、取引先との継続的な契約関係、および帳簿の整合性など、裁判所側で調査・精査すべき項目が多岐にわたるためです。
これに対し、処分すべき一定以上の財産や免責不許可事由がないと判断された場合は、破産手続開始と同時に手続きが終了する同時廃止に振り分けられますが、個人事業主の実務において同時廃止が認められるケースは比較的稀とされています。
そのため、個人事業主の管財事件は手続きが複雑化しやすく、申立てから終結までの期間が長期化するほか、裁判所に納める予納金(管財費用)などの費用も高額になる傾向があります。
関連記事:自己破産における同時廃止と管財事件|手続きの違いや基準を解説
仕事道具や売掛金など事業用の財産も裁判所による処分の対象に含まれる
前述の通り、法人格を持たない個人事業主の場合、事業の営業のために使用している財産と、個人のプライベートな私有財産との間に、法律上の明確な区別(権利の切り離し)がありません。
そのため、自己破産手続きが開始されると、原則として仕事で使用するパソコンや業務用機械、営業用の車両、店舗の賃貸借契約に伴う敷金(保証金)返還請求権、在庫商品なども広く換価・処分の対象に含まれることになります。
また、選任された破産管財人は、事業の実態や過去の資金の流れを正確に把握・検証するため、直近数年分の会計帳簿や確定申告書、控、銀行口座の取引明細書といった事業関連書類一式の提出を求めます。
営業基盤となるこれらの資産が換価処分の対象となることで、一般的にはそれまで通りの形態で事業を継続することが極めて困難になるケースが多いとされています。
自己破産後に従来の個人事業を継続することが困難とされる4つの主な理由
実務上の結論として、自己破産の申立てを行った後に、破産前と全く同じ資産や体制を維持したまま個人事業を継続することは極めて困難であると言わざるを得ません。
自己破産は、原則として債務者が保有する換価可能な財産を清算・配当し、裁判所から免責許可を得ることで残る債務の支払義務を免除してもらう法的手続きであり、既存の事業基盤そのものが破産財団として処分されてしまう可能性が高いためです。
営業継続が困難とされる具体的な法規や実務上の理由を正しく把握し、状況によっては適切な廃業手続き(タイミングの精査など)も含めて、専門家と相談しながら客観的な判断を下す必要があります。
以下に、個人事業の継続や維持が構造的に難しくなる主な4つの理由について、実務の観点から解説します。
業務用の機械設備・商品在庫・店舗の保証金などが換価処分の対象となるため
法律上の原則として、自己破産の手続きが開始されると、自由財産(手元に残せる財産)を除き、事業運営に不可欠な資産の多くが裁判所(破産管財人)による換価処分の対象となります。
具体例として、一定の価値があるパソコンや業務用機械設備、営業車両、販売用の商品在庫、さらには店舗や事務所を借りる際に差し入れた店舗の保証金(敷金返還請求権)なども財産的価値があるとみなされ、原則として換価・処分の対象に指定されます。
これらの営業・事業基盤を構成する主要な資産が失われた場合、事業の形態によっては客観的・物理的に従来の営業を継続することが著しく困難となります。
これらの事業用資産は、最終的に破産管財人の権限によって売却・現金化(換価)され、破産費用や各債権者への按分配当の原資として充当される仕組みとなっています。
信用情報機関への登録(ブラックリスト)により事業資金の新規融資・借入れが困難になるため
自己破産の手続きを行うと、個人の信用情報機関に破産手続開始決定などの事故情報が登録されることになります。
これはいわゆる「ブラックリストに載る」と表現される状態であり、この事故情報は手続き完了後も一定期間(一般的に5年〜7年程度)にわたって登録が維持されます。
この情報が保持されている期間内は、銀行や日本政策金融公庫などの金融機関から新たな事業資金の融資(借入れ)を受けることが原則としてできなくなるほか、事業用のクレジットカードの新規発行や、業務車両・機器のリース契約を締結することも極めて困難になります。
事業を維持・継続するためには安定した運転資金の確保が不可欠ですが、外部からの資金調達手段が絶たれるため、すべてを保有する手元資金(自由財産の範囲など)のみで賄う必要があり、資金繰りは実務上極めて厳しくなる傾向があります。
債権者となった取引先からの信用失墜や契約解除(取引打ち切り)のリスクがあるため
事業上の買掛金や未払いの外注費がある取引先は、破産法上の債権者平等の原則に基づき、すべて自己破産手続きにおける債権者として扱わなければなりません。
そのため、裁判所へ自己破産の申立てを行うと、裁判所または弁護士から各取引先へ破産手続開始に関する通知等が送付されるため、必然的にその事実が知れ渡ることになります。
これにより商業上の信用・信頼関係が損なわれ、既存の取引を中途で打ち切られたり、今後の新規取引を拒絶されたりする可能性が極めて高いと言えます。
また、基本取引契約書等の条項内に「当事者の一方が破産手続開始の申立てを受けた(または行った)ときには、催告なしに契約を解除できる」といった特約(破産解除条項)が含まれている場合、その規定を根拠に契約解除を求められる実務上のリスクが存在します。
既存の売掛金(未収金)の回収権限が破産管財人に移転し、事業資金に充当できなくなるため
事業活動によって生じた未回収の売掛金(売上債権)についても、自己破産手続きにおいてはすべて債務者(事業主)の有する換価対象財産とみなされます。
そのため、裁判所によって破産手続開始決定が下されると、それらの売掛金を請求・回収する法的な権利(管理処分権)は専属的に破産管財人へと移転します。
したがって、事業主が自らの判断で取引先から売掛金を取り立てて消費することは法律上認められなくなり、破産管財人によって回収された金員は、原則として破産財団に組み入れられて債権者への配当等に充てられることになります。
これにより、過去の営業活動から得られるはずだった入金(当面の運転資金や事業用経費の原資)が遮断されるため、実務上キャッシュフローが途絶え、これまでの事業形態を維持して継続していくことが極めて困難な状況に陥ります。
自己破産で事業以外に失うものは?個人の私生活に及ぶ5つの主な影響
自己破産手続きの申立てを行った場合、事業運営の側面だけでなく、個人の私生活や日常生活の範囲にも様々な影響が及ぶことになります。

前述の通り、個人事業主には法人格がないため、裁判所による換価処分は事業用資産にとどまらず、原則として事業主個人名義の私有財産全般にも適用されます。
また、信用情報機関への事故情報登録(いわゆるブラックリスト)や、手続き期間中の特定の資格・職業に対する制限など、社会生活上の各種デメリットも発生します。
これらの法的な影響を事前に正しく把握し、破産手続きの開始がご自身の今後の生活にどのような具体的変化をもたらすのかを十分に理解しておくことが重要です。
以下では、個人の私生活に及ぶ代表的な5つの影響について、実務の運用を踏まえて解説します。
一定以上の価値を有する自宅(持ち家)や自動車などの私有財産の処分
自己破産手続きにおいては、法律上、破産者の生活に最低限必要と認められる自由財産を除き、一定以上の資産価値を有する私有財産は原則としてすべて換価・処分の対象となります。
実務上の一般的な目安として、査定評価額が20万円を超える自動車や、解約返戻金の見込額が20万円を超える生命保険契約などが、処分の対象(破産財団)に指定される傾向にあります。
本人名義の持ち家(不動産)も資産価値があれば処分の対象となるほか、住宅ローンが残っている場合は、抵当権を有する金融機関などによって任意売却の手続きが進められるか、あるいは裁判所を通じて競売にかけられるのが一般的です。
このように、自由財産の範囲を超える高価な個人資産については、破産手続きの過程で原則として手放す必要があります。
信用情報機関への事故情報登録(いわゆるブラックリストへの掲載)
自己破産の手続きが開始されると、加盟する各信用情報機関に対して、その事実が事故情報(異動情報)として登録されます。
この状態は一般に「ブラックリストに載る」と表現され、登録が維持されている期間内は、金融機関からの新たな融資や住宅ローン、自動車ローンなどの審査に通ることが原則として極めて困難になります。
また、既存のクレジットカードが利用停止になるほか、カードの新規発行も制限され、携帯電話・スマートフォン端末の分割購入(割賦契約)の審査にも通りにくくなるなど、日常生活の様々な場面で実務上の制限が生じる傾向にあります。
そのため、キャッシュレス決済や分割払いを前提とした現代の社会生活においては、一定期間の不便を強いられるケースが少なくありません。
破産手続きの期間中における特定の資格制限および職業制限
自己破産の申立てを行い、裁判所から破産手続開始決定が下されてから免責許可決定が確定するまでの一定期間は、各種法律の規定に基づき、一部の資格を用いた業務や特定の職業への就業が制限されます。
この制度上の仕組みを、実務上資格制限と呼びます。
具体的な対象としては、弁護士・司法書士・公認会計士・税理士などのいわゆる士業のほか、警備業法に基づく警備員、保険業法に基づく生命保険募集人、旅行業法に基づく旅行業務取扱管理者など、他人の秘密や財産を管理・取扱う性質のある職業が挙げられます。
ただし、この資格制限は永続的なものではなく、裁判所による免責許可決定が確定すれば自動的に法律上の権利が回復する復権の効力が生じるため、その後は再び制限されていた職業に就くことや資格を維持することが可能です。
関連記事:自己破産における制限職種一覧|資格制限を受ける期間も解説
主債務の連帯保証人(家族・親族・知人など)に対する債権者からの督促・請求
事業資金の融資(借入れ)を受ける際などに、家族や知人、ビジネスパートナーが連帯保証人や保証人となっている場合、主債務者である事業主本人が自己破産して免責を得ても、連帯保証人等の割当てられた返済義務が消滅することはありません。
金融機関などの債権者は、主債務者が支払不能・破産手続きに移行したことに伴い、保証契約に基づいて連帯保証人に対し、残債務の一括返済を請求(督促)することになります。
結果として、連帯保証人自身の資産状況にも重大な法的・経済的影響(場合によっては連帯保証人も同時に債務整理を迫られる等)を及ぼすため、関係性に深刻な影響を与える要因となり得ます。
したがって、自己破産の申立てを行う実務においては、事前に連帯保証人となっている方へ現在の財務状況を丁寧に説明し、連帯保証人側の債務整理(同時破産など)の必要性も含めて、あらかじめ担当弁護士などの専門家を交えて対策を協議しておくことが強く推奨されます。
国の広報紙である官報への氏名・住所および破産手続情報の掲載
裁判所を通じて自己破産手続きを行うと、国が発行する唯一の機関紙(広報誌)である官報に、破産者の氏名、住所、および手続開始の決定内容などが法律の定めに従って公告(掲載)されます。
具体的な掲載のタイミングは、裁判所による破産手続開始決定時と、その後の審理を経た免責許可決定時の原則2回となります。
官報は法律上、一般に広く公開されている情報ですが、日常生活において一般の個人が定期的にチェックしているケースは極めて稀です。
そのため、通常の社会生活において、官報の記述のみを理由として近隣住民や知人、親族等に自己破産の事実が直ちに知れ渡る可能性は、実務上比較的低い傾向にあると言えます。
ただし、金融機関や貸金業者、信用情報機関、あるいは債権回収業務等を行う一部の専門業者は、顧客管理や審査のために日常的に官報情報を精査・データベース化しているため、これらの機関には確実に把握されます。
関連記事:債務整理すると官報に載る?掲載される情報・期間や載らない方法は?
自己破産をしても支払い義務が残る非免責債権とは?
裁判所から自己破産の免責許可決定が下され、それが正式に確定すると、原則として申立て時に存在していた全ての借入れや未払金などの金銭債務について、法律上の支払い義務(弁済責任)が免除されます。
しかし、破産法上の例外規定により、すべての債務が等しく免除されるわけではなく、手続き完了後もそのまま残る非免責債権と呼ばれる特定の債権(債務)が存在します。
これらは、社会政策上の要請や人道的な配慮、あるいは債権者間の不公平を是正するという法的な観点に基づき、破産手続きの終結後も破産者本人が引き続き支払い義務(責任)を負い続けるものです。
個人事業主のケースにおける代表例としては、未納となっている国税・地方税などの公租公課や、雇用していた従業員に対する未払い給料などがこれに該当します。
これらの債務については、自己破産の免責許可を得ても消滅しないため、手続きとは別途の対応や解消計画が必要になる点に留意が必要です。
税金や国民健康保険料などの公租公課(破産法第253条第1項第1号)
事業主が納付すべき所得税・住民税・個人事業税・消費税などの各種税金や、国民健康保険料(税)、国民年金保険料といった国税徴収法または地方税法等によって徴収できる請求権(公租公課)は、非免責債権の最たる代表例です。
これらは国や自治体の財政・社会保障の基盤を支える公的な債権であり、裁判所の自己破産手続きによってもその免責が認められることはありません。
そのため、これらの公租公課を滞納している場合は、破産手続きの進行とは並行して、管轄の税務署や自治体の納税窓口等と個別に協議を行い、換価の猶予や職権による分割納付(分納)などの不利益を緩和するための法的対応を検討する必要があります。
適切な対応を行わずに放置した場合は、破産手続きの有無にかかわらず、滞納処分(行政権限による独自の財産差し押さえ)が執行されるリスクがあります。
雇用していた従業員に対する未払いの給料・労働債権(破産法第253条第1項第4号・第5号)
従業員やスタッフを雇用している個人事業主が、給料(賃金)の未払いを残した状態のまま自己破産に踏み切った場合、原則としてそれらの未払い給料請求権(一定の労働債権)も非免責債権として扱われます。
この規定は、経済的に立場の弱い労働者の生活原資を最優先で保護するという、労働法および破産法上の社会政策的な強い配慮に基づくものです。
したがって、裁判所から一般の借入金等の免責許可決定を得た後であっても、元従業員に対する未払い給料等の弁済責任は失われず、事業主本人の支払い義務は残り続けることになります。
悪意で加えた不法行為、または故意・重過失による損害賠償請求権(破産法第253条第1項第2号・第3号)
他人の財産、あるいは生命・身体に対して、単なる過失ではなく悪意(積極的な害意)をもって損害を与えた場合、または故意や重大な過失によって人の生命・身体を害した場合の不法行為に基づく損害賠償請求権も、法的に免責が認められません。
具体例としては、最初から返済する意思がないにもかかわらず偽りの説明をして資金を騙し取った詐欺行為による債務や、暴行・傷害等の犯罪行為によって相手に怪我を負わせた場合の治療費・慰謝料などがこれに該当します。
業務上の通常の過失、あるいは物損のみの一般的な交通事故による損害賠償金などは免責の対象に含まれる傾向にありますが、裁判所等により悪意や重大な過失による不法行為と認定されたケースでは、自己破産を行ってもその支払い義務を免れることはできません。具体的な該当性の判断については、必ず事前に弁護士等のリーガルチェックを受けてください。
個人事業主が自己破産手続きを行う5つのステップと完了までの期間
個人事業主による自己破産は、破産法に基づき裁判所が関与する厳格な法的手続きであり、法定のプロセスに沿って厳密に進行します。

弁護士への正式な委任から最終的な免責許可決定が確定するまでの期間は、原則的な運用である管財事件の場合、実務上一般的に半年から1年程度を要するケースが多いとされています。
破産手続の申立てには膨大な必要書類の収集・精査が求められ、極めて複雑な実務プロセスを経るため、法律の専門家である弁護士によるリーガルサポートが事実上不可欠です。
以下では、申立てから終結に至る自己破産手続きの基本的な5つのステップについて解説します。
ステップ1|弁護士への法律相談・委任契約の締結と受任通知の送付
はじめに、債務整理の実務経験が豊富な弁護士へ法律相談を行い、財務状況の精査を通じて自己破産の申立てが真に最善の解決策であるかどうかの法的な判断を仰ぎます。
昨今は多くの法律事務所が初回無料相談等の窓口を設けているため、比較的早期の相談が可能です。
弁護士との間で正式に委任契約を締結すると、速やかに弁護士から各金融機関や取引先などの債権者に対して受任通知(介入通知)が一斉に送付されます。
この通知が債権者(特に貸金業者や金融機関など)に到達することにより、法律上および実務上の効力として直接の取立てや督促が一時的に停止するため、精神的な負担を軽減した状態で裁判所への申立準備に専念することが可能となります。
ステップ2|裁判所への破産申立準備(必要書類の収集・作成)
担当弁護士の指導・サポートのもとで、管轄の地方裁判所に自己破産を申し立てるための各種必要書類を取り揃えます。
具体的には、破産手続開始申立書、債権者一覧表、資産状況を示す財産目録、家計の収支に関する報告書に加え、個人事業主特有の書類として過去数年分の確定申告書(控)や決算書、会計帳簿の写し、事業用口座の通帳履歴など、提出書類は多岐にわたります。
個人事業主のケースでは、事業の収支実態や財産関係、債権構造を正確に裁判所へ開示・報告する法的義務があるため、免責不許可事由等の指摘を受けないよう、とりわけ慎重かつ精緻な書類作成が要求されます。
関連記事:自己破産の必要書類まとめ|注意点やよくある質問も紹介
ステップ3|裁判所による破産手続開始決定と破産管財人の選任
すべての必要書類を管轄裁判所へ提出(申立て)した後、裁判所による書面審査や審尋(面接)を経て、破産法上の要件を満たしていると認められれば、裁判所より破産手続開始決定が下されます。
前述の通り個人事業主の破産申立ては、原則として管財事件として取り扱われるため、この開始決定と同時に、裁判所によって中立的な立場である破産管財人(多くは管轄地域内の弁護士)が選任されます。
破産手続開始決定が効力を生じると、破産者自身は保有する対象財産の管理や処分を自由に行うことが法的に禁止され、それらの管理処分権は専属的に破産管財人へと移転することになります。
ステップ4|破産管財人による財産・資産状況の調査、換価処分および債権者への配当
選任された破産管財人は、破産申立書や提出書類の整合性を検証するとともに、隠匿財産の有無などを含めて破産者の資産状況を精緻に調査し、破産財団に属する財産を順次売却等の方法により現金化(換価処分)していきます。
この過程において、価値のある事業用設備や店舗資材、個人名義の不動産や車両などが適正価格で売却されます。
これと並行して、各債権者から届け出られた債権額や内容の正当性を精査する債権調査(認否)の手続きも進められます。
回収・換価された破産財団(総資産)の処理が完了した後、破産管財人は法律の定める順位および債権額の割合に応じて、各債権者への公平な配当を実施(または財産不足による配当不実施での手続終結)を行います。
なお、破産者にはこの期間中、破産管財人の行う面談や資料請求等の調査に対して誠実に説明・協力を行う法的な義務(説明義務)があり、これに違反した場合は免責不許可事由に該当するリスクが生じるため細心の注意が必要です。
ステップ5|裁判所による免責許可決定の宣告と残債務の弁済義務免除
債権者集会や配当等の管財手続きが終結すると、破産管財人から提出される免責に関する意見書等に基づき、裁判所は債務の免責を許可すべきかどうかの最終的な裁量判断(審理)を行います。
破産に至った事情に重大な免責不許可事由(財産隠匿や著しい射幸行為など)が存在しない場合、あるいは仮に不許可事由があっても手続きに誠実かつ真摯に協力したと認められる場合は、裁判所の裁量によって通常は免責許可決定が言い渡されます。
この免責許可決定が下り、その後の官報掲載等を経て正式に確定した段階で、前述した税金などの非免責債権を除くすべての対象債務について法的な弁済責任(支払い義務)が消滅し、一連の自己破産手続きはすべて完了となります。
個人事業主の自己破産にかかる費用の目安・内訳と実務上の相場
個人事業主が自己破産手続きを行うにあたっては、大きく分類して裁判所へ直接納付する法的な実費と委任する弁護士へ支払う報酬(弁護士費用)の2種類が必要となります。
事業の規模や取引の複雑さ、あるいは債権者数や負債総額が多い事案ほど、破産管財人の業務負担が増大するため、裁判所の予納金や弁護士費用が相応に高額化する傾向があります。
初期費用の用意が極めて困難な状況であっても、受任通知送付後の積立金制度や、着手金の分割払いに柔軟に対応している法律事務所も多いため、まずは現在の財務状況を弁護士に開示し、現実的な支払い計画についてアドバイスを受けることが推奨されます。
裁判所へ納付する引継予納金・実費(少額管財の場合:20万円〜)
裁判所の手続きにおいて金銭的負担の大部分を占めるのが、破産法上の手続きを進めるために必要な引継予納金です。
この予納金は、主として裁判所が選任する破産管財人の職務遂行のための実費や報酬(管財人費用)に充当されるものであり、一般的に破産手続開始の申立てから決定が下されるまでの間に裁判所へ一括(または一部の裁判所では分割)で納付する必要があります。
個人事業主が該当する管財事件において、多くの主要な地方裁判所で運用されている少額管財(または簡略化された管財手続き)の基準が適用されるケースでは、予納金の額は最低20万円から設定されているのが一般的です。
ただし、負債総額が数千万円から数億円規模に及ぶ場合、あるいは事業用資産の処分が極めて難航すると予想される複雑な案件(通常管財に該当するケースなど)では、裁判所の基準表に基づき、予納金が40万円、50万円、あるいは100万円以上に設定される事例も存在します。
この引継予納金とは別に、裁判所へ貼付する収入印紙代(申立手数料)や、債権者への通知・書類送達に使用する予納郵券代(切手代)、官報公告費用などとして、数万円程度の実費が別途必要となります。
法律事務所へ支払う弁護士費用(着手金・報酬金の目安:30万円〜50万円程度)
自己破産の手続きや裁判所との交渉、管財人面談への同席などを全面的に依頼する弁護士に対して支払う報酬です。
費用の体系は各法律事務所の報酬規定によって異なりますが、一般的には委任契約締結時に着手する対価として支払う着手金と、裁判所から無事に免責許可決定を得られた段階で発生する成功報酬(報酬金)とに分かれているケースが大半です。
個人事業主の自己破産(管財事件)における弁護士費用の一般的な相場としては、事案の規模や債権者数に応じて変動するものの、着手金と報酬金の合計で概ね30万円から50万円程度(事案によってはそれ以上)が一つの目安とされています。
前述した通り、多くの法律事務所では債務者の現在の困窮した経済状況に配慮し、これらの弁護士費用について月々の分割払いや後払いの相談を受け付けているケースが見られます。
自己破産後の事業再開(再起)を目指すための法的な選択肢と方法
これまでの事業用資産を処分することで一時的な事業の維持は困難となりますが、自己破産は債務者の経済的な再生(リスタート)を目的とした制度であり、今後の再起を図る道は十分に開かれています。
適切な手続き(廃業届の提出など)を完了させた後、新たな形態での営業開始や再挑戦に向けた道筋を立てることが可能です。
日本の法律上、自己破産の手続きを行い、あるいは免責許可を得て復権した後に、個人が再び新たな事業(起業・開業)を立ち上げて営むことに対する直接的な禁止制限や法的制約は一切ありません。
ただし、前述した通り過去の信用情報の登録(ブラックリスト)に起因する資金調達面などでの実務上のハードルが存在するため、それらを克服するための適切な営業・事業計画上の工夫が求められます。
また、現在の資産や収支の状況によっては、必ずしも自己破産を選ばずとも、別の債務整理手続きを活用することで現在の事業(屋号や店舗等)を維持したまま立て直しを図れる選択肢が残されている場合もあります。
以下では、自己破産手続き後の具体的な再スタートの方法や、自己破産を回避して事業を守るための別の法的な選択肢について解説します。
換価対象外となる自由財産の範囲内から新たな個人事業を立ち上げる
破産手続の完了(免責確定)後、全く新しい形態で個人事業主として開業届を提出すること、あるいは新会社を設立して起業することは法的に認められています。
自己破産手続きにおいて処分を免れ、合法的に手元に残すことが認められた自由財産(99万円以下の現金や民事執行法上の差押禁止財産)、あるいは破産手続開始決定後に自らの労働などで新たに得た資産(新得財産)を正当な元手(自己資金)に充てることで、小規模な規模から事業を再スタートさせることが可能です。
ただし、前述の通り一定期間(5〜7年程度)は金融機関等からの信用融資や割賦契約による機材調達などが利用できないため、当面の間は外部負債に頼らず、手元の自己資金の範囲内でキャッシュフローを回せる健全な事業計画を構築していく必要があります。
関連記事:自己破産しても起業できる?|破産後の会社設立や資金調達方法も解説
現行の事業(資産)を維持できる可能性がある個人再生など別の債務整理手続きの検討
債務の返済や資金繰りが行き詰まった際の法的な解決策は、所有資産の清算を伴う自己破産手続きだけに限られません。
裁判所を介した個人再生(特に小規模個人再生など)という手続きを選択肢に含めれば、現行の事業を継続し営業基盤を維持したまま、法律上の基準に沿って負債総額を大幅に減額(原則5分の1等に圧縮)できる可能性があります。
個人再生とは、将来的に一定の収入(事業収入または給与等の継続的な収入)を得る見込みがあることを前提に、裁判所へ再生計画案を提出して認可を受け、大幅に減額された債務を原則として3年間(特別の事情が認められる場合は最長5年間)の長期分割で弁済していく厳格な法的手続きです。
個人再生では、自己破産とは異なり原則として事業用資産の強制的な換価処分を回避できるため、営業道具や店舗、取引関係を守りながら事業の立て直し(再建)を図りたい個人事業主にとっては非常に有力な選択肢となり得ます。
ただし、利用のための要件(負債額の制限や継続収入の証明など)や実務上の適格性については個々の財務状況により異なるため、事前に必ず弁護士等の専門家へ相談し、詳細なシミュレーションを受ける必要があります。
個人事業主の自己破産に関するよくある質問(Q&A)
ここでは、法律相談の実務において個人事業主の方から特に多く寄せられる質問について、法的な根拠に基づき回答をまとめました。
自己破産の手続き期間中であっても、確定申告を行う必要はありますか?
結論として、自己破産の手続き中であっても、税法上の確定申告を行う義務は残ります。
実務上、裁判所から破産手続開始決定が下された日を基準とし、開始決定前までの期間に生じた事業所得等の申告(およびそれに伴う還付金等の請求権)については、財産の管理処分権を有する破産管財人がその業務として確定申告の手続きを遂行します。
一方で、破産手続開始決定日の翌日以降に新たに得た所得(新得財産に係る所得)については、破産者ご自身が納税義務者として、通常の期限内に自ら確定申告を行う必要があります。
なお、破産手続きに伴って過去の会計帳簿や書類一式が破産管財人の管理下に置かれる結果、税法上の適正な記帳・保存要件を維持できなくなり、実務上、青色申告の承認取消処分を受けたり、一時的に白色申告での対応を余儀なくされたりするケースが存在するため、具体的な処理については担当弁護士や税務署への確認が必要です。
同居している家族に知られずに、自己破産の手続きを完了させることは可能ですか?
実務上の傾向として、同居しているご家族に一切知られることなく、個人事業主の自己破産手続きをすべて内密に進めることは極めて困難であると言えます。
これは、裁判所へ提出する家計の収支報告書(家計簿)の正確性を担保するため、同居しているご家族名義の給与明細書や源泉徴収票、同居家族名義の通帳の写しなどの提出を裁判所から求められる実務が一般的であるためです。
また、選任された破産管財人が事業の実態や隠匿資産の有無を精査する過程で、自宅内の確認が行われたり、実質的に破産者の資産と疑われる家族名義の預貯金・保険契約等について詳細な調査が及んだりすることがあるため、生活を共にするご家族の協力が事実上不可欠となります。
自己破産の手続きをした場合、将来的に新しい事業(起業・再開)を立ち上げることは不可能になりますか?
いいえ、将来の新規事業の立ち上げや再スタートは法的に十分に可能です。
裁判所から免責許可決定を受け、それが正式に確定して復権すれば、破産法上の資格制限はすべて消滅するため、法律上、再び個人事業主として開業届を提出することや、新たに会社を設立して代表取締役に就任することに対する制約は一切ありません。
ただし既述の通り、信用情報機関への事故情報登録(ブラックリスト掲載)が継続する一定期間(一般的に5〜7年程度)は、銀行や公庫といった金融機関から事業資金の新規融資を受けることや、店舗・設備の割賦リース契約を結ぶことは実務上極めて困難となります。
そのため、再スタートにあたっては、手元に残された自由財産の範囲内で運営できるスモールビジネスを選択する、自己資金を蓄積してから拡大を図るなど、融資に依存しないビジネスモデルや資金計画を担当弁護士等とあらかじめ相談し、綿密に構築していく必要があります。
まとめ
法人格を持たない個人事業主の自己破産手続きは、個人の私有財産だけでなく仕事で使用する事業用資産も広く換価処分の対象となり、実務上原則として管財事件に付されるため、一般的な会社員のケース(消費者破産)と比較して手続きが複雑化し、営業面への影響も大きくなる傾向があります。
営業基盤の大部分が処分されることにより、それまでと全く同じ形態で個人事業を継続していくことは極めて困難となり、実務上は一度適切な廃業手続きを余儀なくされるケースが大半です。
しかし、自己破産制度の本来の目的は、多額の債務に苦しむ個人の清算だけでなく、法的に借金問題を根本からクリアにすることで、経済的な再生(人生のリスタート)を果たすための正当な法的手続きです。
資金繰りや返済の目処が立たず、客観的な支払不能(倒産状態)に直面した際は、ご自身だけで判断して事態を悪化させる前に、まずは破産法や債務整理の実務に精通した弁護士等の法律専門家へ相談し、ご自身の状況に最も適した解決策のリーガルチェックを受けることを強く推奨いたします。
多額の債務や資金繰りで行き詰まり、借金問題でお悩みの方は、ぜひ債務整理の実務実績を有するネクスパート法律事務所へご相談ください。
個人事業主の複雑な財務状況や債権者との利害関係を考慮し、経験豊富な弁護士が個別の事案を丁寧にヒアリングした上で、破産や再生を含めた最適な法的解決策を専門的な見地からアドバイスいたします。
なお、当事務所では初回相談は30分無料で承っております。ご来所が難しい場合でも、オンライン(Web面談)によるリモート相談に柔軟に対応していますので、現在の経営状況が悪化する前に、まずはどうぞお気軽にお問い合わせください。
コラム監修者
Shunsuke Teragaki
所属:代表(東京オフィス)
広島県広島市出身。修道高校、慶應義塾大学商学部、青山学院大学法科大学院を卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、個人・法人問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。ネクスパート法律事務所の代表弁護士として、依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。